異世界お宅拝見
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お陰様で3/19に第5巻が発売されることになりました! 現在ご予約承り中です。
5巻発売を記念いたしましてSSをお送りいたします。
今回のSSは5章辺りの、クロードがリシュア子爵家に挨拶に出向いた後の一幕です。
「リシュア子爵邸はどうでした?」
ひょっこりと執務室に現れたガイが案の定ニヤニヤしながら聞く。
聞かれたクロードは相変わらずの隠密を見、更には先ほどまで出掛けていた金ピカの調度品が並ぶ屋敷を思い出して小さくため息をついた。
「……………………。独自のセンスを持った御仁らしいな」
「ぐはっ! 独自のセンス……ッ!」
充分過ぎるほどに長い沈黙の後、クロードがボソリと感想を漏らした。
ひー! と引きつり笑いをしながらガイは腹を抱えている。
実際に目にしたことがあるからガイは大笑いしているのである。ヴァイオレットをタウンハウスに呼び出すために招待状を渡しに行ったのはガイだ。
もちろんただ手紙を授受するために行ったわけではない。
急遽マグノリアと交流を持つことになったヴァイオレット。本人にそのつもりがなくとも親になにか心積もりがあるのか、どこかよろしくない家と繋がってはいないか……事前調査というヤツである。
あのやたら派手な屋敷に潜入し、返事を待つ間に出された茶を飲んで来たのはつい数日前のことだ。
「…………。人柄はそう悪くないように見えた。貴族としては純朴そうな、政局とは無縁の人物だな。商売は上手く行っているらしいが何代も続いた商家であるため、のんびりした誠実そうな人柄に見えた」
「そうっすね。業績は悪くはないっすが、過去の積み上げがあってこその今でしょうねぇ。少なくともコレット女史のように、目から鼻に抜ける感じじゃなかったっすよ」
悪巧みとは無縁ということであろう。言いながらガイはリシュア子爵の経営する商会の収支書を手渡す。
「……どこかの国との必要以上の関りや、おかしな組織との接点は?」
「ないっすね。自らそういうものから距離を取っている感じっすよ」
「そうか」
クロードはほっとして表情を緩めた。
貴族として生きるうえでも商いをして生きるうえでも、怖がりなくらいの方がいい。
結果、そういった人間のほうが長く生き残れるものだ。
「お嬢のオトモダチとして問題ないって感じっすかね」
「そうだな。……若干リシュア嬢が個性的だが、彼女も悪い人間ではないようだ。それにマグノリア自身が言えた義理でもないからな……」
気圧されるような表情と、珍しく歯切れの悪いクロードの様子に、ガイはニヤニヤと笑みを浮かべた。いつもは冷静沈着なクロードも、思ってもみない言動をするご令嬢たちにタジタジなのであろう。
「……しかし、お嬢とオトモダチが話していた言葉は何なんっすかね?」
「…………」
呟くように言いながら、ガイはクロードにカマをかける。
無論引っ掛かるとは思わないが、どうだろうか。
ふたりとも、どうにも不思議なことは確かだ。
「言葉?」
(ニホン語か……)
おおかた話す内容を知られないよう、あちらの言葉で話したのであろうと推測しながら、クロードは白々しくないようにしらばっくれる。
「おや、坊ちゃんは聞いたことがねぇんですか?」
「元々マグノリアは年中聞いたことのないことを言ったり、おかしなことが多いからな……リシュア嬢も、なんというか……」
クロードは、とても令嬢とは思えない鼻息の荒いヴァイオレットの顔を思い出して、何とも言えない表情をした。
同時にリシュア家の金ピカの調度品を思い起こしては、困ったような顔でガイを見た。
「……なんすか? そんな顔で見られてもお嬢もオトモダチも、リシュア子爵家の趣味も、あっしにもよくはわからねぇっすよ!」
すっかり煙に巻かれたのか巻かれてやったのか、ガイは苦笑いをして首を振る。
みないふりをしても命取りにはならないもの……主の意向を汲み、それ以上差し出口はしないことにした。
……なんだかんだで全てを有耶無耶にしてしまうリシュア子爵家。さすが(?)長年商業の世界で生き残り、貴族にまでなった家柄である。侮れないものであるとふたりは苦笑いした。
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