コミカライズ1巻発売記念SS なんでもぶっこみ鍋
コミカライズ版「転生アラサー女子の異世改活」1巻、本日12/18発売です!
どうぞよろしくお願いいたします!
過去(?)一人暮らしが長かった(多分)マグノリアは、人並程度に料理が出来る。
ただご存じの通り、おおよそ几帳面とかおしゃれとか、そういうものとは程遠い性質なため、内情は男の料理と呼ばれる類の代物だが。
醤油大さじ三杯? 塩小さじ半分? ――病人食ならいざ知らず、普段の調理なんて目分量上等だぜ! なのである。
女性なのに男の料理なのかというツッコミはこの際遠くに放り投げておく。
実際には几帳面な男性もいれば、大雑把な女性もいるのである。そこは個人の性質あるのみだ。
大量に買い過ぎたキャベツを使い切るザワークラウトと同じように、冷蔵庫などにあまっているものを適当に見繕っては鍋に放り込んで行く料理(?)――いわゆる節約料理というやつであった。
季節は晩秋とも初冬とも呼ばれる頃になった。
寒いので鍋でもしたいなぁ……そう思ったのが事の始まりで。
事あるごとに調理場に突進するのも気が引けるので、薬草園の炊事場で野外お鍋フェス(?)をすることにしたのである。
寒空の下温かいものを食べるのも、屋台や縁日のようで楽しいだろうと思ったのだ。
見上げれば、すっきりと雲ひとつない青空が広がっている。
ちょっとだけ冷たい風を受けながら大きく伸びをすると、マグノリアは何とも言えない解放感を覚えた。
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「ディーン、左手は猫にょ手だよ」
おぼつかない手つきで野菜を切る友人兼護衛予定の少年に注意をする。
まあ、貴族は調理などしないので仕方がないであろう。付け加えてディーンはまだ小さい子どもである。
現役の冒険者でもあるヴィクターはかなり手馴れており、手早く素早く材料を切って行く。デカい身体に似合わずなかなか丁寧な仕事ぶりであった。
あっという間に頼んだ具材が山のように積まれているではないか。
そして意外にも、セルヴェスとクロードも調理の素養があるようであった。ガイは言うまでもない。
「騎士団で下っ端は食事の用意をさせられるからな」
なんでもないことのようにクロードが洗った手を拭きながら説明をした。セルヴェスもうんうんと頷いている。
「ちゃんとしょういうお仕事もしていりゅのでしゅねぇ」
「主家の人間だからとか、贔屓をするといいことないからな。自分の子どもは厳しいくらいでないと、外野が納得しないものだ」
「なりゅほど」
……お坊ちゃまはお坊ちゃまで、意外に大変なようである。
マグノリアはそんなことを思いながら、涼しい顔でレードルを掻きまわしているクロードを見遣る。
「せっかくだち、味付けも変化しゃせましょう」
一般的に近隣諸国でよく食べられるブイヤベース風、ミネストローネのような味わいのトマトベース。そしてミソーユの液体を使った寄せ鍋風、牛乳とミソーユのペースト部分を使ったミルク鍋だ。
(豆乳……そしてキムチ……!)
牛乳と味噌も悪くはないが、豆乳と味噌も捨てがたい。
豆乳が生産されているのか確認しようと心に誓いながら、ピリ辛のキムチ鍋にも思いを馳せる。
「……はっ!!」
思わず半眼になっていた朱鷺色の瞳を、マグノリアはカッと見開く。
(海に、ウニやアワビはいるのかな……!? いっそ贅沢に、いちご煮をするチャンスもあるか……?)
鍋ではないが汁もの繋がりということで、青森県名物のウニとアワビを使った贅沢なお吸い物にも思いを馳せる。
口の中は潮の香(妄想)でいっぱいだ。
「……食べたい……、むっちゃ食べたい……っ!!」
「何か考えてるっすねぇ」
「……不吉なことを言うのは止めろ」
ニヤニヤするガイに、クロードが心底嫌そうな顔をして言い放った。
既にマグノリアの提供する料理の味に慣れ親しんでいるクロードは、味じゃない方の発生しうる問題に対して懸念というか警戒というかをしているのである。
(そして水炊き……せめてポン酢もどきを作ろう……!)
色とりどりの鍋を見ながら悦に入っていると、ディーンとリリーが青褪めた顔で牛乳と味噌の入った鍋を凝視している。
「マグノリア……。その料理は、食べられるんだよね……?」
恐る恐るというようにディーンが訊ねる。
牛乳を入れる煮込み料理はあるが(シチューとか)、明らかにそれとは違う調味料のセレクトに慄きながら、ディーンは確認せずにはいられなかった。
「え? 激ウマだけど?」
それが何かと言わんばかりのマグノリアの後ろで、マグノリアの作ったものならば泥団子でもウマいと言いそうなセルヴェスと、色々と諦めることを覚えたクロード、めっちゃニヤニヤしているガイ、そしてひとつひとつ味見をしているヴィクターが四者四様の表情をしていた。
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館の庭にテーブルが並べられる。
匂いにつられて若い庭師たちがどこからか集まって来た。
「しゃあ! めち上がれ!」
ニコニコ顔のマグノリアと、得体のしれない鍋の中身が入ったスープボールを手に、何とも言えない面々の顔が対照的であるが――お替りの嵐が吹き荒れるのは数分後のことである。
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