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アロマオイルを作ろう……?

本日11/19、3巻が発売となりますので記念いたしましてSSをお送りいたします。


今回は3巻頃、領民たちが植えてくれたたくさんの木蓮の花びらを再利用しようと頭を捻るマグノリア。

息の合った(?)マグノリアとクロードの一コマをお送りいたします。

「う~む」


 執務室の机の前で、マグノリアが腕を組んで唸っていた。


「…………。一体どうしたんだ」


 また厄介事だろうかと眉間と口をきゅっとさせながら、クロードが声をかけた。

 そんなクロードの様子などよそに、マグノリアが口を開く。


「ほら、マグノリアの花がいっぱい咲くじゃないでしゅか。しょのまま捨てりゅのはもったいないので、どうにか利用できないものかと思いまちてねぇ」

「…………」


 クロードは執務室に活けられている花々を見ては、再びマグノリアの顔を見た。


 黙っていれば可愛い見目であるが、思考の大半が「なにかに使えるかも?」と「食べられるかも?」で占められている『見た目は幼女、中身は大人』な幼児がちんまりと鎮座している。


 領民がマグノリアを敬い、感謝の気持ちを示すべく植えた木が木蓮であった。


「…………。目を楽しませ、香りを愉しんだらそれで充分じゃないのか?」


 かつてマグノリアの暮らしていた世界の小さな島国・ニッポンはMOTTAINAIという思想が強いのだそうだ。そのケチケチ……いや、節約精神で様々な製品を考えてきたマグノリアであるが、ついに散る花びらにまで『なにか利用できないものか』と考え出したらしい。


 質実剛健の家に育ったクロードではあるが、その節約精神(?)になんと言っていいのか解らず、青紫色の瞳を瞬かせる。


 そんな戸惑う叔父の様子など気にもかけていないようなマグノリアが、腕を組んだままに難しい顔をしていた。


「まあ、しょれはしょうなんでしゅけど。ただ、あんなに大量に発生すりゅなら、散った花を肥料にするだけじゃもったいないじゃないでしゅか」


(…………。すでに肥料に使用しているのか……)


 ただ土に還るだけでなく肥料に混ぜられて利用されているなら、もうひと仕事こなして土に還っていると思われるが。クロードは更に利用しよう、いや、有効活用し尽くそうという姪っ子の考え方を空恐ろしく思い、心密かに震えた。


(……あっ!)


 なにか思いついたのだろう。わかり易く『閃いた!』と言わんばかりのマグノリアを見て、クロードは再び眉間と唇にきゅっと力を込める。

 ……もちろん、あの表情に紐づくあれこれが、尋常でない忙しさを予感させるからだ。


「香りといえば、香水や精油ってありましゅよね」

「……あるな」


 思ったよりも普通の言葉が飛んで来て、クロードはトレードマークとも言える眉間の(?)クロード渓谷を若干緩める。


 どういう風の吹き回しか、食べるモノではなく女性らしいモノを連想しているようだ。


(珍しいな)


 心底そう思うと言わんばかりに、全くもって失礼な感想をクロードは思った。


(マグノリアの香水かぁ! 需要ありそう!)


 一方で、この世界は精油を様々に混ぜた香油の方がより利用範囲が広いのだろうか……? そんなことを思いながら、マグノリアは精油の作り方ってどんなんだったかと首を傾げた。


 それぞれに全く違うことを考えながらお互いを見遣る。


「……精油を製造しゅる装置を持っていたりはちましゅか?」

「……専用ではないが、圧搾の機材ならあるかもしれんな」


(あるんかい!)

 思わずマグノリアは心の中で突っ込む。


 過去のおかしな研究に使用したのであろうかと疑問に思いながらクロードを見た。

 一方のクロードは、物置に仕舞ってある機材というか装置というかを思い出しながらマグノリアを見る。


「専門家でないので詳しくはないが……花びらから抽出するとなると、きっと『溶媒抽出法』か『水蒸気蒸留法』で抽出するのじゃないか?」


 言われてマグノリアもそうだと思い至った。


 精油を抽出する方法は大きく『圧搾法』と『水蒸気蒸留法』、そして繊細な材料から香りを抽出する際に用いられる『溶媒抽出法』の三種類がある。


 圧搾法はその名の通り強い圧力をかけ搾り取る方法で、柑橘系の精油を作る際に用いられることが多い。熱を使用しないので低温圧搾コールドプレスとも呼ばれている。


 水蒸気蒸留法は原料を蒸留窯へ入れ、下部から出る蒸気を蒸留窯へ送り込む。精油の成分が水蒸気になって上昇するのでその水蒸気を冷やして抽出する。


 溶媒抽出法は原料と揮発性の有機溶剤を混ぜ、芳香成分を有機溶剤に移す、その後さまざまな工程があるが、ちょっとばかり煩雑なので割愛をする。


「……水蒸気蒸留法だと、そこそこ大きな装置が必要しょうでしゅね」

「ある程度量産するとなると、そうだろうな」


 ふたりして思案気に首を傾げる。


「なんかこう、効率的に抽出しゅる方法はないのでしゅかね?」

「元々精油自体が、比較的少量しか抽出されないものだからな……」


 確かにである。


 その中でも比較的簡単に多く抽出できるものと、極々少量しか抽出されないものとが存在する。果たしてマグノリアはどちらに分類されるのか。


******

 

 装置を作るか迷ったが、商業利用出来そうか確認してからの方がいいだろうと話がまとまり、精油を作る工房に花びらを持ち込んだ。大きなかごふたつ分、山盛りに盛られたマグノリアの花びらを引き渡す。

工房の主人が一瞬何か言いたそうな顔をしたが、呑み込んでマグノリアとクロードの顔を交互に見た。


「時間がかかりますので、ある程度出来上がりましたら館へ使いを出しましょう」


 長時間、領主家の人間に工房内をウロウロされても迷惑だろう。

 ふたりは溢れる好奇心を無理やり抑え込んで頷いた。


******


「…………こりぇだけ?」


 礼を言ったあと、主人から小瓶を受け取ったマグノリアであるが。

 大量の花びらから抽出された数滴の精油を見て、真ん丸の目が寄り目になっている。


 非常に良い香りであることは否定しないが、ほんの数滴。誇張でもなく極々少量の精油が出来上がった。


「花や葉の種類によりますが……木蓮は三キロの花びらで一グラムほどの精油が採れると考えていただければ」


 工房の主人が苦笑いをしながら説明した。


「三キロで一グラム……!」

 予想以上の少なさに慄く。


 マグノリアはジト目をしながら、頭の中でそろばんを弾いていた。

 使わないものを利用して採れると言えばそうだが、装置を作ったり長時間火を使ったりと、現状では効率が悪すぎる。


 小さな眉間に皺を寄せる様子にクロードは苦笑いしながら、工房の主人に革袋を差し出した。


「忙しいところ頼んで済まなかったな」

「いえいえ、楽しゅうございました」


 職人ゆえ、普段扱わない材料を試すのは楽しいのだろう。主人のにこにこしている表情からも本心であったことが感じられ、クロードはほっとした。


「工賃と、館に納入するいつもの精油の代金だ」

「ありがとうございます。品物は如何なさいますか?」

「数日中に、いつも通り館に届けてくれれば構わない」

「承知いたしました」

「それと、そのマグノリアの精油はこのまま持って帰りたいが、問題ないか?」

「もちろんでございます」


 香りには好みがあるものの、甘く華やかな香りはマグノリアに似合うであろうと思われた。


(……もう少し成長したら、だがな)

 いまだブツブツと利用方法を考えているらしい姪っ子を見て小さく笑った。


(装置の仕組みもなんとなく判ったし、もう少し小さな装置を作ればいいだろう)


 工房の装置を横目で見遣り、頷く。


 のんびりと自家用の精油を作るのもいいであろう。

 広がる香りの中で絵を描くのもいいであろうかと想像して、クロードは小瓶の中の僅かな精油をみつめた。

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