ボツ案
皆様に応援いただき、お陰様で11/19に第3巻が発売されることとなりました。
誠にありがとうございます! 現在ご予約承り中です。
今回のSSは、新作プレゼンをするマグノリア。
その商品は良く知られるあのゲームのようで…
商品開発。
それは発案者が寝食を削って考え、開発者が血の涙を流して作り上げるものである。
どんなちゃちい商品にも、誕生秘話は悲喜こもごも。
そんな商品も様々な柵や大人の事情、その他諸々で陽の目をみないものもあるわけで。
俗に言う『ボツ案』である。
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「……というわけで、今回開発した(?)商品は、室内で遊べるゲームです!」
ふんす! と意気込むマグノリアの指し示す方向を見れば、幾つかの円形の色布が縫い付けられた、敷物――マットが広げられていた。
赤、青、黄色に緑の丸が列をなし、マットの一面に配置されている。
付属のルーレットにも同じように色があり、更には右手左手、右足に左足と分けられていて。
……そう。あれこそは地球の定番おもちゃ、ツイ〇ターである。
パーティーや家族団らんでちょっと身体を動かしながら、ワイのワイの、きゃいのきゃいのして遊ぶゲームだ。
如何せん、ここは娯楽の少ない世界。
人間生きて行くために娯楽は必ずしも必須ではないものの、全く華やぎも潤いもない生活はカッサカサのカッピカピで、ちっとも楽しくないであろう。
――娯楽の商品があったっていいじゃない。
そう思っての商品開発だ。元ネタは地球の玩具であるが……開発なのか? ではあるが、まあそこはそれ。
館のサロンにセルヴェスとクロードが座っている。勿論プレゼンにはマグノリアが立っていた。
危険を察知した(?)セバスチャンが、まるで光線のような凄まじい圧の視線を携えながら壁際に控え、行く末をじっとりと見守っている。
「……どうやって使うんだ?」
クロードがちらりと家令を見てから発案者兼開発者(マグノリア)に訊ねる。
「これはふたり以上で遊ぶ、手足を使ったゲームです。ルーレットの指示通りに手足を指定された色の丸の上に置き、倒れないようにして遊びます」
マットの前には、実演者のガイとディーンが立っている。
ディーンもふんすふんすと意気込んでおり、ガイと言えば相変わらずニヤニヤしている。
既に勝敗がついているような気がするが……頑張れディーン!と声援をみんなが送っているだろう。
「それでは、よーい、スタート!」
景気のよいマグノリアの声と共に、小さなルーレットが勢いよく回転を始めた。
リリーはお茶を淹れ終わると、静かにマグノリアの後ろに立った。
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「……もう、無理……っ!」
ディーンが生まれたての小鹿のようにブルブルと震えながら叫ぶ。極限まであっちこっちに引き延ばされた手足が、ギシギシと音をたてるかのようである。
一方のガイは、何だか人とは思えないようなおかしな格好でニヤニヤしている。
……非常に気持ちが悪いのはなぜなのか。彼には関節という概念がないのかもしれない。
小さな叫び声を発しながら、ぺしゃりとディーンが倒れ込んだ。
「勝負あり! 勝者・ガイ!」
そう言ってガイに手を向けると、おかしな格好のままカサカサと絨毯の上に移動する。
……全員が気持ち悪いガイを見遣るが、変人であるのは今更のため無言である。スルーである。
健闘したディーンに礼を言って立たせてやる。
ディーンはゲンナリした顔で、そそくさとリリーの隣へと移動した。
「……と、こんな風に白熱したゲームを楽しめます!」
大勢が集まるパーティーで、寒い冬の室内で。
様々なシチュエーションで盛り上がれるゲーム。
「名づけて『ねじったー』!!」
「却下だ」
クロードが口をへの字にして、食い気味に言い放つ。
「え~っ!?」
マグノリアが不服そうに口を尖らせた。
セルヴェスは困ったように視線を彷徨わせており、セバスチャンはクロードの言葉に高速で頷いている。
リリーに視線を向ければ、これまた何とも言えない表情で苦笑いをしていた。
「紳士淑女の集うパーティーでこれを使うつもりか? 却下だ!」
(パーティーで使うつもりかって……部屋でひとりでする方が怖いんだけど)
頑として聞かなそうな表情のクロードを、不服そうな表情のマグノリアが仰ぎ見る。
一方のクロードにしてみれば、こんなおかしな格好をするゲームを正装した招待客にさせるのは正気の沙汰なのかと、目の前で頬を膨らませている姪っ子に問い詰めたかった。
問い詰めるのもアホらしくって、不機嫌この上ない表情でマグノリアに、めっ! と強い視線を送るのみにしたが。
「……楽しいのにぃ~」
いったい何がいけないのか。マグノリアは首を傾げた。
とはいえ、せっかく作ったものを捨ておくのももったいないだろうとセルヴェスが騎士団の休憩室へ持ち込み、騎士達には大ウケで、雄叫びをあげる大盛りあがりだったとかなかったとか。
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