魔物といえば
いよいよ明日、第2巻発売です。
まだまだ慣れず、ドキドキしますね…!
異世界に来たことを少しずつ受け入れて行こうとするマグノリア。
そこで疑問が湧き…
出番(?)とハッスルするセルヴェスと、警戒する周囲の面々の様子をどうぞ。
マグノリアはスープを口に運びながら首を傾げた。
「北の森にはシュライムはいましゅか?」
穏やかな朝食の時間。
一緒にテーブルについていたセルヴェスとクロード、給仕についていたリリーとディーン、そしてセバスチャンが動きを止めた。
「スライムか……捜せばいるのかもしれないが、あまり見たことはないな」
移領して来たばかりの頃、祖母であるアゼリア姫と一緒に森で迷ったことを思い起こすクロード。
大きなスライムに追いかけられ食べられそうになっていたアゼリアを、ひとりで引っ張り出して救出したことを思い出したのである。まだ幼少だったこともあり、流石に焦った一件であったと苦く思い出す。
(目を放すとおかしなことになるお祖母様であったが……)
亡国の最後の姫だったセルヴェスの母アゼリアと、目の前のマグノリアは見た目がそっくりである。
アゼリアは妖精の国と言われるハルティア国の姫で先祖返りの色は持っていたものの、その不思議な力は殆どなかった。ただ妖精や精霊といった存在の声を聴くことが出来るらしく、誰もいない場所で楽しそうに笑ったり頷いたりしている不思議な人物であった。
そのアゼリアとそっくりな見た目のうえ、大変におかしな存在であるマグノリアをもう一度見遣った。
一方のマグノリアは変な視線で自分を見る者たちへ眉を顰める。
北の森と呼ばれる森を挟んで、魔法の国・モンテリオーナ聖国と国境を接している。当然魔力に満ちた隣の国には多数の魔物がいるのだそうだ。図書室で生物に関する本を見ながら、魔法があるのならば当然魔物もいるのではないかと思うわけで。
「折角にゃので、本物にょ『シュライム』を見てみたいでしゅ」
(……偽物のスライムがいる……?)
まるで似た何かを見たことがあるかのような口ぶりのマグノリアに、セバスチャン・リリー・ディーンの三人は内心首を傾げた。
一方マグノリアが異世界転生者(?)らしいと知るセルヴェスとクロードは、『チキュウ』にもスライム……らしきもの? がいるのかと思い、微妙な表情をした。
(……魔法は無いって言ってなかったか? なのに魔物はいるのか?)
ゲームや物語の中の存在であるのだが、そんなことは知るはずもない。
串刺しにでもしてくるかと言いそうになり、セルヴェスは口をキュッと窄めた。
……先日リスを食べる発言で総スカンを喰らったため、小さき者への発言は気をつけるようにしているのである。案の定不穏な空気察したクロードが、ジト目で無言の圧をかけてくる。
「やはり、プルプルちていりゅのでしゅか?」
まん丸な瞳とむちむちなほっぺで問いかけてくるマグノリアの顔がスライムのようであるが……何とも失礼なことを考えているクロードだが、アゼリアを呑み込もうとしていた大きなスライムを思い出しては首を捻った。
「……まあ、プルプルというか、ぶるんぶるんというか……」
ダルンダルンというか……と続けながらセルヴェスを見た。
「小さいのはポインポイン跳ねているな」
もちろんぬめぬめと歩いているものもいるが。
餌を吞み込んでは粘液で溶かすのだが、小さいものならそれほど危険もないであろうと考える。
(…………。危険、ないよなぁ?)
マグノリア以外の全員が、心の中で自らに問い直したことは言うまでもない。
「?」
マグノリアはまん丸な朱鷺色の瞳を瞬かせた。
******
「……なぜ我々はスライム狩りをしているのですか?」
北部駐屯部隊の、更に精鋭部隊の面々がセルヴェスと一緒にスライムと戯れていた。
なぜ北部駐屯部隊かといえば、北の森の管轄だからである。
「マグノリアに至高のスライムを渡すためだ!!」
「…………。『至高のスライム』とは……?」
そもそも土地その他に魔力がないに等しいアゼンダ辺境伯領は、それほど魔物が闊歩しているわけではない。間違って迷って跳ねて来たスライムや、弱い魔物や魔獣が、魔力が無くておかしいなと歩いているくらいのものである。
人や家畜が襲われないで済むわけで結構なことではあるが、魔物としては最弱といっていいようなスライム。
(――『至高』とは――)
騎士達が両手にスライムを握りしめながら、俄然ハッスルしているセルヴェスを見る。
(……っていうか、お嬢様はスライムがお好きなのか?)
なんで? 手に持ったスライムと視線を合わせながら、騎士達は自問自答した。
「最高の、小さくて幼女にも優しい(?)スライムを生け捕りにするのだ!!」
セルヴェスはくわっ! と眼光鋭く、悪魔のような形相で声を荒げる。
その場にいたスライム達がふるふると震えながら、ぺっしょりと平たく溶けたようになる。目は涙目である。
(……怒気にあてられたのか)
可哀想に。そう思いながらも、弱いとはいえ魔物にまで怖がられるセルヴェスとは、一体何者なのだろうかと改めて首を捻るのであった。
******
そうして。
散々吟味して、直径三センチほどの小さな水色のスライムをGETした面々である。
摘まんで瓶に入れれば、中でビョンビョンと元気に跳ねている。
「わぁ! わじゃわじゃ捕まえてくりぇたのでしゅか? あいがとうごじゃいましゅ」
セルヴェスからスライムの入った瓶を受け取ると、マグノリアは祖父と騎士達に礼を言った。
「……可愛いでしゅねぇ」
(思ったより小さいんだ!)
瓶の中で跳ねるスライムをまじまじと見つめた。
丸い瞳がスライムの動きに合わせて激しく動いている。
セルヴェスと騎士達は、幼女の満足気な表情にほっこりとした。
一方、瓶の中のスライムは出せと言わんばかりに凄まじい勢いで跳ねまくっているが、スライムとは想像よりも機動力に満ち満ちた生物なのだなとマグノリアは感心する。
そしてリリーとセバスチャンは、小さいとはいえ本当に安全なのかと訝し気に瓶を凝視していた。
(絶対に瓶の外には出していけないヤツ……!)
「……しょれよりも、みんな粘液でヌメヌメでしゅけど、大丈夫でしゅか?」
スライムの粘液と森の中の葉っぱなどにまみれた姿の互いを目にして、屈強な男たちは苦笑いをした。
「なに、大丈夫だ!」
豪快に笑うセルヴェスと苦笑いをする面々。
そして何とも微妙な表情をするクロードとディーンが、スライムとマグノリアを交互に見ては(面倒が起きなければいいが……)と心の中で呟いた。
お読みいただきましてありがとうございます。
ご感想、評価、ブックマーク、いいねをいただき大変励みになっております。
少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。




