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【2巻予約開始SS】リスは旨いか可愛いか

皆様に応援いただき、お陰様で4/19に第2巻が発売されることとなりました。

誠にありがとうございます!


予約も開始いたしましたので、記念SSをお送りいたします。

猟奇的なセルヴェス…いえ、流石大戦を生き抜いたセルヴェスのお話。



「え、リス?」


 ディーンは期待に満ちた顔で頷くマグノリアをまじまじと見た。

 小さいくせに妙に大人びた、そのくせ赤ちゃん言葉をしゃべるお嬢様が普通の女の子に見えたからだ。


(…………。マグノリアもリスを可愛いと思うのか)

 そんな失礼なことを思うディーンであるが。


「しょう。お兄ちゃまがお庭にくりゅって言ってた」


 ふんすふんす! と鼻息も荒くリスに似たほっぺたを膨らませている。


「よく見るよ。しばらく庭にいたら来るんじゃないかなぁ?」


 そう言ってディーンとマグノリアは窓の外へ視線を向けた。


******


 マグノリアは薄手のコートを羽織らされ、庭の椅子に鎮座していた。

 執務室で溜まった書類と格闘していたセルヴェスであるが、イジイジ・グチグチと煩いので孫娘とお茶をする許可を得た。

 マグノリアとセルヴェスがおかしなことをしないか、クロードはお目付け役である。

 


「あ、あの木の枝にいるよ!」


 目敏いディーンの指差す方を見れば、小さなリスがドングリを咥えて木の枝を走っているのが見える。


「本当だ~! うわぁ、可愛い!」


 そう言って頬を染めるマグノリアは、珍しく普通に可愛い美幼女バージョンであった。

 ディーンだけでなく、クロードとセルヴェスもいつもとの違いに感心する。


「本当でございますね。この辺りは自然が多いですから、こんなに近くで見ることができるのですね」


 リリーも同じく瞳を輝かせて眺めている。

 領地を持たない貧乏男爵家の令嬢であるが、王都育ちのため、いわゆる都会っ子な彼女。


「下に降りてこにゃいかにゃ~?」

「人がいるから難しいかもしれないな」


 クロードは苦笑いをしながらそう言った。


 ……庭に巣箱を作ってやったらリスや小鳥が遊びに来るかもしれないな、と気難しい顔の裏で考える。

「ふむ……」


(こんなに喜ぶなら巣箱に餌でも置いてやればいいだろうか)


 物置に木切れがあったか記憶を辿る。


 名門侯爵家の養子であるクロードであるが、父も母も祖母もやってみたい事に関して然程口出しをするタイプではなかった。

 もの作りが好きなクロードは、自ら金属を調合するのだ。小さな頃から使用人に混じって様々なものを作らせてもらった。


 如何せん、父親(セルヴェス)が油断をすればすぐに物を壊すのだ。……補修作業は日常茶飯事だ。殆どは使用人や騎士たちが行うものの、急を要する場合(みつかったが最後、母が激おこ確定な場合など)はジェラルドもクロードも総出で手伝ったこともままある訳で。


 どんな侯爵家なんだというのは今更言いっこなしだ。

 よって簡単な大工仕事のものまねなら対応可能であろうと思う。


「うしゃぎしゃんも来りゅかなぁ」


 ほわほわとウサギやリスと戯れる想像をするマグノリアに、セルヴェスが事もなげに言う。


「捕まえるか? 多めに捕まえて食ってもいいし」


「「え……っ?」」


(『食ってもいい』……?)


 ――何を? リスを?


 信じられないセルヴェスの言葉に、マグノリアとリリーが表情を固めた。

 言ってから、流石のセルヴェスもしくじったと感じて固まる。


「「「…………」」」


 ディーンとクロードも、何とも言えない顔でセルヴェスを見た。

 セルヴェスも瞳だけでふたりの顔を見る。


(確かに、案外旨いけども……)


 この大陸において、リスは意外にポピュラーな食べ物である。

 木の実を主食としているため肉に臭みがなく、甘味があってなかなか美味ですらあった。

 ――パイや煮込み料理など、コクのある滋味深い味わいである。


 地球のイベリコ豚と似たような原理(?)である。



 そしてたまたまマグノリアの雑学に引っ掛からなかっただけで、地球でも案外食べられていたのだが。


 欧米などでは常食とまではいかないが、地域や家庭によってはそれなりに食べられる獣肉のひとつである。 

 例えばリス肉とじゃが芋、玉葱、ベーコン、黒コショウを聞かせたミートパイの一種、『コーニッシュ・パスティー』に、リスのスープやシチューなどなど。


 ――日本にも叩いてミンチにしたアイヌ料理『りすのチタタプ』がある。

 にんにくや香辛料などを好みで混ぜ、肉団子にして鍋に入れて食したりするのだが――



 流石のセルヴェスも今の状況下においては失言したと肌で感じた。

 牛も豚も、鳥だって魚だって食べるだろうと思うが、そうじゃない。


 どうしたものか……良い案など浮かぶはずもなく、固まったまま視線を左右に揺らす。


「う……旨いがな?」


 無かったことにはできそうにないため、小声で続ける。

 なんならウサギもと脳裏に浮かぶが、そこはちゃんとお口にチャックをした。


(最悪だ)


 ディーンとクロードが目を瞑る。

 マグノリアとリリーが、見たこともないような顔でセルヴェスを見ていた。


「……父上……」

「セルヴェス様……」


 クロードとディーンがしょっぱい顔で小さく呟いた。

お読みいただきましてありがとうございます。

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