旅は道連れ世は情け アゼンダへ移動中
お待たせいたしました!
2章が始まります。
どうぞよろしくお願いいたします(*^-^*)
※途中に虫(魔虫)の表記とそれを退治する少し乱暴な表記があります。
苦手な方は回避をお願いいたします。
SOS! SOS!! ただ今ピンチです。
五人でピクニック宜しくやや遅めの朝食を取っていたところ、静かな湖畔の森の陰から、何故か大きな蟻らしきもの(体長約二メートル)が湧いて出て。その五匹に囲まれております。
……めっちゃキモいです(涙目)。
「……魔むちって、北の森に、たまにちか 出にゃいんじゃなかったっけ?」
「この辺は北の森の一部なんすよぉ」
緊張感のないガイが説明する。
……そうか。大きな大きな森を挟んで、あちら側にはモンテリオーナ聖国があるのだったか。
前世の感覚が未だ強いマグノリアは、感覚的に国境という事に意識が向きにくい。
日本は四方を海に囲まれていた。外国は、常に海の向こうだ。
だから、地続きの森の奥の奥が国境だと言う事を、ついつい忘れてしまう。
「ジャイアントアントだな」
セルヴェスが虫の説明をする。
(つーか、そのままやん!!)
心の中で盛大に突っ込みを入れていると、「キッシーーッ!」と変な声をあげてジャイアントな蟻さんが鳴いた。
(蟻、鳴くんかーい!)
虚ろな瞳で突っ込みを再度入れている間に、『アゼンダの黒獅子』ことクロードが走りながら腰の長剣を払い、一瞬で真一文字にジャイアントアントを切り裂く。まさに風の如し。
断末魔の悲鳴をあげて、マグノリアとリリーのすぐ横に蟻(上半身)が倒れ込んで来る。遅れて土煙が舞う。
「「ひぃぃ~~~!!」」
蟻さんのつぶらなおめめ(巨大)と合ってしまい、リリーとふたり抱き合って、ぞわわわ~~~と震え、更に遅れて傾いだ太い脚のギザギザが顔の前をかすめて更に涙目になる。
なになに!? この異世界ってば、魔法がないくせに(注:お隣のモンテリオーナ聖国にはあるらしいです)、こんなところに要らぬ方のファンタジー感出して来ないで欲しいんですけど!!
転生者って俺TUEEEEE的な感じじゃありませんでしたっけ? 欠片も無いんですがこれ如何に?
爺TUEEEEE、叔父TUEEEEEではありますけど、彼ら現地人(?)ですよ。
大いに心の中で世界観に文句を垂れていると、『悪魔将軍』である伝説の騎士(齢六十)が蟻さんを拳でぶち抜き、もう一匹は蹴りでぶっ飛ばしては三メートル程先の大木に叩きつけていた。バタンキューである。
伝説の騎士……格闘家でしたっけ?
まあ、如何せん『悪魔』ですもの。大差ありませんや。
そうこう言ってる内に、ガイが手堅く短剣と長剣の二刀流で卒なく地味に蟻さん・その四を切り刻む。なんだろう、微妙に怖いよね、やり口が。
そんな一瞬の隙をついて――蟻さん・その五が大きな顎と歯をカチカチさせながら、マグノリアとリリーの前に、大きく振りかぶっていた。今ココ!
そう、何を隠そうマグノリアは転生者(仮)だ。
何故(仮)かと言うと、基本的には、普通は、常識的には、二十一世紀の日本の彼女が契約している駅近ワンルームで夢でも見ている筈だからだ。
今から約五か月前の風薫る春の日。
地球の日本という国の三十三歳の女性が、朝起きたら何故か異世界らしいアスカルド王国という国の、とある侯爵家の三歳のご令嬢として目が覚めたのだ。有り得ないでしょ?
それでもって、転生生活を続けて五か月程した十一月のとある秋の日。
ちょっと(?)実家ですったもんだがありました。ってことで、祖父と叔父の暮らすアゼンダ辺境伯領へ居候しにやって来たところなのだ。
三日前にリリーのご両親に会い、宜しくどうぞとご挨拶したところだったのに。
お互いに何かスミマセンって、ヘコヘコして固い握手をしたのに。
やっと軟禁生活から解放されたところだったのに。
旅の途中で可愛い服も数着買って貰った(固辞したのだが、小さい子ども一人だけボロい恰好をさせておくのが居たたまれなかったようだ)ところなのに。
(異世界転生させるなら、有益な専門知識を持ってる人を選出希望だよ。一般人連れて来るなら凄い能力を持たせるとか、何かこう、良さげな特典はない訳!?)
マグノリアは逆切れ気味である。
(元の記憶は穴あきだわ! 魔法が使えるでもないわ!! 強い訳でも無いわ!!! 天才な訳でもないわ!!!!)
もう怒った! 理不尽で不条理な世界に激おこ(死語)である。
「キッシャーーーッ!!(威嚇)」
「むっき~~~!!!!(威嚇)」
……本人は無自覚だけど、物凄い美貌を与えられてはいる。如何せん未だ幼女なので、すっごい可愛いね!の範疇だけど。
元・本人のパーソナルデータは無いけれど、地球の記憶が封じられている訳ではない。
中世と近世がごっちゃになったこの世界、数百年先の知識があるアドバンテージはなかなかのものである。
ただ二十一世紀の地球においては極々普通のものなので、本人は全くもってありがたみは無いけれど。
とっても可愛い筈の顔をヤバい感じに盛大に歪めて、ぎゅぎゅぎゅー!!っと眉と目を吊り上げる。
健気にもこの辺境の地について来てくれたリリーを守る為、お腰につけたライラ印の鎚鉾を握った。
いつも思うが立場が逆転しているのは何故なんだろう。彼女は護られるべきお嬢様ではなかったのか。
いや、隣に悪魔も黒獅子も暗殺者もおるやん? 自ら敵に立ち上がる前に、普通助けを求めるやん? とか思うけど。兎に角。
(……ヤられる前にヤッてやる。)
「マグノリア様!」
「ふんっがーーー!!」
……何だか面白い事になってるので、アゼンダの三人衆(祖父、叔父、隠密)はまったりと幼女と蟻さんの戦いを眺めることにした。
勿論、危機となる前に蟻んこは潰す。物理で。
彼等にとってジャイアントアントはそう危険な生物ではない。
……いや、一般的には大変な危険生物である。念のため。
それより目の前の幼女の様子が大変おかしい。
こう見えて彼女、現在アスカルド王国の未婚女性ナンバーワンの地位を持つ美姫である。
そしてなかなか優秀で抜け目無い。
……中身三十三歳が入ってる四歳なので無理もないのだが、しかし彼等はそれを知らない。
ちてちてちてちてちて!と早歩k……走って、蟻さんの後脚――立ち上がっているのでそこが一番狙いやすい――を叩く!!
「とおぉぅっ!」
ぺこ。
「ぶっふぉ!」
鎚鉾が火を噴かないで、ガイが盛大に噴いた。
「キシャ……?」
「キシャ? じゃねぇじょ、ゴラァ!(ピーーーーーー!!(自主規制))」
お嬢様に有るまじき罵声の数々は規制された。
蟻さんは戸惑いながら、右に左に首を傾げていたが、目の前の幼女が大変お怒りらしい事は察したらしい。なかなか出来た蟻である。
祖父と叔父はしょっぱい顔でマグノリアを見ている。
……特にこの中で一番常識人な叔父というよりは兄と言った方が良さそうな程に若い叔父は、彼女の令嬢とは思えぬ口の悪さに後程お説教する気マンマンである。
案の定、笑いのツボを突かれまくりのガイは、その横で膝と両手をついてプルプルしている。
「…………。(困)」
「…………。(怒)」
暫く睨み合った後、蟻さんは自分のつなぎ目? 関節? から小さな結晶を出すと、そっとマグノリアに渡した。
「ん?」
そしていそいそと森へと帰って行ったのだった―――― 完
「????」
盛大に首を傾げるマグノリアの手を、ガイが覗き見る。
「蜂蜜の結晶っすね。多分、飴玉くれた感覚じゃねぇですか?」
ぐふ、ぐふ。と嫌な笑い方をしてくる。
飴玉……キラキラとしたマグノリアの手のひら程の、薄黄色の塊をみつめる。
魔虫な蟻ってば、怒れる幼児にお菓子(?)をくれたらしい。
意外に賢いなと思いながらも、何だろう、ちょっとイラッとする。
「……て言うか、逃がちちゃって平気にゃの?」
「飴をくれたのに、倒したら可哀想じゃないか。それよりも」
叔父が落ち着いたバリトンボイスで返す。
いつもながら、無駄に良い声だ。そして眉根に渓谷を作り、何だか不穏な空気……
「え~~~?」
(問答無用で真っ二つにしておいて、何故にそこだけ律儀なの?)
……何はともあれ。森での潜伏生活は自身には無理と悟ったマグノリアであった。
倒した魔虫の身体はいつの間にか消え、後には小さい魔石が残っていた。モンテリオーナ聖国で作られているという魔道具を動かすのに、こういった魔石を使うらしい。
ちょっとファンタジーだな、と思いながらも、さっきまで動いていた蟻さんを思うとやるせない。
土の上に転がる薄紫色の魔石をみつめる。
ガイは丁寧に拾うと、小さく祈りを捧げたように見えた。
マグノリアは、固まったままでいるリリーの背中をそっと撫でる。
何事も無かったかのように、一行は馬車を進める為に動き出した。
次回はお屋敷について、いよいよアゼンダ領での生活が始まります。




