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【コミカライズ2巻8/19発売・小説6巻発売中】転生アラサー女子の異世改活  政略結婚は嫌なので、雑学知識で楽しい改革ライフを決行しちゃいます!【Web版】  作者: 清水ゆりか
最終章 全てに感謝を!・婚約破棄を応援編

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手紙

 ヴィクターとガーディニアの結婚式の後、魔力が満タンに満たされた結界の魔石を持った面々は、国内のポイントと言われる場所に魔石を置いて魔法陣を完成させた。


 一番離れた場所にあるのは西の端のアゼンダだ。

 真夜中に秘された場所にあるポイントにそれを置くと、真夜中の空に一瞬、国を包み込む大きな魔法陣が展開された。


 綺麗、そう思うのもつかの間。


 魔法の残渣すらも吸収して魔力に還元されるらしい効率重視のそれによって、すぐさまそれは闇夜に溶けて、静かな夜が戻ってきた。


 それぞれがそれぞれの場所で、ほんの一瞬の不思議なそれを見遣る。


 一緒に設置したセルヴェスとマグノリアとガイは、一斉にクロードを見た。


「……なんか、情緒も何もないな」

「余韻とかないんですね……ええ、知ってます」

「効率第一主義っすね」


 思わずクロードはむっとした表情をする。

「極秘なんだ……昼間でも夜中でも、いつまでも光っていたら多くの者が不審がるだろう」


「それはそうですけど……」

「ねぇ?」

「うむ」


 今日だろうと当たりをつけて空を見上げていた面々も、余りの素っ気ない様子に苦笑いをしている事であろう。


 そんな効率主義が功を奏したのか。

 翌日、たまたま目にした人の口の端に上るぐらいで、真夜中の不思議な光が大きな騒ぎになる事は無かったのであった。


 王国とアゼンダの安全は、取り敢えず、こうして混乱もなく秘密裏に静かに、だけど確実に守られたのである。


 本当の意味でのそれを実現するのには、まだまだ多くの時間と課題、調査と各所との調整がある。

 イグニス国の第二王子との場合とはまた違う状況であるが故、慎重かつ確実に事を進めていく必要があるだろう。

 まだまだ長い道のりであり根気強く対応していく必要があると、いつも通りの夜空を見上げながら、それぞれがそれぞれに心に刻んでいた。


******

 ダフニー夫人とヴェルヴェーヌを迎えた『執事・侍女学科』は無事に開講を迎えた。


 大きな商会の子どもが、より上流の礼節を学べる場として。

 学院への入学が叶わなかった低位貴族の子女達が、上位貴族の執事や侍女になるための実践的な教育の場として、歓迎をもって迎え入れられた。


 より高度で発展的な内容として、家令・女官特別講義も用意してある。侍女と女官は仕事としては全く違うものだ。

 似て非なるものだが線引きがあいまいで、主や状況によっては重なる部分も多々ある訳で。

 希望者から成績と適性が上位の生徒を選別して行われる授業は、学科で学ぶ者の憧れの講義となったのである。


 

 そして新しい体制で進み始めたアゼンダ商会は、意外にも今まで通りといった感じだ。

 元々セルヴェスはいつでも彼らに引き渡せるよう、名前のみというスタンスで商会の人間に仕事を割り振っていたし、最終責任者としてマグノリアが控えている。


 とはいえマグノリアも、出張っていくのはトラブルになりそうな時と、従業員が困っている時ぐらいである。


 なに。

 皆、十年以上のキャリアを持つ訳で、それなり以上にこなす力量は備わっているのだ。

 領主一家への気兼ねなのか、幾ら会頭を退くと言っても納得しなかったが、無理やり退いてしまえばこんなものだ。

 ドミニクも歯がゆく思っていたところもあるのかもしれない。

 


 マグノリアは執務の休憩中に、手紙を開いた。

 もう何度目かのそれは、目の前に親友が話しているかのようなそれであった。



*****

Dear マグノリア


 いえーい! マグノリア、元気? また無茶な事や危ない事、ぶちかましてない?

 私は変わらず元気してるよん♪

 ユリウスとディーン、王子達やマーガレット等、みんなの居ない学院生活はとっても退屈だけど……

 とはいえ最終学年。身の振り方を考えなくちゃならなくて、周りはバタバタしているよ。


 だって、大半の女の子が学院卒業後、結婚するんだって!

 こっから一年くらいは結婚式ラッシュだよ。

 ……もしかして、明治とか大正とかの女学校もこんな感じだったのかなぁ?


 人生生き急いでる気がするよね……っていっても、この世界の常識なんだろうから仕方ないよね~。


 私もひとり娘だから、いつかどこかでお婿さんを取らないといけないんだろうけど。お父様があんなんだから、暫くは猶予がありそうだよ(笑)

 

 色々『みん恋』のあれこれを見ることが出来て、とっても楽しい学院生活だった。

 私の知ってる『みん恋』じゃなくて、ガーディニア主演のスピンオフか、誰かの二次っぽい内容だったけどさ。


 でもユリウス、ディーンといろんな体験が出来て、本当に楽しかった!

 勿論マグノリアもね! ……一緒に学院生活を過ごせたら、本当はもっと楽しかっただろうなぁって、ちょっと思うけど(苦笑)


 ユリウスやマグノリアがこの世界に来たかったか、来て良かったのかは解らないけど、私は本当に良かったと思ってる。


 あと。日本の両親には申し訳ないと思うけど……でも、きっとあんなに頑張ってくれた両親だったら、ずっと寝たきりで点滴に繋がれているよりも、自分の子どもが元気に走り回って笑って過ごしている事を喜んでくれると思うんだよね。


 だから、ありがとうって心の底からお礼を言って、今の人生を大切に過ごして行こうって思ってるんだ。



 唯一今回の転生で不完全燃焼なのは、ジェラルドの登場が少なかった事。

 マーガレットルートじゃなくてガーディニアルートだったからなのかもしれないけど、宰相じゃないからか、全然全くヒーローとして絡んでこなかった。だから殆ど姿を見る事も出来なかったんだよ……


 最推しなのに~!


 そんなんで。私、考えてね。

 王宮の文官として就職するために、今猛勉強中なの!

 何としても合格して、文官棟でジェラルドと一緒に仕事をするんだ♡


 事業……は、お父様がまだまだ若いから大丈夫だよねって言い包め……んんっ、説明して。行く行くはそっちを手伝うにしても、王宮で人脈を広げたり見識を深められるでしょって言い訳して、数年は王宮でジェラルドを観察するつもりでいるよ!


 今からめっちゃ、楽しみ~!!


♪♪♪♪


 ここからは、王都での見聞きした事や、噂なんかを書くね。


 まず、ディーンは元気だよ。

 めっちゃ頑張って鍛錬しているらしくって、この前所属する騎士団の選抜戦? で一番になったらしい。見習いのエース扱いらしくって、ちょっぱやで正規入団出来るんじゃないかって言われてるらしいよ。


 それにあの見た目だからね……今ご令嬢と一部のおばs……貴婦人にディーンファンが増えて、騎士団の訓練の見学がエライ事になってるよ。

 本人はストイックに練習していて。毎日クタクタになるまで頑張っているって、デュカス先輩が言ってたよ。


 デュカス先輩、相変わらず声おっきかったし~~~~~~! ウケる!!



 アーノルド王子の側近であるブラ兄は、主従の上下関係が逆転してしまうっていう珍現象が起きた上に、諫め切れないとはいえ侍従長さんと一緒にストップかけていた事が沢山の人に見られていたらしく、御咎めなしだったよ。

 ただ、アーノルド王子の側近は解散したから、普通に近衛騎士として活動しているみたい。


 ガーディニアとのやり取りも多かったからか、王太子妃付きになるんじゃないかって噂も出てるよ。

 たまに見かけると、おっさんな虫? あの変なテントウムシと相変わらず仲良く過ごしている。


 マグノリアとラドリ、ブライアンとおっさんな虫だよね☆

 よっ! 迷コンビ(あえて。間違いじゃない)!



 もうひとりの側近ルイは、アーノルド王子と幼馴染で乳兄弟という事もあって、たとえ廃嫡されてもついていくって言ったんだって。

 ……でも嫡男だから許してもらえなかったらしくて(予想通り)。


 事前に辞めた側近と同じように、領地に戻って領地経営に専念するらしいよ(予想通り)。

 唯一マグノリアがプレイした(かもしれない)攻略対象者だったのに、存在感が薄かったし、学院の中が主なヒーローだから、マグノリアには一番関係ないヒーローだったよね……


 何でよりにもよってルイをプレイしたんだろう?

 友達に好感度上げをお願いされたんだっけ?



 マーガレットは、ずっと休んでいたんだけど、ポルタ家が責任を取らせるって言って学院を辞めさせられてしまったんだ。


 成績優秀者だし、授業態度はきちんとしていたから、勿体ないので卒業はさせてほしいって先生たちが頼んだらしいんだけど。


 ただ、婚約者がいる高位貴族をたぶらかすのって(結果的に)、結構罪が重いらしい。


 今回は貴族になって時間が短かった事と、王子と側近の態度や対応もあってセーフだったらしいけど。

 実は修道院送りになるのが普通で、高位貴族が責任を取れと言ったら死を賜る事もあるんだって……全然知らなかったよ。

 中世風・ヨーロッパ風、怖い!!


 で。学院退学後はどうなってるのか全然解らなくって。

 王族や高位貴族に迷惑が掛かった事は確かなので、周りに突っ込まれないよう修道院送りにしたっていう噂もあるし、平民に戻したっていう噂もある。


 まぁ、ポルタ家としては今後の事や息子達の事もあるし、きちんと対応いたしましたってして、一日も早くなかった事にしたいってのはあるんだろうね……マーガレットは心配だけどさ……


 教育しなかったって言われてるけど、他の平民との庶子と比べるとかなり恵まれていたというか、結構エグい扱いを受ける人が多いらしくて……放置されてる方が幸せなんだなって、社交界の噂好きなおば様の話を聞いて思った。


 ゲームは現代人がプレイするから笑って済むことだけど、ここの現実だとゲームの内容は成立しないんだなって、ちょっと思ったよ……



 アーノルド王子は、与えられた領地で蟄居生活を送りながら、領地経営なんかの指導を受けているらしい。

 その指導を受け持っている人が、あのコレットさんの知人らしくって。

 コレットさんも自分の家を細腕繁盛記で立て直した人じゃない? どうもその関係者らしいよ。


 何だかごっつい豪華な建物を(格安で)建てさせて、薬草とかもビシバシ作っているらしくって……多分、あの人、王子に何かやらせる気だね。そして儲ける&儲けさせる気だよ!


 っていうのも、ガーディニアが王太子妃になって、今までやってた事業に関わるのがどうしても少なくなるから、領地の人とお兄様に任せたらしいんだけど。


 どうもそこと提携して、何か新しい商売をおっ始めるらしい(ガーディニア談)。

 流石やり手バ……美魔女! 


 機会を全く逃さないその手腕は見習いたい反面、見習うと何か違うモノになってしまう気もして、迂闊に手を出してはいけない気がする(苦笑)。


 あ、多分マグノリアも同じ部類だから。あんたは気にしなくて大丈夫だと思う。



 ヴィクターさんとガーディニアは、もう砂糖を吐きそうなぐらいの仲睦まじさだよ。

 ヴィクターさん、めっちゃガーディニアを大切にしているし、ガーディニアはガーディニアで、いっつも惚気てるよ。


 ……王子×マーガレットの時は平気だったのに……

 

 何だろう。

 こう、キワモノキャラだったり知人だったりすると、居た堪れない気分になるのはどうしてなんだろうね?

 


♪♪♪♪


 マグノリア。

 マグノリアは自分の気持ちに整理ついた?

 マグノリアは、これは夢落ちでいつか目が覚めるんじゃって言ってたけど……


 目が覚めなかったらどうする?

 覚めるにしても、いつ覚めるかどうか解らないじゃん?


 つーか、いつまで寝てんねん! いい加減起きるなら起きてるっしょ(笑)!


 責任感のあるマグノリアだから、いなくなった後の事を考えるのも解るし、純粋に怖いっていうのも解るんだけど。

 だけど、そんなどうなるか解んない事で躊躇してるなんてあんたらしくない気もするよ。


 別に、仕事が好きならこの時代だってキャリアウーマンになればいいし。

 おひとり様でいたいなら堂々と選んだらいいよ!


 それと同じで、もし好きな人が出来たら出来たで、躊躇しないでぶつかったらいいんじゃないかなぁ?

 どんな人が相手か解らないけど……マグノリアが好きになるぐらいの人なら、怖いって正直に言ったら理解してくれようとすると思うんだよね。


 マグノリアが怖いとか言い出すって、余程でしょ(笑)?

 どうしたのかと相手の方が怖がるわwww

 

 ――だから、もし武闘会で意にそぐわないと思ったら、堂々と否を突きつけたらいいと思う。

 いつか目覚めるのか解らないけど、それまでここで、あんたの人生を生きた方がいいよ!



 From ヴァイオレット・リシュア



P.S.マグノリアがクサい事ばっか言うから、伝染っちゃったよ! 何はともあれガンバだぜ!

 


*****


 片隅に小さく、『春日すみれ』と書かれていたそれ。

 マグノリアは、懐かしい文字をそっと指でなぞった。 


 マグノリアが長い手紙を読み終えると、斜向かいで片肘をつきながらクロードが絵本を眺めていた。

 王都でシリウス王子……の婚約者から貰ったというそれ。


 いつの間にかリリーがお茶を淹れてくれたようで、温かな湯気といい香りが立ち昇っていた。


 マグノリアにもくれたのだという事で見せてもらったが、可愛らしい童話だった。

 童話とクロードの取り合わせは何ともミスマッチな気がするが、それでも何度も繰り返し開く様子を見るに、気に入ったのか気になる事があるのかなのだろう。


 顔をあげた気配を察したのか、クロードも本から顔をあげた。


「……随分集中して読んでいたな。ヴァイオレット嬢は元気なのか?」

「はい……王宮の文官目指しているらしいですよ」


 マグノリアはくすくすと笑いながら手紙を指差した。


「文官……?」


 まさか、今度はジェラルドに絡んでいくつもりかと思い、思わず眉を寄せた。


「お父様を観察するんですって」

「やはり!」

「あははは!」


 笑い事ではないであろう。

 クロードは王宮の中を、ステルスモードで壁に張り付くヴァイオレットを想像して……多分巻き込まれるであろうディーンも想像し、小さくため息をついた。


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