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【コミカライズ2巻8/19発売・小説6巻発売中】転生アラサー女子の異世改活  政略結婚は嫌なので、雑学知識で楽しい改革ライフを決行しちゃいます!【Web版】  作者: 清水ゆりか
最終章 全てに感謝を!・婚約破棄を応援編

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冒険者ギルド長・セルヴェス(兼魔法ギルド長)

「……なるほど。おじい様が冒険者ギルド長に」


 廊下であったクロードに、昨夜の話がなんだったのかを聞けば、なり手のいないヴィクターの後釜に納まる話をしたと返って来た。


 納得である。

 逆に言えば、セルヴェス程適任者もいないだろうというもの。


「お兄様に家督を譲るのは、まぁ。何せお父様は十九で押し付けられてますからねぇ」

 

 クロードはクロードなりに色々考えがあるのか、喜ばしい事という雰囲気ではないが……まぁ、それはそうだろう。

 仕事は得意だろうからともかく、面倒事や責任その他が一気に増えるだけであるからして。


 性格的にも立場的にも何処か遠慮がちなところがあるクロードであるので、大方自分かブライアンにでも継がせたらいいと思っているのだろうと、マグノリアは当たりをつける。

 

 ブライアンはギルモア侯爵領で手一杯であろうし、マグノリアに至ってはそんなものをするつもりは更々ない。

 よってそれは諦めて貰うしかあるまい。


 ……だが、ギルド長なるものはどうやってなるものなのだろうか。自薦他薦? それとも試験?


 ……試験……


「それよりも、おじい様に注意をしないと……!」

「注意?」


 そう言いながら執務室の扉をノックすれば、反応がない。


「……ダイニングでしょうか……」


 嫌な予感がしつつも踵を返すと、前からセバスチャンがやって来た。


「おふたりとも、おはようございます。セルヴェス様は急用で早くにお出かけになられました」


 にこやかな挨拶に、挨拶返しをするのも忘れてマグノリアの顔が険しくなる。


「……出かけたって、どこに?」

「ギルド棟です」

「ギルド棟」


 声が重なる。

 後ろで、幾つになっても元気な事だと、ニヤニヤしながら話を聞いていたガイに確認する。

 ギルドの細かい規約は、クロードよりもガイの方が詳しいであろう。


「……ガイ。ギルド長になるのに、資格とか手続きとかあるの?」

「資格と試験があるっすよ」


 ガイによれば、


・B級以上の冒険者で、五年以上冒険者としてギルドに所属している者

・A級以上の冒険者で、三人以上の冒険者ギルド長に承認を得た者

・上記を満たし、冒険者を纏める力があると認められた者。面接・筆記試験・討伐の資格試験が合格点に達した者

 

 以上だという事である。

 

 討伐。


「……マズい……」


 マグノリアが呟くと、クロードが難しい顔をした。

 

 ギルド長試験がどんなものなのかは解らないが、多分それを行おうとしている事は確かである。

 王宮では、先日立太子を無事終えたヴィクターの帰還を、首を長くして待っているからだ。


「……騎士団長としての実績と魔獣の討伐経験もある為、試験を課されるとは思わなかった」


 跡目の話などもした為、すっかり確認するのを忘れていたのだ。

 己の手落ちを謝りながら、玄関へ向かって早足になる。


「ちなみに、おじい様は冒険者のランクみたいなやつ、持っています?」

「……聞いた事がないな。持っていないと思う」

 

 そうですよねぇ……

 魔獣や大型の獣が出て討伐依頼があったとしても、冒険者としてではなく騎士団として対応する訳で。

 

*****

「……遅かったか」


 クロードとマグノリアは、未だうっすらと煙が上がり、上階の方の壁がふっ飛んでいるギルド棟を見上げた。


 騎士によって規制線の様なものが張られ、困った顔をした騎士と瓦礫を運ぶ騎士が作業をしている。

 何事があったのかと、瓦礫の山と穴の開いたギルド棟、対応する騎士とを交互に見遣る領都の人々。


 クロードとマグノリアを見つけると、不憫な護衛騎士が困り顔で駆け寄って来た。


「……一体何があった?」

「セルヴェス様が急遽体力測定をすると仰ったので、民の安全を確保する為に一画を通行禁止にしたのですが……」

「いい判断だ」

 

 厳しい顔でクロードと護衛騎士が頷きあう。

 朝っぱらから使者が来て、出掛けて行ったらしいセルヴェス。

 館の警護当番だった彼は懸命に暴走馬に付いて来た上、諸々の手配をしたのであろう。


「幸い怪我人などは出ておりません。街とギルド棟の復旧を急いでおります」

「引き続き宜しく頼む」

「は!」


 そう言うと、頭上に青空がのぞいているギルド棟の階段を上る事にしたのだった。


 冒険者ギルドの重厚な扉をノックする。

 返答があった為に開けば、なぜか商業ギルド長のドミニクが瓦礫に埋もれる執務机に座り、ギルド職員と騎士達に片付けの指示を出しながら仕事を進めていた。


 全く以て不機嫌そうな表情の顔を上げては、三人……マグノリアとクロード、ガイを見遣る。


「……えっと?」

 

 どうして冒険者ギルドに、商業ギルド長の彼がいるのか。

 後片付けというか尻拭いというか……聞かずとも決まっている。


「……奴の時間がない為、昨日近隣の冒険者ギルド長に立会いの依頼を出したところ、今朝早くに着きましてな。ギルドの開始時間前に粗方済まそうと思ったら、壁に穴が開いたのです」


 なぜ穴が開くのかと疑問だが、とても聞ける雰囲気じゃない。

 奥をのぞき見れば何かを測定するらしい機械が多数破壊されていた。


 言わずともセルヴェスの仕業であろう。


「体力測定用の機材をすべて駄目にした挙句、初級者用の標的に玉を当てて機敏性と正確性を見る試験をしている最中に、何故か壁に穴が開いたのですよ」


「……それって、壁に穴が開くような試験なの?」

「そんな訳あるまい」


 首を傾げるマグノリアに、クロードがしょっぱい顔で答える。

 ……ですよね~。


「取りあえず、大変済まなかった。棟の補修には大至急職人を手配する」

「宜しくお願い致します。ちなみにセルヴェス様達はランク上げの為、北の森にいると思われます」


 北の森……モンテリオーナ聖国との国境にあり、魔獣や獣の多い森である。

 言わずもがな、セルヴェスの冒険者ランクを確認する為か無理やり上げる為に、獣を狩りに出かけたのであろう。


 すぐさま階段を駆け下りると、三人は馬にまたがった。

 ついでにクロードは、近くにいる騎士へ職人と追加の騎士の手配をする。


「時間がないので、手加減が手薄になるかもしれないっすね」

「森が……」


 クロードとガイの深刻そうな表情に、マグノリアが眉を寄せた。


「いつもの討伐で、森はそんなに被害はない(?)ですよね?」


 山がひとつ丸ハゲになるとか、木がドミノ倒しに倒壊するとか。地面がちょっと(?)エグれて大穴が開く位である。


「そりゃあ、セルヴェス様が討伐するんじゃなくて、指揮してるだけっすからねぇ」

「加わるにしても、かなり手加減しているからな……」

「…………。急ぎましょう!」


 マグノリアの声がけに、ふたりは大きく頷いた。

 ついでに、いつも朝寝坊気味なラドリは、ガイのポケットの中で未だすやすやと眠っている。



*****

 ギルドは人の往来が多い場所、大体は要所となる地方都市に置かれている。

 ただ北の森近くのそこそこ大きな街には、必要性から、各国とも冒険者ギルドが置かれていた。

 

 アスカルド王国で経験浅くギルド長になる為には、冒険者としてA級以上のランクと、三人以上のギルド長の承認がいる。

 近くの街のギルド長達は、流石手練れの冒険者。なかなか貫禄のある見た目であった。


 実は貴族だったらしく、家の都合で急遽、親戚の家督を継がなければならなくなった(?)らしいアゼンダの冒険者ギルド長の要請を受け、近隣のギルド長が招集されたのであるが……


 いきなりこちらの都合も聞かず緊急と言われ腹も立ったが、新しいギルド長の候補者があの悪魔将軍と聞き耳を疑った。


「確かに強いんだろうけど、一体幾つなんだ?」

「騎士と冒険者は違うって事を教えてやろうぜ」


 なかなか気の荒いらしい隣町……アスカルド王国の端っこの方のギルド長ふたりは、相変わらず調子の良いヴィクターと、やたらデカい老人を見てニヒルに笑ったのだった。


「幾ら悪魔将軍といえ、おまけする事は出来やしませんよ?」


 挑発するような様子に、セルヴェスも頷いて同意する。


「うむ! 望むところだ」



 そして今、ふたりのギルド長たちは大変に後悔していた。

 

 まず筆記試験。

 一般的な知識やら、ギルドの運営・管理、人を雇用する上での心構えや必要な事等、ギルド長としての知識を問われる。

 まあ、この辺は現職の騎士団長を務めるセルヴェスには全く問題ない。それどころか試験官である彼らよりもベテランな位である。

 こちらは、まぁ、織り込み済みである。


 問題は、実技試験だ。


「……辺境伯、そっとですよ?」

 

 ヴィクターが念を押すが、セルヴェスの足元にはぐにゃぐにゃに曲がった計測器が死屍累々と転がっていた。


「ちょっと力を入れようとすると、曲がってしまうのは何故だ?」


 もっと頑丈なものを寄越せというが、普通、計測器が壊れる事などない訳で。

 ……散々壊した後に計測不能という事に落ち着いたのだが。


 次に獲物を狙う為の俊敏性と正確性を測る試験をする事になった。

 初心者でも安心の、室内で標的が動くので、リラックス&安全に自らの動きを確認できる機械である。

 

 まだ魔獣と直接出会うのには早い冒険者などが、安全に咄嗟の動きをトレーニング出来る練習用の機器でもある訳で。


「う~ん……この辺は問題ないから、省いて大丈夫だと思うんだけどなぁ」

「実は苦手だからですかな?」

「この仕掛けをある程度クリア出来なければ、実地の魔獣を狩る事なんて出来ませんよ?」


 そういう事じゃないとヴィクターは思うが……

 苦手も何も、百発百中であろう。

 どちらかといえば機械が壊れないかの方が心配な訳で。


 しかし長年ギルド長を張る彼らにも意地とメンツがあるのであろう。我儘を言って呼んだ手前もあり、どうしたものかとヴィクターは小さく唸る。

 ……が、セルヴェスに宥められて(?)仕方なく通常通り進める事にした。


 上下左右に動く、ゆっくり且つ単純な動き(セルヴェスにとって)の仕掛けを瞳で追いながら、セルヴェスは軌道を確認する。


「大丈夫ですか? 速度を遅くしましょう……」

「ここかーーーーっ!!」


 ひとりのギルド長が言いかけた言葉に、セルヴェスの怒鳴り声が被る。そして手に持っていた筈の玉が、唸りを上げて飛んでいった。


 あまりの速さに、ふたりは玉が飛んだとは思わなかったのだが……


 ドゴン!!

 低い音とともに、ギルド棟の壁が吹っ飛んだ。

 建物が揺れ土煙が立ち込める。


 ふたりが咳き込みながら、目の前の土煙を払う。

 晴れて視界が確保出来ると、壁があった場所には真っ青な空が広がっており、目の前にあった筈の機械が木っ端微塵に散らばっていたのであった……


 ギルド長達が呆然としていると、大きな足音と共に扉が開き、鬼のような顔のドミニクが飛び込んで来た。


「ぐぉらぁ! 室内で一体何をしているっ!!」

「……玉を投げたら、壁が壊れてしまってなぁ。老朽化だろうか?」

「そんな訳があるかっ!」


 セルヴェスが怪訝そうに首を捻る。

 ヴィクターは苦笑いしながら、怒りまくっているドミニクと唖然とするギルド長達を見遣ったのだった。



 そして今。

 北の森で魔獣狩りをするセルヴェスを見ているが、非常に後悔している。

 道すがらFランクである薬草の採取をし、Eランクの小動物数匹を狩り、猪を払っては木に叩きつけ、Dランクのビッグベアを拳ひとつで岩にブチ当てていた。

 ……ビックベアがずり落ちた後の岩肌が、地響きを立てながら崩れる。


「マ、マジか……」


 Cランクのオークの群れをボコボコにのした後、Bランクのキングベアの群れに突っ込んだ辺りで悲鳴をあげた。


「もう、大丈夫です!」

「辺境伯! 合格ですから帰りましょう!?」


 ……Bランクというが、それは冒険者パーティーで討伐してのランクである。個人で倒したのなら、一匹でもAランクだ。


 第一事故で遭遇してしまった以外、こんな厄介な魔獣をひとりで討伐するとかありえないのである。


 キングベアは爪と牙に毒があり、引っ掛かれたり噛まれたらひとたまりもないのだ。毛皮は非常に厚く丈夫で、細い弓などにはビクともしない代物で。

 そして、とにかく力が強い。

 あの太い腕で叩かれたのなら、人など形が無くなるほどにひしゃげてしまうであろう。


 ……一匹でもまずいのに、ましてや群れに突っ込むとかありえない。 


「はあぁぁぁぁぁっっ!!!!」


 凄まじい覇気と気合の篭った声。そして薙いだ剣の作り出す爆風。

 それをまともに受けたキングベア達が、恐れをなして叫びながら逃げ出した。


 ギルド長達は怪我をしないように、逃げ惑うキングベア達を避けながら叫んでいる。


「ぎゃーーーっ!!」

「逃げますよ、辺境伯!」

「あ~あ……」


 有無を言わせない、大変貫禄に満ちた新米ギルド長(仮)の睨みと掛け声に、やっぱりなと思うヴィクター。


「逃げ出すと厄介だ、やるぞ!」


 ギルド長ふたりは何を言っても聞かないセルヴェスに、半泣きで付き合うことになったのである。


 そしてセルヴェスは、ボス熊らしい(?)一匹の殊更デカいキングベアに、渾身の一撃をお見舞いすべく。その太い腕と拳にありったけの力を込めた。


******

 ちゅどーーーーーん!!!!


 爆発したかのような音と共に、爆発と爆風が見えた。


「父上だな……」

「セルヴェス様っすね」


 三人は謎の爆発を見て頷く。

 北の森に入ったところで、多数の小動物たちが麓に向かって、逃げ惑いながら走って来るのが見えた。


「おじい様って、魔法が使えたんでしたっけ?」

「何を言っているんだ、父上は魔力無しだ」


 ならどうして爆発が起こっているのか解らないのだが……魔道具を貸した覚えのないマグノリアは、飛散する小石を眺めながら首を傾げた。


 

 急いで爆発地点へ向かうと、地面は大きく抉れて大穴が開き、樹々は飛び散り……まるで昔のバトルアニメの事後の様子が広がっていた。


 何故かボロボロになった上、放心状態の知らないおじさんふたりと苦笑いのヴィクター。

 そして、あちこちで気絶している見た事もない大きな熊がごろごろと転がっており、意識のある熊をセルヴェスがうなり声を上げながら、ブンブン振り回しているところだった。


「キングベアだな」

「群れっすかね?」


 ため息をつくクロードと、大きな熊……魔獣の種類を確認するガイ。

 マグノリアは大きく傷付いた森を見て眉を顰めた。


 ――これは、地ならしと植樹をしなければならない!

 そしてセルヴェスを止めないと、どんどん被害が甚大になって行く。


「おじい様! 緑は大切にしないと駄目ですよ! そしてギルド棟の壁はどうしたのですか!!」


「おお、マグノリア。こんな処にどうしたんだ?」


 埃まみれの姿でにっこりしながら、近くの大岩にキングベアを叩き付けた。

 マグノリアは叩きつけられた熊を瞳で追う。


「さ、これでBランクだな? 次はAランク。魔獣は……なんだったか?」


 この上にしばらく行くと、例のワイバーンの巣があるらしい。

 とんでもない事を何でもない様に言うセルヴェスに、ギルド長達は激しく首を振った。


「もう大丈夫です! 充分です!!」

「っていうか、キングベアを一人で倒すのはBランクじゃないですからねっ!!」

「……そうなのか?」


 そういうもの?

 茶色の瞳を瞬かせながらセルヴェスがランクのメモを確認した。


「ふ~む。個人と複数では、ランクが違う事もあるのか……面倒だなぁ」


 一緒にしておけばいいのに。

 赤毛を掻きながら、ぶつぶつとテスト勉強をする学生のように唸った。

 ちなみにこの騒ぎでも、ラドリはぐっすり眠ったままであった。図太い鳥である。


 こうして、多大な被害を出しながら(?)大型老新人冒険者ギルド長が爆誕したのであった。


ヤバい冒険者ギルド長が誕生しました。

おじい様は今後、悠々自適な(?)狩り生活が始まります( *´艸`)

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