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【コミカライズ2巻8/19発売・小説6巻発売中】転生アラサー女子の異世改活  政略結婚は嫌なので、雑学知識で楽しい改革ライフを決行しちゃいます!【Web版】  作者: 清水ゆりか
第十章 何事も経験(主に王都)・デビュタントはノーサンキュー編

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転生組とディーン、王都を行く・前編

 もうじきマグノリアが帰領の為、日曜日に学院在籍組であるヴァイオレット、ディーン、ユリウスと出掛ける事になった。

 外はかなり寒く、雪がちらほらと舞っている。



「マグノリア嬢が行ってみたいところってあるの?」

 ユリウスの言葉に、マグノリアが怪訝そうな顔をして返す。

「……それは、ある程度王都を熟知してる皇子達が案内するもんじゃないの?」


 三人は顔を見合わせた。 


 ひとりはバイト三昧だった元大学生だし、ひとりはほぼほぼ病院に入院していた元中学生である。

 頼みの綱(?)のディーンは、以前王都に来たマグノリアとあちらこちらをまわる事を夢想していたが、マグノリアが入学しないと聞いたところで、流行スポットを探す事をすっかりスッキリ放棄している。


「学院と寮の往復で終わってるからなぁ」

「同じく。学院の敷地から殆ど出ていない」

「同じく。大概学院の中で見張っているもんなぁ」


 ……一部聞いちゃいけないような言葉が混じっていたが、三人とも基本的に学院の中で生息しているらしい事が解った。

 解りすぎて、ちょっとしょっぱいのはなんでなのか。


「デビュタントが終わって、社交したりしないの?」


 帝国から留学しているユリウスはともかく、ディーンとヴァイオレットはこの世界標準と合わせて、大丈夫なのか。


 ――三人に『お前、それ言う?』という顔で見られたのは仕方ないであろう。


「どうしてもって言われてたまに行くけど、クラスが上位クラスだから……キラキラし過ぎていて落ち着かないなぁ」


 困った様なディーン。

 ついでに通常クラスのご令息から誘われる事もあるらしいが、クラスが違う為、そこでは知っていて当たり前な話題を知らず、それに乗るのになかなか技術がいるらしい。


「お父様がなかなか難しくって。それに王子達の卒業まで一年だから、ちゃんと見ておかないと」


 ああ、娘を溺愛しているリシュア子爵は、結婚相手を探すとなると厄介……いや、大変そうだなと思う。


 王子とその一行、そしてマーガレットに関しては、別にちゃんと見なくても良いというか、誰も頼んでないと思うのだが……

 来るべきカウントダウンに向けて、観察に余念のないヴァイオレットが頷いた。


「社交は……疲れるよね」


 もの憂い気なユリウスがため息をついた。確かに。

 とは言え、エロゲーの主人公らしからぬ言葉である。

 綺麗なお姉さんに沢山囲まれて、年頃の男の子ならウハウハなのではないのだろうか?


「……年齢も年齢だし、留学先で羽目を外したりしないの?」


 思わずそんなんでこの先、エロゲーの主人公を張っていけるのかと(?)心配したマグノリアが聞く。


「マグノリア君。僕はね、清く正しい全年齢型(ゲーム)に人生を変えるんだよ!」

 ユリウスはきつく拳を握って夢を語る。

 

「こんな世界であんな生活をしていたら、あっという間に病気になってしまうじゃないか。まして僕は一途なタイプだよ! とっかえひっかえなんてしないんだよ!!」


『ハーレム×ハーレム』ならぬ、『ハーレまない×ハーレまない』なのだと、鼻息荒く力説された。


「ユ、ユリウスさん?」

「……誰が買うの、それ」

「?」


 余りの勢いにドン引く女性陣。

 よく解ってないディーンが首を傾げる。

 護衛としてマグノリアに就いているガイが、ニヤニヤしているのはいつもの事だ。


「即位したら、いの一番に後宮を潰すつもりでいるんだからね。怪しい陰謀の巣窟だし、浪費が凄いし。いい事なんてひとつもないんだから!」


 めっちゃ実感込めて言われた。

 四人……ディーン、ヴァイオレット、マグノリアとガイは顔を見合わせる。


「お、おぅ。よく解んないけど頑張れや」

 

 取り敢えず、現在進行形で設定ならぬ人生を変えている最中のマグノリアが、半ば強引に結んでおく。



 そんな訳で。

 王都で行きたいところと言われても、大半をセルヴェスとクロードと行ってしまっているので特にない。ただ、行けていないところが一か所ある。許可が下りないだろうと思って申請していない場所だ。

 ……そこに入り込めるか確認してみよう。



******

「ああ、マグノリア様! お久しぶりですねぇ」


 それなら、フォーレ先生に相談しようと提案するディーン。

 困ったときはフォーレに相談するようにとクロードに言われた事を、きちんと守るよい子である。

 それなら初めから、クロードから頼んで貰った方が確実な気もするが……言いっこなしだ。


 何と。あっさり見学の許可がおりた。

 そして今、五人は学院の中に佇んでいる。ちなみにラドリもいるが、いまだ夢の中。マグノリアのポケットの中で微睡んでいるところである。


 許可がおりて助かる反面、そんなに緩くて安全管理は良いのかと不安になる。

 元々寮生活者が居る為、申請さえすれば敷地と寮の一部には出入り可能なのだそうだ。


 王都が鬼門な為、敵(?)の巣窟であり死地である学院に入ろうなんて思ってもみなかった訳で。


 ディーンに会う場合はタウンハウスに来て貰っていた為、全然解らなかった……まあ、ディーンの立場からいっても、幾ら友人であり幼馴染とは言え『マグノリアが来いよ』なんて言える訳がないだろう。


 ちなみに入学前のヴァイオレットが、年中ディーンをダシに学院の敷地に入り込んではアーノルド王子達を観察していたそうである。


「普段は校舎の中に入れないのですが、他ならぬマグノリア様ですし。日曜ですし大丈夫でしょう」


 思わず叱り飛ばしたい言葉が出て来るが、見学したいので黙っておく。

 ……こんなにあっさりOKが出るのであれば、学校建設前に見学に来れば良かった。


「そういえばフォーレ先生の問題集、解りやすいって評判ですよ」

「本当ですか!? わ~、嬉しいなぁ」


 マグノリアの言葉に、フォーレは灰色の瞳を細めて笑った。


 クロードと同級生であり、前学院長ことフォーレ校長の甥っ子であるフォーレ先生は、とっつきやすそうな雰囲気の青年である。


 さしずめ『お友達先生』といった風貌であるが。研究熱心なところはやはりフォーレ家の人間で。今日も日曜日であるのに学院で研究中のところを邪魔されているのであった。



 いろいろ見てまわるマグノリアだが、本来だったらここでみんなと学んでいたのかと思うと感慨深い。

 ゲームのマグノリアはどんな騒ぎを起こして、どんな青春時代を送ったのだろうか?


 後悔はしていないし自分で選んだ道なのだが。

 見る事のないもう一つの選択というものは、いつだって気にかかるものだろう。


「……貴族が通う学校だからか、とっても豪華なのね」


 素材ひとつ彫刻ひとつが手の込んだものである事が見て取れる。

 アゼンダの学校は伐採した木や掘り起こした石、廃材などを利用して作った学校であり、どちらかといえば日本の校舎に近い建物だ。


「今更見学してどうするの?」

「新しい学科を作るつもりなのと、アスカルド王国の学校がどんな感じなのか確認しておきたいから」

「まだ大きくするの!?」


 ガイ以外の全員が、呆れたようにマグノリアを見る。


「そりゃあ、まだまだ大きくするよ?」

「え~……」

「定員を多くするんですか? それとも別の学科を?」


 驚きつつも興味があるらしいフォーレが口を開く。


「別の学科を。執事や侍女を育成する学科を作ろうかと思っているんです」

「へぇ! やはり職業に特化しているんですね?」

「そうですね。平民や学院に行かなかった貴族の子女を対象にしてますから。やはり社会に出て活かせるものの方が需要があるかと思います」


 フォーレはニコニコしながら、マグノリアを観察する。

 ……仏頂面の同級生が大切にする義姪。


 彼女は今まで誰もしようとも思わなかった事、思ったが出来なかった事をしようとしている。

 

 生まれや立場の差……たまたま平民に生まれたというだけで、学校に通えないどころか、文字の読み書きができない人が多くいるのだ。


 貴族に生まれたとしても、生まれた順番などによって生じる教育格差もある。

 下位貴族でも貧しく暮らす家などは、嫡男にだけ教育を施す家も哀しい事にまだまだあるのだ。


 彼女がしようとしているのは、一部の人間だけでなく全ての人間に包括的な質の高い教育を提供する事。

 そして生活と心の豊かさ、学問や技術の向上が進んで行く事……つまりは持続可能な開発に繋げようとしているのだ。


 ……無論教育を受けただけで劇的に何かが変わるかと言われると、そうだとは言えない。

 ただ、選択の広がりや進捗の度合いは間違いなく増える。

 そして時間はかかっても、本当に豊かな未来へと発展していく事だろう。


「必要な事を学ぶのは素晴らしい事です。そうやって人類は発展して来ましたからね!」


 絵空事でない、現実に即した教育。

 多大で難解なものに挑む為にも、まずは確実な一歩を。


「僕にも手伝える事があったら言ってくださいね? まずは実技の為の教室を見てみますか?」


 ――研究と同じくらいワクワクする。

 彼女が作る未来は、どんな未来なんだろうか?


 研究熱心で根っからの教育者である彼は、灰色の瞳を輝かせて前を歩きだした。

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