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【コミカライズ2巻8/19発売・小説6巻発売中】転生アラサー女子の異世改活  政略結婚は嫌なので、雑学知識で楽しい改革ライフを決行しちゃいます!【Web版】  作者: 清水ゆりか
第十章 何事も経験(主に王都)・デビュタントはノーサンキュー編

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夏の辺境伯家

 夏休みに入り、ディーンが帰郷した。

 珍しい事に、今年はひとりである。


「……例の事件があったから、流石に今年は控えるようになったらしいよ?」


 王子に残念そうに言われたのだと、苦笑いをしながら言った。

 それだけでは無い。

 マーガレット・ポルタもマグノリアと同じ年である為、当然今度の冬にデビュタントである。

それ程裕福でない上に、養子として冷遇されている彼女へ、王子と側近一同でドレス一式をプレゼントする事にしたらしい。


 ……流石に国庫から出す訳にも行かないので、王子支払い分は、アーノルド王子のポケットマネーから捻出する事になったそうだ。

 更には、ひとりだけだと口さがない人間に何か言われかねない。

 よって彼女に恋する側近達もそれぞれお小遣いから捻出し、A令息は靴、B令息はイヤリング、C令息はネックレス……というようにお金を出し合って、有志一同からの贈り物と言う事にしたのである。



「……まー、知恵を絞って考えたんだろうけど……」


 デビュタントとはある意味本式のお披露目というか。

 幼少期のお披露目が内輪へなら、今回は大々的に貴族社会へのお披露目なのである。

 ……それ故、サボりたいマグノリアも流石にトンズラする事が出来ず、出席する羽目になっているのだが……


「ポルタ男爵家は、王子・令息一同からの贈り物を受け取って大丈夫なの?」


 養子にドレスも用意しない・出来ないとか、陰口を叩かれたりしないものなのだろうか。

 複数の男性に贈られるというのもどうなのだろう?


「それはギリ大丈夫だな。婚約者に贈られたり、意中の人間が贈って来たり」


 サインをしながら話を聞いていたセルヴェスが口を挟む。

 基本は親が娘(息子)に用意するものであるが、恋人や婚約者が贈る事もままあるそうで。


「婚約者のいる王子のみが贈ると流石に宜しくないので、側近も名を連ねたのだろう」


 クロードが付け加える。

 ……あわよくばという可能性も踏まえてと言う事らしいが。

 彼らと日常関わるディーンは微妙な表情をし、マグノリアは首を傾げる。


「……あわよくばって、やはり王子が優先なんですかね?」

「それはそうじゃないか? 主の想い人に正面からは厳しいだろう」

「相手……ポルタ嬢が好意を持ったのなら仕方ないとなるだろうな」

「……ふーん」


 どこの世界でも、上下関係も大変だし、貢がれる美女というのは存在するのだなと感心する。


「……高価なものを贈ったのにとか、後々トラブルが起きそうですねぇ」


 うんざり気味にボヤくマグノリアに、セルヴェスとクロード、そしてディーンが顔を見合わせた。


「……そんな無粋な事はしまい?」

「あぁ……でも、過去にそんな話を聞いた事もあるな……」

「相変わらず現実主義者だねぇ……」


 キャバ嬢じゃあるまいし、高価なものは自分で稼いで買ってこそ。

 マグノリアのモットーである。

 ……けして貢がれないからと言う訳ではない。筈。


 そんな訳で。

 王子御一行は今年、愛しのマーガレットに贈るドレスその他の選別で大変に忙しいらしい。

 ヴァイオレットの家も、愛娘のデビュタントの支度に余念がないそうで、今夏はいろいろと忙しいそうだ。

 早目に王都へ向かう事になるので、王都でゆっくり会おうと話はついている。



「そんな事より、ディーンがいる内にフカヒレを試作したいんだよねぇ」

「…………フカヒレ?」


 ディーンが怪訝そうに繰り返す。


「そう! 高級食材!!」

「フカヒレって何?」


 ふか……いわゆる大型のサメが、否が応でも思い起こされる。ましてやヒレである。

 思わずまさかとは思うけど、そう言わんばかりのテイで聞いて来るディーン。



 ガイに根掘り葉掘り聞いた所、サメは庶民の味として親しまれているそうである。

 主にステーキや煮込み料理、酢漬にして食べられているそうだが。積極的に獲るのではなく網などに掛かったものを食べているらしい。


 ヒレはどうしているのか聞いたら、皮やヒレは食べられないから廃棄しているだろうとの事であった。

 

 ――それは、一大事じゃありませんか!?


「フカヒレはサメのヒレだね!」

「…………。やっぱり?」


 笑顔で言いきられては、解ってましたと言わんばかりの表情で小さく何度も頷いた。


「遂にサメも食べるのか……」


 獰猛な大型魚だと知るセルヴェスとクロードは、見た目を大きく裏切る食欲の塊であるマグノリアを見て呟く。

 齧られるサメを連想しては……食という点において貪欲で獰猛なのは、マグノリアの方なのだなと改めて思う。


 全員、地球のフカヒレ料理を知らないからの反応なのであるが。


「さあ! 試作するよ~!」


 ディーンが帰って来るので、今日フカヒレを取り寄せておいたのである。

 いつもの食材に混じって、巨大なヒレが幾つも氷室に置かれているのだった。


 夏場なので、干すのには向かないだろう。

 取り敢えず茹でて皮を剥いて、物が劣化しないラドリのポシェットこと、アイテムボックスに入れておいて貰う事にしよう。


 ……全く気乗りしないディーンが、セルヴェスとクロードを見た。しかし憐憫に満ちた瞳で見返されるばかりである。

 マグノリアに首根っこをひっ掴まれ、ズルズルと引きずるように執務室を後にしたのであった。

 


*****

 折角のデビュタントという事で、古くから付き合いのあるサイモンにドレスを依頼する事にしたマグノリアだったが、ほぼ最終確認ということで彼が直々に来訪した。


 手芸部隊渾身のつまみ細工を見て、サイモンが深い感嘆のため息をつく。


「……これは、今まで以上に話題を攫う事になりそうですね」


 元々布で作った花をあしらいたいとは伝えてあった。

 流石にものを見ずにドレスを作れないだろうと、試作は幾つか渡してあったのであるが。

 サイモンたちが希望する花の種類と大きさ、数を揃えて作って貰った花々は圧巻であるのだろう。


 まだ作り始めたばかりといっても良い位の時間しか過ぎていない筈だが、みんなの意気込みを表すかのように、見事な出来栄えの花々が揃えられていた。


「以前お話した通り、髪もこちらの花をリボンやレースにつけ、結った髪につけるつもりでいます」


 デビュタントのドレスは白。

 初々しい大輪の花々が、王宮の大広間に咲き誇るのだろうか。


「素晴らしいドレスになる事は間違いございません。多分、こちらも注文が殺到しますよ」

「こちらはまだ職人を育てている最中ですし、作るのに手間も時間も掛かりますからね。今までのように一斉に売り出すというよりは、込み入った物はある程度絞って流通させたり、特別なものはオーダー製にしようかと思っているんです」


 サイモンは難しい顔で頷いた。


「激しい争奪戦になりそうですね……」

「ある程度は織り込み済みです。……比較的小さいので早く作れる耳飾などの小物を、まずは流通させようかと思っているのですが」

「なるほど」


 廉価品も溢れていた地球ならまだしも、庶民というよりは裕福層と貴族向けの商品であろう。

 裕福な奥様方なら日常使いにするのだろうが、そこまで耐久性がある訳でもない。

 パッチワークのように日用品に取り入れるというのには、いささか向かない商品である。


 来たるべき注文ラッシュに備え、ある程度上手く作れたものを集め、イヤリングやカチューシャなどのファッションアイテムを製作しているところである。


 流行に敏感な貴婦人たちである。

 話題になったドレスや髪飾りと同じようなものが欲しいと思う事だろう。


 しかしなかなか手に入らない。

 ……アクセサリー類は、きっと飛ぶように売れる事だろう。

 人は手にはいらないと解ると却って渇望するものだ。


 一過性のものではなく、長いスパンで売れるように考えているのだろう。


「……デビュタントは良い発表の場なのですね」


 サイモンの言葉にマグノリアは微笑んだ。

 嫌々出席するのだ。旨み位は欲しいものだとマグノリアは思った。



*******

 一歳半になったエリカは益々活発になり、語彙も増えた。


 小さい子は大概動物が大好きだ。

 ……哀れ、悪気は全くないものの捏ねまくられたラドリは、げっそりしながらマグノリアの所へと飛んできた。


 昨年の夏以来に会ったきりで、初めて見るに等しいディーンにもすっかり慣れ、普段一緒にいるマグノリアよりお気に入りである。

 見つければ『でぃん』と呼んでは遊んで貰おうと走ってくる。

 今はディーンに肩車をして貰い、すっかりご機嫌なのであった。


 もうひとり。彼女が大好きなのがクロードだ。

 ……決して愛想が良い方では無いクロードであるが、何故かエリカは大のお気に入りなのである。


 セルヴェスよりガイより、マグノリアよりも断然クロードなのである。



「くおーたま!」

 帰宅したクロードを目ざとく見つけると、ディーンの肩の上で激しくむずがった。


「うわっ!? ちょ、エリカ! 危ないよ」

 慌ててディーンが地面に降ろすと、幼児とは思えない速さでクロードに突進して行く。


 仏頂面の己に向かって走って来るという信じられない反応に、初めは面食らったクロードであるが。毎度毎度の反応ともなれば、慣れるというもの。

 苦笑いしながらクロードに頭をなでられると、ご機嫌のドヤ顔をしては手繋ぎを強要して歩き出す。


「さっきまであんなに『でぃん・でぃん』言ってたのに、ゲンキンだなぁ!」


 苦笑いするディーンに、マグノリアもリリーも苦笑いを返す。

 それをみていたガイが、うんうん頷きながらしみじみといった。


「小さくても女性なんっすねぇ。エリカはイケメン好きっすもんね!」

「…………」

『イケメンは大変……』


 ディーンとリリー、マグノリアは思わず顔を見合わせた。

 ……彼女の父である護衛騎士が聞いたら、どんな反応をするのであろうか。


 こうして、いつもより穏やかで和やかな辺境伯家の夏は過ぎて行ったのである。



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