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【コミカライズ2巻8/19発売・小説6巻発売中】転生アラサー女子の異世改活  政略結婚は嫌なので、雑学知識で楽しい改革ライフを決行しちゃいます!【Web版】  作者: 清水ゆりか
第十章 何事も経験(主に王都)・デビュタントはノーサンキュー編

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新商品を作りましょう

本日より新章が始まります!

どうぞよろしくお願いいたします(*^-^*)

 アゼンダ辺境伯家領に春がやって来た。

 柔らかな色合いの緑が朝露に濡れ、キラキラと眩く光っている。


「ふんふんふんふ~ん」

「おや、お嬢。ご機嫌っすね?」


 御者台にガイと一緒に座るマグノリアが鼻歌を歌っている。

 本人は全く小さい頃と変わりが無いが、今まさに彼女は人生の春を迎えているといっても良いであろう。


 愛らしかった容姿は今も愛らしいが、美しいといった方がより的確であろうと思う。

 まろい頬はほっそりとし、大人への片鱗を見せている。


 小さかった背は、今では女性としてはそこそこ大きい方に入るだろう程に伸びた。ちょっとのヒールを履けば、ガイを追い越してしまう程には大きい。


 そして服の上から解る程のスタイルの良さは、そこだけ見ればすっかり大人のそれである。

 ……案の定、彼女が危惧した肩凝りと汗疹に悩まされる程に育った胸は、もうこれ以上育ってくれるなと本気で思っている。具体的には一年でワンサイズずつ大きくなっているのだが、そろそろ成長期も終わるであろうから、太らない限りはもう大きくならないと信じたい。


 余り神様を信じていないマグノリアだが、これ以上サイズがおかしなことにならない様にと、秩序の女神に祈りを捧げている毎日である。



「ん~? 遂に最終兵器を出す時だなって」

 全然悪びれないでそう言ったマグノリアに、ガイが顔を曇らせた。


「……最終兵器って、言葉そのまんまじゃないっすよね?」


 剣を振るう事も鎚鉾を投げる事も、状況によっては爆破する事も厭わないマグノリアである。

 ――最終兵器とか、恐ろしすぎるんすけど……

 得体のしれない武器を想像しては、ひとりゾッとするガイである。


 いろいろな人間を見て来た。

 人間としての強度と身体能力を超えてしまっているという意味ではセルヴェスの右に出るものはいないが、得体の知れなさでいえばマグノリアが一番である。


 彼女より武術的に強い人間は沢山いるが、ここぞという時に容赦なくくり出される攻撃は、まだまだ自分達の知らないとんでもない事を知っていそうで言い知れぬ恐怖がある。


 普段は戦い――比喩ではなく本当の――とは縁遠い場所にいるお嬢様であり、平和と美味しいものをこよなく愛する女の子であるが……


 周囲で解らない様に警護をしている騎士達も、マグノリアの言葉に背筋を寒くしていたところである。

 そんな事はお構いなしと、気にもかけないのは本人ばかりであるのだったが。



「え? 違う違う! 手芸部隊の新商品の事だよ」

「……手芸部隊?」


 マグノリアの言葉に、疑わしそうな瞳を向けるガイであるが、マグノリアに穢れのない乙女の眼(※当社比)をお返しされた。


「そうそう。デビュタントで使えるかなと思ってねぇ」


 デビュタント。貴族の令息令嬢が、大人の仲間入りをするお披露目である。


 実際の成人はアスカルド王国では十八歳であるが、昔は十五歳が成人だった事から、その年の令息・令嬢が王宮の大広間にて一堂に介し、国王と王妃に臣下として正式な挨拶をするのである。


 比較的結婚が早い貴族のご令嬢が結婚相手と縁を結ぶ為に社交界へ出る事。そして結婚後の婦人方との繋がりを作る為に、十五歳からの参加となっているのだ。


 令嬢程でないものの、令息も同じく。

 仕事や領地経営、商売などの縁やブレーンを見つけたり、ご令嬢を見染めたり。悪い遊びを覚えたり。



 普通ならその日に向けて胸をときめかせる……らしい行事も、マグノリアにとっては苦笑いの種らしいが。


 ガイはまた何やら新しい事を始めるらしいお嬢様を見遣って、それはそれで大変そうだなぁと思ったのだった。




 手芸部隊の工房へとやって来たマグノリアは挨拶をすると、勝手知ったるで上がり込んでは、何やら小さな布切れが入った袋をどっさりと作業台の上に置いた。


「おや! 遂にその切れっ端の使い道が解るんですか?」

 

 新作の仮縫いをしていたらしいピアニーと数名が、興味深そうにマグノリアを見た。孤児院で作業をしていた時代、その布をマグノリアの作った専用定規で切っていた子達もいる。

 手を動かしていた婆ちゃんも手を止め、ニコニコ笑いながら見守っていた。


 表で作業をしていたダリアもいそいそとバックヤードに戻って来た。そして数名の若い子達も走って来る。


 ――上等な布の切れ端や、中途半端な大きさのもの、グラデーションが綺麗な端布を一定の大きさに切っては何度も何に使うのかと不思議がられつつ、ずっととって置いたのである。

 

 糊、はさみ、木べら、ピンセット。糸と針。目打ちもあると細かいところの修正に良いかもしれない。


「これから、『つまみ細工』を作ろうと思います!」

「つまみ細工……?」


 聞きなれない名称に、全員が首を傾げた。



 つまみ細工は、ちりめんを小さく切って折り――つまんで、糊をつけ花びらを作っていき、纏めて花に見立てる工芸品であり装飾品である。


 日本でかんざしなどについた布製の花がそれだろう。

 和雑貨のお店などでは、イヤリングやブローチ、キーホルダーや壁飾りなど、いろいろな商品があったが、まあそれは良しとして。


 糊でつける伝統的な工法以外に、現代では便利なボンドを使って作るもの、また『縫いつまみ』といって針と糸で仕上げるものとがある。

 ……もしかしたら他にも工法があるかもしれないが、マグノリアが手慰みに地球時代に作った事があるのはこの辺だ。


 疲れ切った時に、何も考えずにコツコツと手を動かすのに持って来いの作業であったのだが。キットも本も無い今は、頭をフル回転させて作業する必要があるだろう。


「えっと、こうやってね……?」


 マグノリアは過去に練習した手順を思い出しながら、慎重に摘まんで糊をつけた。

 そして順番に台座に並べて行き、あっという間に小さな花が出来上がる。


「……っ!?」

「これが花びらで、こうやって……」


 丸つまみや剣つまみ、へそつまみにまるひだつまみ。重ねや端切りなどなど……知っている限りのつまみ方を実演して行く。

 作業が進むにつれて、全員が真剣に見つめており、中には見様見真似で空で手を動かしている者もいる。


「いろいろあるけど、取り敢えずはこんなところかな?」

「……凄い!」


 ピアニーがため息と共に息を吐きだした。

 マグノリアは自分で作った幾つかの花を拡げて見せる。


「梅や薔薇、ひな菊に椿、ポンポンマム。水仙、藤。ダリアに向日葵。そして小さな蝶……組み合わせたり色を違えたり、いろいろと出来ると思うんだけど。同じ花弁でも外側を尖らせると、別の花になったりするんだよね」


 そう言って、丸いままの花と、外側を尖らせた花を並べる。

 色や花弁の整え方、そして枚数で、確かに同じ作り方であるものが、まったく違う花に見える。


 全員が机の上に開いた花に目を奪われながらも、マグノリアの言葉に耳を傾けた。


「これを使った製品を次の目玉にしようと思ってるの」


 ある程度までなら、みんな直ぐに作れるようになるだろう。勿論、かつての職人さんのようになるには長い年月がかかるだろうけど、それは追々で良い。


「まず、私がデビュタントで着るドレスの飾りと、頭を飾るヘアガーランドを作ろうと思うの」


 全員がマグノリアの顔を見る。


「デビュタント……」

「もう! それなら早く言ってくれたらいいのに! 一等凄いヤツで出て欲しいじゃないのよぅ!」


 マグノリアは苦笑いをしながら、その場にいる面々を宥めた。


「……まあね。気持ちは嬉しいんだけど……やっぱり有名になったからか、技術を盗みに来る人がいたじゃない?」


 そう。パッチワークが世に出てから暫くして、やはり真似をする人達が出始めたのである。

 ある程度は仕方がない事だし当然だといえ、他領から就職に来たと言いながら堂々と技術だけ盗んで消える人も増えて、どうしたものかと思っていたのである。


 別に独占するとは言わないし、永久就職しろなんて言わないけれど、後ろ足で砂を掛ける様な事をされれば気分も良く無い訳で……


「パッチワークの時は周囲に注目もされていないし、本当に内輪だから良かったんだけど。今はそうじゃないでしょう? 注意していても、どこから漏れるか解らない」


 ピアニーとダリアが厳しい顔で頷いた。

 今も扉の前で、ガイがしっかり見張っているのである。

 ちゃんと情報を共有する人間を選別して、ここに通しているのだ。


「これも、基本的な作品は製法さえ解ってしまえばそこまで難しくはない。勿論綺麗に作るにはかなり練習が必要で、職人になるには長い月日が掛かるだろうけどね。……だからある程度ギリギリになっちゃったんだけど……ごめんね」


 隠したところで、これもある程度すれば真似されるであろう。

 それは仕方のない事だし、むしろ技術も上がるし良い競争になる。


 だけど、始めのイニシアティブはこちらが取って置きたい。

 今後事業展開する上でもそれは大切だ。職人たちの為にもある程度の道筋を作りたいからだ。


 なので、一番良い舞台が揃うまで温存していたのである。

 

「……解りました。マル秘案件として承ります」

 ピアニーが力強く頷くと、周りのみんなも同じ様に頷いた。


「我らがお嬢様のデビュタントだもの、腕によりをかけなきゃね!」


 ダリアがそう言って拳を握り込むと、全員がサムズアップした。

 婆ちゃんもおかしな笑い声をあげながらサムズアップである。


 おおぅ……


「いや……程々でお願いしマス……?」


 マグノリアは気合の入った面々を前に、若干困りつつ、小首を傾げたのであった。

 


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