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【コミカライズ2巻8/19発売・小説6巻発売中】転生アラサー女子の異世改活  政略結婚は嫌なので、雑学知識で楽しい改革ライフを決行しちゃいます!【Web版】  作者: 清水ゆりか
第九章 何事も経験(気がついたら海の上)・誘拐はある日突然に 編

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クーデター(イグニス国)

戦闘、流血など残酷と思える描写があります。

少しでも苦手な方は読まずに回避してください。

 無人島である筈の島を目指して、イグニス海軍の船が進んでいた。

 謀反人となってしまった異母兄である、第二王子を捕まえる為の出撃である。


 ……すぐさま捕まえられれば良かったのだが。小さな王子達を守りながらの応戦をする間、混乱に乗じて姿を隠されてしまった。

 本来は皆殺しにして、すぐさま自らが王になったと名乗り出るつもりだったのだろう。あちらは大きく当てが外れただろうから、きっとかなり焦っている事だろうと思う。


 以前からそれとなく聞こえて来ていた第二王子の黒い噂。

 父王や、王太子である第一王子は、アーネストがこの件に首を突っ込む事に否定的であった。

 側妃の子であるアーネストは王城での立場も弱く、父や異母兄たちに遠慮がちなところもあり、大っぴらに関わる事が出来ないでいた。


 

*****

 二週間程前、イグニスの王城では、恒例の家族の晩餐会が開かれていた。

 晩餐会といっても極々内輪のものである。


 王と王妃、王妃の息子である王太子一家、第二王子、そして第三王子であるアーネスト。


 本来は側妃であるアーネストの母も出席するのであるが、王妃と異母息子たちに遠慮して、ここ数年は出席しない事としていた。

 もうひとりの側妃である第二妃も、娘たちが隣国へ輿入れをしてからは、殆どを自分の宮にて過ごしているという。


 アーネストとしても全く気乗りしないものであるが、母が出席しない分、イグニスに居る時には顔を出す様にしていたのである。


 仲の良い家族とは言い難い上に、いつも以上にピリピリとした席であった。

 アーネストは内心、首を傾げながら静かに食事を口に運んでいた。


 晩餐が終盤に差し掛かった時、いきなり第二王子が立ち上がる。

 そうかと思うと何を思ったのかいきなり抜刀し、自分の父と母である王と王妃に容赦なく剣を突き立てた。


 目の前の惨劇に、アーネストが金色の瞳を見開いた。


 異母兄のそれを合図に多数のならず者が侵入してきて、あっという間に護衛達と乱闘になった。


 確かに権力への欲求が強い人間ではあったが、実の親を殺すとは思いも寄らず、アーネストは一瞬反応が遅れた。


 隣で悲鳴をあげた王太子のふたりの子ども達を庇いながら、自らの腰の剣を抜いて侵入者に応戦する事となった。


「『防御ガード!』……義姉上、子ども達と一緒に!!」


 固まったまま瞳を瞠っている王太子妃に呼びかける。

 彼女の夫である王太子は今ほど、複数の剣に突き抜かれたところだった。青を通り越し、真っ白い顔で這うように移動して来る。


 アーネストは以前、モンテリオーナ聖国の王太子であるシリウス王子から譲り受けた魔道具を発動させると、子ども達に持たせた。


「さあ、これを持って宮に走れ! 魔石の魔力が持つ間だけ護られる! 護衛、警護を!!」


 攻撃をしようとして弾かれた暴漢を恐々と見つめながら、王子と王女は震えたまま頷き、母の手を引きながら晩餐室をまろび出て行った。


「異母兄上を捕まえろ!」


 アーネストが剣を受けながら声を張り上げた。

 無駄に剣を振るう事は無いアーネストだが、容赦なく敵に斬りつけた。


 王城から逃がす訳には行かない。


 だが侵入者の数が多く、護衛が次々に倒れて行く。

 容赦なく下ろされる半月刀をみて、噂通り砂漠の国の人間と繋がっているのだろう事が察せられた。


 第二王子は自らの国の騎士を切り捨てながら、アーネストに笑みとは思えない獰猛な笑みを向けながら叫んだ。


「お前の大切な人をいたぶってやろう!……あの美しい瞳と髪を他でもない、お前にくれてやるわ!!」

「!?」


 敵に守られながら、一時退却を決めたらしい異母兄を追おうとしたところを侍従に留められた。

 ここぞとばかりに一気に敵も引き上げて行く。

 怪我をした仲間は見捨てられるようで、助けるでもなく、容赦なく捨て置かれた。


 アーネストは声を張り上げる。


「追え! ひとりも逃すな!!」

「エルネストゥス殿下! 追跡は騎士に任せ、御身の安全と取り敢えずは場の収集を!」

 

 王子である名を呼ばれ、アーネストは吐き気を懸命に抑えながら唇を引き結んだ。


 むせかえるような鉄さびの臭い。

 無惨に床に散らばった晩餐。色の変った絨毯に、倒れ重なる父と義理母。

 瞳が開いたままの異母兄……


 力なく項垂れると、剣を硬く握りしめる。


「……解った。宰相を呼んでくれ。そして母上の離宮に無事を確認して欲しい」

 侍従は何か言いかけたが、飲み込むと頷いて指示を差し始めた。




 イグニスの王城は、且つて類を見ない惨劇に見舞われた。

 王と王妃、王太子である第一王子の死。


 相手の目的が複数考えられる事と、残党への懸念、周辺国や国内の混乱を考え、状況がよくよく把握されるまで暫く、宰相と王太子妃に強い情報統制と政を行うように伝えた。


 ……夫を亡くしたばかりの義姉には何とも酷な事だと思うが、彼女は今後、幼い息子の摂政という立場で政に関わって貰う事になるのだ。


 イグニスは正妃の子に王位継承権が与えられている。

 側妃の子にもあるはあるが、正妃直系の子が無い場合にのみ、継承が可能だ。


 亡き王妃の息子である王太子、第二王子、次に王太子の息子王子。

 ……女性である娘王女にはイグニスでは継承権がない為、次にアーネストの順番となる。


 王太子である第一王子が亡き今、本来なら第二王子である異母兄が王位継承権第一位ではあるが、他国勢力と組んでの王と王妃、王太子の殺害である。権利ははく奪されると考えていいだろう。


 なので、亡き王太子の息子である王子が、幼いながらも王位を継承する事になる。


 ここぞとばかりにアーネストを押してくる勢力もいるだろう。

 義姉も甥っ子である王子の周辺も、非常に懸念しているであろう事も考え、ここは敢えて義姉に、無理を押し通して貰わねばならない。



 取り敢えず密葬を済ませ、国葬は後日様々な事の目途がついたらになる。


 安全の確保と策を練り直すのか、逃亡した第二王子の去り際の言葉は己の母親の事を指すのかと思い離宮へ騎士を派遣したが、幸いな事に何事も無かったようであった。

 念のため警備を強化して貰ったが、アーネストはすぐさま、恐ろしい予想に愕然としたのだった。


――『大切な人』

――『あの美しい瞳と髪』


 脳裏に浮かんだのは、アゼンダ辺境伯の小さな女神と呼ばれるマグノリアの姿だった。


(不味い!)


 大きく跳ね上がった心臓に、身体中の血液が逆流するかのような寒気が走り抜けた。



「……エルネストゥス殿下、今はギルモア様の事ではなく、国の事を最優先に!」


 侍従はアーネストの考えを知ってか、念を押すように告げた。

 侍従は最初から……第二王子の言葉を聞いた時からそれが誰を指すのか知っていたのだ。


「だからこそだ……貴方はアゼンダ辺境伯の恐ろしさを知っているのだろう?」

「しかし、今は国家の一大事です!」


 異母兄は、政治の能力はそれ程でもないが、悪巧みは良く知恵の廻る人だった。

 確信を持った物言い、不穏な――噂だけでない調査結果から見るに、多分何か手を打っていて、確実にこちらに打撃を与えるカードを揃えているのだ。


「……だからだよ。兄上の言う通りになっては、イグニス王家は滅びるよ?」


 セルヴェスがどれだけマグノリアを可愛がっているかを、直接目にして直に知っているアーネストだ。

 本当は侍従も解ってはいるのであろう。アーネストの言葉に押し黙った。


「しかし、彼女はアゼンダ辺境伯に護られております!」

「すぐさま第二王子の後を追う!」


 宰相は黙って事の成り行きを見守っていたが、アーネストの気持ちが変わらない事を察したのであろう。

 また、セルヴェスの戦場での姿も知っている為か、ひと言、『御意』と言っては頭を下げた。



 そしてアーネストは船上の人となった。


 始めは国内に潜伏しているか、陸路を使い、同盟者である砂漠の国の豪族の領地に入るものかと思われた。


 しかし、そうではなかった。

 本当にギルモア家の姫に手出ししようと考えているらしく、どうも近々に実行に移すらしいと知らせが入ったのだ。

 人身売買のアジトも解っている。



 惨劇の経緯や事の事実、最新の情報を並行して集めながら……異母兄である謀反人の第二王子を探し、海に出た。


 

 無責任な人間に乗せられ、本気で王位を夢見たこと。

 同じ正妃の息子でありながら、第二王子であるばかりに王太子になれなかった鬱憤。

 何でも自分より出来るアーネストへのコンプレックス。


 外国と手を結び、金儲けをしたかった砂漠の国の人間に目をつけられ。

 挙句人身売買に手を染め、更には親と兄、沢山の同胞を殺害するという残忍な行為に及んでしまった。


 だいぶ前から計画され、実行の時を待っていた事も解っている。


 

(なんと愚かな事を……)


 砂漠の国の人間に踊らされ、利用されているだけなのに……


 第二王子を祀り上げ、甘い汁を吸おうとしていた国内の人間は総て突き止めた。

 誰が味方で敵か解らない王城に、意外にも異母兄の協力者は多かった様だった。なのであれだけの事がありながらも、外に逃がす羽目になったのだ。


 金と権威に目がない奴らだ。調べ上げれば不正の一つや二つ、直ぐに出る人間達であろう。

 それらは宰相たちに任せ、自分は最悪を止める為に海に出る。


 他国のご令嬢であり、それもあれだけ民の事を考えられる、稀有な人間であるマグノリアを手に掛けるなど、断じて許す訳には行かない。


(海は私の領域だ。勝手な事はさせない!)

 


 金色の髪を潮風に強く晒しながら、金色の瞳に強い光を湛え、人身売買のアジトと思われる無人島に一歩、足を踏み入れた。


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