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【コミカライズ2巻8/19発売・小説6巻発売中】転生アラサー女子の異世改活  政略結婚は嫌なので、雑学知識で楽しい改革ライフを決行しちゃいます!【Web版】  作者: 清水ゆりか
第九章 何事も経験(気がついたら海の上)・誘拐はある日突然に 編

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辺境伯家の館では

 早馬で緊急の知らせを受けたセルヴェスとクロードは、執務室のソファに座り難しい顔で黙り込んでいた。


 ブローチと対の緊急信号を受信する筈の魔道具は、セルヴェスとクロード、そして護衛のガイがそれぞれ肌身離さず身につけているが、未だもって静かなままである。


 そればかりかブローチを検索しても、ある筈の反応が全く無いままであった。


「……事前に登録した人間以外が外した場合、防御攻撃が作動する筈ですが……」

「うむ。しかし全く反応すらしないと言う事は、壊れたか、魔石の魔力が切れているか」


 持ち主の身の安全を守る為の魔道具である。

 その特性から無理に壊された場合、同じく防御攻撃が働くように作られている。

 まあ、壊れる事は殆どないが、全く無い訳でも無い。

 但し、今日出掛ける前にきちんと稼働している事を確認している。勿論魔石の魔力も然り。


 魔道具の扱いは大変デリケートだ。

 日常的に使用したり製作しているモンテリオーナ聖国の国民なら手慣れているだろうが、魔力を持たない人間は魔法ギルドの者、魔道具の研究者位しか、細かな仕組みを知っている者はいないであろう。


 魔道具について、ある一定以上の知識と素養のある人間が関わっているのだろう。


「魔力持ちが関係しているのか……」

「おそらくは」


 アゼンダで、魔力を持つ人間は三名いる。

 ひとりがガイで、あとのふたりは下位貴族出身だが跡取りではない為、平民として魔法ギルドの職員をしている者だ。


 今日はどちらも出勤している事を既に確認済みだ。


「……アスカルドには確か一名だけでしたか」

「うむ。元々はアゼンダに居た人間の子どもだな。その一名もやはりアスカルドの魔法ギルドにいる筈だ」

「そちらも出勤状態を確認しておきますか……ただ、やはり砂漠の国関係者だと思った方が良いのでしょうね」


 言いながらため息が漏れる。

 砂漠の国。かつての大戦を引き起こした蛮族の国。


 現在は国としてはほぼ機能していない。

 大戦で敗戦国となり、かつての悪鬼皇の非道行為とそれ以降の悪行から、大陸中からそっぽを向かれたばかりか、内戦と内乱で大きく国は乱れてしまっている。

 ここ何年も、各地の豪族たちが覇権を求めて大きく蠢いている状態だと聞き及んでいる。


「ある意味聖国以外でなら、かの国が一番魔力持ちが多いかもしれん」

「……厄介ですね」


 ギルドなんてあってないようなものだろう。

 それどころか、裏ギルドの方が発達していると言って過言ではない。


 目的は何なのだろうか。

 身代金か、マグノリア本人か……

 プライドの高い国だとも聞くので、戦争時代の仇とも言えるギルモア家への復讐なのか。


 無事であって欲しいという思いが空回って、冷静になるのがやっとである。

 セルヴェスは今すぐにでも飛び出して行きたいところを、無理矢理押え込んでいるのだ。闇雲に動いては、かえって状況をおかしな方向に動かしかねない。


「調べたところで、どうせまともな方法で入国もしておらんだろうしな……」


 高速で回転する車輪の音が聞こえて来た。ガイだ。




 ガイは悲痛な表情で馬車を降り立った。セバスチャンが気遣わし気な表情で頷いた。

 リリーとその娘も万一に備え避難させる為、その身をプラムにお願いする。


「さ。取り敢えずエリカちゃんもいるし、一度お部屋で落ち着いてからセルヴェス様達にご挨拶になさいな」


 旦那さんにも連絡をしてあるわと、プラムは微笑んで力強く言うと、促す様に背中を押した。


 着いたら直ぐに挨拶とお詫びをと思っていたリリーだが、玄関先に居るみんなの顔を見れば、従った方が良い事が察せられた。


「……解りました。暫くお世話になります」


 悲愴感漂うガイの姿をもう一度振り返り、リリーはかつて自分が暮らしていた部屋に足を進めたのだった。




「失礼致しやす。只今戻りやした」


 声色はいつも通りなものの、その表情は暗い。

 ガイのセルヴェスへの忠誠心は高い。そのセルヴェスが可愛がっている孫娘。


 更には小さいマグノリアを見つけた本人でもある。

 生家でのあれこれは抜き差しならない事情があった事と現在は承知しているものの、辛い思いをしたに違いないマグノリアを、やはり親に捨てられた孤児である彼は、非常に気に掛けている。


 心情を察し、セルヴェスとクロードも何も言わず頷いた。


「余りにも拉致の手際が良すぎるので魔力残渣を確認したら、反応がありやした」


 ガイは本日あった知る限りの詳細を報告した。


「やはりそうか……ブローチが反応しなかった時点で、魔力持ちの可能性が高かったが」

「移動魔法を使う人間だとすると、かなり高度な術者だな」


「申し訳ありません」

 ガイは深く頭を垂れた。


「護衛と言う点で考えれば甘くもあるが、その状況では多分儂らも同じであろうよ。リリーの家の状況から、よもや襲撃があるとは考え難い。マグノリア本人も大丈夫だと言っていたら、きっと意見を優先して一瞬の事、離れる」


 セルヴェスの言葉にも顔を上げず頭を下げ続けるガイに、クロードは痛々しく思いながらも再び状況を繋ぎ合わせて行く。


 きっと、犯人はマグノリアがひとりになる瞬間を狙っていたに違いない。

(近くで様子を見ていた……?)


 移動魔法。マグノリアの誘拐。砂漠の国。


 先日裏ギルドの人間から、妙に活気づいていると報告があったばかりだ。

 元々実りが少なく資源にも恵まれない砂漠の国だが、最近羽振りが良い豪族がおり、それを中心に再び国家統一をしようと、活発に活動をしているという。


 ものが無いので人で稼ぐ事が多い国だ。

 裏社会に精通しているものも多く、傭兵や暗殺者、盗賊など後ろ暗い仕事を生業にするものも多い。


 何故そんな者達がマグノリアを狙うのか。

 金が欲しいなら、他の家の人間を狙った方が確実だろう。

 確かに事業も上手く行っており確かに資金繰りは良いと思うが……保護者を見ても騎士団を保有している事を考えても、自分たちが捕まるリスクも高まる。

 

 


 静まり返る執務室に、ノックが響く。

 セバスチャンが、裏ギルドの人間を連れて来た。


「……耳が早いな」

 セルヴェスが威圧感たっぷりに言うと、裏ギルドの男はうへぇ、と言いながら苦笑いをした。


「そりゃ、あんだけ派手に騎士団が動き回れば嫌でも」

「こんな時にどうした?」


 クロードのヒンヤリとした声に、ハイハイと言わんばかりに小さく首を動かす。


「先日のご報告の件で追加を。活気づいてる奴らは、クロード様のお見立て通り悪鬼皇の身内でした」


 悪鬼皇は砂漠の国の歴代皇帝の中でも、一、二を争う悪名高い皇帝だ。

 過去に皇帝を勤めた家となれば、現在の豪族の中でも大きな力を持っている家だと考えて良いだろう。


 ある程度予想していた事でもあり、セルヴェスは納得顔で頷いた。


「……で、再び奴隷売買を始めたらしいんですわ」


 六年前の人形師の事件で、少女たちが奴隷として売買されていた事件。

 ヤク中のならず者の横繋がりで売買していた為、供述に統一性がなかったり、キーマンが獄中死をしてしまい追い切れなかったようだが。当時から砂漠の国が絡んでいるのではないかと言われていた。


「裏は取れたのか?」

「まあ、ぼちぼちと言ったところですかね」


 そう言って詳しい内容が書かれた紙を差し出す。


「色々な思惑が絡んでいるみたいですよ?」

「……六年前の件に絡んでいるのか」


 予想通りと言った風なクロードの言葉に、頷きつつも意味あり気な顔をした。


「それもありますが。六年前は純粋に金儲けと復讐が目的だったみたいですけど、今回はそれを上手く使ってやろうって他の勢力と、更にその勢力を使って国家統一の弾みにしようって砂漠の元王様の子孫? の思惑が、しっかりがっちり絡まっているみたいですね」


「他の勢力?」


 セルヴェスが資料から顔を上げた。

 男は、はいと言って、もう一枚紙を取り出す。


「イグニスですよ」

 一瞬だけ、執務室に居る人間が息を飲んだ。


「……と、いってもお嬢様のお友達の第三王子じゃありませんよ? あそこはあそこで、なかなか面倒な事ですからねぇ」


 セルヴェスが金の入った革袋を出すと、男は手を押し留めた。


「今回はナシで。……お嬢様には裏稼業の奴らも世話になってますからね」

「…………」

「名乗れねぇ、昔は家族だった奴らが大勢、お嬢様のお陰で真っ当な暮らしをさせて貰ってますから。――ご無事を祈ってます」


 裏ギルドに生きる男達も、ニュータウン――かつてはスラムと呼ばれた街に住んでいた者も多いのだろう。

 今ではスラムにすら住めない人間になってしまったが、残して来た家族を忘れた訳ではないと言う訳だ。


 そう言って頭を下げると、男は静かに、消えるように執務室を出て行った。

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