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【コミカライズ2巻8/19発売・小説6巻発売中】転生アラサー女子の異世改活  政略結婚は嫌なので、雑学知識で楽しい改革ライフを決行しちゃいます!【Web版】  作者: 清水ゆりか
第八章 何事も経験(王都&アゼンダ)・ヒロイン降臨!?編

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マグノリア、先生になる・前編

 今日はクロードが学校に遊び……いや、実験に行く日である。

 多い日は週に一回、忙しい時は月に一回位。領地にいる時はいそいそと出掛けて行くのだ。


 普段は館の自分の部屋で、何やら怪しい実験と研究を繰り返しているクロードであるが。

 学校の片隅にある、広さと道具が揃った教員達の城、研究棟が目当てである。


 実際、教員としては働けないが研究・開発をしたいという人にも研究棟は開かれている。教師と共同で研究する人もいるし、個人で何やら取り組んでいる人もいるのであった。


 一応目的と計画書、それをどう活かすのかの聞き取りはさせて貰っている。

 ただ場所や道具を提供するだけではなく、子ども達や未来の為になるようなものを優先して動かしたいからだ。


 クロードは金属……物質を色々変化させ、有効利用する事に興味があるらしい。

 合金などを使って、機械の様なものを作っている。機械いじりが好きなメカニック男子といったところか。


 マグノリアには良く解らないし、面倒なので解ろうとも思っていないのだが……なかなか高度な技術まで習得しているらしく。

 

なので魔道具の回路などの修正も簡単なものならば出来る様で、魔力がなくても修正したり組めるところは自分で直してしまえるのだ。

 あの髪飾り爆弾も、日々そうやってブラッシュアップされて行っているのである。


 ……本来は領主や騎士をするよりも、勉強やもの作りの方が好きなのだろう。

 学院時代も教師達と一緒に色々と研究をしていたと聞く。


 本当は学院の教師にでもなりたかったのだろうに。実際、卒業の際に熱心に勧誘を受けたらしいが。


 クロードは領主の、それも国境を守る辺境伯の養子である。

 家の為に生きるのがある程度当たり前とされるこの世界だ。誰に言われるまでも無く極当たり前に騎士団に入団したのだった。

 

 自分の役目は重々承知している訳で。

 たまの息抜きに好きな事をする位、好きにしたってバチは当たらないだろう。




「今日は会議だったか?」

「はい。もうじき夏季休暇に入りますからね。その辺のすり合わせというか、最終確認ですね」


 今日はマグノリアも学校に用事がある為に、一緒に馬車で移動する事になっている。

 彼ひとりなら、身軽に馬を走らせて移動してしまうだろう。その方が早い。


 マグノリアも、空き時間に乗馬の練習もして実はそこそこ乗れるようになっており、必要とあらば早駆けするのも可能なのであるが。

 大体よそ見をしたり考え事をしながらの移動になり危ないので、基本的には馬車移動が常なのだ。



 今日は教師達との会議と言う事で、落ち着いた色味のワンピースを着こんでいた。

 桜色したピンクの髪は背中の中程で整えられており、書き物をしても邪魔にならない様に顔周りで編み込まれている。

 愛らしい顔立ちは淡い色の洋服を連想させるが、深い色合いの服を着ると、一層彼女の肌の白さときめ細やかさが強調されるようだ。


「……もう少し髪を伸ばさないのか?」

「う~ん。あまり長いと手入れが面倒ですからねぇ」

「髪を結うのに足りるか?」


 年頃になったマグノリアが、社交に出る事でも考えているのだろう。

 コレットの様に短い人もいるので、必ずしも伸ばすと言う訳でもないが、やはり圧倒的に長く伸ばす人が多いのが現状である。


「この位あれば大概の髪形は結えると思いますけど。まあ足りないなら足りないで方法もありますしね」

「……あと二年でデビュタントだからな」


 馬車に乗り込みがてら、恐ろしい事を言って来た。

 デビュタント。十五歳を迎える貴族令息、令嬢達が正式に社交界デビューするアレである。


 何故十五歳かと思うが……昔は成人が十五歳だった事がひとつ。貴族女性は学院を卒業したら即結婚が多い為、本格的な社交を始める前に、ある程度社交界に慣れておく為らしい事がひとつだ。


 実際はそれよりも幼くして領地や知人などの社交に勤しんでいる人間が大半だが、王宮主催の舞踏会である事、デビュタントの子ども達は国王と王妃に貴族としての挨拶をし、直に祝いの言葉を賜れるとあって、ある意味一大イベントと言って良いのである。


 ずっと地方に住んでいる低位貴族にすれば、一生に一度の王族との邂逅かもしれないのだ。ちょっとしたお祭り騒ぎなのは仕方が無いのであろう。


「うえぇ……何とか出ないで済む方法は無いですかね?」

「結婚するか重病になるかだな」


 ない、と言わんばかりに無理難題を放り投げて来た。


 他の社交はともかく、デビュタントはきちんと出席するのが慣例らしい。

 意味的にはお披露目と同じ様なものなのだろう。


 ただ、暗黙の了解で未婚者は出席必須という事になっているそうで。年頃から言っても婚姻に絡んだあれこれの思惑が多分に含まれるのであろうと思ってしまうのは仕方ないであろう。


 勿論、妻帯者でも夫人でも十五歳の年であればデビュタント可能である。必須ではないだけで。


「お腹痛いって休もうかなぁ」

「……流石に侯爵令嬢が、デビュタントを欠席なんて有り得ないだろう」

「……辺境伯家の令嬢ですもん……」


 マグノリアが口を尖らせて反論すると、眉間に皺を寄せ、まるでラドリにするようにぎゅっと口を指で摘ままれた。


「どっちもどっちだ。侯爵令嬢で辺境伯令嬢だからな、デビュタントは残念ながら必須だ」


(……現実は厳しい……)


 摘ままれたままジト目で嘆いていると、


『マグノリア、お揃い☆』

 頭から飛び上がったラドリが、己の小さな嘴を羽で指さした。



*****

「大変です! タレーラン先生が怪我を!」


 会議が始まる直前に、生徒が慌てて教員室に飛び込んで来た。

 教員室に残っていた教師達が慌てたように立ち上がる。


「場所は?」


 マグノリアは手短に確認すると、ガイに目配せして先に行って貰う。

 本来護衛を離すのはご法度であるが、周りは教員だけである。普段の付き合いからいっても腕力的な観点からいっても、マグノリアを襲う事は有り得ないであろう。



 後から追いかけると、生徒が輪になって様子を見ている。

 中心には痛みの為か呻くタレーラン先生と、騒ぎを聞いて研究棟から駆け付けたクロード、そして先に行かせたガイが怪我の具合を見ていた。


「……折れていやすねぇ」

「腕もだな」

「くぅっ、……うぁぁ!」


 動かされて痛いのか、脂汗を流しながら小さく叫んでいる。

 クロードの呼びかけにも答えており、意識がしっかりしているのは何よりな事だ。マグノリアだけでなく駆けつけて来た同僚たちも、取り敢えず大きく安堵の息を吐いた。


「……一体、どうされたの?」

 マグノリアが近くで見ている生徒たちに声を掛けると、返事が返って来た。


「先生、急いで階段を降りようとして足を滑らせたみたいで……!」


 なんと。

 そんなドジっ子属性な怪我を、肥えたおっさん先生が。

 ドジっ子おっさんか。需要無さそうだな……不謹慎にもそんな事を考えながら先生を見る。

 コミカルに、おっちょこちょいオッサンとした方が良いだろうか。


 ……更に、その重量級の重みがかかって、ボキッと行ってしまったのだ。

 可哀想に大変痛そうである。

 漫画ならゴムまりのように弾むところだろうに。


 残念無念、現実は骨折(それも複数)というオチだ。


「……ラドリ」

『オッケー☆』


 ラドリはぱたぱたと羽ばたいて行くと、折れているだろう場所を羽でひと撫でし、他の場所はスキャンするかのように慎重に確認して行く。


『命、別状ない。大丈夫だよぅ』


 そういうと、再び舞い上がってぱたたとマグノリアの元に帰って来た。


 ――ラドリの力は、病気や怪我が大きい方が発揮されやすい。

 小さな怪我にはどういう訳か不思議な治癒力は反応し辛いらしく、あまり効果が発揮されないのだ。


 大事な力なので、些細な事には使えないのだろうか?

 どうせなら、全て治ってしまえば良いのに。


 ラドリ曰く、どうやら命を救う事に特化しているからだそうで。

 小さな怪我は放って置けば治るから、と本人は言っていた。


 複数の骨折が小さな怪我といって良いのかは微妙なところであると思うのだが。

 とはいえ幾分鎮静効果はあるのか、苦し気な息遣いが多少マシになった気がする。

 

「医者を呼んで参りやす」

「頼む。取り敢えず救護室に運んで、横になって貰おう」


 丁度、担架を持った人がやって来る。数人がかりでそっと横たえると、ゆっくりと救護室に運ばれて行った。


「さぁ! 皆さん授業ですよ!」


 マグノリアがパンパンと手を叩き、集まっている生徒たちにそれぞれの教室へ戻るよう促した。




 教員室へ戻ると、教師達が集まって話し合いを始めた。


 タレーランが心配なのも勿論ではあるが、今後のスケジュールをどうするかが問題である。

 クロードとガイの会話から、医師の診断待ちとはいえ暫くは安静が必要な上、いつ頃復帰できるのかも解らないだろうと顔を曇らせた。



 もう今日は会議どころではないであろう。


 かと言ってタレーラン先生の分の授業やらを振り分けるだろう教師達に、余計な時間を取らせるのも気が引ける。

 マグノリアは救護室の方向を見遣ると、手元の書類に視線を移して手早く確認を始めた。



「先生方、ちょっと宜しいですか?」


 フォーレ校長を筆頭に、会議に出る筈だった教員が揃っている。

「前回の会議で出た意見と、提出していただいている計画書で問題無いかと思われます。なにぶん初めての事ですから、ガチガチに決めずにこの流れで行ってみて、支障が出たら都度対応という形に……」


 必要な事を説明して、あとは今後の対応に時間を割いて貰おうとしたら、何やら目の前の教員全員が、じーーーーっとマグノリアを見つめている。


「…………。何か?」

「マグノリア理事長がいるではありませんか!」


 いきなりフォーレ校長が叫んだ。


(はい?)

 マグノリアは思わず、中途半端に伸ばしたままの書類を手に首を傾げた。


「おお! 適任ですな!!」

「異議なし!」


 何だろう。マグノリアには理解不能であるが、教員一同には何やら共通認識があるらしく、ホッとしたような雰囲気を醸し出しながら、やんややんやと騒ぎ出した。


「理事長は、今年は学校の活動を中心になされるんですよね?」

「ええ、まあ……」


 初年度と言う事もあり、商会も順調と言う事もあり。

 今年は学校のあれこれを最優先にしようと思っているのは確かだ。


「何か、近々でこの日は外せない……というご予定はございますか?」

「いえ、特には……」

「今日、この後ご用事はございますか?」

「いえ、特には……」


 ずんずんと凄い圧を感じる。

 愛想笑いをしながら教員たちの顔を見回すと、彼らはにんまりと顔を見合わせた。


「理事長、この後のタレーランの授業、やってみませんか?」

「えっ!?」


 ……なんだって? 

 言っている事が、全く理解出来ない(したくない)んですけど!?


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