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【コミカライズ2巻8/19発売・小説6巻発売中】転生アラサー女子の異世改活  政略結婚は嫌なので、雑学知識で楽しい改革ライフを決行しちゃいます!【Web版】  作者: 清水ゆりか
第八章 何事も経験(王都&アゼンダ)・ヒロイン降臨!?編

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調べもの

ここから、暫くアゼンダへと舞台が戻ります。

「……何をしてるんですか?」


 図書室に行くと、クロードが何やら探し物をしていた。

 希望のものが見当たらないのか、長い指を顎にあてて思案している。


 持ち出していた本を返却しようと通りかかったマグノリアが、ひょっこりと扉から顔を出したのだった。


 きょとりとやや垂れ目の丸い瞳を瞬かせる様子は、ここへ来たばかりの頃と変わらない表情だ。しかしふくふくしていた頬は年頃の娘らしくほっそりとして、彼の腰まで届かなかった背丈は今や肩ほどまでに成長した。


 呼びかけられて横をむいたクロードは、だいぶ大きくなった筈の姪っ子のそんな表情に微かに頬を緩めた。

 

「ああ……ハルティアに関する書物を探しているんだが……」

「ハルティア?」


 かつてこの大陸にあったという北の国。彼女の会った事のない曾祖母の生まれ故郷である。

 妖精王と愛の女神の婚姻によって生まれた国。過去の大戦で砂漠の国を始めとした国々に、手酷く蹂躙されたと聞く。


「大半が焼き払われてしまったらしいので、殆ど残ってはいないのだが。過去に数冊、闇市に流れていたものを買い戻したそうなんだが」

「何でそんなものが必要なんです?」


 クロードはマグノリアの言葉に手を止めると、眉間に険しく皺を寄せた。

 綺麗な顔が台無しだなと思うが、もう慣れた。

 どちらかといえば彼は仏頂面がデフォルトだからである。


「ブライアンに、妖精の力が覚醒したらしい」

「え」


 意外な言葉に、マグノリアは驚いて言葉を詰まらせた。

 ハルティア王家の血が流れる祖父のセルヴェス、父であるジェラルドにはそれぞれ妖精の力があったが、ジェラルドの子ども達には発現が見当たらなかったのだ。


 ジェラルドの力が少々厄介だった事もあり、言わないものの、正直そんな力は無くて良かったのではと思っていたブライアンとマグノリアであったが。

 

 元々は妖精だった(と言われている)彼らの血が混血で薄まり、内包される力が弱まるからだと言われている為、ただでさえ弱い力がどんどん薄くなって行っている証拠だと思っていたが。


「……ちなみに、どんな力なんですか?」

「声が聞こえるらしい……虫の」

「虫?」


 え。何か嫌だな……虫かぁ……


 マグノリアが考えている事が解ったらしく、クロードが苦笑いをしている。


『虫以外も、聞こえるよ!』


 マグノリアの肩の上でだらりとしていたラドリが、小さく頭をもたげた。


 ただでさえ所かまわずで煩そうだと思っていたのに、他にもとは。

 クロードとマグノリアが顔を見合わせる。

 肩を揺らして腕を滑らすとコロコロ転がって、マグノリアの手のひらへ着地した。


「どういう事?」

『うん? 虫の声聞こえる。聞こうと思えば色々聞こえる』

「力を抑えるというか、聞こえなくする方法はないのか?」


 クロードが言いたい事を色々飲み込んで、ラドリに向き直った。


 本当かとか、何で知っているとか。

 疑問ももっともだが、ラドリは不思議生物であり、元々ハルティアの王女だったアゼリア姫が持っていた卵であるからして。

 そんな事を気にする方が無駄なのだと思う事にした。


 それにやはりというべきか。年中無休、四方八方から聞こえて来る虫たちの声は案の定煩くて仕方が無いらしい。


 日に日にゲッソリして行く息子の姿にジェラルドが、現在王都に滞在しているセルヴェスへ確認をして来たのだそうだ。


『え~、慣れだよう? 気合いだ、気合いだ、気合いだーーーっ☆」

 楽しそうに羽を突き上げる様子に、マグノリアもクロードもため息をついた。


「……しかし、いつ発現するか解らないんですねぇ」

「父上がお祖母様に聞いていた話では、子どもの頃に解る事が大半らしいが、大人でも無い訳でも無いらしい」


 ブライアンは今年十九歳。もう成人しているのだ。

 顔を見合わせたふたりは、同時に嫌そうな表情を浮かべる。


「…………。じゃあ、私も変な力がいきなり現れるかもしれないって事?」

「それは厄介だな……」


 恐ろしい想像がよぎっては、顔色を悪くした。

 悲しい事にクロードだけでなくマグノリア本人も、面倒と厄介事がセットになってやって来る予測しか出来なかったからである。


 手のひらの上で、ラドリがつぶらな黒い瞳でじっとふたりを見つめていた。そして。


『マグノリアはもう無い』


 ひと言、言い放った。



 何をどこまで、どの程度知っているのか解らない不思議な鳥。

 何が飛び出しても良い様に、クロードは図書室の扉を閉めた。


 クロードが視線で奥の椅子がある方へ促す。

 促しながら、万が一にも何処かの鼠に聞かれる事がないか、屋根裏の気配を探る。


 マグノリアはさり気なく庭に視線を向け、お庭番たちが庭いじりをしている様子を瞳に捉えた。


 いい加減庭を整えるように彼女が言った為、館にいる時は積極的に庭づくりをするようになった。

 ……若干毒がある植物が多いのが気になるところではあるが。元々自然界の植物は動物に無作為に食べられない様、身を守る為に毒を持つものも多いので、気にしたところで仕方が無いだろうと結論付ける。


「どういう事だ、ラドリ」

 

 マグノリアを椅子に座らせると、クロードは一層低くなった手のひらの上の小鳥に聞き直す。


『マグノリア、力、この世界に帰って来るのに使った』


 この世界に帰って来る……?


(ラドリは転生について知ってる? 帰って来るって、元々ここの人間だったって事?)


 考えに沈むマグノリアを余所に、クロードは眉間の皺を一層深くしてラドリに確認する。


「マグノリアにも妖精の力があったが、今は使い果たして無いと言う事で間違いないか?」

『うん。マグノリア、死にそうになった時、違う世界に魂を休めに行った。戻って来るのに使った』


 死にそうになった?

 ラドリの短い言葉を繋ぎ合わせて考えて行く。


「幼少期の、体調不良の事か?」

『うん、そう』

「……そんな事ってあるの……?」

『ある』


 …………。あるのか。

 まあ、UMAならぬ神鳥が言うのであればそうなのであろう。

 飲み込めないが、そう思う外ない。

 

「数年、地球に魂を飛ばしていたって事?」


 あの、記憶が曖昧でボーっとしていた時期? 数年間、魂不在で生きているのもどういう理論なんだと思うが。だからあんなに抜け殻みたいだったのか? だから記憶がないのか?

 その間三十三年、地球で過ごしているのだが、時間の流れはどうなってる?


『時間の流れは一定であって一定じゃない』

「どういう事だ?」


(うわー! ストップストップ!!)


 喰いつくクロードにこれ以上変な知識を投げないよう、小さな嘴を摘まんで黙らせる。

 ただでさえ混乱(心理が)している中、SFちっくな事を言って理論まで混乱させないで欲しい。


「それより、元の世界……いや、魂を休めに行っていた世界? は混乱していない?」


 マグノリアがいきなり居なくなったのである。

 死んでしまったのか、元の人間に戻ったのか、はたまた初めからいない事になっているのか怖くて聞けないけれど。

 ただ、迷惑が掛かっていないのかは気になるところだ。


『大丈夫。整合性』

「…………」


 何がどんな風に大丈夫なのか全く解らないけど……


 取り敢えず、大丈夫だという言葉を信じるしかないのだ。

 自分が居なくなってしまっても大丈夫な世界に、淋しさを感じないと言ったら嘘になるけど。迷惑を掛けるよりはマシな筈だ。


「どうして戻って来たの?」


 ラドリが言う事が正しいとして、他の世界に避難する位大変な状況に、どうして舞い戻って来たのだろう。

 ましてや、家族に絶賛みそっかすにされていた筈である。



『魂の結びつき』

「結びつき?」


 繰り返すマグノリアに、ぱたたとラドリは飛び上がった。

 くるくるとふたりの頭上を飛び回っていたが、疲れたのか、クロードの肩の上にとまって丸くなった。


『それ以上教えられない』

「…………。取り敢えず、ブライアンの件は対処法は無いと返事をしよう」

「まあ、おじい様やこの世界の家族にとっては朗報ですね。『私は私』だったみたいですから」


 マグノリアはずっと、元のマグノリアの人格が何処に行ってしまったのかと考えていたのだ。


 家族……特に、殊更可愛がってくれる祖父に対してと、嫌悪感に必死に抗いながらも、必要ならば命をかけようとする父にも、正直申し訳ないと思っていたのだ。


 今の人格が入る、ないし現れるにあたって、元々のマグノリアの人格が消失したり無くなってしまったり、眠りに就く事になってしまったり……

 とにかく彼らにとっての本当のマグノリアを、言わば奪い去ってしまったのではないかと考えていたのだ。そうではないと解り……モヤモヤは残るが、懸念はひとつ減ったと言える。


 ……地球で三十年以上暮らすにあたって、だいぶ変質したであろう事は否めないのだけど。


「マグノリアはマグノリアだ」


 姪っ子の複雑な心境を思い遣ってか、青紫色の瞳を伏せては、言葉少なにそう言った。

 そう、なんだかんだで肝心なところを肯定してくれるのがクロードである。


「ふふふ。さぁ、抱っこして良いですよ! 甘えたい気分ですよ」


 そう言ってクロードにダイブすると、首におもいっきりしがみついた。

 痩せて見えるが、実際は逞しい彼はビクともしない。麗しい顔にこれでもかという位にクロード渓谷を作ってはいるが。


「一体、お前は幾つなんだ!」

「まだ十二歳ですよ!」


 セルヴェスはいまだにぐりぐりと頬を押し付けて抱き締めて来るが、多分一生変わらないであろう。

 全員が全員貴族らしくない対応もイカンだろうと、クロードはマグノリアの年齢が二桁に届いてからは、普通の貴族らしい節度ある(?)距離で対応をしている。


 勿論、緊急時と病気の時は別であるが。勿論、否応なく抱えられる。




「おや、相変わらず仲がいいですね~」


 庭に何の毒草を植えようかと考えていたお庭番達が、図書室でぎゃいぎゃい騒いでいるふたりを見上げて汗を拭いた。

 

「抱っこしろと強行突破したみたいっすよ」

「本当だ~」

「何だかんだでまだまだ甘えん坊だ」

「セルヴェス様と違って潰されないから、クロード様だと安心ですしね」

「来た頃の倍位に大きくなってるから、デッカく感じるなぁ」

「来た頃、並ぶと豆粒みたいに見えたっす」


 首にぶらんぶらんとぶら下がっているお嬢様を見て口々に言う。

 ガイがベリーの木を剪定しながらニヤニヤしていた。


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