マグノリアとヴァイオレットの新生活
本日より八章が始まります。
どうぞよろしくお願いいたします(*^-^*)
アゼンダの至るところにピンクの木蓮の花が咲き乱れる頃。
領都から北へ二十分ほど奥まった場所に、アゼンダ学校が開校した。
各学年の年齢は発達の観点から王立学院のクラスに準じているが、各々の状況に応じ、学院とは違い前後する事も可能であるとしている。
一応プレクラスが七歳から十二歳の間に習得。前期課程が十三歳~十五歳の三年間。後期課程が十六歳~十八歳の三年間となっている。
プレクラスは余り小さすぎても習得が大変だろうという理由でその年齢にしてある。
前期課程は、大体平民の子どもが十五歳で本格的に就職をする事が多いからである。そして後期課程は、アスカルド王国で法律的に成人と認められる年齢(十八)に合わせてある。
が、あくまでも目安であり、大人が履修する事も可能なのは言うまでもない。
元々の前身が基本の読み書きと商業的な教育をする場所だったこともあり、『普通科』と呼ばれる色々な学問を満遍なく習得する学課と、『商業科』と呼ばれる商売全般に関する学課のふたつに分かれている。
選択科目として体育と音楽、美術、調理、裁縫があり、これは騎士だった者(体育)や、職人達から実践的な事を教えて貰うことが出来るのだ。
『プレクラス』として今までも授業が開催されていた領内の各所と、学校の敷地内にある教室で基礎学力を二年間かけて習得することになる。
子ども達が通う為の距離の問題から、新校舎だけに限定せずに進める形になった。
最低限、プレクラスの知識は子ども達……希望すれば大人にも身につけて欲しいからである。
始めた当初は週に二日だった教室も、今では平日五日の午前中に変更された。
もちろん、日本とは考え方も時代すらも違うので、通える範囲で良い事にしてある。
この世界、子どもも立派な働き手のひとりなのだ。
よって、自分が興味ある科目や習得したい科目が優先であり、家の用事や事情を踏まえた通学で可能だが、先に進む為にはきちんと理解出来るかを確認する為、テストを受けて合格が必要になる。
こちらのクラスは完全無料であり、賄い給食付きである。
もしその後の『前期課程』『後期課程』に進むのであれば、やはり習熟度の観点からも毎日通学する事が望ましい。
『前期課程』は今まで学んだ知識を活かし、より難しい内容を学んで行く。
こちらも無料にしたかったが流石にすぐ破綻してしまい兼ねない為、材料費や設備費等、最低限の金額を払って貰う事になった。
さしずめ、私立中学というところであろうか?
しかし王立学院に比べれば五分の一程度の料金であり、通わせようと思えば平民でも充分通わせることのできる範囲である。
足りない分や教師への人件費はマグノリアの商会での収入と領の予算が使われている。
給食も無料。
遠い土地に暮らす場合は寮に入る事が出来、部屋代は無料だが、朝と夕食分の食費と維持費が月に一小銀貨程(約一万円)かかる。
格安で入寮出来る為、不正が無いように事前のチェックを行い、きっちり確認する事とした。
『後期課程』は更にそれを発展させたものであるが――今回はプレクラスと前期課程のみの入学だ。彼らが一回生となり、今後後期課程に持ちあがって行くことになる。
「それでは校長先生のお話です」
校長はもちろん、フォーレ前学長にお願いした。
よって、今は『フォーレ校長先生』である。
今日も彼の特徴を示すかのような、グレーの長いローブを羽織っている。真っ白く長い髭も相まって、魔法使いのお爺さんを絵に描いたような姿だ。
教師には退役した騎士や元学院の教師、領内の商会関連者や貴族など、様々な人が着任してくれた。
地域の子ども達の為に考えに賛同して協力してくれる人もいるが、大半の人が学校の研究機関で自分の研究を深める人々だ。
学校の敷地内にある研究棟は、大学と大学院、工房……地球でいうところの会社や工場の研究機関を模している。
ここから領地や国、未来へと、役立つ研究や学問が広がってくれれば良いと思う。
(約十年かぁ。長いとも言えるけど、何だかんだで順調だったんだろうな)
正確には八年程であるが。
周りにも恵まれたおかげで何とかここまで漕ぎつけたという感じだ。
ホッとしつつ良き哉良き哉と小さく頷く。
「次に、マグノリア理事長からのお話です」
「……えっ?」
なぬ!? 理事長!?
*******
王都のリシュア子爵邸では、真新しい制服を着たヴァイオレットが緊張した面持ちで朝食を食べていた。
前期課程の女子の制服は、上着が黒のジャケット、ボトムが白いスカートである。色味は男子と同じであるが身体の線に沿うようにやや細身で、襟がセーラーカラーになっており、とても可愛い。
(ついに、いよいよマーガレットが入学するんだ……)
『みん恋』のヒロインであるマーガレット・ポルタ男爵令嬢。
念のためポルタ家の周辺を調べたが、市井に子どもを放置して置いたというのは褒められた事ではない為か、全然情報は聞こえて来なかった。
とにかく。
本日一番最初にあるだろうイベントは、アーノルド王子との迷ってごっつん☆ファーストコンタクト! である。
いわゆる昔の少女漫画の、遅刻しそうになってパンを咥えながら走っていると、曲がり角でイケメンとぶつかるアレの派生。
(……うーむ。日本に居る時は『お約束ね~(笑)』位にしか思わなかったけど、高位貴族がウジャウジャいる学院内で周りを見ないで歩いてるとか、結構自殺行為だな……)
この世界で曲がりなりにも約十三年間、子爵令嬢をしている身としては、危ういマーガレットの行動に疑問と冷や冷やが同居してしまうのは、もはや仕方がないであろう。
現実の世界として機能している現在。色々と若干のズレがある訳だが、果たしてマーガレットは存在するのであろうか。そしてイケメンヒーロー達と恋に落ちるのであろうか。ヴァイオレットとしては非常に疑問なのであった。
******
――規約(説明書)という奴は、ちゃんと読まないと駄目だなと思う。
いきなり名指しされ仕方なく壇上に上がり、何となーくの挨拶をしたマグノリアであったが。
終了後『理事長就任なんて聞いていない』と色んな人に詰め寄ると、ちゃんと記載されていると言われて、先日渡されたぶっといマニュアルみたいな書類の端の方に、小さく『マグノリア・ギルモアを理事長とする』と記載されていた。
(これは、詐欺の手口やで……!!)
まあ、拝命したからといって、これといってやる事は無いというか。
理事長に就任しようがしまいがする事は一緒――資金繰りの遣り繰りをする事と最終的な責任を取る事――である。
余りにも地位も名誉も求めないマグノリアに痺れを切らし、周りがお膳立てした『理事長就任』である。
お金は出すが口は殆ど出さないとか、一見下の者から見れば器の大きい、人心掌握に長けたトップのお見本のようであるが……彼女の努力を知る周りとしては、やはり正当に評価されて欲しいと思うのが人情というものである。
それこそ前期課程の生徒と同じような年齢であるにもかかわらず、責任の一切合切を引き受けるって何なのよ、だ。
ここを作った子はこんな考えの元、私腹を肥やしたって文句を言われないのに、何だか頑張っているのだぞと知らしめたいではないか。困らせる為の就任では断じて無いのである。
ちゃんと、『隅々まで読んでくださいね』『納得したら許諾のサインしてくださいね』と忠告というか、トラップというか……再三言われた気もするのだ。
(……不覚だ。まあ、しゃーないか……)
どっちにしろ、色々な人にマグノリアが計画していたものと言う事は知られているのである。隠してもいないので、どちらかといえばオープンだ。
(好意なんだから、甘んじて受けておくか)
それに、王家から何か言われた時にも、肩書があった方が何かと便利だし。
そう思ってため息をつく。
『リジチョウ☆』
……何だかカタカナ呼びでおちょくっている様なラドリに、睨みを利かせておいた。
全く意に介していないようではあるが。




