四人ですり合わせ
「ラドリってば、いつも何処に行っているのよ?」
いつもの如く、クロードの事を揶揄い……もとい、気にかけては戦利品を差し入れに行っているラドリである。
護る者を同じくする者へのラドリなりの配慮なのであるが(?)、全くもって相手には伝わっていない事であろう。嫌がらせかいたずらか、はたまた悪ふざけか。多分そう思われている筈だ。
今日もいち早く、マグノリアが発見した『弾け麦』を渡しておいた。
食べるもよし、振るもよし。飾るもよし。何かの研究に使うもよし。
爆発させて種……もしくは精米なのか(?)を飛び散らかして、グフフ、なんて悪戯を仕掛けている訳ではない……多分……のである。
『差し入れ渡して来た~☆』
「差し入れ? 一体どこに何を差し入れしてるのよ?」
「メスのインコでも見つけたんすかね」
「えっ、嘘!? 小鳥の姿でベルリオーズ卿みたいなの、嫌なんだけど!」
心底嫌そうにマグノリアが眉を顰めると、セルヴェスとアーネストが苦笑いをした。
イーサンに言えば、諜報の為ですよと言われそうであるが。
訳知り顔でコレットが頷く。
「仕方がありませんわ。綺麗な蝶は香しい花に吸い寄せられるものですもの」
「……彼の場合、ちょっと度が過ぎてますけどねぇ」
「やんちゃなのですねぇ」
「まあ、モテますからねぇ。その内刺されないと良いですけどね」
うふふと笑うコレットに、マグノリアがため息をついた。
「ギルモア嬢は四歳から領主家としてのお務めをされておりますし、アゼンダ辺境伯家には奥方様がご不在ですので、ギルモア嬢が女主人なのですよ」
アーネストが、話が見えないであろうギルド長に説明をする。
それ故、子どもながら騎士団の人材にも詳しいのだと。
「……と言っても女主人らしい仕事は殆どしませんが。辺境におりますので、表立って夜会などは致しませんし」
本当を言えば社交もほとんどしていない。
元々王都と領地の往復でセルヴェスもクロードも忙しいので、居候をしてから約八年、夜会も舞踏会も、なんなら正式なお茶会すら一度もしたことがない。したのはマグノリアのお披露目会位である。
一応しないで良いのか確認はしたが、したいならして良いが、したくないのに無理してしないで構わないとの答えだった。それこそヴァイオレットやコレット、アイリス達とのお茶会は采配しているので、手順は大丈夫だろうとの事で。
……いや、そうじゃなくて……と言えば、将来何処かの夫人になれば腐るほどするだろうから、子どもの内はしたい時にしたら良いとの言葉を貰う。
それでお言葉に甘えさせて頂いているのだ。
なので、館の采配の一部をしているに過ぎないので、女主人は言い過ぎである上に、貴族の令嬢としては全く褒められたものじゃないであろう。
最近は大きくなり、物理年齢がそれなりに近しい子どもが家の仕事を任され始めた為、仕事に絡んで話す程度である。学院の後期課程位の年齢の子ども達だが、何回か話すと何故か大体怖がられて、挨拶をするのみになるのだ。
目的の『お米』は無事にゲットしたので蛇足ではあるが、一応北上を続けている。
アーネストとギルド長は王都に戻るか、他の場所にするかと気を使ってくれたのだが。
せっかく来たのだから色々視察するべきだろうというのと、大人数での来訪を告げてあるだろうから予約をキャンセルするのが申し訳ない事。そして他にも良いものがあるかもしれないという希望から、このまま続ける事にしたのである。
馬車に揺られながら、ギルド長は問われれば答えはするが、基本的に外の景色を見ている事が増えた。
普段王都で過ごしているそうなので、地方へ出る事はそれ程多くないと言っていた。だから実際に目にして色々感じる事もあるのであろう。
宿に着き、早速ガイは外へ出て行ったが、それ程時間を経ずに帰って来た。必要な情報だけ浚って来たのだ。
気配を察したようにコレットが部屋を訪れる。
……一体この人は何なのだろうかと思うが、多分チートな女性なのであろう。
「マホロバ国でもギルドは幾つかあるようっすね」
大陸の国々と同じように、何処の国も大抵、大都市や要所に作られている。
この辺りは王都の管轄ではない為、ギルド長の人相を知る者は居ないと言って良い。
「……多分、話の雰囲気から言ってギルド長ではなく政府の高官か何かなのでしょう」
「身のこなしはそれ程動ける様にも見えなかったから、多分文官か何かなのだろうな」
大きな取引や産業になりうるものを、自身の裁量で自由に出来る程の権限を持っているのだ。かなりの大物が対応していると考えて良いだろう。
「長く交流が無かった国々と相対する訳ですから、素の人となりを見たかったのでしょうか……」
マグノリアの疑問に、三人の肯定が返される。
「イグニスとの話し合いは、外交担当と王子ふたりが中心となっているようっす」
そう言って、絵姿を目の前に出した。
「王太子が三十歳、第二王子が二十六歳っす」
「……絵姿ではなんだかんだ修正されているだろうから、本当の姿に近いかは怪しいな」
「マホロバ国は、髪が濃い褐色の方々が多いですわね」
確かに、マホロバ国に着いてから明るい髪の人には殆ど会っていない。
目の前の絵姿を見れば、子ども……王子が二人と王女がひとり。その後ろに堂々とした身なりの男性と、上品そうな王太子妃が寄り添っている。王太子一家だ。
もう一枚は、快活そうな夫妻と王子が二人の第二王子家族。
そして出迎えの際に顔を見た外交担当者の絵姿。最後の一枚は現王と王妃の絵姿が。
『ギルド長、悪モノじゃない』
場合によっては不敬になりそうな事を口走るラドリだが、セルヴェスも同意して頷く。
「確かにな。悪意の類いは感じんな……マグノリアの言う通り、何か確認したい事があったのだろう」
「……触らず、そっとしておく方が宜しいですわね」
コレットがパチン、と鉄扇を畳んで口元に充てる。
「シャンメリーの坊ちゃんにも裏を取りやすか?」
「いや……言う必要があれば事前に言っているだろうからな。様子を見ているか、敢えて乗っているのか。本当に知らないのか」
セルヴェスの言葉にコレットが乗っかる。
「寝た子を起こすな、ね」
「触らぬ神に祟りなしっすね!」
更にガイがおどけて乗っかった。
マグノリアはコレットにお礼を言っておかねばと向き直る。
「コレット様、先程はありがとうございました」
侍従に言いながらも、多分ギルド長への牽制の意味もあった筈。
考えてみれば、マグノリアの行動はおかしい事が多いのだ。
なるべく気をつけてはいるが、ついついやり過ぎてしまう事も多い。
普段付き合いのある人間は、そういう存在だから仕方ないとその辺も飲み込んで付き合ってくれるが……一応本で読んだとは言ってあるが、アーネストやギルド長にしてみれば色々と不自然であったことだろう。
アーネストに関しては、時折しか会わないとは言え、四歳の航海病騒ぎの時からの知人であるので、みんなと同じように不思議に思いつつも飲み込んでくれているのだとは思うが……
「もう、気をつけないと」
「……はい」
深追いせず、おどけたように注意してくれるコレットに、マグノリアはぺこりと小さく頭を下げた。
王太子の子どもが逆転しておりました。申し訳ございませんでした。
誤)王女が二人と王子がひとり→ 正)王子が二人と王女がひとり
修正いたしました。
ご指摘頂きましてありがとうございました。




