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【コミカライズ2巻8/19発売・小説6巻発売中】転生アラサー女子の異世改活  政略結婚は嫌なので、雑学知識で楽しい改革ライフを決行しちゃいます!【Web版】  作者: 清水ゆりか
第七章 何事も経験(マホロバ国)・買いつけは海を越えて編

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食材パラダイス

 王城近くの城下町にある宿屋に案内される事になった。


 蝋燭の光なのか、ガラスで出来たランタンのようなものが軒下に吊るされており、夕闇に変わりつつある街並みを優しく照らしている。提灯とは違うのだろうが、夜祭の縁日を連想させる揺れるそれを、マグノリアの朱鷺色の瞳が数えるように追っていた。

 

 同時に馬車に揺られながら、マグノリアは船員たちの食事は大丈夫だろうかと心配する。

 マグノリア以外の全員に、長く航海をしている彼らの心配などしなくても、既に港町でどんちゃん騒ぎをしているだろうから問題ないと言われた。ふむ。


 確かに、彼らは船旅のエキスパートである。

 ちゃんと交替で船に残る者、外へ繰り出す者と決まっているので大丈夫だと言う事であったが、多分そういうものなのだろう。


「……もう間もなく商会は閉まってしまいますので、ゆっくりご覧いただけますように、宿に主だった食材などをご用意させて頂きました。解る範囲でご説明させて頂きます」


 ギルド長という彼は、多分忙しいだろうに。

 申し訳ないと思いつつも他に頼む人間もいない事から、マグノリアはありがとうございますと言って口を噤んだ。



 案内された宿屋は想像していたよりも立派な佇まいだった。

 聞けば貴族の屋敷を買い取って改装したらしく、足を踏み入れれば、中はどちらかといえば気取っていない、親しみやすい内装になっていた。入口を入ってすぐが酒場兼食堂のようになっており、真っ直ぐ進むとフロントらしきものがある。

 更に奥にはきっと調理場があるのだろう。


 宿泊客でなくても食事や酒を利用できるそうだ。

 話はついているようでギルド長がオーナーらしき人間に目配せすると、小さく頷いて視線で階段を見て促した。


 部屋は上の階らしい。

 大人しく黙ってついて行く。


 用意されていた部屋の扉を開くと、敷布を敷いた上にこれでもかという程に食品が置かれていた。

 早々に手荷物を置いて、マグノリアは食材達の前に陣取って吟味する。

 見た事がない真っ青な豆などもあり、どんな味がするのか興味が尽きない。


「食材の多くは大陸と変わりないと思います。主食は麦や蕎麦、ポテト芋などですね」

「麦はやはりパンなのですか?」


 きっと違う主食もあるのだろうと思い、確認の為に言ってみる。

 ……とても美味しかったが、流石にお吸い物とパンとは合わないだろうからして。


「実は、皆様のお住まいになっている大陸と同じ様なお料理も多いのですよ。マホロバも元々は大陸の出身と言われておりますので、食事も同じようなものが多いです。今日召し上がった味のものは、ここ二百年位の物と言われています」


 何でも、とある植物を利用するようになってから発展した比較的新しい料理なのだそうだ。


 パンの時には大陸と同じ西洋風の元々ある料理を食べる。


 和風の味付けの時は、麦などの穀物を炊いたり雑炊風にしたり。または小麦粉やそば粉などを捏ねて麵にしたもの。すいとんのように団子状にしたもの、日本の耳うどんのように平たくしたもの……というようにして食べる事が多いらしい。


「では、あのスープのお出汁は植物なのですか?」

「はい。こちらの『だしの木』と呼ばれる木の皮を煮て抽出したものなのです」


 木の皮!?

 内心、昆布を期待していたマグノリアはまじまじとギルド長の持つ紙と木片の中間の様なものを見る。


「変異種など色々な種類がありそれぞれ味も異なるようなのですが……とはいえ殆どが緑と茶色の二種類です」


 木の皮と言われると抵抗があるが、地球にもシナモンがある訳で。

 更に種や木の実などを考えれば、地球でもこの世界でも食用として多種多様に用いられている。


「そのまま水で煮て抽出したり、粉状にしてかけて使います」


 そう言うと、それぞれから取った出汁を小さなカップに入れて振舞ってくれた。

 緑は昆布だし、茶色は鰹だしの様な味がする。


「……茶色のものは、魚ではないのですね……」

 鰹節の事を知るコレットが、感慨深そうに味わう。


「今日お出ししたスープは、このふたつを組合わせて使ったようです」


 合わせだしと言う事になるのだろう。

 ――またまた、この世界の不思議作物である。


「……これは入手が難しいものなのですか?」


 値段や栽培法、入手方法によっては購入が困難かも知れない。

 数が少なければ輸入することは難しいであろう。


「いいえ、山に自生している位ですので、高価でもなければ栽培も容易です。普通に庶民が購入出来るものです」


 にっこり笑いながら説明してくれる。

 魚や肉などの生ものは部屋に置いてなかったが、口頭で説明を受け、これらは大陸とそう大差ない感じであった。


「……今日頂いたキノコも普通に出回っているのですか?」

「はい。そちらも広く食べられています」


 それならば、干し椎茸を作る事も可能であろう。

 元々森や林が多いアゼンダには沢山のキノコが自生しているが、探してもシイタケらしきものはお目に掛からなかった。


 ……探しているものがどうしても和食に関するものの為に誤解されがちではあるが、別段何が何でも和食推しと言う訳でも無い。ただ、手に入るもので再現しようとするとピンと来ない場合が往々にしてあるだけで。


 どうせ食べるなら美味しく食べたいので、無いものを探してしまうのである。


 過去に味わった事があり長らくそれで育った過去がある為、ついつい和食が恋しくなるが、アゼンダやアスカルドの料理だって美味しいと思っているのだ。実際に食すのも作るのも、和食よりも断然大陸の料理が多い。



 見た感じ、米らしきものは見当たらなかった。

 後日、地方に足を延ばしてその土地のものなども確認しようと言う事になっているので、そこで面白いものや美味しいものが見つかれば良いと思う。



 ギルド長は騎士印の肥料を直接輸入することに決めたらしく、セルヴェスと後日、話を詰めるようだ。


 コレットはマホロバ国の民族衣装を着る際に使う長いベルトを手に取っている。それは見事な刺繍が施されており、技術と手間が惜しみなく注がれている芸術品だ。


 ガイは先程の出汁をまったりと寛ぎながら味わっている。縁側で昆布茶を楽しむオッサンみたいで、思わず笑うと、ガイが不思議そうにマグノリアをみていた。

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