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【コミカライズ2巻8/19発売・小説6巻発売中】転生アラサー女子の異世改活  政略結婚は嫌なので、雑学知識で楽しい改革ライフを決行しちゃいます!【Web版】  作者: 清水ゆりか
第六章 アゼンダ辺境伯領・バカンスは大騒ぎ編

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夏休みがやって来る

 翌日、早速タウンハウスへ行って、トマスに話をしてみる。

 先日初めてヴィクターの父であり宰相でもあるブリストル公爵に会った。余り似ていないのは良いとして、宰相である筆頭公爵が出張って来るのは流石に恐ろし過ぎると思うのだ。


 数日後、王子以外の無理な勧誘はピタリと止まった。


 ……一番やめて欲しい人が変わらなくはあるのだが……それでもそれ以外が無くなった事は非常に有難い事である。


(トマスさん……っ!!)

 ディーンはタウンハウスの方向へ向き直り、感謝の祈りを捧げる。


 やはり出来る家令は違う。


 是非ともお礼を言わねば……そう心に固く誓う。

 度々お邪魔して手を煩わせるのもどうかと思うので、急いでお手紙を書いて送ろう。そうしよう。


 ……一体どう言って止めたのかは気になる所であるが、そこはあえて触れない事にしておく。


 そんな何やら忙しい様子(?)の少年の様子を、これまた隣国の皇子であるユリウスが良かった良かったと眺めていたのである。



 して、ディーン少年の元に平和が訪れたかのように見えたが、それは幻であったのである。もしくは泡沫の夢。


 一応、自分なりに考えて面倒事はなるべく避けるように、休み時間は庭の四阿や休憩所に待機するようにした。


 運悪く道端で出会ってしまいそうな場合は、小枝を探して両方の手に持ち、木に擬態。 最近編み出したその他大勢貴族&末端貴族である、男爵家奥義・ステルスモードを発揮して、ただひたすらに気配を消しオーラを消し存在感を無にし、厄介な人が通り過ぎるのを待つことにしている。


 不思議な位勘づかれない。

 ……流石、下位貴族男爵家御用達奥義(?)である。


「…………」

「…………」


 ただ、気配に敏感な騎士には効き難いらしく、王子の側近で護衛騎士でありマグノリアの実兄であるブライアンにはいつも見つかり、微妙な顔で通り過ぎられる。


 マグノリアが実家を出た経緯や、お披露目会での暴挙などを見るとつい、批判的に見てしまうブライアンであるが……彼自身も後期課程の生徒として在学しているが、他の人間にそういった、殊更横柄だったり乱暴だったりする態度をとる様子は全くと言って良い程に見受けられなかった。


 ちょっと我の強い王子をやんわりとフォローしたり、他の側近や下級生への気遣い、女子生徒への紳士な対応を見ると極々普通の……いや、きちんと教育された侯爵家の子息である。


 王子のディーンへの無茶振りも解っているので、不審者以外の何者でも無い様子のディーンの状況を慮ってか、黙って見逃していてくれるのだ。微妙な表情をしながら。


(何だろう、まるで別人みたいだな……)

 

 木の枝を持ちながら通り過ぎる一行を見て、自分の知る彼との余りの違いように、ディーンは首を傾げるのだった。




「やあ! ディーン・パルモア!!」


 寮に入る早々、大きな声で呼びかけられた。デュカス先輩だ。


 後期課程の生徒の白い上着と黒いズボンが、日焼けした顔に良く似合うナイスガイである。

 声が大き過ぎるのと若干暑苦しい以外は。


 ……そして、残念な事に彼もステルスモードが通用しないひとりである。


「お疲れ様です、デュカス先輩」


 こんにちはと言う所なのだろうが。

 何だかんだで寮長として面倒見が良い彼に、ついついお疲れ様と挨拶してしまうのは、既に従僕見習いとして労働している性なのであろうか。


 気の良い人なのである……声が大き過ぎるのと、ちょっと暑苦しい以外は。


「プレクラスのリシュア子爵令嬢が談話室に来訪中だ!」


(……これまた、うるさい人が……)

 ディーンはガックリしながら頷く。


「……はい。ありがとうございます……」

「彼女か! 婚約者か!!」


 日焼けした黒い顔をずずずいっと近づける。ギラギラした目とにやけた口元、そしてとめどない圧が凄い。

 ディーンは思わず顔と腰を引いた。


「いえ、全然全く。主の、主家のお嬢様のご友人です。伝言を頼まれるだけです」


 もしくは聞きたくない、訳の分からない内容を捲し立てられるか。両方かもしれない。


「そうなのか? 頑張れ!」

「…………」


 何を頑張るんだ? 言葉の雨あられに耐える事をか?


 若干疑っている様な様子を見せながらも、デュカス先輩は全く的外れな応援をしてディーンを送り出した。



 寮の共用部分にある談話室は、普段自由に使う事が出来るのだが、家族や知人などが来訪した際にも使用する事が出来る。


 特に寮と言う事で、異性が来た場合は必ずこちらの談話室を使用する事になっているのだ。


「ディーン! こっちこっち」


 ヴァイオレットが奥の席に座って手を振っている。勝手知ったるご令嬢は、我が物顔で鎮座していた。男子寮なのに。


「来月夏休みじゃない。いつ帰るの? マグノリアの所に行く予定だから、一緒に帰ろうよ」


 余りディーンが年上という感じも無いらしく、当然の様にタメ口である。

 本当の所は、彼女が異世界転生者であり今のディーンより年上の記憶があるからこその自然なそれであるのだが、彼は彼でそれを知らない。


 まあ、ヴァイオレットは子爵令嬢だ。タメ口でも呼び捨てでも問題無いと言えば問題無いのだが……全く悪びれる様子もなく、当たり前のようである。

 友人の友人枠なのか、共にあの襲撃戦を潜り抜けた仲と言う事なのか。


 同じ下位貴族同士な上年下、ましてやマグノリアの友人とあって、ディーンも余り気を使わずに話をしている。


「まだ解らないかな。学期が終わった後の補講とか、学院の予定とかも解らないし。それがはっきりしてから決めるつもりなんだ」


「そうかぁ。ディーンは補講なんて無いと思うけど、了解! 解ったら教えてくれる? お父様に言って調整取るよ」


 ……まあ、乗せて行ってくれるというのならば有難くはある。


 辺境伯家でタウンハウスの馬車を使うようにと言ってくれそうではあるが、使用人が主家の馬車を使うというのもどうなのかと思うし。


リシュア家の馬車ならば、乗合馬車を乗り継ぐよりも快適に帰る事が出来るであろう。


「そう言えば、殿下は相変わらず?」


 ヴァイオレットは差し入れのお菓子をテーブルに広げながら確認する。

 実際に詰め寄られている所(?)も見ているので、今更隠す必要も無い。というか学院のほぼ全員にバレているだろう。


 ディーンは周りをキョロキョロと見回して声を潜めた。


「う……ん、そうだね」


 不敬になってはマズい。下手に誰かに聞かれてはもっとマズい。

 普段の鬱憤から、無意識に言ってはいけない事を口走ってしまいそうなので、充分気をつけねばならないのだ。

 

 それからヴァイオレットはガーディニアの事、アーノルド王子、側近のブライアン、ルイ・ホラントの観察日記のようなあれこれを喋り倒して帰って行った。


 悪い子ではないのだが、何ともパワフルで不思議な女の子である。


 時折ユリウス皇子の事も観察しているようで、ディーンは首を捻るばかりである。


 彼女の最大の『推し』であるジェラルドと同じように、彼等もまた『推し』の一員なのだろうかと不思議に思う。


(……っていうか、ふたりの言う『推し』って凄いなぁ)


 やっと解放されたお話会に、ディーンは大きくため息をついた。




 長期休暇の直前に再び試験があった。


 先生にもクロードにも言ったら怒られるだろうが、少しずつ手を抜いて解答を書く。


 確認した所、一年間の成績を鑑みて春にクラス編成があるそうで。


 一気に成績を落とすと怪しがられると思うので、少しずつ少しずつ落として行き、最終的には通常クラスに移動出来れば良いと思っている。


 穏やかな学院生活を送るにあたって、下位貴族が目立ち過ぎるのも良くない。

 


「…………」

 廊下に張り出された順位表を見て、絶句する。

「よっし!」

 同じクラスの高位貴族が、小さくガッツポーズをしてディーンにニヤリと視線を向けた。


「三位か。まあ誤差の範囲だね。今回ちょっと難しかったもんね?」


 学力診断と同じく一位だったユリウスがディーンを慰めるように言った。

 他の生徒に場所を譲り、のろのろと廊下を歩きだす。


(……もう少し下だと思っていたのに……)

 十位以下だと思っていたら、想像以上に上だった。


「入学して気が緩むし、王都に来て観光に勤しむ人も多いからねぇ……」

 

 ディーンの企みを勘づいているのだろう、ユリウスは苦笑いをしていた。


「加減が難しいですね」

「まあ、諦めてある程度で良いんじゃないの? 一、二年もすれば皆慣れるから今だけだよ」


 ぽんぽん、と肩を叩かれ、ディーンは小さく項垂れた。


「そう言えばディーンは休暇中、辺境伯領に帰るんだよね」

「はい。特に学院の予定がなければ。ユリウス皇子はどうするの?」

「僕はせっかくなんで、アスカルドの色々な都市を観光しようと思っているんだ」


 ほう、とディーンは思う。

 見聞を広めるという奴か。ユリウスはガチガチに努力している感は見せないが、日々さり気なく知識を吸収しようと努めている様子が見える。

 

 ……誰とは言わないが、誰かとは違って好感が持てるではないか。


「そうか、では我々も噂のアゼンダに行ってみるか」

「えぇっ!」


 聞き覚えのある声が不穏な事を告げて来た。

 思わず声の方向を振り返って、ディーンの顔は絶望一色になった。


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