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【コミカライズ2巻8/19発売・小説6巻発売中】転生アラサー女子の異世改活  政略結婚は嫌なので、雑学知識で楽しい改革ライフを決行しちゃいます!【Web版】  作者: 清水ゆりか
第六章 アゼンダ辺境伯領・バカンスは大騒ぎ編

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若きディーンの悩み!?

「お嬢様、申し訳ないのですが少々お時間を宜しいでしょうか……」


 いつも元気な侍女頭のプラムが、珍しく言い淀んだようにマグノリアに聞いて来た。


 午前中の執務室は、辺境伯一家のみの場合が多い。

 ……その時期の仕事内容にも寄るのではあるが、移領して六年、マグノリアのこの世界での事務能力も格段にアップしているので、セバスチャンの領政への労働はぐっと減ったと言えるだろう。


 その代わり新しい事業だなんだといって、忙しさの方は減っていないという哀しい現実があるのではあるが。


 午前中は教育の為、ディーンも席を外している。


 多分あまり人に聞かれたくない話なのだろうか。

 マグノリアは頷く。


「大丈夫ですよ。場所を替えますか?」


 もうじき社交の時期であるがまだ王都へ移動前の為、セルヴェスもクロードも揃っている。ふたりも顔をあげて、いつもとは違うプラムの様子を確認している。


「いえ、それには及びません」


 頭を下げると執務室に頭を下げて入って来る。

「お忙しい所、お時間を頂きましてありがとうございます」


 取り敢えずはマグノリアのみ席を立ち、テーブルとソファの方へと移動する。

 新しいお茶を持って来ていたらしく、プラムは人数分のお茶を淹れてくれた。



「……大変不躾な確認なのですが、お嬢様は王都の王立学院へは、ご入学されないのですか?」


 席を勧めると遠慮がちに座ったプラムが口を開いた。


「そうですね、そのつもりです。おじい様とお兄様は入学させたい様ですけれども、リスクの方が大きいので」


 プラムが頷く。


 そう、基本的には貴族は通う筈の学院である。

 下位貴族や兄弟が沢山いる者、お輿入れが決まっている者など、入学しないものもそれなりにはいるのであるが。


 高位貴族で未婚の者は、殆どの人が通うらしいのだ。


「私は学院卒業程度の知識は既に習得済みですし、社交にもそれ程力を入れるつもりもありません。煩わしい事も多いでしょうし襲撃の事もありますから、積極的に王都へ行きたくはないのです」


 貴族生活において、学院卒業が必須という訳でもなければ、卒業資格がどうこうという訳でも無い。


 王宮に女官として働くつもりも無ければ、このまま事業や領政に携わって生きて行く方が可能性としては比べ物にならない位高いであろう。


 どちらかと言うと皆、社交と将来の顔つなぎの為に通う側面が大きい。

 後は成人前のモラトリアム期間といった所か。


 数は減ったものの未だに王妃様からのお誘いは無くならないし、いつ第二第三の人形師が現れるとも限らない。


 ――襲撃の事を言われると、みな納得し易いだろう。

 襲撃され、父親が斬られ、自分が剥製にされる所だったのだ。みんながみんな、マグノリアの心の傷になっているだろうと思っているのである。


 ……意外な事に、マグノリアはみんなが思う程傷ついても怯えてもいない。純粋な子供ではなくて、成人した精神を持っている所が大きいのだろう。


 勿論、成人していても怖いものは怖いのだが、やはり子どもの柔らかい感受性とは若干違いがあるのだろう。


 ジェラルドが助かり、自分の身は安全であったし(?)、直接変わり果てた少女達を見たのではないからであろうと思う。


 過去の襲撃事件よりも、未だ詳細不明の人形師と襲撃者の一部の不審死は不穏であるし、新たな事件が起こる事も避けたい。

 ……ほんのちょっとの時間見かけられただけであんな事件が起こるのだ。六年間も在住とか何が起こるかわかったものではないではないか。


 それに王妃様のお誘いを避ける事が難しくなると思うのだ。あの王子と頻繁に顔を合わせなくてはならないというのも大変気が重い。

 ましてやこの世界はゲームの世界をなぞらえているので、うっかり通ってうっかりゲームが始まってしまっても困る。


 ……正しくはヒロインである『マーガレット・ポルタ』の入学をもってスタートになるのであろうが、悪役令嬢ポジションのマグノリアが巻き込まれないと考えるのは難しい。


 今までのあれこれから考えて、どう考えても困難が降りかかって来る気がして仕方がないのはマグノリアだけではないであろう。

 

「勉強以外にも学ぶ事がある事も、同窓との交流なども大切だと解ってはいるのですが。それと天秤にかけても、得るものよりもリスクの方が高いと思うのです」


 第一誰かを巻き込んで、危険な目に遭わせたい訳ではないのである。

 その辺の気持ちをプラムも理解してか、大きく頷いた。


「……左様でございますね」


 それこそ、襲撃事件に巻き込まれた者の家族なのだ。

 あの時、どんなに気を揉んでディーンの帰りを待っただろうと想像する。


「私の進学がどうかしたのですか?」

「……ディーンが、お恥ずかしながら入学をしないと言い出しまして……」


 おおぅ。そう言う事?

 マグノリアは困ったようにセルヴェスとクロードを見た。


 

 王立学院は十三歳~十八歳の貴族の子弟が集う学校だ。

 十三歳になる年の春に入学するので、正確には十二歳から通う。

 ……何故ヨーロッパ風の学校なのに四月入学なのかは謎だが、日本人が作ったゲームだからなのであろう。そこは突っ込まない事にする。


 ディーンは今春に入学する予定なのである。

 あの小さかったディーンがねぇ……と、近所のおばさんの気分であるが、今はそれ所ではない。


「……入学しない私を気遣って行かないって言ってるとか?」

 プラムはちょっと困ったように瞳を揺らした。


「気遣うというのとは少し違うかと思いますが……あの子が出来る事は少のうございますので、色々焦りがあるのかと」


 うーむ。

 マグノリアはセルヴェスとクロードを見て、口をへの字にする。


「……年齢を考えたら、充分過ぎる程頑張っていると思いますけどね……」


 いや本当に。

 きっちりとお使いを熟した上に(事業の事で色々こき使わせて貰っている)、従僕の仕事をし(最近だいぶ板について来たと思う)、護衛までやろうと、毎朝の訓練だけでなく、ガイにまで色々と指導を受けているのである。


(まだ十二歳なのに、一体どの辺を合格点に据えているのか……)


 マグノリアの答えを聞くと、納得したような何かを飲み込んだような顔をして、プラムは頭を下げて執務室を出て行った。




 王子が春から王立学院に入学するにあたり、プレクラスと呼ばれる年少のクラスが作られる事になったそうだ。


 そのお知らせとお誘いの手紙が王都より来ており、聞くまでも無くNOをお返ししたのである。

 ……丁度ディーンがお茶を淹れる練習の最中だったので、セルヴェス達とマグノリアが話しているのを目の前で聞いていたのであった。

 一瞬とても嬉しそうな顔をしたと思ったら、NOと答えたマグノリアを見て酷く驚き、何故かと確認して来た。


 参加しない理由を説明したのだが、納得できないような表情をしていたのは確かであった。


(今までずっと一緒にいたから、ひとりで行く事になって不安なのかな……)


 ……地球の知識を読書で得たものだと説明する事が多いからか、どうもとっても勉強好きだと誤解されているらしく。入学しないというのは意外な返事だったようなのだ。

 何度も確認されたっけ。


 それに高位貴族は特別な事が無い限りは入学すると言う事から、行くと思い込んでいたのであろう。


 最近はにょきにょき大きくなって、少しずつ子供っぽさがなくなって来たと思ってたけど……


(まさか取りやめるとまで言うとはねぇ)

 


 数日前の事だった。


「だって六年間も離れ離れなんだよ!? マグノリアは何とも思わないの?」

「そりゃあ、淋しいけどさ……でも危険が多いし」


 思ったよりも激しい口調に、マグノリアは困惑していた。


(秘密……にはしてないけど、入学を楽しみにしている所『私は行かないんだ~』と言うのもなんだったし……とは言え、話さなかったのがショックなのかな?)


「危険かどうかなんて行ってみないと解らないじゃないか!」

「……いや……起こってからじゃ取り返し付かないじゃん。関係ない周りの生徒さんとかまで巻き込んじゃったらどうするのよ」


 ディーンもマグノリアの懸念は尤もだと何処かでは解ってはいる。

 自分の事よりも周りを考えるのもマグノリアらしいし、王室……王妃様も絡んで来るだろうから、近づかない方が軋轢も少ないだろうと思う。


 入学をする・しないも各家庭の自由だ。


 だけど、とディーンは思う。

 

 困ったような目の前のマグノリアと、静かに様子を見守っているらしいセルヴェスとクロードの顔が見えた。


 ……使用人で男爵家の人間が主に文句を言うなんて、ありえない事だ。


 それでも黙っていてくれるのは、長年勤めたプラムの孫である事と、マグノリアの友人として見てくれているからなのだろう。

 

 セルヴェスもクロードも、入学しない事をもう少し考えたらどうかとは言っているが、理由もそれなりに納得している様子だった。多分最終的にはマグノリアの意見が採用される事だろう。


 アゼンダ辺境伯家は、子どもな筈のマグノリアの意見もきちんと考慮する。

 小さい頃から子どもとは思えない行動ばかりするマグノリアを、一人前として扱っているのだった。


 ディーンは拳を握りしめて、姿勢を正す。


「ごめん……ちょっと頭冷やしてくる」

「……ディーン!」


 頭を下げると、踵を返して静かに執務室を出て行った。

 音も無く閉まる扉を三人は複雑な様子で見つめていた。


 セルヴェスとクロードは小さくため息をつく。


『悩めるお年頃』

 

 マグノリアの頭の上で、小首を傾げたラドリがそう言ってはやはり、ため息をついた。


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