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【コミカライズ2巻8/19発売・小説6巻発売中】転生アラサー女子の異世改活  政略結婚は嫌なので、雑学知識で楽しい改革ライフを決行しちゃいます!【Web版】  作者: 清水ゆりか
第五章 王都王宮・お見合いそして出会い編

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襲撃

※若干の流血、乱暴な描写があります。

大した描写ではありませんが、少しでも苦手な方は回避・ご注意願います。

 馬車が停まった途端、いままでの比でない激しい戦闘になっている事が察せられた。

 耳をつんざく様な金属音と罵声。唸り声と怒鳴り声。


 嘶きながら走って行く蹄の音が遠ざかる。

 ……パニックになった馬が馬車を引きずってしまわない様に、放したのだろうか。


 ガイは馬車を守る為に、暴漢を近づけない様に戦っているのだろう。

 まるでシェルターだ。

 マグノリアは小さな空間の中でそう思った。


 狭い空間は守られている間は安全だが、破られたら最後、容易く危害を加えられてしまうだろう。


 馬車が大きく揺れて、三人で息を呑む。

 外の様子は見る事が出来ないが、気配や声の数から、圧倒的人数差があろう事は確実だ。


(……遠くで真剣で戦っていた人達はどうしたんだろう? 兵士や騎士に知らせてくれただろうか?)


 もしくはこの襲撃に関係のある人達だったのだろうか?

 マグノリアは横で震えるふたりを見る。


(子ども達を守らなくっちゃ……身体は子どもでも、中身は大人なんだから)

 

 しっかりしろ! 自分自身を叱咤する。

 

 大人だって怖く無い訳じゃないけど。

 守る対象がいる事で返って心を強く持てるものなんだな、と新たな発見をする。


 そう思った所で、馬車のガラスが暗くなり、ぬっと大きな影が映った。


「……ひっ!」


 マグノリアの方向を見たディーンが、口をわななかせ、喉を引きつらせた様な声を出す。

 後ろを振り返ると、まるで血の色のような瞳が、三人を見て ニタァと笑った。


 背筋がゾッとする。

 同時に、ギラリと鉛色の光を瞳の端に捉え、反射的にふたりを守るように立ち上がった。


「ふたりとも、目を閉じて身体を丸めて頭を庇って!!」


 そう叫ぶように言うと、後ろにいるふたりの様子を確かめる間も無く、窓に向かって警棒を突いた。

 

 激しい破壊音と共に、細かく砕けたガラスの破片が飛び散る。

 陽の光が細かな破片を照らして、キラキラと乱反射しながら落下して行く。


 窓の外から伸びる剣が届くより早く、マグノリアの警棒が眉間を突いた。


 ……数秒後、安心する間もなく割れた窓から手が伸びたのを見て、マグノリアは全体重を乗せた、渾身の力で扉を蹴り開けた。

 重い扉を勢いよく顔に受け、再び男が後ろへ倒れ込む。


「でっ!」


 勢いのまま転がり出て、気絶したらしい男の上に弾んで落ちる。


 ……一瞬死んでしまってないか不安になるが、時間がない。


 手の届く範囲に男の仲間がいない事を確認して、ウエストのリボンを引き抜き、半分に割く。男のズボンのベルトも引き抜く。

 そしてベルトで男の足をまとめ上げ、腕を頭上に伸ばして手首を縛る。

 残ったリボンの半分で、両手の親指と親指をきつく縛りつけた。


(確か、親指同士を縛ると自力で解く事が出来なかった筈……)


 そう思いながら戦闘の様子を初めて朱鷺色の瞳に映して、絶句する。


 二十人以上だろうか。黒ずくめの男たちの横たわる姿が見える。

 その真ん中で、ジェラルドとガイが男達を相手に大立ち回りをしていた。

 

(……親父さん!? 何で?)


 ジェラルドはいつもの小綺麗な様子ではなく、斬りつけられたのだろう、あちこちが破れては所々血濡れていた。

 大きく肩で息をしており、体力が消耗しているのが目に見える様子であった。

 

 ガイを見ればやはり同じようにボロボロになっており、いつもの余裕の表情はナリを潜め見た事もないような険しい顔をしている。


 ――限界が近い――


 ガサガサという音にハッとして樹々の合間を見れば、黒づくめの仲間が三名走って来るのが見える。


(つーか、こいつら一体何人いるんだよ!)


 ちょっとした小隊並である。

 幾らふたりが人並み外れて強いとはいえ、限度があるだろう。


「ディーン、敵が来たらこれ投げて! ヴァイオレットを頼んだ!!」


 扉の向こう側で瞳を瞠って固まっているふたりにそう言うと、髪飾りを幾つか渡して再び前を見た。


 強張った声でマグノリアの名を呼ぶふたりの声が聞こえる。


 マグノリアは拘束した男が落としたナイフでスカートを裂き、足の可動域を大きくすると、猛然とダッシュをして三人組に髪飾りを投げつけた。



******


 王都見物は楽しんでいるだろうか。

 長引いた会議が終わり、やっと外の空気を吸ったクロードはふとそう思った。


 王宮の豪華な回廊の隣には、緑溢れる中庭が広がっている。


「よう、天才君」

「…………」


 声を掛けて来たのはアイリスだった。

 クロードをそんなおかしな呼び名で呼ぶ人間は彼女しかいない。


 思わずため息をついて振り返ると、副官を勤める夫君と連れだって手を振っていた。


「東狼侯。その呼び名は止めて貰えますか」


 ニヤニヤする妻と不機嫌そうなクロードを交互に見て、夫君は小さくスミマセンと言い、長身の身体を縮めるように肩を竦めた。


 クロードより一回り年上の夫君は、ふたりに挟まれても見劣りしない見目の持ち主であるが、落ち着いて穏やかそうな人柄が滲み出る、とても優しそうな人物であった。


 幼馴染だというふたりは、長い年月を一緒に過ごしている為か独特の空気感がある。

 細身ではあるものの、男性の中に並んでも大きく見えるアイリスが何故か、嫋やかで華奢に見える。


 親友であり、兄妹同然であり、上司と部下であり、夫婦。


 二歳差だというふたりをみると、もしかしたら数十年後のマグノリアとディーンもこんな感じなのかと感慨深く思う。


「それより。最近、あちこちで不審者が目撃されているんだが……」

「不審者?」


 アイリスがクロードに言いかけた時、夫君が瞳の端に捉えたのか、あさっての方向を向いて首を傾げた。


「……あれ? どうしたんだろう?」

 

 何処かの従者らしい青年が、キョロキョロ焦りながら、小走りで走っていた。

 こんな奥まで入り込むことは珍しい。


「君、どうしたんだい? 何か探してるのか?」


 子どもの頃からお嬢様の世話で慣れているのか、それとも根っからなのか。


 見た目通り心優しいらしい夫君は青年に走り寄ると、一生懸命に説明しているらしい青年の話を頷いて聞いている。

 暫くしてクロード達の方を見るとそちらを指さし、青年の背中を軽く押し、促しながら小走りで戻って来た。


「彼はクロード殿を探していたらしいです。さ、彼が辺境伯家のクロード様だよ。説明できそうかい?」


 クロードにそう言った後、青年に頷いた。


「……はい! 私はギルモア侯爵家で御者を務めております者でございます。旦那様より、辺境伯家のクロード様に伝言するよう賜りまして……」


 可哀想な程に焦り、狼狽しながら言葉を紡いでいる。


「ゆっくりで大丈夫だ……兄上が何と?」

「はい、先ほどいきなり馬車で出て行かれて。貴族街と平民街を隔てる遊歩道で襲撃がある、と伝えるようにと……!」


 青年の言葉を聞いて三人は弾かれたように顔を見合わせる。


「襲撃……馬車で出て行ったと言う事は、近くに行われると言う事か?」

 

 アイリスが青年に問うと、首を横に振る。


「わ、私は詳しい事は……!ただそう言って、とても急いで行ってしまわれたので、多分すぐなんだと思います!」


 考えに沈みそうになる所を、クロードは慌てて意識を引き戻し、青年に向き直る。


「場所は聞いたか? 他には?」

「いえ……! 遊歩道としか」


 必死の形相で首を振る。

 嘘をついているようには見えない。


 御者のお仕着せは確かにギルモア家のもので間違いない。


「確かに賜った。兄上が帰って来るまで、取り敢えず暫く控室で休んでいてくれ」

「は、はい……!」


 帽子を握りしめたまま深くお辞儀をすると、御者の青年は、再び来た道を足早に戻って行った。


「……どっかからタレコミか?」

「軍部に話を通さない、通せない位急いでいたって事か?」


 ふたりがクロードに問いかける。クロードは黙ったまま青紫色の瞳を伏せた。


(……遠見の力か?)


 セルヴェスが言う事には、精霊や妖精が気まぐれに視せるという未来。


 ――タレコミなら、どう考えても軍部を通すであろう。

 冷静な兄が自ら馬車を御して出て行ったという。


 クロードは嫌な予感に顔を上げた時。

 遠くで小さな破裂音がし、ほぼ正面の遠くの空が一瞬光ると、細く煙が上がった。


「!!」

 咄嗟に三人が煙の方向を見ると、アイリスたちが息を呑んだ。

 

 王都で、それも王宮のお膝元での襲撃。


「……マグノリアに渡した魔道具ですね」

 誕生日ごとに贈る魔道具の小型爆弾。


 被害を聞いては怖がるので、多少吹き飛ぶ程度に威力を抑えてある。

 その代わり、何かあった場合に周りに良く解るよう音と閃光、煙が上がるようになっており、魔法付与により、対象物が網で捕獲され縛りあげられる仕組みになっているのだ。


「早く行け! 後から兵を連れて追いかける!!」


 今までとは打って変わって厳しい顔をしたアイリスがクロードにそういうと、相棒に頷いて踵を返した。

 上に出兵の許可を取りに行ってくれるのだろう。


 クロードは小さく頷いて厩舎へと走り出した。



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