表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ2巻8/19発売・小説6巻発売中】転生アラサー女子の異世改活  政略結婚は嫌なので、雑学知識で楽しい改革ライフを決行しちゃいます!【Web版】  作者: 清水ゆりか
第五章 王都王宮・お見合いそして出会い編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

132/354

ふたりとの再会

「お嬢様、お茶の時間にお客様がいらっしゃいます」

「お客様? 私にですか?」


 はい、とトマスは柔らかな笑顔で返事をした。 

 基本普段は主人の居ないタウンハウスの為か、使用人達の時間の流れはゆっくりしている。

 ……語弊の無い様に言えば、やるべきことは手早くきちんとするのは館と変わらないのだが、ゆとりのある感じがするのだ。


 ――余計な仕事に追われていないからかもしれないが。


「誰でしょう……お兄様もご一緒ですか?」


 にこにこするトマスに問いかけると、首を振られた。


「いいえ。それではお時間になりましたら迎えに参りますので、ごゆるりとお過ごしくださいませ」


 答えずに去っていくトマスを見て首を傾げる。

 ……まあ、笑っているから変な人が来るのではないのだろう。


 タウンハウスでの滞在中のスケジュール調整を考えたり、調べ物をしようと図書室へ行く事にした。



 マグノリアは大戦末期の歴史書の類いを開いていた。

 セルヴェスが四十一歳の時に終戦を迎えている。クロードを引き取ったのもその頃だ。


 そしてその頃、確かに砂漠の国と幾つかの小国の連合軍がアゼンダ公国を侵攻・征服。大公と大公妃は投降して捕らえられ、処刑された。

 ……その後すぐにギルモア騎士団が制圧に入り、解放されたとある。


 何処にも大公子の記載はない。

 公的には『いない』と言う事だろう。

 

 考えられるのは、ふたつ。


 ゲームと事実にズレが出ていて、クロードが本当に男爵家の生き残りだと言うパターン。

 もうひとつは、戦争である程度自分達の運命に予想がついていた為、極秘に出産をした上で存在を隠したパターンだ。


 大公と大公妃の肖像画を探す。

 アゼンダの人間は暗い髪の色が比較的多い為、元々アゼンダの人間であるクロードも黒髪である。


「これか……小さくてわからないなぁ」


 仲睦まじい様子で寄り添って描かれている大公夫妻の挿絵がみつかったが、精度は微妙である。

 ただ、髪はどちらも暗い色である事が解るのみだ。細かい顔立ちまでは解らない。


 文章を読み進めて行くと、何気ない一文が目に入る。


 ……大公妃の瞳は青紫色。


 もし、大公子なのだとしたら、あの瞳はお母さん似と言う事なのだろう。

(……そうだ!)


 墓石に彫られていた家名はリンドベリ。


 貴族名鑑のある本棚へ足早に向かう。

 外国とのやり取りも多かったギルモア家は、近隣国の貴族名鑑も当然揃えられている。

 数年単位で入れ替えられる筈だが……


 マグノリアはそこまで思うと、はたと歩みを止めた。


(……私は探すべきじゃない。大公子でも男爵家の息子でも、どっちでもいいじゃん)


 隠す必要があるから隠しているんだろう。もしくは、言う必要も無いから言わないのか。


 マグノリアは両頬をパチンと張ると、窓の外を見た。

 それよりも、やるべき事をする方が先だ。



 

 キャンベル商会訪問、もしくは面会。王都の市場確認。

 帰るまでにもう一度位はヴァイオレットとも会っておきたい。


 せっかくなので仕事抜きで王都見物もしてみたい。


 ヴァイオレットやディーン、リリーと一緒も楽しいだろうけど、食の好みが合うクロードと一緒だと色々試せて楽しいのだが、忙しいだろうか。

 ……一応彼は付き添い兼軍部の仕事の為にこちらに来ているのだ。


(王都に住んでいたのに、屋敷から出た事なかったもんね)


 一般的なご令嬢は然う然う外をフラつかないだろうし、何なら領地持ちの家であるのならば子どもはそちらで過ごしているであろう。

 シュタイゼン家の様に熱心な家は、領地持ちでも子どもを王都に住まわせているようではあるが……


 暫くすると、トマスがお客様の来訪を告げた。

 さっと身なりを整えてサロンへ行くと、開いた扉の先に、ちょっとだけ大人っぽくなったデイジーとライラが座っていたのである。


「デイジー! ライラ!?」


 ふたりはマグノリアの入室と同時に立ち上がると、丁寧に礼を執る。

「マグノリア様、お久しぶりに御座います」


 元気な女の子だったデイジーはしっとりとした雰囲気に変わり、ライラは淑女から正に良妻賢母となった様子である。


「お元気そうで何よりです。お噂はこちらへも届いておりますよ」

 ライラが上品に微笑んだ。


「えぇ……。びっくりしたぁ!」


「やりましたね、ライラさん!」

 上手く言葉が紡げない様子のマグノリアを見て、デイジーはかつての溌溂とした微笑みを浮かべ、ライラに向かって振り返った。



 まずはずっと心配だった、マグノリアが去った後の事を聞いた。


 ジェラルドとの約束通りちゃんと配慮がなされた様子で、特にそれまでと変わりなく退職まで過ごせたそうだ。

 マグノリア自身が見つけ出した書類など、唆したとかある事無い事、難癖付けられないかと心配したが……今更ながら、杞憂に終わったようで安心した。


 そして予定通りに退職と結婚をし、デイジーはすぐに身籠って翌年出産。そして現在二人目を懐妊中であるという。

 ライラは一年程して身籠り、今は一児の母だそうだ。


「うわ~、ふたりともお母様かぁ。月日が経つのは早いねぇ……」


 しみじみと噛み締めるように告げるマグノリアに、ふたりはクスクスと可笑しそうに笑った。


 笑った顔が満たされている様な、穏やかに滲み出るように輝いていて、幸せに過ごしているのだなと言う事が聞かずとも伝わって来るようで。

 

 マグノリアは満足気に微笑んだ。


「マグノリア様も大きくなられて。病気の治療や新しい事業、領内の改革など多岐に取り組まれていると聞いております」

「あの時は色々驚きましたが……今となってみれば、マグノリア様らしく過ごされているご様子。結果、宜しかったですね」


 四年の月日がそうさせるのか。

 それとも母になって、子を思う気持ちがそうさせるのか。


 デイジーもライラも、まだ子どもであるマグノリアに慈愛の気持ちを向けている事が伝わって来る。


「……まあ、お父様達にも色々あったのですけどね。でも色々鑑みて、アゼンダへ行って良かったのだと思います」


 あのまま、お互いに傷つけ合いながら暮らすよりも。少しでも解り合えたなら、離れてみて良かったと思うのだ。



 ふたりからそれぞれの結婚の様子や子どもの様子を聞き、マグノリアはアゼンダでの四年間を話して酷く驚かれた。

 またアイリスに会った事も話すと、ライラは懐かしそうに瞳を細めた。



「ロサは元気にしているか解りますか?」


 もう一人、その後を懸念していた人物の事を聞く。

 もしかしたら辺境伯家のタウンハウスに移動しているのではないかと思っていたのだが、姿は無かった。


「私共が辞めて暫くした後、ロサさんのご実家のお母様がお倒れになったそうで……そのお世話をする為にお屋敷を下がられたとの事です」


 気遣わし気にデイジーが言う。


「そうだったの……」

 ロサの母親ということは、かなりご年配だろう。


「元気になってると良いけど……」

 心から呟かれたマグノリアの言葉に、ふたりは神妙な表情で頷いた。



 帰り際、アゼンダから持って来ていた手荷物を二人に渡す。


 肌触りの良い布で作った、パッチワークの肌掛けだ。子どもが産まれている事が解れば、トマスに送って貰おうと用意していたのだ。


「思いがけずふたりに会えて良かった。家の事や子育てに忙しいのに来てくれて、本当にありがとう。

 ……これ、お子さんのお昼寝にでも使って?」


「マグノリア様……ありがとうございます。大切に使わせて頂きますわ」

 ライラの言葉に、デイジーも頷く。


「デイジー。体調に気をつけて、元気な赤ちゃんを産んでね」

「はい。マグノリア様もくれぐれもお元気で」


 以前と同じように、瞳が涙で真っ赤になっている。まだ目立たないお腹を、断りをいれて優しくなでる。

 そしてマグノリアは苦笑いしながら、デイジーの涙をハンカチで抑えた。


「ライラも。子育ては大変だと思うけど、無理し過ぎないで、時には休んじゃってね?」

「ありがとうございます。何か困った事がございましたら遠慮なくお声がけ下さい。大した事は出来ませんが、お力になれる事もあるかと思います」


『ギルモア家の隠されたご令嬢』について、いまだに色々な噂が錯綜していると言う。


 今でも心配をしてくれる存在というのは、素直に有難い事だ。

 マグノリアは安心させるように笑って頷いた。

 

 見送っている所に、クロードとトマスがやって来た。

 揃って、去り行く馬車を見送る。

 

「もう~……黙ってるなんて」


 ずるい。

 口を尖らせると、クロードとトマスは顔を見合わせて笑った。


「ずっと気にしていただろう? なかなか王都に来る機会も無いだろうから、連絡をしたのだ」

「ありがとうございます。幸せそうで安心しました」


 もうじき見えなくなりそうな馬車を見つめながら言う。

 その幸せがずっと続くように願いながら。


「……そうか」

 クロードは短く、だけど優しい声でそう返事をした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ