表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ2巻8/19発売・小説6巻発売中】転生アラサー女子の異世改活  政略結婚は嫌なので、雑学知識で楽しい改革ライフを決行しちゃいます!【Web版】  作者: 清水ゆりか
第四章 アゼンダ辺境伯領・お披露目編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

113/354

答え合わせ

「本来は……お父様が視た未来は、そのままかもっと酷い状態かで『マグノリア』が『王太子妃候補』になるかなろうとするのだと思います。そこで、色々トラブルが起きる。()()()のか()()()()()のか、両方なのかは解りませんが。結果、捕縛か、幽閉か、国外追放か。最悪は処刑されるのかは解りませんが……まあ、『マグノリア』に身の危険がある。それを回避しようとしているんですよね?」


 ざっくりと。本当にざっくりと、ありそうな悪役令嬢の末路を口にする。


 捕縛と出た時点でジェラルド以外は酷くびっくりした顔をしていたが、処刑と聞いていよいよセルヴェスとクロードは険しい顔つきになった。


「……そうならないように、教育を施せば良かったのではないか?」

 感情を極力抑えたように話すクロードの、もっとも過ぎる意見に頷く。


「普通はそうですね。ですが元々、『マグノリア』のポテンシャルは底辺なんですよ。更に家族環境や不和、無気力化などでより内面が悪化してる訳です。教育は容易な事ではないでしょう」


 ……努力する悪役令嬢もいる。

 ここでよく名前が出る『筆頭侯爵家のガーディニア様』がそれを担っているのかどうかだ。


 そもそもガーディニア様がヒロインである場合。

 もう一つは彼女が努力家の悪役令嬢だった場合……その場合は平民か低位貴族に、ヒロイン役の令嬢がいるのであろう。こちらの方がよくあるパターンだ。



「容易ではないなら余計に、何故当たり前の環境を用意しないのか? 出来ないからです」


 マグノリアは椅子から小さく飛び降りると、腕を組みながら窓辺へと移動した。


「昼間のブライアンお兄様は、自分の行動にとてもびっくりしている様子でした。幾ら我儘で尊大とはいえ、お爺様に憧れ騎士を目指しているのです……こんなに小さい子どもに向かって自分が暴力を振るおうとするとは思っていなかったのでしょう」


 擁護されつつもディスられるという微妙な内容に、ブライアンは釈然としない顔で頷いた。


「そういう風に、感情や行動が『マグノリア』を拒否・拒絶するように出来ている。それはなぜか。――『マグノリア』を『マグノリア』として必要な行動と人格を得られる環境に落とし込むためです。

 ……そういう感情や行動の強制が、お父様にもお母様にもあるのでしょう」


 さらりと説明されるが……そうであるのなら誰にとっても不幸でしかない内容に、セルヴェスが唇を引き結んだ。


「それらが絡み合って、物事のベースが作られている訳です。外部者にも解り易い上に『マグノリア』に歪みを与えるような事柄……ミドルネーム、お披露目、教育の欠如。人格形成のためには恵まれない環境」


 いつもなら喚き散らしそうなウィステリアが、瞳を揺らしながら何かを考えている姿が見えた。


「ただ、意志の強いお父様は()()()()()『未来』に抗おうとした」


(不味い……! マグノリアは全てを推測しているのか……!)


「……それ以上は止めなさい!」


 焦ったようなジェラルドの制止を振り切って、マグノリアは続ける。


(誤解させたままでは駄目だ)

 どんなに辛い戦いだったのか。どれだけ抗ったのか。


(マグノリア自身も、きちんと知らなくては)


「その代償が『家族の命』だったのです」


 言い放たれた言葉に、ピンと張り詰めた空気が部屋を満たす。

 瞳を閉じるジェラルド。瞳を瞠る四人。


 時が止まったかのような静寂の中、マグノリアの声だけが響いている。


 ――否定の言葉が無い上に、力なく瞳を閉じたジェラルドの姿に、予想が外れていない事を確信する。


「……どんなに感情が許さなかろうが決められていようが、初めは当たり前の名前をつけようとしたのでしょう。当然お披露目もしようとした。極当たり前のものを与えようとした。そうしたら、時間稼ぎなのか、阻止なのか。もしくは見せしめかのように身内が亡くなっていく訳です……勿論、そんな事になるとは思わなかったのでしょう。知っていたら当然違う策を講じる筈です……それに気付いて愕然とした。当然、止めますよね?」


 この世界でも、出生届に似た制度があるらしい。

 名前の届け出は教区の教会に二週間以内という決まりがあるそうだ。

 考えれば中世ヨーロッパ風というよりは、日本っぽい制度だ。

 ……まあ何にせよ、名前の確定には、二週間というタイムリミットがある訳である。


 お披露目も大がかりな用意が必要であるため、ある程度の時期には予定を組まねばならない。

 

「せめて生活環境を、教育をと思えば、今度は私が病に倒れるようになる。リリーに確認しました。不幸が続いた後、急に私が体調を崩すようになったと……このままだと次に死んでしまうのは私かもしれないと思うに至る訳です」



 ジェラルドは、かつての自分の計画を思い起こしていた。


 敢えて『マグノリアの身の安全のために』教育を放置する。

 ……『もう誰にも危害が加わらないよう』、念には念を入れてお披露目をしない。

 『王家から守るために』、マグノリアの存在を隠匿する。


 もしかしたら、視えた未来が間違いだと解るかもしれない。解決策が見つかるかもしれない。ギリギリまで望みを持ちたい――


 そのタイムリミットはブライアンが学院に上がる頃までであろう。そこを過ぎると教育が間に合わなくなる。

 何も見つけられなかった場合は、王都から遠く離れた口の堅い、信頼の置ける低位貴族へマグノリアを託す。低位貴族ならばそうそう王家と関わらない。


 そこまで辿り着ければ、マグノリアの安全は護られる。


 それまでは家族の不用意な言葉や行動でこれ以上傷つけないように、せめて侍女に見守られて過ごしてほしい――

 


 考え込んでいたクロードが口を開いた。


「……修道院に、というのは矯正や幽閉の意味ではなく、出来ない教育を施すためであり、王家から身を隠し守るためなのか……一般的には瑕疵になるから、王家とは直接関わりを持ち難い低位貴族に嫁がせやすい」


「そうです。家に有利な相手ではなく、純粋に信頼の置ける人を探して託すつもりだったのでしょう。結婚してしまえば、万一王家に見つかっても王太子妃になんて話は出ないでしょうから。とんでもない未来よりは、現状で出来る限りの対応をして、平凡で安全で自由な未来をと考えたんですね?」


「あの重い扉も、不用意な出入りで万一にもカッとして傷つけられることが無いよう、苦肉の策だったのか……」


 

 ジェラルドは静かに前を向いていた。

 誰の言葉にも、具体的には何も返さなかった。


「……否定はしない。私の口からは、この件についてそれ以上何も答える事は出来ない……誰にどんな不幸が起こるか解らないからだ」


 否定はしないという事は、何処まで相違があるのかは別にしても、大筋としては合っているという事だろう。


 ジェラルドの言葉を聞いて、何かに思い当たったかのようなウィステリアがゆっくりと顔を上げた。


 その様子に、かつてウィステリアには話したことがあるのだと思い至る。

 ……父と母として出来る事をと思って、打ち明けたのかもしれない。


 そして結果、ウィステリアの身内に不幸があったのだと。

 残酷な現実に、全員瞳を伏せた。


 マグノリアが産まれてすぐの、バートン伯家の葬儀。


 ウィステリアの高齢で病気がちの祖母であったため、深く悲しみはしたものの、その死に不審は抱かなかった。

 ジェラルド以外は。



(ああ……そうやって、独りで抱え込んでくるしかなかったのか……)

  

 とんでもない未来を視せられ、抗おうとすれば家族を人質に取られ。

 過れば失われる恐怖と重圧に耐えながら、たった独りで娘と家族の未来を案じ、回避するために策を講じてきたのだ。



「申し訳ありません、私のせいで……曾祖母様たちと、お祖母様が……」

「お前のせいじゃない……私の責任だ」


 マグノリアの悲痛な声に、ジェラルドが首を振る。


「誰のせいでもなかろう……責めるなら、そんなおかしな未来を作った存在をだ」


 セルヴェスがジェラルドとマグノリアに言い聞かせるかのように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。クロードも大きく頷いた。


 ウィステリアとブライアンは、何かを考えるような表情でマグノリアとジェラルドをみつめた。



*****

 みんな酷く疲れたため、リリーを呼んでお茶を淹れてもらい、程無くして散会となった。

 すっかり暗くなった廊下を、揺れるランプの灯りの下、全員言葉なく歩く。


 もうこんな機会も無いのかもしれないと思い、廊下を移動する中、思い切ってジェラルドの近くに寄った。


「でも……どうしてお爺様やクロードお兄様には強制力が働かないのでしょう?」


 マグノリアは至極もっともな疑問を口にした。

 ジェラルドが躊躇いがちに答える。


「これは推測なのだが……『別の未来』か『その先の未来』に関わっているからなのじゃないかと思う」

「別の未来か、その先の未来……」


 断片的な未来の欠片は、まだまだ視えていないものも数多くあるそうなのだ。


 悪役令嬢っぽいマグノリアがどうなるのかは教えてもらえなかったが、話からすると処刑はされないらしかった。

 それなら、国外追放か幽閉なのか……


 実際にそうなるかもしれない身としては大惨事だ。

 微妙どころでない未来に、ため息しか出ない。


『物語』は悪役令嬢が追放か幽閉され、ヒロインと王子様がハッピーエンドを迎えるのだろう。

 

 ただ、そこで物語は終わったとしても……当たり前だが現実の世界では『その続き』が存在しているのだ。

 

「……そんな事になったら、お爺様が挙兵しないか心配です」

「あの溺愛振りだ、充分有り得そうだな」

「縁起でも無い事言わないで下さいよ!」


 ジェラルドが小さく苦笑いすると、マグノリアが嫌そうに眉を寄せた。


 


 次の日の朝、ギルモア家の馬車が玄関前に止まっていた。

 パレスにいる者全員で見送りに立つ。


「それでは、お世話になりました」

 ジェラルドの言葉に合わせ、ウィステリアとブライアンが頭を下げる。


 ただでさえ、相容れないように出来ているのだ。彼等なりに色々と思い、感じ、堪えてもいるのだろう。


 更には事情を知り、何処か怯えたような表情を浮かべているふたりに、ゆっくりしていけばいいとは言えない雰囲気であった。

 ……無理もない。


 心の整理と、安心できる場所での休息が必要であろうと思う。


「……マグノリアの事は心配するな。こちらでもしっかり護る」

「宜しくお願い致します」


 セルヴェスの言葉に、ジェラルドが頭を下げた。

 顔を上げ、マグノリアに向き直る。


「……マグノリアも身体と、王家にはくれぐれも気を付けなさい」

「はい」

「それと、曾祖母様からお前にだ」


 そう言って、ピンポン玉程の大きさの青い石のようなものを手渡される。

 すべすべとした、まるで卵のようなそれ。


「……これ、何ですか?」

「さあな。時期が来たらお前に渡すようにと、生前預かっていたものだ」

「はぁ……ありがとうございます……?」


 不思議そうにまじまじと石とジェラルドを見比べて、首を傾げながらお礼を言った。

 セルヴェスが嫌そうな顔をして身を仰け反らした。


「……母上か! きっとロクなもんじゃないぞ!」


 それを見て、マグノリアとジェラルド、そしてクロードが苦笑いした。

 ウィステリアとブライアンが馬車に乗りこんだ様子を見て、最後の挨拶をする。


「お父様、今まで護って頂いて本当にありがとうございます」

「いや……済まないな」


 苦い顔をしながら首を振るジェラルドの短い謝罪の言葉には、万感の想いが込められているのだろう。

 ジェラルドのそれに思いを馳せる。


「……今後はどうぞ、ご自分の為にも生きて下さいませ」

 

 マグノリアも、想いを込める。

 ギルモアの中のギルモアと呼ばれる、器用で不器用な父へ。



「最悪、王家が何か言ってきた場合は、風除けにブリストル公爵令息が仮の婚約者になって下さるそうですから」


「「「……は?」」」


 冗談半分にそんな案もあるのだと軽い気持ちで言えば。

 セルヴェス、ジェラルド、クロードが三人とも凄まじい表情で顔を歪め、遥か下にあるマグノリアの顔を急ぎ見た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ