01
ある日の真夜中に俺はPC画面に映るゲームの中で倒れ伏したプレイヤーに対して、連続屈伸動作やその上をしゃがんで飛び越すなどの煽りを繰り返していた。相手の頭に浮かぶプレイヤーネームには【L0K!】と表示されている。その彼からチャットでうぜぇ、止めろ、この✕✕✕野郎などの罵詈雑言が飛んでくるが、その文字列などに対ししゃがみ四回転半ジャンプでその体の上を反復横飛びして応える。
そしてやりすぎたと思ったその時にボイスチャットが繋がり向こうの罵詈雑言が生声で飛んで来たので、うんざりしながら軽い言葉で謝罪しながらステップキャンセル(略してステキャン)していると相手が黙ったので冷静になったかと思ったその時、
「死ね!!」
ヘッドホンからではないように聞こえた声に驚くまもなくパソコンの画面が強力な光を放ち意識が飛んだ。
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「サーセンシター」
次に眼にしたのは大根でもすりおろす気なパンクファッションで痩身のイケメン(縦長に立てた髪の)が不貞腐れた顔で謝罪をしてきた。
どなたかと考えたが直ぐに考えが霧散した。いや霧散したと言うより【そこ】━どこと尋ねられてもそことしか言えない━に置かれた感じだ。そして抜けた思考の場所に何故ここにと言う疑問と直前の記憶が蘇った。
「そーっすね。そっからなんすけど、まずオレ神な。んでさっきのお前にPKKされたプレイヤー」
神と言われても地球には何個も神話があるからどこ神と言ってくれないとわからない。そんな疑問も抜き出され【そこ】に置かれた。そして今の状況が把握できないことに気付く。
「んで、お前くそ煽ったろ。そんでオレがムカついてお前を殺しちゃったって事よ。まー、さすがに神が放棄した世界で神力行使して更に生き物殺したんでくっそ親父に怒られたわけよ」
おー、そうか。で納得ができるか!と怒鳴ろうとした気持ちと親父は主神か創造者のどっちだと言う疑問が【そこ】に置かれる。この【そこ】に置かれる感覚が気持ち悪い。多分これは規定事項だから話しているだけでそれ以外、脱線しそうな事柄は俺のなかから抜かれてしまうシステムなのだろう。
「なんで面倒だが色々掛け合ってそう言う運命だったと言うことにしてもらって、残りの寿命を別の場所で過ごして貰おうと考えたわけ。ここまで理解OK?」
はいはい、で直ぐ死ぬような場所だと直ぐ死ぬんだが。この発言は沿っているらしく抜かれない。
「そうだ。直ぐ死なれちゃ困るんだよ。こんなにちっぽけなくそ魂なんぞ潰したい訳だけど……」
神が摘まむような仕草をしたら体がギシギシと嫌な音を立てている気がするが、直ぐにそれがなくなる。
「こうやってわざわざ親父がわざわざ魂の保護かけたからそれもできないわけで、でなに必要?」
わざわざを二回言ったぞこいつ。それでいきなりカツアゲの様に願いを要求された。いきなりだったから能力をと言うのは事が思い浮かべられずついポロっと思考してしまった。
「はー、それでいいんだ。ま、スゲー能力は与えられないんだけどな。悪戯の神だし」
神は懐から一冊の本を取り出し表紙に文字を書くとこちらに向かって投げてきたのでキャッチしようとしたがその時になって腕が、いや体が無いことに気がついた。
「ま、死にやすいが死ににくい世界だから頑張る事だな。まず有名どころの十階でも目指すんだな」
そう言って俺の視界から捌けると意識がここに来る前と逆に黒く染まった。
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そして目の前に狼の顔があり、反射的に腕を上げると左腕を噛まれた。その痛みでパニックになり大声を上げるとそれを嫌がってか俺から離れ警戒する。その反作用で地面に俺は転がる。
腕の燃え上がる様な暑さの中、痛い痛いと言う思いと同時にあの神に対し生まれる怨嗟をぶつけながら、先程噛まれ熱く痛む腕を握りこむが狼に噛まれたにしてはあまり血が出ていない事に気がつく。手の開け閉めも痛むが支障がないほど普通にできる。
ならばと体を起こし先程の狼、いや狼人?人型のそれに神への怨嗟を含めた怒りの視線を向ける。立ち上がると同時に手の中に手頃で大きめの石━━サスペンスの凶器に使えそうな━━と土を握り混むとそれから逃げるように背を向ける。
「安全地帯から始めさせろやゴルァァァァァァァァ!!」
数十時間の逃走と格闘の末、密室であったこの部屋の勝者は4匹目の狼人だった。早い二度目の死である。