おにぎりは世界を救えるか~食べ物で遊んではいけません~
飯島直樹にとって、一番の友人である田淵洋平とコンビニで買い物をするのはごく日常的なことだった。いつものように二人でおにぎりコーナーに直行すると、直樹は牛焼肉を手に取りすぐに会計を済ませる。店の外で待つこと二分、ツナマヨを手にした洋平が店を出てきた。
次の電車まで少し時間がある。二人はベンチに腰掛けそれぞれのおにぎりを食べ始めた。
「おにぎりってさ、いい形してるよな。投げやすそうで」
「は?」
直樹には洋平が何を言いたいのか理解できなかった。
「もしもさ、世界中の戦争や紛争で使われている武器が全部おにぎりだったら、世界は平和になると思わない?」
「……は?」
まだわからない。
「つまり、雪合戦みたいに相手の国の兵士めがけておにぎりを投げ合うんだよ。これなら投げた側はストレスが発散できてうれしいし、投げられた側はそのおにぎりが自分のものになるからうれしい。ウィンウィンじゃん」
ようやく洋平の言いたいことが少し理解できた気がする。
「あのさぁ、そんなことできるわけないだろ。大体どうやって勝ち負けを決めるんだよ」
「だからもしも、って言ってんじゃん。ちなみに先に米の生産が追い付かなくなった国が負けな」
なぜか得意げに答える洋平。
「それにさ、戦争って他国の土地とか人とか資源なんかを奪うためにするもんだろ。おにぎり投げてどうすんだよ」
「たくさんおにぎり投げてくれたから少しは譲歩しよう、ってな感じで案外平和的な解決につながるかもしれんぜ?」
直樹はため息をついた。
「結局、何が言いたいわけ?」
「いや、日本は平和だなぁ、って」
洋平はそう言って空を仰いだ。
「俺たちがこういう馬鹿話をしている間にもさ、世界じゃどこかで紛争が起きてるし、銃で撃たれて死んだり、おにぎり一つ食うことすらできず餓死していく人だっているんだぜ?」
「そりゃそうだけど……」
「だったらさ、おにぎりが世界を救う夢くらい、見たっていいと思わねぇ?」
その質問に、直樹は答えることができなかった。洋平がまじめに言ってるのか、ふざけているのか、わからなかった。
「世界中の核開発施設や重火器の製造工場がみーんなおにぎり工場になっちまうんだ。大砲からおにぎりが射出され、戦闘機が上空からおにぎりをばらまく。なんか笑えるだろ」
二人は、どちらからともなく立ち上がった。もうすぐ電車の時間だ。
「一つだけ、いいか?」
「なんだよ」
「……食べ物を粗末に扱うのは、よくないと思うぞ」
読んでいただきありがとうございます。
今回も企画応募用のかなり短い作品なのですが、一作目がかなりカタい作品で「これなろうっぽくないな」と感じたので、本作は少し砕けた雰囲気を出したつもりです。ただ、やや突飛な話なので合わない人もいるかもしれませんが、楽しんでいただけたら幸いです。
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