プロローグ 『バッドエンド』
「——いってぇ」
月の光が微かに照らす、小さなアパートの一室で、少年は床に転がり両手で腹部を押さえている。
彼が抑えている場所からは、止まることのない真っ赤な血が流れている。
「ガハッ……!! ハァ……ハァ……」
自分が感じたことのない激痛が体中を走る。
額からは汗が流れ、半袖の制服は真っ白だったのにも関わらず赤に染まりつつある。
息が荒れ始め、口からも血が流れる。
どうして自分がこんな目に合わなければいけないのか、少年は薄れゆく意識の中で、自分の人生を振り返っていた。
だが、そんな余裕すら与えてくれない。
腹部から流れる血は水よりも濃く、燃えるような痛みが永遠に続く。
「ごめん……ね……、カイト……」
その声が聞こえると、少年はゆっくりと瞑っていた目を開き、自分の目の前で倒れる女性を見つめた。
微かにしか見えないが、地面を這いつくばりながらもゆっくりとこちらに近づいて来ていた。
——床を真っ赤に染めながらも、ゆっくりと。
そして少年も必死に近づいてくる彼女の元へ近づこうと力を入れるが、逆に自分の首を絞めることになってしまう。
傷口がさらに開いてしまったのだ。
その痛みに耐え切ることができず、悔しい表情を浮かべ過呼吸のまま再び目を閉じる少年。
片手で床を這いずりながら、ゆっくりと着実に少年のもとへ近づいていた女性。
彼女は何かを察すると、美しい顔を涙ぐませながら笑顔で少年に話しかけた。
今にも消えゆく意識の中でその言葉を、少年はちゃんと聞き取っていた。
「生まれてきてくれて……ありがとう……」
——母さん。
少年が女性の言葉に応えようとした瞬間、彼の意識は、どこか遠くへと消えてしまったのだ。
誤字脱字あった場合は後々修正していくつもりです!
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