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回避しますよ、お嬢様。

「ぅん……なかなか慣れないわね。お尻が痛いわ」

「お嬢様、それは仕方がありません。慣れるまで辛抱してください」

「そう……よね」


生き残るためには、泣き言を言えない。間違いなく、私が何者かに狙われているのだ。何事も人任せには出来ない。


「前々回は、落石による事故死でした。そして、前回は溺死……」


そうなのだ。毒殺、刺殺ときて、落石による事故死、溺死と続いた。






前々回──


半年の訓練に耐えた私達は、サルノース殿下が正式に皇太子として立太子されたことをお祝いするために、訓練を一時お休みして、公爵領から峠を越えて王城を目指していた。半日程の移動なので、おそらく油断していた。


移動中の事故だった。数日前まで雨が降っていたから、地盤が脆くなっていたのだろう。私とお父様の乗っていた馬車は、崩れてきた岩によって押し潰された。あっという間の出来事だった。


同行していた者達は、すぐに救助を開始したが、私達の体を馬車の中から引きずり出した時には、既に私達は息を引き取った後だったとのことだった。この時、アランやデュランだけでなく、護衛として騎士団長のシュライエン様も加わっていた。これが、シュライエン様が巻き戻りに加わった周回だった。






そして、前回──


私が巻き戻った日には、既にシュライエン様による訓練が始まっていた。私が巻き戻る一年前まで巻き戻ったシュライエン様は、すぐに公爵家を訪れ、時間の巻き戻りについての確認と、私達の記憶についてを確認し、全面的に私達に協力することを申し出てくれていたらしい。


前々回から、お父様は、アランが公爵家を訪ねてきたら、すぐ屋敷へ迎え入れ、私の従僕とするように手配をしてくれている。


アランが巻き戻る日は、毎回異なるようだったが、確実に私よりは早いタイミングで気づくようだ。前回も、今回も、巻き戻った日には、既にアランが従僕として隣にいた。

デュランは、早かったり同時だったり、色々みたいだ。


そして、お母様は、お茶会等で娘がお転婆すぎるので公爵家から出さないと宣言して回り、お兄様達は勉強もせず、学園で私の味方となる信頼できる人を増やしてくれている。優秀なお兄様達二人は、二度も受けた試験の内容は覚えているそうで、試験直前に復習するだけで構わないらしい。私の家族は、私が生まれた瞬間から私が八歳になるまでの、どこかのタイミングで巻き戻りに気づくらしい。


コルトが巻き戻りに気付くタイミングは、毎回私と同時。


更に、公爵家で働く者の中にも、少しずつ私の巻き戻りに巻き込まれている者が現れているようだった。私達のように、はっきりとは覚えていないようだったが『あっ!来月、父が病気になるから、事前に薬を送っておこう』とか『来週、花屋のチカさんに彼氏ができる予定だから、その前に告白してくるわ』とか、一度体験したことがあるように話しているのを聞いた。あとは……私を見る目が、何か……。


皆、私が十七歳になるまでに大体何が起こるのか分かっているので、できることは先回りして行動している。


シュライエン様が事情を知ったことで、私達の訓練は更に厳しいものとなっていた。私達四人は毎日走り、各自の武器の訓練をした。初めて訓練した日の帰り際、騎士団長であるシュライエン様は、


(とお)になったばかりの娘や子供らを集め、軍事訓練さながらの訓練を始めるなど、公爵は子供らを何と戦わせるつもりなのやら……」


と、疑問を口にしていたが、シュライエン様も私達の巻き戻りに加わったことで、何となく伝わったようだった。


私はというと、ドレスとヒールで走り慣れた頃に、髪飾りを使った鍵開け、的当て(ダーツのような物)、毒利き、応急処置の訓練をした。私は公爵令嬢というより、侍女や護衛が訓練するようなことを中心に訓練している。


そして、サルノース殿下の立太子のお祝いに向かう運命の日。私達は、前回の反省を踏まえて、公爵領から王都の近くまで流れる運河を利用して、船で向かった。


結果、理由は分からないが船が転覆し、運河の圧倒的な水量と流れに飲まれて、私達は溺死した。






本当に、何かに呪われているとしか言いようがない。


「ねぇ、アラン。馬車での事故死を心配して、馬車の使用頻度を減らしたし、乗馬の練習も始めたけれど、騎乗中の転落死は考えなかったの?」

「考えました。なので、いつもお嬢様一人では騎乗しておりません。常に、誰かと一緒に騎乗しているはずです」

「そう言われてみれば……」

「我々の誰かが一緒なら、馬が暴れて落馬したとしても、お嬢様だけは守ります。今度こそ……必ず、命に変えても守ります」


そうよね……。毎回、目の前で私が死んでしまうのだものね。アランの淹れたお茶に倒れ、毒によって衰弱死したり、アランが体を張って毒に精通すれば、今度は刺殺され、事故死まで。アランの心には、私──主人の死の恐怖が刻み込まれているわよね。


「ごめんなさいね。私が貴方を公爵家へ連れてきて、私の従僕にしたばかりに、アランまで巻き込んでしまったわ……」

「それは違います!私がお嬢様にお仕えしたいのです。他の誰でもなく、お嬢様に、私の忠誠を……捧げたいのです」

「……ありがとう、アラン」


「おーい、そろそろ昼食にしよう!」


デュランが呼んでいる。私とアランは、デュランが用意した昼食を食べるため、急いで戻る。一緒にアランがいるとはいえ、私は皆から見えるところでしか自由に動き回らないようにしている。お父様が公爵邸の警備を増やしてくれたが、それでも心配は少ない方がいい。


「ところで、アラン」

「何でしょう、お嬢様?」


デュランが馬の手綱を受け取り固定すると、私を馬から下ろしてくれた。


「毒花茶の時に話していた貴方の()()()()()()()、今はどうなの?」

「……っ!?」

「アラン、何か不安があったのか?」


デュランが、ビクリと反応したアランの方を不思議そうに見た。


「お嬢様……それは、何事もなかった時の不安です。今は、それどころの不安ではありません。お嬢様の死に比べたら、私の毛根など、いくら死んでも構いません」

「そうなのね……」


真剣な顔で話す私達だが、反応したのはデュランだった。


「おまっ……アラン。もしかして、髪が薄くなるのを心配していたのか?既に兆候でもあったのか……!?」


デュランが目を見開いてアランを見つめている。アランは気まずそうに視線を反らした。あ……実は、まだ気にしていたのね。


「ご、ごめんなさい。アランの薄毛の悩みをデュランの前で話してしまって……」

「いえ……」


気まずい空気が流れた。


「ま、まぁ……先に昼食をとろう!」


デュランが気を遣って、昼食の準備を始めた。既に、毒の確認は終わっていたようで、各々の皿へ取り分けてくれる。


私達は、口数も少なく食事を終えた。


普通、公爵令嬢と従僕が一緒に食事をすることはないが、私一人で食事をする時には、二人にも一緒に食べるようにしてもらっている。

以前、二人は食事のために私から離れることを不安がり、遂には携帯食で適当に食事を済ませようとした。それ以来、私が、()()()()()()()()()()に指示している。

とはいっても、子供に食事を与えながら自分の食事も済ませ家事を進める母親の如く、私が食事をする時間の半分の時間で二人は交代しながら食事をし、きちんと従僕としての仕事をこなす。


そもそも、アランとデュランの二人は、従僕であって護衛ではない。従僕とは主人の世話係なのだ。秘書的な仕事もこなす執事の見習いの様なものだ。何故、戦闘訓練まで始めたのか……。あっ、私が何度も死ぬからか!

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