9話 理解する
見慣れない天井だ。
そうだ。さっきまでユミトと戦っていたはずだ。そして気を失った。まったく歯が立たなかった。もうちょっと戦えると思ってた。
「タイシ君、目が覚めたんだね」
カペラはかなり驚いているようだった。俺はそんなに寝ていたのだろうか。
「すみません。カペラさん。俺ってどのくらい寝ていたんですか」
「えっと、2時間ぐらいかな」
なるほどな。2時間か。心配させるには十分すぎるぐらいには寝ていた、のか?まあ戦ってる最中に眠る、と言うよりかは気絶が正しいかな?そうなったら1時間だろうがなんだろうが心配させてしまうか。
けどこの驚き方は不自然な感じがする。なんというか心配していたというよりも、なんで今起きたの!みたいな感じだ。俺が目を覚まさない方がよかったのか、そうなのか?泣いちゃうよ?9歳児らしく泣いちゃうよ?
「大変です、ユミトさん。タイシ君が目を覚ました」
「なんだって!ちょっと待ってろ!」
言い方がかなり心に刺さる。本当に目を覚まさない方がよかったのか?とか考えてたらユミト、ムート、ユウキがやってきた。
「どういうことだよ、ユウキ。まだ目が覚めないはずじゃなかったのか」
「わからない。タイシの回復力が俺たちの予想を超えている。けど、早く起きることに問題なんてない」
「そうだけど、あの暴走の仕方でこんなにすぐに回復なんてできんのかよ」
「それに、タイシの魔力が試合前よりも増えてるぞ。倍ぐらいある」
「そんなの俺の知ったところではない。知りたいなら本人に聞けばいいだろ」
そんなこと話していても何が何だかわからない。暴走って何?俺、気絶してから何があったの。
魔力とか回復力とかそんなことも知らない。確かに前も急激に魔力が増えたことがあった。けど、その時とは条件が違うはずだ。魔力もまだ残っていたし、死にかけたわけでもない。回復力も知らない。俺が気絶してるときに何ああったんだよ。
「あの、俺が気絶してる時になにが」
「やっぱり知らなかったか。あの時お前の魔力が暴走した」
「暴走って何?」
「あいつ、何も教えなかったのか。いやまあ、あいつが懇切丁寧に教えるところ想像できないが。暴走は魔力が残り少なくなって、実力以上の事をやろうとすればたまに起こる」
「そんで、いつも以上の実力がでる。これだけ聞けばいいことのようにも聞こえるが、そんなことはない。暴走したらその感情のままに動く。殺気を抱いたのなら無差別で人を殺そうとする。怒りがあったら、発散でもするかのように人に襲ったり物を壊す。そしてそれは魔力が尽きるか、誰かに止めてもらわないと終わらない」
「だから暴走は危険なんだ。そしてそれがさっきお前がなった。俺達で止めたが」
俺は止めてもらったのか。けど、そんなことになってたのか。
「それと、運が悪かったら、魔力を使い切ったら死ぬ。魔力がなくなってもそのまま暴走することがあるんだ。その時に自分の命を使っても暴れる時がある。そしてそのまま死ぬ」
「そうです。だからもうこんなこと起こさないでね。こっちの身ももたなくなるから」
カペラは笑顔で言おうとしたのだろうが、作り笑いだとわかりやすかった。ちょっと本格的に罪悪感を抱くよね、これ。
「まあ、これは魔力の制御がちゃんとできてない、子供の間に起きやすい。ちゃんと魔力の制御ができるようになれば起きないから、ちゃんと練習しろよ」
「わかった」
こればっかりはどうしようもない。練習すれば起きないならするしかないだろ。
「そうだ、武器屋に行って来いよ。ちゃんとした武器をもらってこい。お前のおやじが武器屋に渡してるっていってたはずだしな」
「わかったけど、ギルドの仕事はいいの?」
「いいよ、別に昼はやることも大してないから」
そういう事なら行こう。武器屋とかめっちゃファンタジー。ようやく俺もちゃんとした武器を手に入れれる。ダガーもそうだけど。なんかパッとしないだろ。長剣の方がファンタジーみたいで憧れる。
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言われた武器屋はギルドから意外と遠い場所にあった。ギルドの近くにも武器屋はたくさんあったけど。しかもここの武器屋がある通り、人通りが少ない。ギルド前とは大違いだ。
店の中はゲームでよくあるような内装だ。店主は言ったら悪いがおじさんだ。かっこいいおじさんとかもいるけどそんなんじゃないただのおじさんだ。太ってはない、よく見ると筋肉質みたいなおじさんだ。めっちゃ失礼だけど。
「らっしゃい。お前がタイシだな」
「そうですけど」
「そうか、よかった。魔力が普通とは違うと思ったんだわ。ちゃんと話はきいてるか?」
「どういうことですか」
「なんだ、やっぱり話してないか、あん野郎。まあいい。お前に武器の作り方を教える。ま、厳しいとは思うがな」
「いいんですか!?」
「別にいいけどな。ただし騎士には絶対に売るなよ。これが条件だ」
「わかりました」
「敬語とかいいから」
「わかった、よろしくお願いします!」
これはかなりいい経験ができるんじゃないか。武器とか普通に暮らしてたら絶対に作らないだろ。この世界でも、もちろん日本でも。
「そうだ、名前だな。俺はシュミート。ここで武器を売っている。それと、この国では1番腕がいいとか言われている。騎士からだけどな。一回も売った事ねえのにだ。それと、これがお前の長剣だ」
さらっと凄いことを言った。1番腕がいいとか、そんな場所で教えてもらえるの、俺。幸せすぎるだろ。まあ、その分厳しいだろうけど。
「それと、今持ってる武器を見せな」
「これですけど」
「こりゃすげえな、刃こぼれとかもほとんどねえや。どのくらい使ってるんだ」
「3年ぐらいかな」
「お前、使い方うまいな。魔力をうまく纏わせれればほとんど刃こぼれしないんだ。まあそれだけじゃねえだろうけど」
「けど俺、さっき下手って言われたばっかりなんだけど」
「暴走した話だろ。それとこれとじゃ感覚が全く違うからな。今は気にしなくてもそのうちできることだ。子どもが勝手に走り回るようになるのと同じだ。けど武器に纏わせるのは別だ。これはほとんど技術だからな」
そうは言われても、そう簡単に割り切れるものじゃない。
「ま、これから頑張んな。それと、ここに来るのは週に2回ぐらいでいいぞ。どのぐらいできるかは自分次第だし、本命は冒険者なんだろ?だったらそっちの練習をしないと本末転倒だしな。それと、今日はもう帰りな。疲れてるだろうしな」
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いろいろ濃い一日だった。武器屋から帰ってきてからはギルドの仕事を教えてもらった。情報の整理がほとんどだった。
たまに冒険者が換金に来た。けど量も少なくてやりやすいものばかりだった。
それとここにはいろんな物語?昔話?とか錬金術とかの技術書があった。これは読んでもいいらしい。ラッキーだ。これで暇な時の時間のつぶし方が増えた。
で、いつもみたく、寝れない。濃い一日だったせいだろうか。全然眠気が来ない。まだわくわくしてるのだろうか。こういう時は体を動かすのが一番だよな。毎回これでトラブルに巻き込まれてるけど。せっかく長剣をもらったんだ。試したい。うずうずするよね。新しいものがあると男って。
いつもと感覚が全然違った。当たり前だけどまず長さと重さが違うからいつも通りにできない。できたのは、中学の体育でやった剣道みたいな素振りしかできなかった。良いか?中学の授業でやるような素振りだぞ?それはもうひょろひょろな動きよ。
はたから見るとすごくかっこ悪く見えただろう。剣を振った勢いでこっちの体勢すら崩れた。まだまだ使いこなせそうにない。それと、トラブルには巻き込まれなかった。
面白い、続きが気になると思って頂けたら幸いです。