7話 出会う
相手は冒険者かどうかわからない。筋肉は普通の人よりもついてる。日本にいるチンピラよりも絶対に強いだろう。
しかし魔力の量が少ないのだ。普通の人よりも多いのだろうがそれでも誤差ぐらいしか変わらないだろう。けど一応は勝負。
ここで手加減とかして怪我なんてしたくはないので本気で行く。てか体格的には勝ち目はなさそうだし、手加減とかしたら死ぬんじゃないの?
「どっちが勝つと思う?賭けだ。負けたら飯をおごるでどうだ?」
「いいねえ。俺はトラッタだ。相手はガキだろ。さすがにかわいそうだぜ」
「俺もトラッタだな」
「これじゃあ賭けにならねえじゃあねえかよ」
「んじゃ俺はガキの方にするぜ」
何故か賭けが始まっていた。しかもギルドにいた人全員だ。俺に賭けているのがいるのが不思議だ。俺、魔力は出してないはずなんだけどな。俺に賭けてるのはほとんど見定めるようにしてた人たちだろう。多分。まあ賭けを盛り上げるつもりで俺に賭けてる人も居るだろうけど。
「武器は使ってもいいぜ。俺は使わねえがな。これでいいハンデだろ」
おっと、なめられてるな。仕方ないことだけど。
これは腹が立つな。まあでも、しっかりダガーを使わしてもらおう。どうなっても俺は知らないし。喧嘩売ったのは相手だしな。いいだろ。俺が負けても、子供って言い訳が通用しそうだし、あいつが負けたら自業自得だって言えるだろうし。
「じゃあ、遠慮なくいきます」
「来いよ。ボコボコにされても知らねえがな」
言ってくれるじゃないか。
しかもこっちの動きを待ってるみたいに動かない。これは都合がいい。どうせなんだ。どこまで通用するか確かめるか。
まずは相手の背後を取ろう。魔力のほとんどを足に集めて移動する。これぐらいなら反応できるだろう。そしてそこで魔力に殺気を混ぜて放つ。これでいったん様子を見よう。今まで魔力を出してなかったから少しでも動揺してくれればいいけど。
「行きますよ」
体はイメージ通りに動いた。いつもよりも動きはいいかもしれない。あの道なき山道を歩いてすぐだったから結構疲れてるかと思ったけど、あれが良いウォーミングアップになったんだろう。結構体が動くぞ。
そして驚くことに、相手は何の反応もなかった。俺がどこに行ったのか見失っているみたいだ。もしかしたら罠かもしれない。けど、周りは驚いてるようだった。
とりあえず魔力を放って様子を見よう。どのくらいの魔力を使えばいいだろう。様子みだし、半分ぐらい使えばいいだろう。
そこに殺気を籠める。一応は簡単にできる。ただ相手に殺気を送りながら魔力を放つ。言葉に恨みつらみが乗ってるのと、大して変わらない。
動物たちは殺気がないと少しもビビらないから、嫌でも身に着けれる。
……
どういう事だろう。魔力を放つと相手は倒れた。そして動かなくなった。気絶したのだろうか。相手は冒険者じゃないのか?これじゃあ弱すぎるだろ。え、俺が強すぎる、って言う傲慢さを発揮したいけどさ。まあもし仮にそうだったとしても、俺みたいなガキに負けるなんて、冒険者の名折れじゃないの?
「大丈夫だった?」
「はい、大丈夫です。すみません。迷惑かけて」
「いいのいいの。それよりも、さっきのはタイシ君がやったの?」
「さっきのがどれかわからないけど、たぶんそうですね」
カペラが心配そうに聞いてきた。これはダメだろ。反則だろ。可愛すぎる。なにこれ。年上のお姉さんぐらいの人が、上目遣いで聞いてきた。これは反則だろ。破壊力が半端ない。周りの冒険者らしき人も何故か悶えてる。歓声まで聞こえる。これはちょっと怖いが、悶えるのはわかる。
そうじゃなくて、俺はもしかして強いのだろうか。もしかして俺TUEEEができるのだろうか。
「そうなんだ。やっぱり冒険者を目指すだけはあるんだね。私、どうなるかと思ってひやひやしたよ」
やっぱり、俺TUEEEは俺にはまだ早いらしい。それにしてもさっきの人はじゃあ何だったのだろうか。
「さっきの人は冒険者じゃないの?」
「さっきの人は、ここではまだ正式に認められてないんだよね。だけど、ずっとあんな調子でいられて結構困ってたの」
「ここでは認められてないってどういう事?」
「ああ、まだ知らないんだね。あの人はこの町の出身じゃないんだ。もっと人の少ないところだと思う。けどそこで出てくる凶暴な動物とかの退治をする人はほとんどいないのね。大体は大きい街に冒険者はいるからね。だから、ある程度強い人はその町で仮冒険者として認められるの」
なるほど。仕方なく選ばれた、そんな感じなのだろう。そしてそこでは一番強いから天狗になり、こんな感じになる。うん、仕方ないよね、うん。俺も危うく俺TUEEEができてると勘違いするところだったし。
……俺もそんな感じで冒険者になったらダメなんだろうか。まあ天狗になるぐらいだったら、ちゃんと手順通りに行くべきだよな。
「それにしても、嬉しいな。怪我もしなかったし。それに、口調も砕けてきたしね」
最後にカペラさんは笑った。ヤバい。ここ天国じゃないよね。目の前に天使が見えるんだけど。
まあ、冗談はさておき、周りの視線が痛すぎる。目力だけで殺しそうな勢いで見てくる。
とにかく話を変えよう。じゃないと本当に殺される気がする。
「じゃあ、冒険者はどのくらい強いの?」
「どうだろうな。でも、さっきの人よりかは強いよ、ここのみんなは。意外と頼りがいもあるし」
そういったとたん、周りが騒がしくなった。「カペラちゃんがそんなこと思って」とか言ってる人もいれば、泣いている人までいる。なんかガッツポーズしてる人もいるよ。
普段はどんな感じなんだろ、カペラさんは。しかもさらっと出したトラッタ?のことを馬鹿にする感じだったし。まあいいや。
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晩飯は何故か宴になっていた。賭けに勝った冒険者たちがどんどんご飯だったり酒だったりを頼んでいるのだろう。
そして何故か俺を中心にそれが出来上がっていた。カペラさんは楽しめばいいよと送り出した。どうすればいいのよ、この状況。送り出さないでほしかった。
「お前、結構強いんだな。そのせいで賭けに負けたじゃねえか」
「おい、それは八つ当たりだぜ。みっともないな」
「なんだとてめえ」
こんなやり取りが何回もあった。もう本当にどうすればいいの。カペラさんの方を見てもただただ笑ってみているだけだった。お願いだから助けて、カペラ様。
だいぶ周りも落ち着いた。というよりかは、騒いでたのが酒に酔ったのか寝ていた。時間もかなり経ったのだろう。
まあそんなことはどっちでも良い。ただもう疲れた。ようやく解放されたんだ。俺は自由だ。
……そう思う間もなく、冒険者が来た。しかも、どのくらい魔力を持ってるかわからない人たち。魔力を出していないわけではない。一般人ぐらいは出してるんだろう。けど明らかにそれだけじゃないと直感的に思った。
「なあ、坊主。名前はなんだ」
「タイシですけど」
「なるほどな。これがあいつの息子か。道理で強いわけだ」
「なんだよ、お前。予想してた通りだったくせに」
「そうだけど、まさかこんなちっちゃいのが来るとはおもわねえよ」
「そうだな」
「おっと、置いてけぼりになってたな。俺はユミト。こっちはムートとユウキだ」
「よろしくな」
「よろしくです」
ユミトは茶髪で茶色の目。日本のチンピラ感がある。けど、筋肉もさっきまでいた人達よりもごついし、魔力も多い。俺よりも断然多い。
ムートは金髪で青い目だ。この人はあまり筋肉はないように見える。魔力は俺とほとんど変わらないぐらいしか出ていない。けど絶対にもっと多い。勘だけど。
ユウキは紺色の髪で目は黒。この人はほとんど俺と同じ感じがする。筋力もほとんどなく、魔力も俺よりも少し多いぐらいだ。
あと、全員顔が怖い。普通にしているのだろうが、怖い。ちょっともったいないと思った。こう、元は良いんだろうけど、怪我だったりそういうので怖く見える。
「あれだ。お前を鍛えるように言われてるからな。暇なときに相手をしてやる」
「どうせあいつのことだ。何も教えてくれなかっただろ。だから俺達も大したことは教えない。てか教える事ができる頭を持ってない。まあ自分でできるようにするんだな」
「まあ、大丈夫だろ。俺達よりも育ちもよさそうだしな。てか育ちざかりに俺達の成長速度より低いのはおかしいだろう?」
「そうだな、じゃあ、明日俺と試合をしよう。対人戦を経験させてやる」
最後に言ったときに魔力を放ってきた。殺気も何もないただ純粋な魔力。それでも俺には十分に威圧される量の魔力。寝ている奴らも急に起き始めるぐらいには威圧感があった。
てかね?向こうで話をしてて、勝手に結論まで持っていくのはどうかと思うよ、俺は。
「お願いします」
「ほう。まあ、俺は武器は使わないがな。お前は遠慮なく来いよ。じゃないと死ぬかもな」
こうして、トラブルまみれの1日が終わった。なんかもう一回トラブルに近いなにかが来てる気がするけど、とりあえず酒まみれのギルドでの初日が終わった。
面白い、続きが気になると思って頂けたら幸いです。