6話 試される
かなりの時間が経った。
トラはこの辺りにはなかなか出てこない。だから代わりと言っちゃなんだけど、食料は大抵イノシシだ。あとは山菜。
おかげで、イノシシは驚くほど簡単に倒せるようになった。近接戦でも問題なく倒せる。まあ、猪突猛進って言葉があるぐらいだし、カウンターと言う訳じゃないけど、突進のあとは結構隙があるんだよね、うん。まあ以外とミスして怪我をしたと言うのは、黙っておこう。いや、口が裂けても言えない、そんなミスして大怪我を何回もしたなんて。
それに、索敵範囲が格段に増えた。あの時から全く魔力は増えなかったが、それでも十分すぎるくらいにはある。
索敵は半径1㎞ぐらいはできるはずだ。試したことはないけど。それだけあったとしても、魔力の無駄遣いって話だ。敵を見つける為に魔力を使って、敵を見つけた時には魔力が無い、って最高の笑い話だし。
やり方は、まだちゃんとわかっていない。これは自己流だ。魔力を放出させて、そこに魔力を持っている生物がいたら、反応する。
もし1㎞で索敵なんてやったら、魔力はすぐになくなる。さすがにそれは本末転倒だ。しかも、そんなに必要になることがない。いつも使うのは半径100mぐらいだろう。それでも十分なぐらいに動物の居場所がわかる。しかも、このぐらいなら、ほとんど魔力を使わずにできるようになった。色々とコツがあるのだ。原液じゃないカルピスを水で10倍ぐらいに割った、みたいな感じで、コツがあるのだ。
ついでに、魔力を隠す?ことができるようになった。なんでも魔力は何もしてなくても体から漏れているそうだ。魔力が多いほど漏れる量も多い。そのせいで動物にも気づかれるらしい。よくわからないが、これができるようになって、動物が逃げにくくなった気はした。あれだよ。絶。
トラ相手にはまだ苦戦はする。前みたいに、全部の魔力を使う、みたいにしなくても倒せるが。余裕があるか聞かれれば、まだまだ余裕があるとは言えない。弓を使えれば余裕でできるかもしれないが、それでは意味がない。だって条件満たしてないし。まあでもまだまだ危なっかしいので、結局弓は使う事になってる。
そんなこんなで今は9歳。今日はトラが出た。早くやらないと学校に入学できるかもわからない。一体何歳で学校に入学なのだろうか。手遅れになりたくないので、早く達成させたい。
てか、それ関連の話を一切してくれないお父さん。ちょっと適当すぎないですかね。
トラがいた場所は、初めて倒した場所と同じだった。偶然だよね。
これで魔物とか出たらシャレにならないぞ。まだあのレベルの魔物は倒せる自信がない。
そんなことより、今はトラに集中しよう。ここのトラは殺気に敏感だ。殺気があったところに駆けていく。
最初はなんでかわからず、苦戦した。けど今は、それを利用させてもらう。殺気に魔力を上乗せする。そうすれば、俺がいる場所じゃなくても、殺気を放てる。まあ実際は、もっと別の物に反応してるだけかもしれないし、俺が想像してるのとは全く違うのかもしれないけど。
……うまくいったな。トラはちょうど俺に背を向けてる状態だ。ここで奇襲をかける。どこに攻撃をすればいい?一撃で倒せるとは思えない。なら、足に攻撃すればこの後も戦えるか。
奇襲はうまくいった。うまくいきすぎて怖い。
足を使いにくくできればいいかな、ぐらいだったのに、結果は足をきれいに切断した。トラは急に足がなくなったせいで、バランスを崩して、その場に崩れ落ちた。今がチャンスだ。トラも立ち上がろうとしても、もがいてるだけでまだ立ち上がれない。頭を切り落としたら死ぬのだろうか。わからないが、魔力のほとんどを腕とダガーに集める。防御は気にしない。
「はああああああ!」
うまくいった。トラは死んだ。でもあまりいい気分ではなかった。
そりゃそうだろう。いつもは大抵トラが血を流しすぎて死んでいた。けど今回は違う。生きるためでもなく、ただ目的のために殺したのだ。切り落とした感覚も不思議な感覚だった。真ん中で一 回勢いが落ちたのだ。骨に当たって、切り落とした。
それはまだ耐えれるだろうけど、なんと言うか、今まで食料の為にやってたけど、私欲の為に殺すって、なんというか、
とても気分が悪かった。きっと、もっと血の匂いがしていたらダメだっただろう。
めっちゃ吐き気がする。耐えろ。耐えるんだ。
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家に帰ってお父さんに伝えた。トラを倒したと。怪我もしなかったと。すると、
「なんだ、嬉しそうじゃないな」
何故か、試すような感じで聞いてきた。
「そりゃそうさ。今までは、俺も生きるために動物を殺していた。動物もおんなじだ。罪悪感がなかったわけじゃないけど、今回ほどじゃなかった」
「なんで今回はそんなになってる」
「今回は、ただの目的のためだ。生きるためじゃない。ただ目的のために殺す。これじゃ、人殺しと変わらない。だから素直に喜べない」
これは、本音だ。やる前は、特に何とも思ってなかった。いつもと同じ。と言うか、ゲームみたいな感覚だった。そう思ってた。でもそう思えなかった。
「なんだ。ちゃんとわかってるじゃないか。いいか?ただ目的のために動物を殺すのは人殺しと大して変わらない。それに気づいたんだ。じゃあ、同じことは繰り返すなよ。そして、そのことが本当にいやなら、冒険者になれ」
「なんでそうなるのさ」
急に話が飛んでびっくりした。今は反省してこれからはするな、っていう話だったし。
「なんでか、か。お前も魔物にあったならわかると思うけどな。まあいい。魔物はただ己のために動物を、人間を殺すんだ。あいつらは別に食べなくても生きていける。ただ、殺したいから、殺す」
「じゃあ、なんで騎士を勧めないのさ」
「騎士はダメだ。あいつらはダメだ。そりゃ、騎士長とかは別だが。あいつらもほとんど魔物と同じだ。確かにあいつらも、俺たちみたいな冒険者も結局は目的のために殺す。けど、理由が違うんだ。冒険者はほとんど平民だ。しかも、訳ありの奴らばっかりだし。だから、同じことをさせないためにも魔物を殺す。けど、騎士は違う。ほとんどは出世するためだ。そんな奴らにはなったらだめだ。お前が動物を殺して、罪悪感を抱いているなら」
「……。俺、改めて、冒険者になりたい」
「よし、わかった。じゃあ、来週には出発だな」
? なんて。出発?どこに。ここでできないの?
「まあ、楽しみにしとけ」
悪いこと考えてる顔だよ、これは。嫌だなあ。俺、やっぱりやめようかな。いや、やると決めたんだ。ここはもう何も考えない方がいい気がする。ただ来週がくるのを待とう。
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明日には出発だ。どこに行くかは知らない。どんだけその場所にいるかも知らない。
しかも、最近お父さんがいない。今日には帰ってくると言っていたが、もうすぐ夕方だ。これじゃあ、俺はどうすればいいんだ。準備とか全くできないじゃないか。まあ、持っていくようなものもほとんどないけど。
そんなこと考えていると、帰ってきた。
「ほれ、晩飯作るから手伝え」
今日の晩御飯は豪華だった。肉だけじゃなく、パンもあった。きっとどこかで買ってきたのだろう。せっかくのご飯なので、たらふく食べよう。明日からどんな生活かわからないし。
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寝れない。楽しみなのと不安で寝れない。こことは違う場所の森林に捨てられるのかもしれない。実際に山で1週間過ごしたこともある。が、これじゃないことを祈る。あのお父さんならやりかねないけど。
……
だめだ。やっぱり寝れない。体を動かそう。
30分ぐらいは体を動かした。けど余計に眠気なんか吹き飛んだ気がする。この世界に来た時も同じことをした。あの時はトラにあって死ぬと思った。あの時じゃ、こんな風になると思わなかっただろう。今じゃ簡単に倒せるようになった。
いろいろと生活も変わったのにもう順応してる。というか、1年もしないうちに十分慣れていた。本当に人間ってすごいな。
とりあえず、家に戻ろう。今は迷わない。魔力が無かったら迷うかもしれないけど。暗いし。
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もう出発だそうだ。他人事みたいけど、俺も今聞いたんだ。なにも準備してない。
「お兄ちゃん。本当に行くんですか」
「ああ。行くよ。そう決めたしな。どこ行くかは聞いてないけど」
「ああ、タイシが行くのは町だ。この国で一番大きい場所だ。そこで、ギルドを目指せ。わかりやすいと思うぞ」
「なんで今伝えるんだよ。それならもっと準備できたのに」
「準備っつても、何もないだろ。持っていくもんなんか」
「そうだけど。そういうことじゃない」
もっとこう、気持ちの準備的な。田舎者が都会に行くようなものだぞ。
「まあ、大丈夫だろ。詳しい話はギルドで聞け」
「そうじゃないだろ。俺、まず町にすら行ったことないんだけど」
「大丈夫。こっからずっと北に行けばある」
「雑だな。もっと何かないのかよ。説明」
「ごちゃごちゃうるせえな。いいからいけ。そして、よっぽどのことがない限り帰ってくんな」
「ひどくない、その言い方。俺いらn」
「いいからいけ」
「お兄ちゃん。気を付けてくださいね。手紙もちゃんと返してくださいよ」
俺はこの家から追い出されたんじゃないのか。いい口実があるからって追い出していい理由にはならないだろ。もう、いいや。開き直ろう。
俺は町で人生をエンジョイするんだ。もっと強くなって冒険者になるんだ。
……今更だけど、お母さんてどこなの。死んだって聞かないし。いや、気にしない。この家のことなんて気にしない。気にしたら、なんか悲しくなる。
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町に着いた。これと言ってトラブルに巻き込まれなかった。自分で言うのもなんだけど、俺だいぶトラブルに巻き込まれたから、身構えてたよ。もうなんか、逆にトラブル来いよ。トラが3頭出たとかなんかあるだろ。そんな事になったら俺は多分死ぬけど。けど、身構えてたんだから、なにかしらあってほしかった。あっ、マゾでは無いです。
町はすごかった。語彙力のない俺を許して。日本みたいに電車や車はないが、馬車が走ってる。ここが大通りなのかはわからない。けど、たくさんの人がいる。スクランブル交差点みたいな。とにかく通行人が多い。しかも、露店がある。串焼きだったり、野菜や肉をそのまま売っている。露店というよりも市場の方があっているのかもしれない。
そして、家がめっちゃきれい。ヨーロッパみたいな街並みだ。家もカラフルだ。どんな素材を使ったらこんなになるんだ。
ギルドは本当にすぐ見つかった。そこだけ存在感が違った。まず、普通じゃありえないぐらいの人がそこに集まっている。それだけならレストランかもしれないが、全員の魔力がおかしい。ほとんどの人が俺以上の魔力がある。お父さんが言ってたことは本当だった。それよりもすごいかもしれない。たまに魔力の量が普通の人もいるけど、そういう人の方が恐ろしい。何故か存在感が違った。まだギルドにすら入ってない。それなのに、こんなにも違う。建物自体は街並みになじんでいる。けど、雰囲気がまるで別世界に行くみたいだ。
ギルドは賑わっていた。酒を飲むもの、何かを真剣に見ているもの。受付?の人に交渉している人などそれぞれが全然違うことをしていた。ギルドがどんなところかは聞いていなかったが、なんとなく想像していたのとは同じ光景だった。とりあえず、受付?のところで話を聞こう。
「あの、すみません」
「どうなさいましたか」
「ここってギルドであってるんですよね」
「はい、あってますよ。要件は何ですか」
どこからか笑い声が聞こえた。しょうがないだろ。この建物に何も書いてないし。ついでに言えば、お父さんも地図とかもくれなかったんだし。
とりあえず、お父さんからは着いたら名乗ればなんとかなる、って言っていた。
「タイシというんですが」
「わかりました。ちょっと待ってくださいね」
なにが分かったのだろうか。しかもさっきより笑い声が増えた。恥ずかしい。言われたことをしてるだけだけど恥ずかしい。迷子と間違えられたりしないよね。笑った人は絶対そう思ってるんだろうな。でも、何人かはじっと見ている。値踏みするかのようにじっと見ている。なんで?
「すみません。おたたせしました」
「いえ。大丈夫です」
「ではこちらに来てください」
え。もうよくわからない。わからないから考えることをやめた。とにかくついていく。
連れてこられたのはすごそうな部屋の前だった。マジでなんでこうなってるの。
「では、頑張ってください」
頑張るって何。ここで何がされるの。もう嫌だ。帰りたい。
「君が、タイシ君だね」
「はい、そうです」
「聞いてるよ。君のお父さんからね。冒険者になりたいんだろ」
「はい」
「そうだね。威勢がある。いいんじゃないか。……けど、まだ若すぎるな」
どういうことなんだ。質問をされて急に独り言を始めたよ。誰なんだ。この人。偉い人なんだろうけど。
歴戦の戦士みたいだけど、別に傷が多いとかじゃない。纏う雰囲気がほかの人と違うのだ。まあ勘だけど。
「おっと、申し遅れたね。私はマハト。ここのギルドマスターだ。よろしく」
おっと、いきなりボス級じゃないか。なんでいきなりギルドマスターと面会なの。
「今日からここで住み込みで働くといい。ちゃんとお金も払う。悪い話ではないし、拒否権はないよ。なんて言ってもこれも君のお父さんの命令だしね」
お父さんどうなってるの。なんでギルドマスターに頼めるの。権力どうなってるの。おかしいよね?絶対普通じゃないよね?
ただ幸いなのは、これがお父さんの命令だってことだ。ちゃんと目的地にこれた。命令ってなんか癪にさわるけど。
「これからはよろしくね。で、仕事の話をするけど。ギルドは冒険者をサポートするのが我々の仕事だ。ここで冒険者がどういうことをしているのかを知ればいい。それを知ってからでも決断は遅くない」
最後に意味深なことを言っていたが、とにかく、生活とお金については何とかなった。
「よかったですね。あの人、何考えてるかわかりにくいので話づらいんですよね」
確かにその通りだ。ずっと表情が変わらなかった。あの人については何もわからなかったし。
「ここで住み込みなんだよね」
「そうですけど」
急に口調が変わった。ちょっとドキッとしたじゃないか。綺麗なお姉さんだし、見た目だけでも十分だけども。
「じゃあ、これからは一緒に働くんだね。私は、カペラ・ウェルス。よろしくね」
「あ、俺はタイシです。改めてよろしくお願いします」
「そんなにかしこまらなくてもいいよ。ええと、タイシ君でいい?」
「大丈夫です。なんと呼べば、」
「カペラでいいよ。それと、かしこまらないでね」
「わかりました」
ちょっとね、こんな美人にね、こんなこと言われるとね、だめだよね。陰キャはね、すぐに惚れてしまうよね。
カペラさんはオレンジ色の髪、目は茶色。髪はセミロング?ぐらいで顔だちも整っている。身長は大きすぎず小さすぎない、女性の平均ぐらいだろうか。女性らしい体系。というより、女性の憧れの体系なのか。主張しすぎず、けど決してないわけではない。
「これから、仕事内容について教えるよ」
「はい」
「まず、タイシ君が来たときみたいに、来た人の対応。それと冒険者のクエスト管理や、換金が主な仕事だね。換金も魔物が落とすものだったり、動物だったり、いろいろあるからね」
なるほど。これがギルドマスターが言っていた冒険者のサポートか。
「あとはそうだね、」
「ちょっと、僕。表に出な」
なんだ、この人。急に喧嘩を売ってきたけど。
「僕。随分とカペラちゃんと仲いいけど、なに?姉弟じゃないよな?」
言ってることが無茶苦茶だ。なんなんだ。この人。周りも止めようとしないし。笑う人もいれば、声援?みたいなのを送る人、そして値踏みするかのような人もいる。さっきもいたよね値踏みする人。怖いわ。
「ちょっと、やめてください」
「カペラちゃんは関係ないだろ」
関係あるだろぉ。関係しかないだろぉ。
関係ある気がするのは俺だけだろうか。自分でカペラの名前出してたし。
「いいから早くしな、そして二度とここに来れなくさしてやる」
おっと、滅茶苦茶言ってくれるな。こいつなら勝てる気がするぞ。何ていうのかな。チンピラAって言う感じがする。
ってか、酒くさ。昼間から酒とか飲むのかよ。飲むなよ、息が臭いじゃないか。
「おい、はやくしろ」
「わかったよ」
「タイシ君、危ないよ」
「大丈夫ですよ、カペラさん」
結局敬語は治らない。
道中何もなかったから大丈夫だと思ったけど、結局は厄介に巻き込まれた。
「どうなっても知りませんよ」
「ガキのくせに調子に乗るなよ」
こうして、いきなり冒険者と思わしき人と勝負になった。冒険者、であってるよな?ごろつきとかじゃないよな?
面白い、続きが気になると思って頂けたら幸いです。