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すばらしい世界を楽しむ  作者: ゆきつき
6/425

6話 試される

 かなりの時間が経った。

 トラはこの辺りにはなかなか出てこない。だから代わりと言っちゃなんだけど、食料は大抵イノシシだ。あとは山菜。

 おかげで、イノシシは驚くほど簡単に倒せるようになった。近接戦でも問題なく倒せる。まあ、猪突猛進って言葉があるぐらいだし、カウンターと言う訳じゃないけど、突進のあとは結構隙があるんだよね、うん。まあ以外とミスして怪我をしたと言うのは、黙っておこう。いや、口が裂けても言えない、そんなミスして大怪我を何回もしたなんて。


 それに、索敵範囲が格段に増えた。あの時から全く魔力は増えなかったが、それでも十分すぎるくらいにはある。

 索敵は半径1㎞ぐらいはできるはずだ。試したことはないけど。それだけあったとしても、魔力の無駄遣いって話だ。敵を見つける為に魔力を使って、敵を見つけた時には魔力が無い、って最高の笑い話だし。

 やり方は、まだちゃんとわかっていない。これは自己流だ。魔力を放出させて、そこに魔力を持っている生物がいたら、反応する。

 もし1㎞で索敵なんてやったら、魔力はすぐになくなる。さすがにそれは本末転倒だ。しかも、そんなに必要になることがない。いつも使うのは半径100mぐらいだろう。それでも十分なぐらいに動物の居場所がわかる。しかも、このぐらいなら、ほとんど魔力を使わずにできるようになった。色々とコツがあるのだ。原液じゃないカルピスを水で10倍ぐらいに割った、みたいな感じで、コツがあるのだ。

 ついでに、魔力を隠す?ことができるようになった。なんでも魔力は何もしてなくても体から漏れているそうだ。魔力が多いほど漏れる量も多い。そのせいで動物にも気づかれるらしい。よくわからないが、これができるようになって、動物が逃げにくくなった気はした。あれだよ。絶。


 トラ相手にはまだ苦戦はする。前みたいに、全部の魔力を使う、みたいにしなくても倒せるが。余裕があるか聞かれれば、まだまだ余裕があるとは言えない。弓を使えれば余裕でできるかもしれないが、それでは意味がない。だって条件満たしてないし。まあでもまだまだ危なっかしいので、結局弓は使う事になってる。

 



 そんなこんなで今は9歳。今日はトラが出た。早くやらないと学校に入学できるかもわからない。一体何歳で学校に入学なのだろうか。手遅れになりたくないので、早く達成させたい。

 てか、それ関連の話を一切してくれないお父さん。ちょっと適当すぎないですかね。

 

 トラがいた場所は、初めて倒した場所と同じだった。偶然だよね。

 これで魔物とか出たらシャレにならないぞ。まだあのレベルの魔物は倒せる自信がない。

 そんなことより、今はトラに集中しよう。ここのトラは殺気に敏感だ。殺気があったところに駆けていく。

 最初はなんでかわからず、苦戦した。けど今は、それを利用させてもらう。殺気に魔力を上乗せする。そうすれば、俺がいる場所じゃなくても、殺気を放てる。まあ実際は、もっと別の物に反応してるだけかもしれないし、俺が想像してるのとは全く違うのかもしれないけど。


 ……うまくいったな。トラはちょうど俺に背を向けてる状態だ。ここで奇襲をかける。どこに攻撃をすればいい?一撃で倒せるとは思えない。なら、足に攻撃すればこの後も戦えるか。


 奇襲はうまくいった。うまくいきすぎて怖い。

 足を使いにくくできればいいかな、ぐらいだったのに、結果は足をきれいに切断した。トラは急に足がなくなったせいで、バランスを崩して、その場に崩れ落ちた。今がチャンスだ。トラも立ち上がろうとしても、もがいてるだけでまだ立ち上がれない。頭を切り落としたら死ぬのだろうか。わからないが、魔力のほとんどを腕とダガーに集める。防御は気にしない。


「はああああああ!」


 うまくいった。トラは死んだ。でもあまりいい気分ではなかった。

 そりゃそうだろう。いつもは大抵トラが血を流しすぎて死んでいた。けど今回は違う。生きるためでもなく、ただ目的のために殺したのだ。切り落とした感覚も不思議な感覚だった。真ん中で一 回勢いが落ちたのだ。骨に当たって、切り落とした。

 それはまだ耐えれるだろうけど、なんと言うか、今まで食料の為にやってたけど、私欲の為に殺すって、なんというか、

 とても気分が悪かった。きっと、もっと血の匂いがしていたらダメだっただろう。

 めっちゃ吐き気がする。耐えろ。耐えるんだ。



_____________



 家に帰ってお父さんに伝えた。トラを倒したと。怪我もしなかったと。すると、


「なんだ、嬉しそうじゃないな」


 何故か、試すような感じで聞いてきた。


「そりゃそうさ。今までは、俺も生きるために動物を殺していた。動物もおんなじだ。罪悪感がなかったわけじゃないけど、今回ほどじゃなかった」

「なんで今回はそんなになってる」

「今回は、ただの目的のためだ。生きるためじゃない。ただ目的のために殺す。これじゃ、人殺しと変わらない。だから素直に喜べない」


 これは、本音だ。やる前は、特に何とも思ってなかった。いつもと同じ。と言うか、ゲームみたいな感覚だった。そう思ってた。でもそう思えなかった。


「なんだ。ちゃんとわかってるじゃないか。いいか?ただ目的のために動物を殺すのは人殺しと大して変わらない。それに気づいたんだ。じゃあ、同じことは繰り返すなよ。そして、そのことが本当にいやなら、冒険者になれ」

「なんでそうなるのさ」


 急に話が飛んでびっくりした。今は反省してこれからはするな、っていう話だったし。


「なんでか、か。お前も魔物にあったならわかると思うけどな。まあいい。魔物はただ己のために動物を、人間を殺すんだ。あいつらは別に食べなくても生きていける。ただ、殺したいから、殺す」

「じゃあ、なんで騎士を勧めないのさ」

「騎士はダメだ。あいつらはダメだ。そりゃ、騎士長とかは別だが。あいつらもほとんど魔物と同じだ。確かにあいつらも、俺たちみたいな冒険者も結局は目的のために殺す。けど、理由が違うんだ。冒険者はほとんど平民だ。しかも、訳ありの奴らばっかりだし。だから、同じことをさせないためにも魔物を殺す。けど、騎士は違う。ほとんどは出世するためだ。そんな奴らにはなったらだめだ。お前が動物を殺して、罪悪感を抱いているなら」

「……。俺、改めて、冒険者になりたい」

「よし、わかった。じゃあ、来週には出発だな」


 ? なんて。出発?どこに。ここでできないの?


「まあ、楽しみにしとけ」


 悪いこと考えてる顔だよ、これは。嫌だなあ。俺、やっぱりやめようかな。いや、やると決めたんだ。ここはもう何も考えない方がいい気がする。ただ来週がくるのを待とう。



_______



 明日には出発だ。どこに行くかは知らない。どんだけその場所にいるかも知らない。

 しかも、最近お父さんがいない。今日には帰ってくると言っていたが、もうすぐ夕方だ。これじゃあ、俺はどうすればいいんだ。準備とか全くできないじゃないか。まあ、持っていくようなものもほとんどないけど。

 そんなこと考えていると、帰ってきた。

 

「ほれ、晩飯作るから手伝え」





 今日の晩御飯は豪華だった。肉だけじゃなく、パンもあった。きっとどこかで買ってきたのだろう。せっかくのご飯なので、たらふく食べよう。明日からどんな生活かわからないし。







___________________




 寝れない。楽しみなのと不安で寝れない。こことは違う場所の森林に捨てられるのかもしれない。実際に山で1週間過ごしたこともある。が、これじゃないことを祈る。あのお父さんならやりかねないけど。

 ……

 だめだ。やっぱり寝れない。体を動かそう。





 30分ぐらいは体を動かした。けど余計に眠気なんか吹き飛んだ気がする。この世界に来た時も同じことをした。あの時はトラにあって死ぬと思った。あの時じゃ、こんな風になると思わなかっただろう。今じゃ簡単に倒せるようになった。

 いろいろと生活も変わったのにもう順応してる。というか、1年もしないうちに十分慣れていた。本当に人間ってすごいな。

 とりあえず、家に戻ろう。今は迷わない。魔力が無かったら迷うかもしれないけど。暗いし。




_______________



 もう出発だそうだ。他人事みたいけど、俺も今聞いたんだ。なにも準備してない。


「お兄ちゃん。本当に行くんですか」

「ああ。行くよ。そう決めたしな。どこ行くかは聞いてないけど」

「ああ、タイシが行くのは町だ。この国で一番大きい場所だ。そこで、ギルドを目指せ。わかりやすいと思うぞ」

「なんで今伝えるんだよ。それならもっと準備できたのに」

「準備っつても、何もないだろ。持っていくもんなんか」

「そうだけど。そういうことじゃない」


 もっとこう、気持ちの準備的な。田舎者が都会に行くようなものだぞ。


「まあ、大丈夫だろ。詳しい話はギルドで聞け」

「そうじゃないだろ。俺、まず町にすら行ったことないんだけど」

「大丈夫。こっからずっと北に行けばある」

「雑だな。もっと何かないのかよ。説明」

「ごちゃごちゃうるせえな。いいからいけ。そして、よっぽどのことがない限り帰ってくんな」

「ひどくない、その言い方。俺いらn」

「いいからいけ」

「お兄ちゃん。気を付けてくださいね。手紙もちゃんと返してくださいよ」


 俺はこの家から追い出されたんじゃないのか。いい口実があるからって追い出していい理由にはならないだろ。もう、いいや。開き直ろう。

 俺は町で人生をエンジョイするんだ。もっと強くなって冒険者になるんだ。


 ……今更だけど、お母さんてどこなの。死んだって聞かないし。いや、気にしない。この家のことなんて気にしない。気にしたら、なんか悲しくなる。


_______________


 町に着いた。これと言ってトラブルに巻き込まれなかった。自分で言うのもなんだけど、俺だいぶトラブルに巻き込まれたから、身構えてたよ。もうなんか、逆にトラブル来いよ。トラが3頭出たとかなんかあるだろ。そんな事になったら俺は多分死ぬけど。けど、身構えてたんだから、なにかしらあってほしかった。あっ、マゾでは無いです。


 町はすごかった。語彙力のない俺を許して。日本みたいに電車や車はないが、馬車が走ってる。ここが大通りなのかはわからない。けど、たくさんの人がいる。スクランブル交差点みたいな。とにかく通行人が多い。しかも、露店がある。串焼きだったり、野菜や肉をそのまま売っている。露店というよりも市場の方があっているのかもしれない。

 そして、家がめっちゃきれい。ヨーロッパみたいな街並みだ。家もカラフルだ。どんな素材を使ったらこんなになるんだ。


 ギルドは本当にすぐ見つかった。そこだけ存在感が違った。まず、普通じゃありえないぐらいの人がそこに集まっている。それだけならレストランかもしれないが、全員の魔力がおかしい。ほとんどの人が俺以上の魔力がある。お父さんが言ってたことは本当だった。それよりもすごいかもしれない。たまに魔力の量が普通の人もいるけど、そういう人の方が恐ろしい。何故か存在感が違った。まだギルドにすら入ってない。それなのに、こんなにも違う。建物自体は街並みになじんでいる。けど、雰囲気がまるで別世界に行くみたいだ。

 ギルドは賑わっていた。酒を飲むもの、何かを真剣に見ているもの。受付?の人に交渉している人などそれぞれが全然違うことをしていた。ギルドがどんなところかは聞いていなかったが、なんとなく想像していたのとは同じ光景だった。とりあえず、受付?のところで話を聞こう。



「あの、すみません」

「どうなさいましたか」

「ここってギルドであってるんですよね」

「はい、あってますよ。要件は何ですか」


 どこからか笑い声が聞こえた。しょうがないだろ。この建物に何も書いてないし。ついでに言えば、お父さんも地図とかもくれなかったんだし。

 とりあえず、お父さんからは着いたら名乗ればなんとかなる、って言っていた。


「タイシというんですが」

「わかりました。ちょっと待ってくださいね」


 なにが分かったのだろうか。しかもさっきより笑い声が増えた。恥ずかしい。言われたことをしてるだけだけど恥ずかしい。迷子と間違えられたりしないよね。笑った人は絶対そう思ってるんだろうな。でも、何人かはじっと見ている。値踏みするかのようにじっと見ている。なんで?


「すみません。おたたせしました」

「いえ。大丈夫です」

「ではこちらに来てください」


 え。もうよくわからない。わからないから考えることをやめた。とにかくついていく。

 




 連れてこられたのはすごそうな部屋の前だった。マジでなんでこうなってるの。


「では、頑張ってください」


 頑張るって何。ここで何がされるの。もう嫌だ。帰りたい。


「君が、タイシ君だね」

「はい、そうです」

「聞いてるよ。君のお父さんからね。冒険者になりたいんだろ」

「はい」

「そうだね。威勢がある。いいんじゃないか。……けど、まだ若すぎるな」


 どういうことなんだ。質問をされて急に独り言を始めたよ。誰なんだ。この人。偉い人なんだろうけど。

 歴戦の戦士みたいだけど、別に傷が多いとかじゃない。纏う雰囲気がほかの人と違うのだ。まあ勘だけど。


「おっと、申し遅れたね。私はマハト。ここのギルドマスターだ。よろしく」


 おっと、いきなりボス級じゃないか。なんでいきなりギルドマスターと面会なの。


「今日からここで住み込みで働くといい。ちゃんとお金も払う。悪い話ではないし、拒否権はないよ。なんて言ってもこれも君のお父さんの命令だしね」


 お父さんどうなってるの。なんでギルドマスターに頼めるの。権力どうなってるの。おかしいよね?絶対普通じゃないよね?

 ただ幸いなのは、これがお父さんの命令だってことだ。ちゃんと目的地にこれた。命令ってなんか癪にさわるけど。


「これからはよろしくね。で、仕事の話をするけど。ギルドは冒険者をサポートするのが我々の仕事だ。ここで冒険者がどういうことをしているのかを知ればいい。それを知ってからでも決断は遅くない」


 最後に意味深なことを言っていたが、とにかく、生活とお金については何とかなった。


「よかったですね。あの人、何考えてるかわかりにくいので話づらいんですよね」


 確かにその通りだ。ずっと表情が変わらなかった。あの人については何もわからなかったし。


「ここで住み込みなんだよね」

「そうですけど」


 急に口調が変わった。ちょっとドキッとしたじゃないか。綺麗なお姉さんだし、見た目だけでも十分だけども。


「じゃあ、これからは一緒に働くんだね。私は、カペラ・ウェルス。よろしくね」

「あ、俺はタイシです。改めてよろしくお願いします」

「そんなにかしこまらなくてもいいよ。ええと、タイシ君でいい?」

「大丈夫です。なんと呼べば、」

「カペラでいいよ。それと、かしこまらないでね」

「わかりました」


 ちょっとね、こんな美人にね、こんなこと言われるとね、だめだよね。陰キャはね、すぐに惚れてしまうよね。

 カペラさんはオレンジ色の髪、目は茶色。髪はセミロング?ぐらいで顔だちも整っている。身長は大きすぎず小さすぎない、女性の平均ぐらいだろうか。女性らしい体系。というより、女性の憧れの体系なのか。主張しすぎず、けど決してないわけではない。



「これから、仕事内容について教えるよ」

「はい」

「まず、タイシ君が来たときみたいに、来た人の対応。それと冒険者のクエスト管理や、換金が主な仕事だね。換金も魔物が落とすものだったり、動物だったり、いろいろあるからね」


 なるほど。これがギルドマスターが言っていた冒険者のサポートか。


「あとはそうだね、」


「ちょっと、僕。表に出な」


 なんだ、この人。急に喧嘩を売ってきたけど。


「僕。随分とカペラちゃんと仲いいけど、なに?姉弟じゃないよな?」


 言ってることが無茶苦茶だ。なんなんだ。この人。周りも止めようとしないし。笑う人もいれば、声援?みたいなのを送る人、そして値踏みするかのような人もいる。さっきもいたよね値踏みする人。怖いわ。


「ちょっと、やめてください」

「カペラちゃんは関係ないだろ」


 関係あるだろぉ。関係しかないだろぉ。

 関係ある気がするのは俺だけだろうか。自分でカペラの名前出してたし。


「いいから早くしな、そして二度とここに来れなくさしてやる」


 おっと、滅茶苦茶言ってくれるな。こいつなら勝てる気がするぞ。何ていうのかな。チンピラAって言う感じがする。

 ってか、酒くさ。昼間から酒とか飲むのかよ。飲むなよ、息が臭いじゃないか。


「おい、はやくしろ」

「わかったよ」

「タイシ君、危ないよ」

「大丈夫ですよ、カペラさん」


 結局敬語は治らない。  

 道中何もなかったから大丈夫だと思ったけど、結局は厄介に巻き込まれた。


「どうなっても知りませんよ」

「ガキのくせに調子に乗るなよ」


 こうして、いきなり冒険者と思わしき人と勝負になった。冒険者、であってるよな?ごろつきとかじゃないよな?

面白い、続きが気になると思って頂けたら幸いです。

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