2話 遭遇する
狩りから帰ってきてすぐに
「よし。とりあえず、タイシ。お前に魔力を流すぞ」
なにがとりあえずなのかわからない。しかも、弓に魔力を纏わせるのを見た後だから、余計に心配だ。体が粉々になったりしないだろうか?
「なんだよ、とりあえずって。魔力を流してなにがあるんだよ」
「ん、魔力を使うには自分の中の魔力を感じないといけない。自分の知らない力は使えないからな。普通は感じれるようになるのにも時間がかかるが、時間がもったいないから」
まあ、危険がなさそうならいいんだよ。俺も早く魔力を使いたいからな。
でも時間がもったいないって何?まだ5歳なのにもったいないっていう発想はよくわからん。その感覚に至るのって、30とか超えてからじゃないの?
「よし、やるか。……ああ、あともしかしたら最悪、1、2日ぐらい寝込むかもしれんけど、我慢しろよ」
前言撤回。危険じゃん。なんで先に言わないの。待って、もう始めてるよ。
「ちょ、待ってよ」
「すまんな、もう無理だ。諦めて喰らえ」
くらえってなんだよ。俺死んだりしないよな。ひどくて寝込むぐらいなんだよな。
いや、でも結構な威圧感を放ってるけど、うちのおやじ。大丈夫だよね?死なないよね。死なないって言ってたし、きっと大丈夫だよね。とりあえず、覚悟を決めよう。じゃないと、
「よし、終わったぞ。なんだよ。その顔は。せっかく寝込まずに済んだってのに。俺でも寝込みはしなかったが、ぶっ倒れたんだ。俺より才能あるかもだぞ」
「そゆうことじゃねえんだよ。覚悟を決めようとしたときに終わるってなに。もっと衝撃とか来るぐらいの威圧感だったよ。人殺せそうな威圧感あったよ」
「だから言っただろ、最悪寝込むって。にしても威圧を感じてたんだな。こりゃ、本当に俺より才能あるかもしれないぞ?」
「なんで、威圧感を感じるだけで才能があるってなるの?」
「普通、自分の魔力を感知できなかったら他人の魔力なんて絶対にわからん。だから、魔力を放とうとしても、何もわからないんだ。威圧も感じなければ、何をしているのかもわからないんだ。でも、タイシはそれを感じ取ったんだ」
なるほど。それならそうなのかもしれない。少なくとも父親って言えるぐらいの歳なんだから、言ったら魔力とかのプロだ。そこまで行かないにしても、まあ結構熟知してるっぽいし。
でも感知に優れてるってどう活用すればいいかわからん。
……
索敵か、索敵しかないのか。ってか、索敵とかどうするんだよ。レーダーとかないぞ。それだと宝の持ち腐れみたいだな。もったいない。てかそれが必要な場面ってやってくるの?
「まあ、感知の重要性はまだ活きないからな。とりあえず、魔力のコントロールをできるようにしろよ。攻撃にも防御にも使えるからな」
わからん。重要性とか言われてもわからん。引きこもり一歩手前までいってた俺にはわからん。
しかも、方法はなにも教えてくれなかった。流石にそれはキツい。ゲームとリアルは違うんだぞ。この世界のことすらほとんど知らないのに、いきなり実践とか怖いわ。
とかなんとか考えてたら、もうお父さんは家に帰っていた。置いてくなよ。
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夕食になった。今日狩ったイノシシが出てきた。
なんというか、グロい。言ったらだめだけど。慣れてないってのもあるけど、やっぱりキツい。
だって、そのままに近い状態の足とか出てきてるよ。まあ、命をいただくので文句など言えない。いやさっき言ってたけど。愚痴みたいなものだしノーカンだよな。そうだよな。な?
「よし。じゃあ食うか」
うん。うまい。久しぶりに肉とか食ったわ。しかも、人生初のイノシシ肉。特に臭み?とかも感じない。異世界補正か知らないがマジでうまい。うまけりゃなんでも良いんだよ、うん。
夜。いつもならまだ起きてるであろう時間でも、電気がないのでもう寝る時間だ。妹ももう夢の中だろう。
しかし俺は、いつもならバリバリゲームをしている。てか普通に風呂に入ったり飯の時間かもしれない。
だからか全然眠気が来ない。こうゆうときは体を動かせばいいって聞いたきがする。どうせだし、魔力について理解を深めたい。とりあえず外に出よう。
魔力って言っても、もうほとんどわからない。
お父さんに魔力を流されたときは違和感みたいなのがあって、なんとなくそれが魔力だと思えた。
でも今はその感覚はない。いや、そもそも、魔力は自分のもので、お父さんに流された分が違和感の原因なのか。それなら、この状態が普通なのか。まあ普通ってのは良い事だったとしても、魔力が何なのか分かってない以上、もうちょい異常が出てほしかった。じゃないと魔力がどういった物なのかわからないし。
まあ話を戻して、さっきのは自分の魔力の流れみたいなのを、無理やり他人の魔力を流して認知させたのか?もしそうなら、寝込んでもおかしくない気がする。いきなり自分の体に得体のしれないものが入り込む感覚だからな。よく俺は耐えたな。あれか、記憶が重なった経験があったから耐えれたのか?感覚はほとんど同じだったしそうなんだろう。まあ記憶がぐちゃぐちゃにされた方が辛かったけど。
それよりどうやってコントロールするかだな。まずは魔力がどのくらいあるかわからないとコントロールもできないだろう、多分。
全身に、日本にいた時にはなかった感覚がある。まあ殆ど誤差と言うか、些事レベルだから、把握しにくいけども。
きっとこれが魔力なんだろう。とりあえず、いまの量を全部だと思ってコントロールしてみよう。こんなコントロールしてみよう、で出来る物なのかは、よくわからないけど。
とりあえず右手に集めてみよう。……あれ、でもどうやって集めるんだ?とりあえず、力を籠める感覚でしてみよう。
……うんまあ、そんなすぐにできないよな。うん。
けど、どうやろうか。日本では絶対に経験できないからな。どうやればいいかわからん。
1時間ぐらいだろうか。考えたがうまく感覚がつかめない。ただ、イメージしながらだと、ちょっと魔力が動いた気がした。つまり、イメージが大事なのか?まあこれまた誤差程度だった気がしたし、よくわからないんだけど。
とりあえずもっと鮮明なイメージを思い浮かべながら、もう一度やってみよう。
1回目はちょっと動いた気がした程度だった。で、今やっても1回目とほとんど変わらなかった。
1回目もほとんど動いてないかもしれないけど、全く動いてないのとちょっと動いたのとは全く違う。ゼロに一をかけるのと、一に一をかけるぐらいの差がある。なんと誤差、一。
つまりだ。イメージすることは間違ってない、と思う。とりあえず、もっとしっかりしたイメージを作ろう。ただ魔力を集めるとか曖昧なのじゃなくて。体の中を通して、まずは肩、腕、最後に掌って感じのを。
なんとなくならできた気がした。全身から魔力を流すイメージだ。集めるでやっても、どうしても下からの魔力は集まらなかった。
でも、流れに任せて集めたい場所にとどめる感じならすぐに集まった。まあ、多分全身にある魔力のほとんどを使えてないけど。まあとりあえず今日は終わろう。いい感じに眠気も出てきた。早く家に戻ろう。
それにしても電気がないと不便だな。俺って家からこんな遠い場所まで来たっけ。まあいいか。
もうすぐだな。煙突がようやく見えた。それにしても考えてる間に歩いたりしたのか?大分歩いたぞ。
? なんだ。何かいる気がする。というより、絶対にそこの茂みから音が聞こえた。しばらくは動かないほうがいいのか。わからない。こういう時の対処法とか知らないし。
またなんか聞こえた。というより、茂みから出てきたよ。なんだ?暗いからよく見えない。眼だけは光っていてみえる。眼の位置が低いしイノシシか。いやでもイノシシって夜行性じゃないよな。いやまあ、出てきてもおかしくはないのか?
「ニ゛ャーー」
猫の鳴き声に近い。けど明らかに猫の鳴き声より低い。
考えたくはないけどこれってトラの鳴き声では?動物園か何かで聞いたことあるような無いような。いやないか。動物園なんて幼稚園以来言ってないんじゃないか?まあ猫を大きくした感じの、こう、太らせたらこんな声出すんだろうな、って感じの鳴き声をしてる。
いやなんでトラが山に出てくんの?ここって森林なの?熱帯地域なの?ふざけんなよ。こっちは戦う術がないんだよ。なんで今出てくるんだよ。マジでふざけんな。とりあえず逃げよう。逃げれる気がしないけど、逃げよう。
案の定逃げれなかった。すぐにトラが追いかけてきた。というより、逃げ道をふさぎやがった。これもうダメだ。転生して1日で死亡だわ。ゲームオーバーだわ。人生終了だ。
いや、せっかく面白そうな世界なのにここで死にたくない。もっといろいろとしたい。どうせなら日本でできなかった青春もしたい。まあ観光の方がしたいけど。
よし俺にも死ねない理由ができた。早速実戦とか運がなさすぎる。それよりまだ扱えない力を実戦とかやっぱり死ぬんじゃないか、俺。ほら、たとえればゲーム買ったばっかなのにいきなりプロと対戦するようなもんだぞ。勝ち目ないじゃん。どうするよ。
そもそも攻撃なんてできない。格闘術なんて知らんし、体は子供だから、力も全くない。
それなら防御に専念するしかない。防御もできるとは思えないけど、攻撃よりはマシだと信じたい。こう、急所を防げれれば良い。
そして、逃げ道を見つけ出す。魔力で索敵ができるとか言ってたし、家の近くまでいけば、お父さんが気づくことにかけよう。きっとこれが一番勝率が高いはずだ。1%もないだろうけど。そうとなれば覚悟を決めなければ。
面白い、続きが気になると思って頂けたら幸いです。