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すばらしい世界を楽しむ  作者: ゆきつき
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13話 遊ばれる

 明日はいよいよ学校入学前の最後の試合だ。そしてその試合はこの国では一番大きい試合になる。

 人数が多いわけではない。冒険者の中でも本当に強い人しか出ない。出場者は16人。そこにはもちろんユミト達も入ってる。というよりその3人が優勝候補だ。

 今回は大した制限もない。魔法も使っていい。こうなると誰が勝ってもおかしくないらしい。力のユミト、万能なムート、魔法のユウキ。こんな感じだ。

 俺はまだ魔法がどんなのか知らない。教えてもらえなかったからだ。「魔力の扱いもまだなのにもう魔法かよ」ってな感じで教えてくれなかった。だから魔法がどれだけすごいのかわからない。

 唯一の魔法の知識?も物語にでた光魔法だ。だがそれもレアだから参考にはならなかった。つまり魔法がどのくらいすごいものなのかわからないから、ムートやユウキの実力はほとんどわからない。だから結局はユミトが勝つと俺は思ってる。



 時間は夜の8時ぐらいだろうか。まだ寝るには早い。ギルドの仕事も残ってる。けど全然集中できなかった。

 緊張はもちろんしてる。だがそれ以上に楽しみだ。実力者とはほとんど戦ったことがない。ユミトのせいで毎回試合で他の強い人と当たれない。

 だいたい1回戦か2回戦でユミトと当たって遊ばれて負ける。だから余計に楽しみだ。だがそのせいでほとんど仕事ができてない。そわそわしている。

 そのせいか応援じゃなくほとんどが馬鹿にする。ネタにするの方が正しいかもしれない。だがその対応がちょうどよかった。変に緊張することはなかったし。


 ……


 落ち着かない。とにかく落ち着かない。さっき風呂からあっがたばかりだ。それも緊張を紛らわせるために。

 あ、関係ないけど、この世界では風呂は毎日は入らない。毎日入るのは貴族ぐらいだろう。俺たちは銭湯に行く。それもよっぽど汚れた日を除いたら、週一ぐらいで。

 とにかく緊張と楽しみなのとでどうも落ち着かない。そして寝れない。やっぱりこういうのは全くなれない。本を読もう。そうすれば気も紛れるだろう。そうなればどうしようか。前みたいにおもたい物は読みたくないしな。






 


 気は紛れた。うん、本当に気は紛れた。ただ内容が難しすぎた。しかもたちが悪いのはわかる内容もあったし、物語で説明されたりで、そのまま寝落ちもできなかった。

 内容は、錬金術について書いていた。今はもうほとんど使われない技術らしい。錬金術を使うには修業が必要で、師匠のもとで勉強しなくてはならない。だがその錬金術師は魔法が広く知られるようになって廃れたらしい。

 詳しい内容は3人の天才錬金術師のことだった。薬を作ったり、難しい内容だと賢者の石が作れないか模索して魔力結晶や魔鉱石を使ったりしてた。

 後半の内容はとにかく難しかった。転生させようともしていた。何も知らなかったら面白い話だと思ったけど、カペラさんから実際に錬金術はあると聞いたし、なにより作り方が詳しく書かれていた。怖いぐらい詳しく。そのせいでただの物語だと思って読めなかった。

 その結果、気は紛れた。一応。だが、眠気まで飛んだ。どうしようかな。まあ、体を動かすか。



 15分は経った。動きすぎるのもよくない気がしてこのぐらいで終わった。

 素振りをして、どうやって攻めるのかイメージして実際にそんな感じで体を動かしてみた。今日はビックリするぐらいによく体が動いた。イメージ通りに動けた。この状態が明日ならよかったのだが。

 まあ、もう戻ろう。別にやることはもうないし、夜だ。秋の夜なのだ。普通に寒い。山生活で慣れてはいるけど、それでもやっぱり寒いものは寒い。


「助けてー!」


 どこからか声が聞こえた。女の人だろう。声も高く子供っぽい感じがした。

 こんな時間だ。流石に無視できない。強姦かなんかだろうけど、とにかく速く行こう。ただのロリコン相手なら、なんとかなると思うし。

 索敵は得意だと思ってる。大体の場所もわかるだろう。


 索敵した感じだと相手は一般人よりも魔力が多いぐらいだ。場所も路地だ。意外と近い。女の子は普通の少女だろう。魔力も多いわけではない。



 現場についても犯されている場面ではなかった。不審者の男は立ち去ろうとしていた。それだけなら怪しい人ぐらいで終わっただろ。問題はあたりに血が飛び散っている。男は刃物を持っている。刃物というよりも直剣だ。

 そしてその剣にも血がついている。もちろんというかその血は少女の血だ。何の目的かわからない。けどなんとなく逃がしたらダメな気がした。少女が生きてるにしろ、流石に血が流れるような事態が起きたって事だろ?逃がしちゃダメな気がする。


「あらら~。もう来ましたか」

「何をしている」


 とにかく取り押さえる。魔力もとにかく多いわけじゃないから簡単だ、と思ってた。

 けど実際は簡単にはいきそうにない。こっちが負ける可能性の方が高いだろう。殺気が凄い。今までで一番強い。その場にいるのも辛い。

 それに魔力もさっきまでよりも増えてる。さっきまでは魔力を隠してたんだろう。

 なにより隙が無い。すぐ横は大通りだが、それでもここは路地だ。俺はいつもみたいに動き回るには狭い。必然的に正面から突撃するしかない。

 そして俺は魔法がない。相手にあるかどうかはわからないけど、とにかく俺は牽制をすることもできない。

 そして正面からだと相手に隙はない。そうなるとやられるのはこっちだ。


「おや、結構できそうですねぇ。仕事とは違いますが、楽しませてくださいよ」


 そう言うなり、いきなり突っ込んできた。しかもかなり強い一撃だろう。躱すには狭い。

 受けきるしかない。大振りの一撃。大振りなおかげでどこを狙ってるのかはわかりやすい。

 けどそれ以上に問題なのは威力だ。ムッキムキではないけど筋肉はある。細マッチョだ。ユミトよりも少し少ないぐらいだろう。そうなるとただでさえ威力がやばい。そこに魔力を纏わせてる。これもかなりの量だ。俺は魔力の半分以上使っても受けきれる自信がない。

 しばらくは鍔迫り合いが続いた。そして相手の方から距離を取った。


「いいですねえ。これはかなりの逸材じゃあありませんか。久しぶりに本気で楽しめそうですね」

「それはどうも」


 今度はこっちから攻めた。俺は威力が高い一撃は出せない。手数で押し切る。


 確かに俺は力はない。けどあり得ない量の魔力がある。そして技術も自己流でもかなりあると思ってる。慢心ではない。技術だけでもそれなりに冒険者たちとも戦えた。まあ冒険者達も対人の技術なんてほとんどないって言ってたけど。

 けどこんなことは初めてだ。俺の攻撃を知ってるかのように全部避ける。しかも最小限の動きで。こんなことは初めてでかなり動揺した。きっと顔にも出ていただろう。

 そのせいなのか段々攻撃も単調な動きになってきた。単に体力切れの可能性の方が高いが。最初は牽制も入れながら戦った。もう少しで攻撃が当たりそうな時もあった。その時は相手もかなり焦った表情だったから間違いないと思う。

 だが今は、牽制も出ない。出せないというべきか。魔力もかなり雑に纏わせていた。具体的には、相手に当たっても防御してたら意味ないぐらいの魔力を纏わせていた。そのせいですぐに動けなくなった。立ってもいられずに、仰向けに倒れた。


「もうおしまいですか。これはかなりもったいないですね。せっかくの逸材だというのに。この場所にさえ来なければもっと強くなれだろうに」

「殺さないで!」


 少女が叫んでいるが、そんなこと気にする素振りすら見せずに近づいてきた。俺を殺すために。なぜ殺すかはわからない。きっとこの事を言われるのは都合が悪いのだろう。だから俺を殺して口止めする。

 抵抗したい。したいが魔力はもうない。使い切ってしまった。そのせいで防御することもできない。


「ああ、気にしないでください。あなたは強いですよ。きっと私よりも強くなれたでしょう。ただ運が悪かったのです。今の実力でこの私を相手にするのは運が悪かったとしか言えないでしょうね。恨むならその少女でしょうね」

「その子は何も悪くない。悪いのはお前だろ」

「ま、そうかもしれませんね。お話はここまでです。それでは」


剣を振り上げた。首の上だ。首を切断するのだろう。


「あの大きい魔力はどこからだ」

「戦っている感じだったぞ。早く探せ」


遠くからそんな感じの会話が聞こえた。声はユミトだろうか。とにかく冒険者がここを探している。


「はぁ、思ってるよりも早く気づきましたね。始末できないのは問題ですけど、あの人達にばれるよりはいいでしょう。それではまた会う時まで。次こそは楽しませてくださいよ」


そういうと直剣をしまった。殺気もなくなった。そして何もなかったかのように去っていった。その時にあいつは笑っていた。いやな笑顔だった。人を殺そうとしていたのに何もなかったかのように、幸福だったような顔だった。あまり笑う、笑顔にならないのか、その顔にはぎこちなさがあった。そのせいであの笑顔が頭から離れない。極悪人の顔だった。


「たすけてくれてありがと、おにいちゃん」

「どういたしまして。それよりどうしてこんな事に?」

「お姉ちゃんとはぐれてね。それでさがそうと思ったら道にまよってね。そしたらあの人が私の腕を切ったの」

「大丈夫だったの?」

「だいじょうぶじゃない。けどお姉ちゃんに心配かけたくないから泣かないもん」


 今にも泣きだしそうだった。というより少し泣いたのだろう。涙の跡が見える。暗いからしっかりと見えない。月明りしかないのだ。


「怪我した場所見せて」

「わかった」


 思ってるより傷は浅かった。だが切り傷は大きかった。浅く、けど血が多くでる感じだろう。

 応急処置の仕方などわからない。けど早くしないと。まだ血は出ている。どうすればいいっけ。布を巻けばいいのか。清潔な方がいいよな。服の裾はまだきれいだな。ここを切ってちょっときつめに巻き付ければ出血は収まるかな。


「これでよしっと」

「ありがと」

「べつにいいよ。それより早くちゃんとした手当を受けた方がいい」

「わかった」

「じゃ、ギルドに行こう。あそこならちゃんとした手当もできるはずだから」

「わかった」


 本当にわかっているのかはわからないがとにかく連れて行こう。ないとは思うけど手遅れになったらまずいし。

 前を歩こうとしたら手を握ってきた。……それもそうか。さっき危ない目にあったばかりなのだ。別に子供が嫌いとかではないので、そのまま手をつないだ。

 はたから見たら俺、犯罪者じゃね?


「お姉ちゃんってどんなひとなの」


 さすがに無言は耐えられない。だから当たり障りのないことを聞いてみた。


「お姉ちゃんはすごいんだよ。まずねまずね、きれいなんだよ。周りにいる大人の人達はみんなそうやってほめてるの。そしてね、どのくらいかはわからないけど、つよいの。私が動物に襲われそうになっても守ってくれるの」

「それはすごいね」

「うん!」


 お姉ちゃんの話になったら生き生きしていた。まるで自慢でもするかのような話し方だった。いや、自慢してるな。

 ただ周りにいる大人というのには引っかかった。普通なら親が褒めるものじゃないのか。俺も褒められる経験なんてほとんどないからわからないけど。まあ、わざわざそのことを聞いたりはしない。なんとなく地雷のようなきがする。


「そうだ、今更だけど俺はタイシ。よろしく」

「私はアネモネ・アルストロメリア。よろしくね」


 アネモネは多分6歳か7歳ぐらいだろう。暗くてわからないが、顔が幼い。身長も妹が6歳の時と同じか少し低いぐらいだ。髪は紫だろうか。整った顔立ちだ。あと数年もすれば美人になるだろう。べ、別にロリコンじゃねえし。

 あとは活発な感じだろう。髪も伸ばしてるわけじゃなさそうな長さだ。


「ここにいたの、アネモネ。心配したんだよ」

「大丈夫。このおにいちゃんが守ってくれた」

「そう。ありがとうございます。妹の声がして心配したんです」

「いえ、大丈夫ですよ。俺はタイシです」

「私はリナリア・アルストロメリア。よろしくね」


 綺麗だと思った。見惚れていた。いや、2秒ぐらいだったはずだから怪しまれることはなかった。

 リナリアは俺と同じぐらいの身長だろうか。それだけ聞いたら大きいと思うかもしれない。だが残念ながら俺は全然背が伸びなかった。女性の平均ぐらいだろうか。日本だと無駄にでかくなったのになんでだよ。まあいい。

 髪は白色。白髪(しらが)ではない。白髪(はくはつ)だ。いや、銀と言うべきかもしれないけど。そして青い目。顔も妹と一緒で整った顔立ちだ。美しいよりも可愛いのほうが適切な見た目だろうか。夜だからかよく映える。アネモネがあそこまで言っていた理由が分かった。本当にきれいだと思う。可愛いと思う。10人に聞いたら全員可愛い、てか美人と答えるんじゃないかな。好みと違っても思わず見とれてしまう、そんな可愛さがある。


「ちょうどよかった。今からアネモネを手当するためにギルドに連れて行くんですけど、一緒に来てください」

「いや、そこまでしなくてもいいよ」

「そういうわけには。かなり深い傷だったし」

「そこまで言うのなら」


 かなり渋られたが一応ついてきてもらえることなった。さすがに合流したのにつれていかないのはまずい。時間もかなり遅い。


「それと私に敬語はいらないよ。年も一緒ぐらいだしね」

「わかった」




________


 ギルドは慌ただしかった。だいたい予想はつく。さっきの戦闘のことだろう。ほとんど意識してなかったけど、あの時は魔力を全力で使っていた。相手も同じだろう。そのせいでこうなったのだろう。

 一応確認はするけど。


「カペラさん。何かあったんですか」

「ああ、タイシ君。大変なんだよ。少女の悲鳴は聞こえるし、すぐに近くから戦闘が始まるし。もうどうなってるのか。あれ、タイシ君。そちらの方は?」

「アネモネ・アルストロメリアとリナリア・アルストロメリア。そこで襲われそうになってるところを見て助けた」

「ん?まさか悲鳴と戦闘はタイシ君に関係があるの」

「だからアネモネが助けを呼んだから駆け付けて、襲おうとしてた人と戦ったんだけど」

「もう、心配したんだから。ちょうど被害の時にタイシ君はいないんだもん」

「すみません」

「おっと、自己紹介がまだだったね。私はカペラ・ウェルス。よろしくね」

「よろしくね」


 自己紹介が終わったらカペラさんはどこかにいった。このことの報告か処理をするためだろう。

 それよりも手当だ。血は止まってるが、やっぱり傷が大きい。こういう事は専門外だ。どうやればいいんだろう。気が引けるがカペラさんに頼ろう。俺よりもできそうだし。


「カペラさん。ちょっといい?」

「なに、タイシ君」

「アネモネのけがの手当てをしたいんだけど、どうやればいい」

「怪我?ちょっと待ってて。」


 かなり慌ててそういった。何かあるのだろうか。




 カペラさんはしばらくするとこっちに来た。だが何も持ってない。何をするんだろう。


「アネモネちゃん。ちょっと傷見せてね」

「わかった」

「これは、かなり大きな傷だね。けどまだ間に合うかな。ちょっと待ってね」


 いきなりカペラさんの魔力が手に集まった。いつもよりも魔力も多い気がする。


「何してるの、カペラさん」

「ちょっと待って、タイシ君」


 1分も経ってないだろうか。傷がなくなった。どういうことだ?これが魔法の力なのか。


「カペラさん。何したの」

「これは治癒魔法でね。水魔法の中でも適性がある人しかできないの。私は魔力が少ないからほとんど使えないけど。何とかなってよかった」

「アネモネの傷を治してくれてありがと」

「いいよ、これぐらいなら何とかなったしね。けど次からは気を付けるんだよ」

「わかった。ありがと、カペラ姉ちゃん」

「どういたしまして」


 魔法ってすごいな。傷も治せる。物語の光魔法なら消滅させられる。こんなの使われたら勝ち目なんてあんの?


「じゃあ、私たちは帰るね」

「そんな、時間も遅いしここに泊まればいいよ」

「カペラさん!?」

「タイシ君は準備よろしく」

「そうじゃなくて」

「でも迷惑じゃ」

「大丈夫だよ。私もいるし」

「うーん、じゃあ、お言葉に甘えて」


聞いてない。カペラさんがここに泊まるの?

 俺は受付の近くで寝てるけどそれ以外に部屋はない。あってもギルマスの部屋とマジで汚い倉庫だ。

 つまりここで寝ることになる。広ければまだいい。だがこの部屋は狭い。元々は受付をするための部屋だ。ある程度の広さはあるが寝るとなると話が変わる。

 寝るのは4人。ここに布団を敷いたら部屋は埋まる。間もあけられない。つまり女の人と一緒になるのだ。しかも飛び切りの美女2人と子供。問題しかないだろ。


「じゃ、もう遅いし寝ようか」

「うん」


「うん」じゃない。

 確かにアネモネなら気にしないだろう。異性を気にするような年じゃないしね。でもねリナリアは違うっぽいんだよね。自分で言ってそのあと気づいたのか顔が赤くなってる。冷静じゃなくてもこの状況はまずい。


「じゃあもう火、消すね」


火が消えたら真っ暗で何も見えない。逃げることもできなくなった。こういうのはあれだ。もう諦めてさっさと寝よう。

面白い、続きが気になると思って頂けたら幸いです。

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