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野心

「なぜラバーシムは、リディティック殿に武器を貸し出したんだ。

 そんな事がなければ」


 アマト殿は独り言のようにつぶやいた。


 答えを期待していたものではなかっただろうが、クェルスが答え始める。


「ラバーシムの生まれた家は国では古い名家です。

 ただ、彼は長子ではなかったので、家を継ぐことはできないので、塔に来ました。


 そしてリディティック殿はオーフランド家のお生まれです。

 名門と言われる家ではありませんが、裕福な貴族として知られております。

 ただ、リディティック殿の母は正妻ではなく、また彼が幼い頃に亡くなっていました。


 彼には1つ下に正妻が生んだ弟がいまして、たぶんそのせいで母が死んだ後に教会にあずけられています。

 司祭にしようとでも思っていたのでしょう。

 彼はそれに反発して剣を持った。


 最初は教会の護衛隊に入り、巡礼に同行していたそうですが。

 そのまま教会にいようとは思っていなかったらしく、教会からの推薦で騎士団に入隊しています」


「何故、リディティックにラバーシム師が。

 塔と教会はあまり良い関係ではないと思っていたが」


 今度はオビシャット卿が聞いている。


「これは知られてはおりませんが」


 当然のようにクェルスが答えている。

 調べていたというのは本当らしい。


「若いころ、下級貴族の妻に手を出し、妊娠させてしまったことがありました。

 その夫はその件をネタにいい生活ができたので、文句は出ておりません。

 ただ、生まれた娘は早々に厄介払いをされています。

 彼女は裕福な貴族の愛妾になり、そこで男子を1人産んでいます。

 リディティック殿はラバーシムの孫です」


「それをどうやって」


 オビシャット卿が驚いている。

 その問いはなぜか聞こえないらしい。答えない。


「孫を助けるために力をかしたのか」


 オビシャット卿も深くは聞くつもりはない。話を変えた。


「それはどうでしょう。

 娘が初老といえる男の愛妾になる時には何もしていません。単純な血縁者への愛情とも違うと思います。

 ラバーシムは生まれがニガ家ですからね」


 なら金はある。娘を助けることもできた。

 オビシャット公爵家の6大貴族ほどではないが、名門と言っていい家だ。


「それに対し、騎士団の団長になれば領地はもらえませんが、騎士身分として家門を持つことがゆるされます。

 他にも条件があるので簡単ではありませんが、いま、新しい貴族になれる唯一の道です。

 国が軍事力を維持したいために騎士団に与えられている、塔や教会にない特権です。


 塔や教会の人々は伴侶や子を持つことがほとんど無いから、不満が出たことはありません」


「いや、教会ではまだ若い女性も見かけるが、塔は男だけだ。

 神の子が結婚しないのは教義のためだが、塔は別の問題だと思う」


「ラバーシムはそれを受け入れられなかったらしい」


「それはどういう事だ」


 アマト殿は本当にわかっていないのか。


「古い貴族の家には多くの魔具や魔法書があり、家を継げないものがその有利な環境を使って塔に入ることがよくあります」


 それをお前が言うか。


「ラバーシムもその一人。

 それも華やかな魔剣研究をしていました。

 ラバーシムは私よりも長く塔にいますが、私はラバーシムが副長になれるとは見ていなかった。

 ところが、好機に恵まれて今は長」


「最初は研究成果である<パウジット>の公表。

 本当に驚きました。彼を見くびっていたことを恥じた。

 魔剣の製造方法は現在には伝わってはいない。

 いろいろな方法で製造が試みられているが成功した例はない。


 ラバーシムは、古書から魔剣製造にかかわる重要なことを読み解いた。

『魔剣製造には<パウジット>が必要』。

 そして<パウジット>は現代では入手が不可能。

 要するに今は魔剣を作ることはできないという事」


 それは自分も知っている。師匠が魔剣は作ることはできないと知り、かなり気を落としていた。


「その後、空いた副長の席に彼が選ばれたが、誰にも異論はなかった。

 新しい副長はその就任時に自分の研究を発表するのが恒例。

 古書解析の内容<パウジット>を語るだろうと思われていた。


 ところが、ラバーシムはとんでもないことを言い出した。

<ディマスズの古文書>には『塔にある<ミグリアレ>が魔剣である』と書かれていると。

 そしてそれは国の統治者のために作られたものだと王に進言した。


 事実、王がその剣を持つと輝きを増した。

 魔剣は主の手にあると強く光る」


 俺たち平民の間でもすぐに噂になっていた。

 この国には、魔剣はなかった。

 他国でも王家が魔剣を持つのは、アリセリガ1国だけ。


 それが突然自分の国に魔剣が有り、しかもその持ち主が国王と言うのだから。

 国は公にしてはいなかったが、漏れ聞こえた国民は大いに喜んでいた。


「そしてその進言が今のラバーシムの地位を築いた」


 今度はオビシャット卿へ話をふっている。

 それに促され。


「塔に魔剣が隠されていて、それを王家の物とすることができると知った時、王は非常にお喜びになり、その事実を発見したラバーシム師に礼をしたかったのだろう。突如彼を『塔の長』にすると言い出した。

 当時の長はそろそろという話が出ていたから、塔の長の席を空けることに問題はなかった」


「だが、当時の元老院には彼の兄がいた。ラバーシム師を塔の長にすることはできない」


 なぜだ?


 俺以外はみんな知っているようだ。


「家門の問題だ」


 俺が知らない事にコーライン様が気づき、助言をいただいたが、それでも分からなかった。


「元老院は王への助言機関。

 この国の最高機関だ」


 オビシャット卿が説明を続けてくださった。


「構成は貴族から5名、教会から3名、騎士団から2名、そして塔から1名の計11人。

 そして、権力が集中しないため『同じ家からは1名』という規則がある。

 国法として<ギースの契約書>に書かれ、公布されている」


<ギースの契約書>この国で古くから使われている魔力がある契約書。

 契約に反すると破った者を罰する魔法がかけられている。

 正式な契約の場合、この契約書を使うことが礼儀になっている。


 強力な魔法ではないので、国法など対象者が多い場合は実質的に何の効果もない。

 また抜け道はあるようだが正式な約束を交わす場合には今でも使われている。

 そのため<ギースの契約書>に書かれている場合、魔法の有無にかかわらず、約束を破ることは心理的にしにくい。


「王は特例としてどうかと元老院にさえ聞いてきた。

 ニガ家としては、2人も選ばれれば名誉なはずだが、なぜか当時の当主が強く反対した。

 それが王の不興を買い、その怒りのせいで当主は隠居しなければならなくなった。

 むろん元老院からも外された。

 結局、ラバーシム師は塔の長になることができた」


 それは王の芝居だろう。


「当時、ニガ家の当主にはお子がいなかった。

 急遽いとこを養子にして家を継がせた。

 ラバーシムはどうもニガ家当主になろうと計画していたふしがあって。

 当主は、それを避けるために行ったようだ」


 なぜクェルスがオビシャット卿より詳しい内容を知っている。


「2人の間には何かあったようだけど、詳しくは分からなかった。

 重要なのは、ラバーシムが『1代貴族』という中途半端なものではなく、貴族としての身分を欲しがっていたこと。

 塔には珍しく普通の野心を持った普通の人だったみたい。


 ラバーシムが普通に野心の人であれば、塔で行った改革もその野心が元になっている」


 その言葉に、アマト殿の表情が暗くなっていく。

 逆にクェルスはなぜか楽しそうに続ける。


「ラバーシムが塔の長になった時に行った改革は2つ。

 1つは塔からの魔具を持ち出せるようにした<カラーヤの台帳>の使用。

 この結果、何が起きたかは先ほど話した通り」


「そしてもう1つは人々の生活が楽になるために低級魔具を販売。

 大魔法使いテゲレ・キコレの言葉『魔法をむやみに使用してはいけない』に従い、これまで塔はその力を人々の暮らしには使ってこなかった。

 これを塔の地位向上も目的として低級魔具を売り出した」


「着火枝や光る石など、火打石などの代替品で市井に広がっても問題がないとされるものがその対象とされた。

 販売ルートは厳選され、現在はゼジラル商会のみに許可している。

 そのゼジラル商会も利益の半分を国に、残りをすべて教会に寄付すると公言し実行している」


 そのせいでゼジラル商会の人気と信用が絶大になり、通常の商売でも十分な利益は得ているはずだ。


「納められた金で国庫が潤い、国の運営が助かっている。

 問題はない」


 オビシャット卿は断言しているが、その口調は質問に近い。


「リディティック殿が隊長候補になったのは、教会の強い推薦があったからでは。

 ドティホールン卿が、リディティック殿を支援しているのも、教会から頼まれたから。

 その教会は、巨額の寄付をするゼジラル商会の意向を無視することはできない。

 違いますか」


「そうだが、騎士を支援することは、教会に限らず、よくある事だ。

 名門貴族からの推薦など珍しくもない」


「そう思います。

 リディティック殿は自分がゼジラル商会に押されていることも知らないでしょう。

 ですが、ここにラバーシムの思惑が関与していることは事実。


 それに、魔具販売ですが、作っている量と売っている量が合いません。

 ゼジラル商会は、支店のない場所でも行商のような事をしているのですが、出回っている数が多すぎます」


「販売する魔具は塔で製造している。

 それに応じた金額が国にも納められている、ごまかしなどできない」


 今度はアマト殿が否定した。


「低級というだけに、作るのはそれほど難しくないですよね」


 クェルスは引かない。


「俺は作れん。おまえにだって無理だろう」


「私たちは、魔具専門じゃないですからね。

 魔具専門の魔法使いなら難しくない」


「素材も普通にあるものではない。

 手に入れることも難しいはずだ」


 引かない。


「平民が買える魔具の材料だよ。珍しくても高価なものではない。

 ある程度の財力を持っていれば問題ない」


 今度は言い返さない。事実なんだ。


「塔以外で製造されたものも正規のルートで販売されている。

 正規の利益は国と教会へ納められてはいるが、増えた分は別に流れている」


「誰のところにいっている」


 オビシャット卿が話に入ってきた。


「ブルムラー公爵家」


「いきなり大きいのが出てくるな」


 オビシャット卿が不機嫌になる。


 ブルムラー公爵家もオビシャット公爵家と同じく6大貴族の1つに数えられる。


「ブルムラー公爵なら、お抱えの魔法使いで今売られている魔具程度は作れると思います。


 実は、魔具の製造と販売は禁止されていません。

 一般に冒険者と呼ばれている人々から依頼され、魔法使いが作り対価をもらうなどは今までにも普通に行われていました」


「それは高価な魔具で彼らの冒険には必要なもの。今回の販売とは別だ」


「いいえ、区別はありません。

 塔と同じ品を製造することは禁止されていませんし、ゼジラル商会で販売することも可能です。

 買った人が塔で作られたものと勝手に勘違いしているだけで」


「普通、そのような事はしない。

 誰もそこまで規則が必要だとは思わないだろう」


「いいえ、制度の落ち度じゃありません、初めから抜け道が用意されていました。

 実行するには相応の権力と財力、そしてやろうとする気質が必要ですが。

 ラバーシムは、魔具の販売を餌に釣りをしていたんだと思います」


「釣れたのがブルムラー公爵ということか」

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