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フェルダ坑道

「ラバーシムに関しては戻って調べ直す」


あ、上の者に対しての判断を避けた。

これではクェルスの罪を問えなくなったのでは。


アマト殿は

「ナクラ卿がカーリア商会に預けていたミスティルの剣を持ち出したな」

もう1つの疑惑に話を移した。


「2年前、凶作のため、領地から税の徴収を行いませんでした。

お恥ずかしいのですが、その代わりにカーリア商会にお金をおかりし。

息子の剣は返す約束の証拠としてカーリア商会に預けていたものです。

最初いらないと断られましたが」


コーライン様は、アシクリの剣を手元に置いておくのは辛かったのだ。


オビシャット卿が

「きさま、剣を借り受ける時、渋るカーリアに我が家の名を出したな」


卿が最初から怒っていた理由はそれか。


「折れていたとしてもミスティルの剣。

その価値は知っているな。

貴様が首を差し出すなら、代わりに代金を出してもいいが」


冗談なのか、本気なのか。


「カーリアさんは誠実な商人です。

いきなりオビシャット公爵家の名前を出したとしてもお渡しすることはありません。

ですが、昨日、カーリアさんが訪ねてきて、剣をクェルス殿にお渡ししたと。


息子の死に関し調べていることがあり、それならばと。

知らなかったのですが、オビシャット卿の弟殿と我が娘が婚約したと噂が流れていたらしいのです」


痛い。

コーライン様の言葉に思わず反応してしまった。


「ですが、そんな事実はありません」


え!


「2カ月ほど前、クェルスさんが訪ねて来られた時。

お会いしてすぐに結婚を申し込まれましたが、冗談かと思っておりました。

その後は何もありませんでしたので」


カリーエ様が、その時の状況を教えてくださった。

ネズミを見るネズミもこちらを向いていた。


「求婚をした。

断られていない。

嘘は言っていない」


それは普通嘘だろう。


「何が起きているか分からず、オビシャット卿をお尋ねいたしました」


と言うコーライン様にネズミは


「アシクリ殿の死に疑問が有ったことは事実で、その事はナクラ卿にもお伝えしたはずですが」


「たしかに塔で調べていることがあり、3年前の事件も関係しているかもしれないと言われていましたが。

息子の事はお聞きしておりません」


怒りを含んでいる。

あたりまえだ息子の死をなんだと思っているんだ、この魔法使いは。


「アシクリ殿のことも含めて、3年前にフェルダ坑道で起こったことを調べていました」


「3年前?」


アマト殿は知らないらしい。


「どういうことだ。フェルダ坑道の件はおまえが剣を持ち出したことと関係あるのか」


オビシャット卿はネズミに聞いている。


「オビシャット家の者を罪人にしないために、お聞かせいただけませんか」


「どこまでだ」


「兄上が知っている事全てを」


ため息を1つすると、オビシャット卿が語り始めた。


「3年前、王都に1日の距離にあるフェルダ坑道に魔物が住み着いた。

坑道と言っても、かなり前に捨てられたもので、普段は人が近づかない。

オークが集団で住み着き、近隣に被害が出始めた。

そのころはまだ被害は作物や家畜だけだったが、いずれ人が襲われることは確実だ。

そのままにもしておけず、また王都に近い事もあり王都の騎士団が対応することになった。


ただ、この時運悪く、騎士団では、王都隊の隊長選考を行っていた。

前月に騎士団長が急に病死していたのだ。

副団長が団長に、王都隊の隊長が副団長に繰り上る。

ここまでは前から決まっていたので、問題がなかった。


王都隊の隊長を誰にするかでもめていた。

騎士団は7つに分かれ、構成されている。

その中でも、王都警備が任務の王都隊は特別な存在だ。

当時の隊長が副団長になったように、この隊の隊長が代々団長になっている。

逆に言えば、その実力のある者が選ばれている。


戦闘の能力だけでは選べない。

辺境警備の赤龍隊ならばそれでもよいが、王都独特の問題にも対処する必要があるので、その人選は慎重にならざるえない。


最初、他部隊からの横滑りも検討された。

2名は、その器ではないと思われ、1名は引退が目の前。

残る3名に打診したが、すべて辞退された。

自分の隊に誇りを持っているためで、騎士団としてはうれしい理由だ認めざるえない。


結局、王都隊の中から候補となる人間を探すことになった。


1人はナクラ卿のご子息、アシクリ殿。

アシクリ殿は剣の腕は騎士団でも一目置かれていた。

アマト殿と同じように生まれた時から個人に与えられている固有魔法<雷>の使い手。

実戦では使えないと謙遜していたが、時を選んで使えばかなり有利になる。

そして、何より人望があった。


もう1人は、リディティック殿。

剣は、アシクリ殿には劣るが、それは問題にはならなかった。

これまでにも、表に出せない問題をいくつか解決していたらしく、一部の貴族が押していた。


2人とも最初、その若さが問題視されたが、将来のためには、そのほうが良いと。

そして2人の内、どちらを選ぶかになったが、その先に進めなくなっていた。


その大きな問題はドティホールン卿。

リディティック殿が教会出身の騎士だったためか、強力な後ろ盾となっていた。

リディティック殿以外はありえないと譲らない。

あの人に正面から反対する事は難しい」


「ドティホールン卿の意見が通らなかったという事は、実質アシクリ殿が良いと思われていたのでは」


アマト殿もドティホールン卿は、さすがに知っているようだ。

正義を何よりも重んじる騎士にして名門貴族。

王への忠誠は、ゆるぎないもので厳しい進言も行うが、信頼は厚い。


たしか屋敷に自分を律するため、真実の祭壇と言うものまであるらしい。

だれもその動言に私欲を見ることのない国内随一の人。

そして頑固だ。

一度決めた事をひるがえすことを良しとしない。

教会が関係すると、その傾向が強く、妄信的な教徒と言える逸話も多い。


「議論が行き詰っていたところに坑道の話が入ってきた。

すぐにドティホールン卿が、リディティック殿に討伐をさせると。

そうすれば、反対するものはいなくなると。

そんな簡単なことではなかったが、卿はそう考えたらしい。

話し合いで、どうにか選考の参考とするとした。

それでもリディティック殿にやらせると言ってきかない」


噂どおりの人のようだ。


「正規の騎士団がせいぜい3~40のオークに遅れを取るとは考えられない。

先に行ったほうが駆逐してしまうそれは不公平ではないかという意見がでてしまった」


「それで6人の騎士と1人の神官での突入となったのですか。

不安を残す構成でしたので、不思議に思っておりました」


コーライン様が深いため息をした。


「そう1回の討伐で成功しないかもしれない戦力にすることをドティホールン卿が提案なされた。

魔法使いも連れて行かないと、無茶な話だったが、そのころには、みんな議論につかれていた」


「1回目の討伐隊は当然、リディティック殿になり、坑道へと入っていった。

人を制約したと言っても十分な戦力だ誰も失敗するとは思っていない。

外で数人の者が待機して報告を待っていた。

しかし、しばらくして、リディティック殿は退却してきた。

敵は思った以上に手ごわく、魔物の罠で総崩れになり退却するしかなかったと。

ケガをした者もいたが、全員戻ってこれた。


このことを受けて正式な討伐隊を送ろうとしたが、ドティホールン卿が許さない。

それは、公平ではないと」


「結局、後日、アシクリ殿7名が坑道に入った。

2度目の部隊も予想外に反撃を受けた。

そして先の討伐隊がなぜ失敗したのか、理由が分かった。

敵に魔法を使うものがいたらしい」


「オークに」


「事実だ。最初に魔法で呼び出した大量の水で松明の火が消された。

罠に用心していたので、うろたえることは無かったが、暗闇の中で目が見えるオーク相手に一時不利になってしまった。

この窮地を耐えながら予備のランプで小さな明かりを灯し、反撃に出た。

そして、徐々に魔物を追い詰め奥に進んで行く。


最後の足掻きとばかり、魔物が数匹逃亡をはかり突進してきた。

陣形を組んで進んでいたので、冷静に対応しようとしたが、突然2人が倒された。

薄明りの中では何が起きたか分からない。何かわからない力によって攻撃されていた。

その混乱の中で数匹に逃げられてしまった。

逃げた魔物はそのままに、自分達の被害を確認したところ、最初に倒れた2人は死んでいた。

その中に神官がいた。

ここでアシクリ殿は退却を決め、自分は最後尾で仲間を逃がすことにした。

この先もか」


オビシャット卿はコーライン様を気にかけてくださっている。


「お願いします」


ネズミはつらい話を聞かせようというのか。


「動けた4名が先に退却した。

だが、その者たちもかなりの傷を負い、自力では出口まではたどり着けなかった。

そこにリディティック殿が率いた5名が現れた。

雪辱を果たしたいと考え、前日から坑道に入り、その機会をうかがっていたらしい。

退却してきたのが聞こえ、応援に駆け出したと言っていた。

ケガ人がいたので、神官を残して奥に入っていった。

坑道の中ごろに作業場として、広い場所があり、以前から広場と呼ばれていた。

アシクリ殿はその広場、入り口まで引き、魔物をなかに抑えていたらしい。

広場の入り口近くに倒れていた。

リディティック殿達は中の魔物とすぐに戦闘になり、アシクリ殿の様子をみる余裕はなかったと。

遅れてきた神官がアシクリ殿の死を確認した。


その時の神官は教会から正式に派遣された者ではない。

リディティック殿がドティホールン卿に頼み、来てもらっていたので、それほど高位の神官ではない。

彼女は、蘇生の奇跡を行えなかった」


「どうしてオークごときに、アシクリ殿が、と思っていたが。

運び出されてきた遺体を見て納得ができた。

彼の剣は折れていた」


体が震えているのが分かる。


「競う相手がいなくなってしまったので、王都隊の隊長にはリディティック殿がなった。

今では2人の評価は逆転してしまっている。

最近では、アシクリ殿がまともな剣を選ぶこともできない騎士だったと言われ始めている。

主に彼を押した私を非難するために言われているが。

軍事に私が意見する資格がないと、元老院でも平然と言ってくる者もいるほどに」


コーライン様がオビシャット卿へ頭を下げている。

やめてくれ、その剣を作ったのは俺だ。


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