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魔法使いの疑惑

 強烈な痛みで目が覚めた。

 目を開けようとしたが、右目は何かでふさがれている左目だけが開いた。

 どうやらベットの上にいるらしい。


 頭の上から祈りの声が聞こえてくる。

 神官が、俺を治療をしていた。

 生きていた。


「気がつきました」


 左の視界の外から突然、カリーエ様の声が聞こえてくる。

 慌てて身を起こそうとして、全身に激痛が走る。


「無理をするなイグリース」


 今度はコーライン様の声、それこそ寝ているなど無理なことだ。

 でも、どうしてお二人がここに。


 なんとか上半身を起こす。

 知らない部屋の中にいる。

 右にもう1つベットがあり、焼死体らしいものが1体のっている。

 あいつだろう。


 正面に2人の男が立っていた。1人は魔法使い、1人は身分の高い貴族のようだ。

 魔法使いが声をかけてきた。


「気が付かれましたか、イグリースさん」


 返事をしようとした瞬間、喉の痛みで身が固まる。


「声をださなくとも結構です。

 私は塔の使いアマトと言います。

 こちらはオビシャット公爵家のラドティクス様」


 オビシャット公爵家ということは


「そこにいるやつの兄になります」


「私は塔の査問官として、ここにきております」


 塔とは国の魔法使いの組織。

 その査問官がいるということは何かにまきこまれたと言うことか。


「クェルスにいくつかの嫌疑がありまして、それを調べております。

 イグリースさんにもおたずねしたいことがありまして、ご協力をお願いできませんか。

 肯定の時は、目線を私に」


 彼を見つめ、了解したことを示した。


「ナクラ卿と、カリーエ様はご存じですね。

 お待ちいただくようお願いしたのですが、あなたに会いしたいと一緒においでになられました」


「私たちが来た時には、あなたはほぼ死んでいる状態でしたので、急ぎ教会から1名きてもらっています。

 もう一人は塔からです」


 教会の人は先ほどから自分を治療している女性だとすれば、塔からきた人は魔法使いを治療しているのか。

 教会と塔の仲が悪いのは知っていたが、塔の人間を治療できないほどなのか。


「アマト師と面識があったので同行させてもらっています。

 あのバカが何かしでかしていたらうちで処理しなければならなくなるので」


 うんざりしたような視線が隣の炭に向けられている。

 思いのほか若い。彼が兄ならあの魔法使いは考えていたより若いのか。


 で、この木炭みたいな死体があの魔法使いか。


「イグリースさんにご理解、いただくために最初からご説明します。

 クェルスには2件の嫌疑がかけられています。

 1つは持ち出し禁止の魔法の品を塔から持ち出した事。

 もう1つはナクラ家からミスティル剣をだましとった疑い」


「何度も言っているように、私は無実だ」


 いきなりかなり高い声で反論があがる。


「イグリース殿申訳ない。

 こいつは私を無実の罪におとしめたいのだ。

 何度も言うが、私は無実だ」


 声が魔法使いのベットのふちに立っている小動物が出していると、理解するのにしばらくかかった。


 使い魔か!

 魔法使いは、自分の使い魔として動物などを使役する。

 良く聞くのは猫や鳥だが、こいつはなんだろう。


「だから禁忌の品など持ち出していない。

 リーシーズの魔法を破って塔から持ち出せるものか。

 そこまで私の力は強くない」


 2本脚で立って会話に合わせ、前足を動かしているのは・・・飛びネズミ。

 しかし太りすぎだろう、あれでは飛べない。


「塔の8階の品は禁忌の品。

 禁忌の品は持ち出し禁止となっている。

 塔の人間ならだれでもしっている」


「だから、私が何を持ち出したというんだ」


 人とネズミの言い争いはなんかへんだ。


「まだ言い逃れする気か。これを見ろ」


 大きな台帳を取り出した。


「お前に言うのもばからしいが」


 アマト殿はオビシャット卿に向けて


「塔では高位の魔具は持ち出すことができない魔法がかけられております。

 ただ、それではあまりにも不便だったため、現在では塔から持ち出せる仕組みがあり。

 この<カラーヤの台帳>に記入すれば持ち出せる、というものです。

 ただし条件があり、この台帳に記入できるのは副長以上の者だけ。

 私もクェルスも塔に6人いる副長の1人です。

 そして台帳は塔最上階にある書見台に置かれて、その効果を発揮するのです」


 アマト殿はネズミに向き直り


「台帳も高位の魔具だから、塔から勝手に持ち出すことはできない。

 記入しても、塔の中に置かなければ、その効果が発揮しない。

<カラーヤの台帳>だけは、今でも唯一塔から持ち出すことができない物だった。


 貴様も『1代貴族』。

 貴族を裁くのだから、正式な裁判でおこなわれる。

 そこには、貴族騎士団のかたも出席する必要がある。

 塔には魔法使い以外は入れない。


<カラーヤの台帳>は塔外には出せない。

 正式な裁判には証拠として台帳が出てこないと、今回の事を計略していたのだろうが。

 残念ながらここにある」


 アマト殿の顔はどうだと言わんばかりだ。


「俺の固有魔法を知らなかったのがおまえの敗因だ。

 俺だけは塔外に<カラーヤの台帳>を持ちだすことができた」


「そして、これらも証拠として回収させてもらっている」


 見おぼえのある壺を取り出した。


「<イフリートの壺>。

 そして、<ペレのハンマー>と<フェニックスの護符>

 これらはすべて8階の収蔵品目録にも記載されている。

 そして<カラーヤの台帳>にはしっかりお前の署名がある。

 禁忌の品を持ち出した証拠だ」


 昨夜、剣を作る時に使ったものだ。


「『塔外に持ち出しを禁止した魔具は持ち出せないように魔法をかけた』と魔法をかけたリーシーズの言葉が残っている。

 だから、持ち出せた時点で、それは禁止の品ではない」


 ネズミが反論するが、それは通らないだろう。


「それに8階の魔具の持ち出しが禁じられているなら、俺より前に持ち出した人はどうして罪に問われていない」


「なに?」


「私の前に8階の魔具を持ち出している人がいるのに罰せられていない。

 8階の魔具が全部持ち出し禁止にされているのならば、先に罰せられているはずだ」


「<ミグリアレ>の事をいっているのか。あの件は別だろう」


 魔剣<ミグリアレ>名前は知っている。

 数年前に発見された存在を忘れられていた魔剣。


 すでに滅んだ国の王のために作られた魔剣で、そのいきさつから王家の物となった。

 この国唯一の魔剣。

 塔にあったのか。


「違うよ」


 ネズミはあっさりと否定して。


「<ミグリアレ>や私が持ち出した3つ以外に8階から持ち出されている」


「おまえは何を言っている。

<カラーヤの台帳>に書かずに持ち出せるはずがないだろう」


 怒鳴られている飛びネズミは立ったまま平然としている。


 本体はベットの上で煤けて動けないままだが。

 ネズミが、たぶんその声帯のもっとも出せる低い声を出す。


「カリーエ様」


「はい?」


「申訳ありませんが、お手伝い願えませんか」


「何をでしょうか」


 カリーエ様が戸惑っている。


「<カラーヤの台帳>の180番から順に番号と魔具の名前を読んでいただけませんか」


「俺が読み上げる」


「ダメだよ。

 カリーエ様にお願いします」


 ネズミが、カリーエ様に頭を下げて言う。

 カリーエ様がアマト殿から台帳を受け取り、読み始める。


「180 <カゼの瓶>。

 181 <ウロの呪符>。

 182 <過炎の剣ネセルシュト>。

 183 <瀑布の剣グリス>」


「何!」

 アマト殿が

「どこに!」

 カリーエ様が手にしていた台帳をのぞき込む。


「無理だよ、アマト。

 俺たち魔法使いには認識できない」


 アマト殿は声の主ではなく、煤けた魔法使い本体に目を向けた。


「対魔法使いの魔法がかかっている。

 似たようなものを知っている。

 その魔法のインクはマナを扱う俺たち魔法使いには書いてあることすら認知することができない。

 そして、184番に<影翔の槍ニプルス>かな。

 全て魔力を帯びた武具、8階にあるなしに関係なく塔外に出してはいけない物だ」


「誰がもち出しているのですか」


 アマト殿がカリーエ様に聞いている。


「ラバーシムとなっています」


 アマト殿は一瞬、理解できなかったらしい。


「なぜ塔の長が」


「持ち出されていることには気付いていたけど。

 塔の中にあっては確かめようもなかった。

 今確認がとれた」


「俺に持ち出させたのか」


 アマト殿は再度、炭を見つめていた。


「<時戻し>だよね、アマトの固有魔法。

 手に持てるものを少し過去に送れる。

 期待していたんだ」


 アマト殿の顔が真っ赤になっている。


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