#44 魔王との決戦
「光学観測にて、『魔王』を視認!距離、700万キロ!」
地球294艦隊の前方に、目標を捉えた。
全部で7惑星、総勢5万4千隻の艦艇が、その真っ黒な巨大物体に向かって進撃を続ける。
すでに戦艦ゴンドワナは、地球001の3000隻の艦艇を伴い魔王から200万キロの位置まで進撃していた。我々も先行艦隊に追いつくべく、前進を続ける。
魔王は静かだ。なんの反応もなく、ただ中性子星を周回している。どれくらいの感知能力があるのか知らないが、数百万キロ先の敵は把握できないようだ。
「魔王って、なんなのですかね?一体いつ頃から、何のためにあそこに存在しているんでしょう?」
「さあな、分からん。ただ、一つだけ分かっているのは、地球813に害悪をもたらす存在だということだ。地球813の有史以来、多くの人々があの魔王により命を奪われてきたようだ。この戦いで、終止符を打たねばならない。」
「はい、そうですね。このまま観測を続けます。」
光学観測担当の士官に尋ねられて、私はこう応える。つい先日も、王都で多くの人が亡くなったばかりだ。無慈悲に命を奪い続けるこの悪の元凶を、なんとしても叩く。そう決意を新たにする。
我々の艦隊から1300万キロ彼方に、連盟軍の哨戒艦が数隻いる。我々のこの軍事行動を把握し、観測しているようだ。彼らに監視されつつ、我々は進軍を続ける。
思えば、連盟にとっても魔王は要塞を破壊したいわば敵だ。その仇を、結果的に我々が撃つことになる。妙な気がするしかし、連盟側の要塞にいたであろう民間人多数の命を奪った罪は、我々とて看過できない。
もはや連合、連盟を問わず、人類の敵となった魔王。その魔王を倒すべく、連合の5万隻以上の艦隊は進軍を続ける。
地球760の高速艦隊1000隻がわが地球294艦隊に接近してきた。我が小隊330隻はその1000隻と合流すべく、地球294艦隊を離脱する。
「地球760、0972号艦より、地球294、2680号艦へ。ダニエルだ。これより、機関の最終点検を行いつつ、前進する。」
「地球294、2680号艦より地球760、0972号艦へ。了解。我々はこれより、中将閣下の指揮下に入ります。」
1330隻の高速艦隊は5万隻の艦隊から離脱し、魔王に向けて前進を続ける。その魔王まで、あと180万キロ。作戦開始まであと3時間。
私は、駆逐艦2680号艦の機関室へと向かう。普段は攻撃前にあまり寄り付かないのだが、今回はなぜか立ち寄りたくなった。
「よーし、それじゃ3番バルプの点検に入る……あ、閣下だ!敬礼!」
「いや、そのままでいい。私に構わず、点検を続けてくれ。」
「了解しました!それじゃあ3番バルブの点検を開始するぞ!」
高さ10メートル以上ある機関が2つ並んでいる。前側には核融合炉があり、後ろは重力子エンジンが接続している。
今まで、何度もこの機関を全開運転して、多くの戦場を駆け巡ってきた。左右にこの機関が並んでいるが、我々の機動力はこの左右どちらかが欠けても維持できない。
毎回そうだが、今回も失敗は許されない。このため、入念な機関の点検が続けられる。我々は、この機関に全てを委ねることになる。
続いて、食堂へ向かう。今、まさに戦闘指揮所への移行が行われているところだ。テーブルが片付けられ、指揮用のモニターテーブルが出され、接続テストが行われている。ここに私が入ると邪魔になるだけだ。私は食堂へは入らず、艦の後ろ側へと歩く。
駆逐艦には窓がほとんどない。艦橋に大きな窓が一つ、そして艦尾付近にある展望台に小さな窓が左右一つづつ。窓はこれだけだ。
私はその展望室へと入る。そこから宇宙を見る。真っ黒な宇宙空間、中性子星の周囲にはうっすらとピンク色のガスがかかっている。その宇宙空間を眺めながら、展望台にある自販機で買った飲み物を飲みながら、私はぼーっと眺めていた。
「エルンスト准将閣下へ、直ちに戦闘指揮所(CIC)へお越しください。」
艦内放送で呼び出される。指揮所への移行が完了したようだ。私は再び、指揮所に変わった食堂へと向かった。
壁面のテレビモニターには、5万隻の艦隊の配置状況が映っている。その横のモニターには、あの黒い物体、魔王が映されている。
そして、数人の幕僚と、秘書のリュシールが起立、敬礼しながら私を出迎える。
私は彼らに、号令を発する。
「これより、魔王討伐作戦準備に入る!手順の最終確認を行う!」
「はっ!」
モニターには、作戦図が映し出されている。まず我々は地球760の1000隻とともに、魔王の手前50万キロの地点に進撃、その後全力運転で魔王に接近する。
発射までの15分間のうちに魔王までの距離を20万キロ縮めて、30万キロまで接近する。そこで魔王にビームを撃たせる。すると、次弾装填完了までの15分間の間、魔王は攻撃不能になる。その間に我々はワームホール発生器を放出、魔王の手前30万キロの地点に、5万隻の味方の艦隊がワープアウトするための「トンネル」を作り出す。
そこに味方の艦隊が次々にワープアウトし、魔王に向けて一斉砲撃。同時に、50万キロ彼方から戦艦ゴンドワナも砲撃。6万隻相当の大火力を持って、魔王を殱滅する。
言葉で言えば、たったこれだけの作戦である。だが、不安はある。我々は魔王の攻撃を避けられるのか?装填時間は本当に15分間なのか?
だが、魔王までの距離は徐々に詰まる。ついに70万キロまで接近した。魔王にまだ、動きはない。
「魔王に依然、動きなし!距離、68万キロ!」
もしここで魔王が我々を感知し、エネルギー装填が始めたら、我々は直ちに作戦行動を開始せねばならない。すでに我々の戦いは、開始していた。
謎の多い敵に、ぶっつけ本番の作戦。だが、手の内を知らないのは魔王も同じ。我々は一度とは言え、奴の手の内を見せられている。その情報を頼りに、我々は魔王を倒すため行動する。
「魔王まであと、50万キロ!」
ついに、やつの射程内に入った。その時、真っ黒だった魔王の一部が、青白く光りだす。
「魔王より熱源反応!ビーム兵器の装填が始まりました!」
それを合図に、ダニエル中将の指令が飛ぶ。
「高速艦隊、全速前進!魔王の懐に飛び込むぞ!」
我々330隻のエンジンが点火される。魚鱗陣形のまま、前進を開始した。
青白く不気味に光る魔王。15分という装填時間は、あくまでも連盟要塞の破壊の際の時間だ。我々相手だと、その前に撃ってこないとも限らない。
だから、常に気が抜けない。全速で魔王の周りを周回しながら、徐々に魔王へと接近する。
魔王の出す光はますます強くなる。 今でも撃てるんじゃないのか?モニター上に表れる数値から察するに、相当なエネルギー量が装填されているようだ。だが、まだ奴は充填を続ける。
不思議に思うのだが、補給もなしにどうやってあれだけのエネルギーを得ることができるのか?だいたいあの魔王は、何を食べて生きているのだろうか?意思がある生命体である以上、なんらかの食糧を必要とするはずだ。
それに魔王は、地球813の人間を根絶やしにすることを目的に生きているようだが、その目的の先にあるものが見えない。モンスターの楽園を築くことが目的だとローブをまとったグールが言っていたが、その目的が成就できたとして、200光年離れた中性子星の周りを回る魔王に、なんの得があるというのか?
もしかして、魔王は本能的に破壊を求めているだけなのかもしれない。たまたまこの中性子星域に近く、ワームホール帯が繋がっている地球813がターゲットにされただけなのかもしれない。
だから、人類が滅んでモンスターの楽園ができたとして、今度はそのモンスターを滅ぼしにかかるのではないか?
しかしおそらく何百年、何千年、いや、もしかしたら何万年も、破壊本能のみで生きながらえてきたわけだ。その執念だけは、恐れ入る。
だが、それも今日でおしまいだ。
なんとしても、終わらせてみせる。
「まもなく、装填開始から15分です!あと、30秒!」
幕僚の1人が叫ぶ。それを聞いて、私は指示を出す。
「第9小隊、減速せよ!」
この突然に指令に、ベルトルト大尉が反論する。
「閣下、ここで減速するのは……」
「命令だ!ただちに実行!私がタイミングを見て、再加速を指示する!」
魔王の狙撃能力は未知数だ。だから、非常に高速に奴の前を横切る我々でも、狙い撃ちできるかもしれない。
だが、破壊本能丸出しの奴ならば、きっと狙いやすい方を撃とうと思うだろう。減速した、遅い方を狙おうとするはずだ。
だから、敢えて我が小隊だけを離脱させる。
奴は、我々を狙ってくるだろう。そうすれば、先行するダニエル艦隊は攻撃を免れることができる。
魔王が攻撃するその瞬間に、我々は全速離脱をする。タイミングを間違えれば、330隻は瞬時に消滅するだろう。
しかし最悪、我々が沈められたとしても、残ったダニエル艦隊1000隻がいれば、5万隻がワープアウトできるだけのワームホール帯を作りだすことができる。
だから、我々が囮になることは、予め決めていた。
このことは、モンスター研究所に立ち寄った際、ダニエル中将に進言済みだ。
だから、ダニエル艦隊は前進を続ける。我々は徐々に離れていく。
この艦隊が生き残れるかどうかは、私の勘次第だ。
私はモニターに映る魔王をじっと見つめる。そろそろ撃ってくる。その直前に、全速離脱指示を出す。
遅すぎても、早すぎてもダメだ。魔王に狙い撃ちされるだろう。
奴は、いつ撃ってくるか。
その瞬間を、私はモニター越しに見える魔王を睨みながら待つ。
その時、魔王の光が一瞬、わずかだが強くなった。
それを見て私は、叫ぶ。
「全艦、最大戦速!」
次の瞬間、この指揮所内にけたたましい機関音が鳴り響く。周りの艦も一斉に加速を開始する。どの艦からも、青白い後方排気がまるで彗星の尾のようにたなびく。
魔王が映るモニターが、ガタガタと揺れている。やつは、撃ってくるのか?
だがまさにこのタイミングで、魔王が発砲した。
「魔王、発砲!ビーム、来ます!」
直後に、艦隊のすぐ後ろ、直径100キロの光の柱が現れる。
後方を映すモニターには、その青白い光の壁と、その光をバックに後続艦がポツポツとまるで埃のように映るのが見える。
全艦、離脱できたのか?巻き込まれた艦はいないか?私は、陣形図のモニターを見る。だが強力なビームによる雑電波で、我が小隊の陣形が把握できない。
その光の柱は、20秒間光り続けた。
20秒経ち、光が消える。我が小隊の後方は再び真っ暗な宇宙空間に戻り、レーダーが回復する。
「陣形確認!艦数、330隻!全艦健在です!」
オペレーターの声を聞く。私はこの瞬間、賭けに勝ったことを知る。
そして、確信した。我々は、あの魔王に勝った。
「ダニエル艦隊に追いつく!速度このまま!第2段階に移行する!」
魔王の攻撃を交わしたが、まだ我々にはやらなければならないことがある。ワームホール帯を作り、味方艦艇5万隻を呼び寄せることだ。
我々は間も無く、ダニエル艦隊と合流する。中将が、ワームホール帯発生装置の発射を指示してきた。
「全艦、ワームホール帯発生装置の射出を開始せよ!」
私も、我が小隊に下令する。
「第9小隊!雷撃戦、用意!ワームホール帯発生装置、射出開始!」
レールガン射出口から、ワームホール帯発生装置が射出される。
装置自体は小さなカプセルのようなものだ。それを入れたミサイルを、強力な電磁力で押し出す。
各艦から2本づつ、計2660本を放射状に散開させるす。射出から20秒ほどで装置が作動、ちかちかと光を放つ。
だが、それだけでは5万隻の艦隊は、ワープアウトできない。
この装置が作り出した小型のワームホールを大型化するために、我々の艦砲のエネルギーを流し込まないといけない仕組みだ。
わりと厄介な装置だ。私は続けて、砲撃開始を命令する。
「砲撃戦、用意!目標、ワームホール発生装置!」
我が小隊とダニエル艦隊の双方から、散発的に砲撃が行われる。
我々の砲撃を受け、目の前で炸裂するワームホール発生装置。その直後に、ワームホールセンサーがワープ可能なワームホール帯の発生を知らせる。
この間、3分。ようやくゲートは、開かれた。
我々の砲撃を合図に、この宙域に艦隊が次々にワープアウトし始めた。
湧き出したかのように現れる無数の駆逐艦。その後ろに3、4キロ級の戦艦も何隻か現われる。
総勢5万3千隻の駆逐艦と、160隻の戦艦、その中にいる約850万人もの将兵が、我々の作ったワープの回廊を通り抜けてきたのだ。
我々の作戦行動と連動して、この5万隻を超える艦隊でもワームホール発生装置を作動させて、トンネルの「入り口」を作り出す。そしてそこから、我々の作り出したこの「出口」に飛び出してくる。
まさに人類の夢であった、自由ワープ航法を可能にする技術だ。これまでは自然界に存在するワームホール帯を利用するしかなかったワープを、条件付きながら自由にその場所を選ぶことができるのだ。連合内でも、最高軍事機密とされている理由が分かる。
だが惜しいことに、このワームホール帯は安定しない。せいぜい30分しか持続できない。だが使い方次第では、艦隊の湧き出す魔法のように作用できる。
これを作り出したのは、あの少々おかしなリョウコ研究員だという。接する限りは奇妙な人物としか思えないが、その功績を目の当たりにすると、彼女への見方が変わる。
こうしてワープアウトした大艦隊に同調して、我々高速艦隊も90度回頭する。矛先は、魔王だ。
「合同司令部より入電!全艦隊、3バルブ装填開始!」
我々はその指示を受けて、主砲の装填を開始する。装填時間は、90秒。装填に通常砲撃の9倍かかるが威力は3倍だ。
モニターで外の艦隊の様子を見る。艦首が青白く光る無数の駆逐艦が、横一線にずらりと並ぶ。これだけの大艦隊が、たった一つの目標に向けて砲火を放つ。
おまけに、全長700キロの人類最大最強の戦艦まで加わる。
そしてついに、砲撃のカウントダウンが始まる。
「発射5秒前!4、3、2、1……」
ゼロカウント寸前、急に私は、何も聞こえなくなる。静寂の中、まるで時が止まったように周りの空間が静止する。
そして、声が聞こえた。
『おのれ、人間どもめ!』
その声が聞こえた次の瞬間、再び時間が動き出す。
「ゼロ!」
カウントダウンが終わり、この宙域にいる艦艇が、一斉に砲撃を開始する。
我が艦も発砲。雷のような砲撃音が、この戦闘指揮所内に鳴り響いた。
無数の青白い光の筋が、30万キロ彼方にある黒い巨大物体に収束していく。
やや離れた場所に、大きな筋が見える。あれは戦艦ゴンドワナの主砲によるものだ。数万キロ離れた場所から放たれているが、他の艦の放つ光の筋とは明らかに異なる太く明るいビームが我々にも見える。
ところがだ。
あの魔王の、黒く巨大な身体が、我々のビームを吸収し続ける。
数秒間続く放射エネルギーを、まるで吸水力抜群なスポンジのように吸い続ける。
その黒体は我々の放った砲火を吸収し尽くす。何事もなかったように、中性子星の周回軌道を回り続けていた。
化け物か……6万隻相当以上の砲火だぞ?それを全て、吸い尽くしてしまった。
唖然とする我々が、第2射の用意をしようとしたその次の瞬間、突如、魔王に異変が起こる。
真っ黒な球体が破れるように、眩いばかりの光が放たれた。
そして我々に向かって、猛烈な衝撃波が迫ってくる。
「衝撃波、急速接近!」
「ば、バリアだ!全艦、バリア展開!」
私がバリア展開を命じた5秒後に、凄まじい音と揺れが駆逐艦2680号艦に襲いかかる。ガタガタと、まるで地震のように揺れる艦内。戦闘指揮所内のモニターのいくつかが衝撃により消える。
その衝撃は30秒ほど続く。が、ぱたっと止み、再び訪れる静寂。外を映すモニターはまだ生きており、静けさを取り戻した宇宙空間を表示している。
「お、終わった、のか!?」
ベルトルト大尉がつぶやく。その腕の中には、彼の妻のリュシールを抱えている。
「おい、皆、大丈夫か!?」
テーブルモニターにしがみつくもの、床に座り込んだもの、壁に寄りかかったもの、様々だが、全員無事のようだ。
「他の艦は!?やられた艦はないか!?」
「レーダーサイト上は、全艦、健在です!損害を確認いたします!」
数分後には、被害状況が知らされる。が、艦外カメラが破損したとか、衝撃で転んで骨折した者が数名いたものの、全員、無事生き残った。
「合同司令部より入電!」
通信士が叫ぶ。
「魔王の活動停止を確認!残骸中に熱源反応なし!現時刻を持って、我々の勝利を宣言、作戦を終了する!以上です!」
その瞬間、戦闘指揮所内は歓喜の声で溢れる。
「やったー!やったぞ、リュシール!」
「あ、ベルトルト様、ちょっと引っ張りすぎです!」
「やった……今回も、生き残れた……」
私は黙って彼らの様を見る。ベルトルト大尉の喜びようは半端ではなく、恥ずかしげもなくリュシールを抱えてはしゃいでいる。
それに同調する者、自身の独身を嘆く者、様々だ。
「全艦に連絡!これより、集結地点へと向かう!」
しばらくして私は、淡々と彼らに号令をかける。だが、表には出さないが、当然私も内心この勝利を喜んでいる。いや、ホッとしたというのが正解だろうか?
今回も、生き残れた。
そして、地球813で起こる怪現象の元凶を、ついに取り除くことができた。




