#42 援軍
援軍として最初に到着したのは、超大型戦艦の方だった。
地球001所属の戦艦ゴンドワナ。地球001の古代の超大陸の名を冠するこの艦は、呆れるほどでかい。
全長700キロ、質量900兆トン、収容艦艇数1万隻、10メートル級砲門は3000、2000メートル級の砲門が2門、軍民合わせて430万人が住むこの艦。そして中には、我々の戦艦とは比べ物にならないほど大きな街が、なんと3つもあるという。
私はジャンヌと3人の居候を伴って、その戦艦に行くことになった。
地球813の小惑星帯付近に到着したその戦艦へ、駆逐艦2680号艦で向かう。
「あ、あれじゃないですか?見えますよ、その大きな戦艦が。」
艦橋でジャンヌが、窓の外に見える戦艦を指差す。確かにあれは、今から向かう戦艦ゴンドワナだ。
だが、ジャンヌはあの宇宙船のとんでもなさに気づいてはいない。あの艦まで7千キロ以上離れているにも関わらず、すでに肉眼で見える。それがどれだけとんでもないことか、おそらくジャンヌはこの時はまだ知らない。
徐々に近づくが、見る見る大きくなるその超大型戦艦。だが、まだ到着してはいない。まだまだ大きくなる。窓いっぱいに広がるその戦艦の姿を目の当たりにして、ようやくジャンヌもその異常さに気づく。
「あ、あわわ……何ですか、この船。こ、こんなに大きいのですか!?まるで、モン・フェイロン山ではありませんか!」
ジャンヌが驚いたその大型戦艦は、その後も大きくなり続ける。しまいには、艦橋の窓にはこの戦艦の表面である灰色の岩肌しか見えなくなってしまった。
もはや船などではない。星だ。星そのものだ。
その岩肌の表面には、ドックが見えてきた。だが、一つや二つではない。目に入るだけでも数十のドックが並ぶ。あれのどこに降りろというのか?
「ゴンドワナより入電!地球294駆逐艦2680号艦の入港を許可する!第3392番ドックへ入港されたし!以上!」
どれがその3392番ドックなのか分からないが、ドックが発するビーコンに従い降りていく。
ようやく降りるべきドックが見えてきた。徐々にドックへ接近する。
「繋留ドックまで、あと200メートル!」
「両舷停止!接続用意!」
「両舷停止!ロックまであと90…80…70…」
そしてガチャンという鈍い音とともに、駆逐艦2680号艦はこの巨大戦艦の繋留ロックに接続する。
艦底部に接続された通路を抜けて、艦内に入る。そういえば、いつも戦艦ニュービスマルクに移乗する際は、司令官権限により艦橋直結の1、2番ドックしか使っていない。このため、ジャンヌはニュービスマルク艦内を走る鉄道に乗ったことがない。
通常、戦艦内は広いため、移動には鉄道が使われる。当然このゴンドワナにも我々の戦艦同様、鉄道がある。
だが、我々の戦艦と異なるのは「乗り換え」がある事だ。ドックから鉄道でしばらく走ると、大きな駅に着く。
そこで今度は高速鉄道に乗り換える。時速500キロのリニア式の鉄道に乗り換えなければならない。この高速鉄道の存在が、この艦の大きさを物語る。
ものすごい速さで駆け抜けるこの鉄道、だが窓の外を見ても、真っ暗なトンネルの壁しか見えない。せっかくの鉄道だが、駅以外は真っ暗闇の中を走るだけ。戦艦自体が小惑星をくりぬいて作られたものだから、その中を走る鉄道の風景など、そうなるのは当然だ。
が、やはりこの艦は違う。
このまま真っ暗闇が続くかと思われたが、急にトンネルを抜ける。
「うわぁ!何あれ!?」
「なななんだべ!?」
街だ。街に出たようだ。急に明るい場所に出て、ジャンヌと3人の居候は、窓の外の風景に釘付けとなる。
窓の外を流れる風景は、地上そのもの。我々の戦艦の街は400メートル四方の限られた空間に建物を押し込むために、4層構造をしている。が、ここはよほど余裕があるのか、階層構造をしているのは中心街だけのようだ。
沿線は住宅街から商店街に変わっていく。高いビルに階層構造の中に滑り込む鉄道。駅が近くなり、徐々に速度を落とす。
「まもなく、第2ゴンドワナシティー駅に到着します。お忘れ物のないよう、今一度お確かめの上、席をお立ちいただくようお願い申し上げます。本日はリニア鉄道をご利用いただき、ありがとうございます。」
車内放送が入る。いよいよ到着か。駆逐艦を降りて1時間半、思ったより長い旅だった。
だが、ここは宇宙船の中だ。どこかの星に降り立ったように錯覚する。なんだか、感覚が麻痺してきた。
駅を降りて、街に出る。ジャンヌ達にとってはあまり見たことのない高い建物が並ぶ街。ここは、ミニ地球001ともいうべき場所。建物も、乗り物も、売られているものも全てこの宇宙で最先端の技術を用いたものばかりだ。
戦艦ゴンドワナは、もはや戦闘艦としての用途はほとんどなく、どちらかというと動く商業施設、地球001の技術力の喧伝のために使われている。大きすぎて、戦闘行動には不向きなためだ。
だが、稀に作戦行動に参加することがある。これまでも数個艦隊による大会戦に何度か投入されていると聞く。直径2キロの高エネルギー粒子砲2門から放たれるビームは、一撃で数百~千隻もの艦艇を消滅させる威力を持つ。
そんな化け物戦艦の中に、今我々はいる。だが、ここが戦艦であることを忘れてしまうような光景が広がる。
高さ300メートルのビルがいくつも立ち並び、そのビル同士をつなぐ空中回廊が張り巡らされている。この回廊が、他の戦艦の街で見られる階層構造のように機能している。
我々は、全部で6層からなる階層の、3層目に立っている。約100メートルもの高さの回廊から下を眺めるジャンヌ。その横にはエルフにゴブリン、そして元駆除人がいる。
「はぁ~……た、高いですねぇ~……」
だが、ここはまだ中腹。上にまだ3層ある。
ジャンヌよ、高さに驚いている場合ではない。ここ第2ゴンドワナシティーは商業地域。当然、たくさんの店が立ち並ぶ。
ここに立ち並ぶのは、ただの店ではない。宇宙最先端の星の、最新の製品が売られる場所だ。
スマホはもちろん、服に雑貨に食べ物、車など、我々地球294にさえないものがそこにはある。
ジャンヌ達は、ある家電屋のスマホ売り場を見ている。最新の機種が並び、それを物色する4人。で、私は目についたスマホをせがまれる。
だが、その4人を他の客が取り囲んでいる。それはそうだろう。伝説の亜人であるエルフとゴブリンがスマホ売り場にいるのだ。宇宙ではこの最新鋭のスマホよりも、そっちの方が珍しい。
「あの~、ご一緒に写真を撮らせてもらってもいいですか?」
ある人が、クララとマリーに声をかける。
「えっ!?ああ写真かぇ?ええべよ~。」
顔からは想像もつかない訛りに一瞬尻込みされるが、元々愛嬌のある亜人だ。すぐに打ち解け、何人かの人々と写真に収まっていた。
「エルフさんって、今何歳なんですか?」
「わだすか?今年で40になるべよ~!」
「ええっ!?二十歳くらいにしか見えませんよ!やっぱり私たちより長寿なんですね!」
ところでゴブリンのクララは、色的に目立つ。やはりその緑色の皮膚が気になる人が多い。
「ねえ、ゴブリンさん。触ってもいいですか?」
「ええよ。でもおらの肌なんて、そんなに珍しいでげすか?」
「いや、どう見ても珍しいでしょう。うわぁ、柔らかい!」
こんな具合に、マリーは歳を尋ねられ、クララは触られまくる。随分と失礼な話だが、2人はあまり気にしていない。
そうだ、さっきからずっと、何か違和感を感じていた。
この2人に群がる人々を見て、それがなんなのかを理解した。
この街は、宇宙でも最先端の場所。高いビルに優れた商品が並ぶ店。でも、それが違和感の原因ではない。
ここには、エルフやゴブリンといった亜人はいない。
そして生命を脅かす、モンスターもいない。
そうだ、本来、モンスターなどいないのが普通だ。どの星にも猛獣や害虫のようなものは存在するが、地球813のような化け物レベルの生命体はそうはいない。
もちろんここは宇宙船内、人間にとって危害を及ぼすような生物はもとより連れ込まれてはいない。
モンスターがいない。そんな当たり前のことに、私は違和感を感じるようになった。なんということだ。すっかり地球813の環境に慣らされている自分に気づかされ、その元凶であるあの「魔王」討伐の決意を強くする。
ところで、ジャンヌにマリー、クララ、リザが揃えば、当然スイーツ巡りが始まる。
スマホ売り場の横にクレープ屋を見つけて、突入する4人。この4人が頼んだのは「レインボークレープ」という不思議なクレープだ。
名前の通り、7色に光るクレープ。ストロベリー、オレンジ、マンゴー、抹茶、ミント、ブルーベリー、紫芋の順に並んでいるらしい。
とても組み合わせられる味ではない気がするが、これらの味がうまく混ざらず順々に味わえるというクレープ。さすが地球001、スイーツですら、我々を凌駕している。
また、最新の魔王シリーズを見たり、珍しい服や雑貨を買ってみたり、地球813では手に入れることのできない品を買いあさっていた。
だが、行く先々で、マリーとクララは引っ張りだこだ。残念ながら、ジャンヌとリザはごく普通の人間。この2人の人気にはかなわない。
「大人気ですねぇ、あの2人。」
「それはそうだろう。エルフとゴブリンなんて、この宇宙では滅多にいない種族だからな。」
「へぇ~、そうなんですか。」
地球813の常識は、宇宙の非常識。だいたい、地球813では珍しくないスライムやコボルトですら、この宇宙では希少種だ。そんなものが王国の森の中に腐るほどいることが、そもそもおかしい。
帰り際には、とうとうテレビカメラまでやって来た。戦艦ゴンドワナを訪れた亜人種の2人として取材を受ける。
こうして、短時間ではあるが宇宙最大の戦艦の訪問を終える。再びリニア鉄道に乗り、駆逐艦2680号艦のいるドックへと向かう。
あまりに巨大な戦艦ゆえに、そこが宇宙船の中だということをすっかり忘れていた。ドックに着いて、艦橋から外を眺めて、改めてそこが宇宙空間であることを思い出させてくれる。
「駆逐艦2680号艦、発進する。機関始動!繋留ロック解除!微速上昇!」
「機関始動!推力10パーセント!ロック解除!」
ゆっくりと戦艦ゴンドワナを離脱する、我が駆逐艦2680号艦。
宇宙最大の戦艦という名前からは、想像もつかないほど平和な街であった。だがこの馬鹿でかい戦艦が、魔王討伐の決戦兵器となる。
そのゴンドワナ訪問の3日後、さらに心強い援軍が到着する。
地球760の高速艦隊1千隻だ。その高速艦隊の旗艦である地球760艦隊所属の駆逐艦0972号艦が、オルバーニュ軍港に入港する。
私とジャンヌ、そして居候の3人がその艦隊の指揮官を出迎えるため、オルバーニュ軍港の司令部に来た。
私とジャンヌだけでよかったのだが、この星に来る来客からは、必ずモンスターや亜人のことを尋ねられるため、マリーとクララには来てもらうことにした。リザは……申し訳ないが、こいつはおまけだ。
上空からゆっくりと下降する艦が見える。艦首には「760-1-0972」の数字。あれが、地球760の高速艦隊の旗艦だ。
通常、旗艦は下一桁の数字が0番台と決まっているが、成り行き上、この艦隊の旗艦は0972号艦となってしまったらしい。
旗艦の番号も異例なら、その指揮官の経歴も異例だ。
なんと、パイロット出身の司令官である。
パイロット出身の艦長は珍しくはないが、艦隊司令官というのは珍しい。だが、パイロット出身であるがゆえに、改良型重力子エンジンを活用した高速機動艦隊構想を編み出し、その結果、数々の戦果を上げてきたという。
その異例づくめの司令官を乗せた艦が、オルバーニュ軍港の1番ドックに今、入港する。
我々5人は、その艦の出入り口へと向かった。
ハッチが開き、中から士官が数名、外に整列する。我々司令部からも、10人ほどの士官が同じく列をなす。
その列に向かって、一人の人物が現れる。
将校の軍服と飾緒、肩には中将の階級章を身につけたその人物。歳は40歳前後。司令官としては若い。
私は前に進み、その司令官に敬礼する。
「お待ちしておりました!私は地球294遠征艦隊所属、エルンスト准将であります!」
するとその司令官も返礼し、応える。
「私は地球760防衛艦隊所属、ダニエル中将だ。」
ついに、高速艦隊構想を生み出した司令官と対面することとなった。感慨無量だ。同じく高速艦隊を率いるものとして、これほどの名誉はない。
私がこの伝説の司令官を前に感動に浸っていると、奥からさらに別の人物が降りてくる。
「やっと着いたわね!ここがモンスターの星ね!どこにいるの、そのモンスターは!?」
……なんだこの女性は。緊張感がなさすぎる。ああ、せっかくの感動が薄れてしまう。
「ちょっと、マデリーンさん。モンスターモンスターって、この星の人に失礼だろう。」
「いいじゃない、別に。うちの星だって来る人みんな魔女だ魔女だと言ってるでしょう。それと同じよ。」
なんだろうか、この2人。もしかして、夫婦か?私は尋ねる。
「ダニエル閣下、こちらは?」
「ああ、私の妻のマデリーンだ。」
ああ、やはりそうだった。いや、待てよ?噂によれば、中将の奥様というのは……
「閣下の奥様でいらっしゃいますか。と、いうことは、もしかして……」
「ああ。一等魔女だ。」
やはり。噂通りだった。ダニエル閣下の奥様は、地球760でも有名な魔女だと言われているらしい。
「失礼ですが、お聞きした話によりますと、奥様は伝説の魔女でいらっしゃるとか。」
と私が言うと、その女性は突然叫ぶ。
「そうよ!私は魔女のマデリーン!かつて王国一の最速魔女として戦場を飛び回り、『雷光の魔女』と呼ばれていた伝説の魔女なのよ!」
雷光の魔女、そう名乗るこの女性は胸を張り、自信満々に応える。だが、見たところごく普通の人間にしか見えない。やや自己主張が強い人物ではあるが、それ以外には特に変わったところは見られない。
「でも、今は私の方が速いんだよ。」
そこに、今度は女の子がひょこっと現れた。
「ああ、この子は私の娘、アイリーン。本当に速いわよ、あの娘。」
そう言われても、こちらも別にただの小学生くらいの娘にしか見えない。
「ところで、モンスターや亜人はどこにいるの!?この星にはそういうファンタジーなのがうじゃうじゃいるって聞いたわよ!ぜひ見てみたい!」
来るや否や、早速これである。いや、うじゃうじゃって、虫じゃあるまいし……
「エルフとゴブリンなら、ここにおりますよ。うちの居候の、マリーとクララです。」
「んだよ~、わだすがエルフの、マリーって言います。」
「えっ、エルフ!?ほんとだ、ママ!この人、耳が長いよ!本当に本物のエルフだ!」
「で、こっちの緑色の娘が……ゴブリン!?」
「そうでげすよ。おらはゴブリンのクララでげす。」
「えっ!?ゴブリン!?ゴブリンって、あの棍棒片手に残虐非道の限りを尽くすモンスターじゃ……」
「おらたちそんなことしねえでげすよ!ほれ、この通り、人畜無害なんよ!」
言われたい放題な我が居候たち。早速この2人は、この2人の魔女たちにいじられる。マリーは耳を、クララは皮膚を触られていた。
「あだだ、もうちいと優しく触ってくれんかね!?あんまり強う引っ張ると、痛いべよ!」
「あはは、ごめんごめん!珍しくてつい……」
エルフとゴブリンに戯れる魔女達。しかし、見たところごく普通の人にしか見えないこの2人。本当に魔女なのか?好奇心の旺盛なジャンヌが、早速尋ねる。
「あの~、失礼ですが、お2人は魔女なんですよね?」
「そうよ!」
「てことは、岩やコンテナを持ち上げたりできるんですか?」
「それはクレアのことでしょう。私たちは二等魔女とは違うわ。まあ、見てなさい!」
するとマデリーン殿は、荷物の中から杖のようなものを取り出し、それにまたがる。
すると、マデリーン殿は風船のようにその場でふわっと浮き上がりはじめる。
信じられない光景だった。まるで手品を見ているようだ。しかし、そこにあるのは棒だけ。魔女というと、ホウキにまたがるというイメージがあるが、棒状のももにまたがれば飛べるのだろうか。
そのまま徐々に高度を上げ、高さ30メートルほどの駆逐艦の本体底面付近まで浮き上がった。
「ちょ、ちょっと!マデリーンさん!ここは軍港だよ、飛んじゃダメだって!」
「えっ!?何!?聞こえない!」
ダニエル中将の制止も聞かず、さらに上空に浮き上がるその魔女。とうとう駆逐艦の高さを超え、100メートルほどの到達する。
空を飛ぶ魔女、話に聞いてはいたが、実際に目にするとやはり不思議な光景だ。クレアという怪力魔女もインパクトはあったが、この魔女さんの方が、我々の持つイメージそのものの魔女だ。
そういえば、改良型重力子エンジンは、この地球760の魔女を研究して生まれたものだと言われている。あれだけ小さな身体で空に浮かび上がる能力、見方によっては、高効率な重力子エンジンのようなものだ。
「私も飛ぶ!」
そう言って、もう1人の魔女も飛び出す。
「あ、おい!アイリーン!」
こちらもダニエル中将の制止を聞かずに、空に飛び出した。
まるで打ち出された携行ミサイル弾のように、すごい速さですっ飛んでいくアイリーンというお嬢ちゃん。母親よりも速いと言っていたが、確かに速い。
そんな2人を唖然とした表情で見上げるジャンヌと3人の居候達。
「はぁ~……すごい光景ですね。まるでおとぎ話に出てくる魔女みたい。本当に空に舞い上がるんだ……」
ジャンヌはため息をつきながら、魔女のいる空を仰ぐ。
だがジャンヌよ。申し訳ないが、エルフだのゴブリンだのがいるこの星だって、おとぎ話や童話の世界のようなところだ。人のことを言えたものではない。
「……お見苦しいところをお見せしてしまった。まったく、あの2人は少々浮かれすぎのようだ。」
「いえ、我々の方が魔女を見たいと申し上げたのですから。ところであのお2人は、一体どれくらいの速さで飛べるのですか?」
「妻のマデリーンさんは、時速90キロ、最高到達高度2000メートル。かつて、地球760のとある王国で最速の魔女だったんです。」
90キロ!生身の人間であることを考えれば、とんでもない速さだ。
「そして、娘のアイリーンは、最大速力200キロ。今はこちらの方が最速だ。」
「えっ!?200キロ、ですか!?」
「もっと出そうと思えば出るようだが、それ以上出そうにも身体がもたないらしい。おそらく高度も2000メートル以上行けるのだろうが、まだ小学生の娘では……」
200キロも出せればたいしたものだが、それがまだ限界ではないという。予想以上に速い魔女達だ。
「おおーい!2人共!戻ってこーい!」
手を振り2人の魔女に呼びかける中将。新戦法を生み出した将校にしては、奥さんと子供に振り回されるなど、私と変わらない一面もあるようだ。奇才の戦術家といえども、案外普通なのだな。
だがその直後、中将の普通でない側面を垣間見ることになる。
駆逐艦から男の子2人と、それを連れた女性が現われる。
1人は、ダニエル中将と同じ茶色の髪の毛をしている小学校低学年くらいの子で、もう1人は金髪をした4、5歳くらいの子。
そして、その子と同じ金髪の女性。少なくとも、小さい子とこの女性が親子だということは分かる。その女性が、中将に話しかける。
「あの、ダニエル様。どうなさったのですか?大きな声を出されて。」
「いや、マデリーンさんが飛んで行っちゃったから、呼びもどそうとして……」
「それなら、スマホを使えばよろしいのではないですか?マデリーン様もお持ちでしょうし。」
「ああ、そうか。そうだな。」
そういうと中将はスマホを取り出し、手を振って話し始める。2人の魔女達がゆっくりとこちらに向かってくる。
やや浮かれ気味の魔女2人に対し、こちらは冷静な人だ。だが一体、中将とはどういう関係の人なのか?
「あの、失礼ですが、あなたは……」
「はい、私はフレアと言います。ダニエル様の側室でございます。あ、この茶色の髪の子がマデリーン様の子で、ユリエル。この金髪の子が私の子のラミエルと言います。」
ニコニコとしながら話すこのフレアという女性。だが、私には衝撃的なキーワードが飛び出した。なんだって?側室?つまり中将には、奥様が2人?
「あの、ということはもしかして、あなたも魔女なのですか?」
「いえ、私は平民出身の普通の人です。」
思わず尋ねてしまった。が、こちらは魔女ではなかった。
フレア殿によれば、地球760という星でも魔女は珍しい存在だという。女性のうち、魔女の割合は100人に1人ほど、さらに空を飛べる一等魔女と呼ばれる魔女はさらに少なく、5人に1人だという。
そういえばダニエル中将は、その地球760で貴族をしていると聞いた。こちらの貴族でもそうだが、一夫多妻は珍しくはない。だが、元々ダニエル中将は地球401という我々と同じく文化レベルの高い、一夫多妻制とは無縁の星の出身の方だと聞いていた。郷に入り、郷に従ってしまった中将。一体彼に、何があったのか?
なんだか、私の中の中将のイメージがガラリと変わってしまった。高速機動艦隊を発案した奇才の司令官は、2人の奥さんを持つ貴族だった。同じくこの星で司令官をして、しかも男爵号を持つ私には、この事実は衝撃的だ。
こうして、この星のために頼もしい援軍が集結した。やや衝撃的な事実にも触れてしまったが、私はこの頼もしい援軍を得て、魔王討伐へと向かうことになる。




