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#41 作戦会議

 王都襲撃により、ようやく司令部も事の重大さに気づいた。

 多くの民衆を危険にさらすだけでなく、王宮内部にまで侵入されたことは、それまで慎重論を唱えていた司令官達の意見を覆させるのに、十分な出来事であった。

 だが、問題はどうやって魔王を倒すか?

 ベルトルト大尉が、作戦会議の場で調査結果を発表する。


「直径800キロ、質量1千兆トンもの物体を狙撃するには、我が地球(アース)294艦隊では足りません。推定で、6万隻の砲撃が必要と考えます。」

「ろ、6万隻だと!?」

「加えて、『魔王』の射程は50万キロです。我々の砲火よりも射程が長いため、ロングレンジで叩くことは不可能であります。」

「なんだ、それではまったく敵わぬ相手ではないか。」

「いえ、そうでもありません。連盟側の要塞を攻撃した際のデータから推測するに、『魔王』は砲撃間に15分を要すると想定されます。」

「つまり、一度砲撃したら、次の砲撃までに多少の時間があるというのか。」

「はい、ですから、まず囮か何かを使って魔王に砲撃させ、15分のうちに飛び込み砲撃する。そうすれば、『魔王』を倒すことは可能と考えます。」

「だが、20万キロをわずか15分で駆け抜け、あの物体に狙いを定めて撃てというのか。小規模の艦隊ならともかく、それを6万隻の艦隊で行うのは、どう考えても……」


 司令官一同、頭を抱えてしまった。

 想像以上に魔王という敵は厄介だとわかった。6万隻の砲撃、15分間という短時間での攻撃。とても地球(アース)294保有の艦隊だけでは歯が立たない。

 ということで、連合政府に協力要請を打診する。だが、敵である連盟軍とは無関係な相手である上に、たかが辺境の星一つの事情のために、他の星が動くだろうか?

 が、思わぬ星が名乗りを上げた。

 地球(アース)001である。

 我々の属する宇宙統一連合の盟主であるこの星が、今回のこの「魔王討伐」に参加すると表明したのだ。

 そして、その星から、とんでもない提案を受ける。

 なんと、宇宙最大の戦艦ゴンドワナを、魔王討伐に投入するというのだ。


「はあ、宇宙最大の戦艦、ですか。」

「そうだ。私も驚いた。そんなものまで投入するとは、地球(アース)001はかなり本気のようだ。」

「左様ですか。その大きな戦艦というものがどれほどのものかは存じませんが、ともかくすごいことなのでございますね。」


 司令官室で、秘書のリュシールにこの決定について話す。

 リュシールが知っている戦艦といえば、戦艦ニュービスマルクだけだ。全長4100メートル。あれはあれで大きな宇宙船ではある。

 だが、戦艦ゴンドワナは全長700キロ。桁が2つ違う。長さでは180倍大きな戦艦である。

 おまけに、周辺星から4万隻の艦隊が集まることになった。これに加え、地球(アース)001からは3000隻、我々が1万隻、全部で5万3千隻。ゴンドワナの攻撃力が1万隻相当と言われているので、計6万3千隻相当の戦力が集結することになった。

 戦力は整った。あとは、作戦だ。

 どうやってあの魔王に、15分間という短い時間で肉薄するか?

 その難題は、私とベルトルト大尉に投げられた。


「はぁ~!わずか15分であの化け物を倒せって、できねえよそんなこと!」

「そう言うな、私だって考えているんだ。我々に地球(アース)813の未来がかかっているのだぞ!?」

「そんな重たいもの背負わされてもねぇ……」


 もはや業務時間中でもオンモードになりきれないほどくたびれ果てたベルトルト大尉が司令室にいる。ソファーの上で、まるで炎天下にさらされたスライムのようにぐったりとしている。


「ベルトルト様、ダメですよ、諦めては。」

「いや、そういうけどさ、リュシール。これはとんでもない難問だぞ!?」

「1000人の女に振られ、それでも諦めずに挑み続けて、私に出会えたとおっしゃってたではありませんか!諦めないことがベルトルト様の取り柄だと、私は思っております!」

「ううっ……」


 ベルトルト大尉のやつが、論破されている。案外手強いな、リュシール。


「第一、私と結ばれた夜に約束したではありませんか!いつか艦隊司令になって、私を司令官の妻にしてやると!これくらいのことを解決できずに、どうして閣下などになれましょうか!?」

「いや、リュシール、その……」

「何ですか、今さら撤回されるのでございますか!それでもあなたは、映えある高速艦隊の作戦幕僚ですか!」


 私は、てっきりベルトルトのやつがリュシールを引っ張ってるのかと思っていたが、まるで逆だな。ベルトルトの方が押されている。

 この純粋培養娘は、一度こうだと決めたらとことん曲げないらしい。


「分かった分かった!リュシール!いつか必ず艦隊司令官に登りつめてやる!そしたら、君を司令官室に招いてやるさ。」

「はい、ベルトルト様、ご立派になられるその日を夢見て、一緒に励みましょう。」


 なんだか面白い夫婦だな。攻守を上手く使い分ける妻に、それを巧みに操り自分のペースに乗せようとする夫。意外にお似合いだったようだ、この2人。いい人に巡り会えてよかったな、ベルトルトよ。


「……で、そろそろ本題に戻って欲しいのだが、今一度、現状を整理しようか。」

「はっ!承知いたしました!閣下!」


 リュシールを抱き寄せたまま私に敬礼し、仕事モードに切り替わるベルトルト大尉。


「まずは、我々の相手だ。『魔王』の武器は、我々とほぼ同じ高エネルギー粒子砲と考えられる。射程50万キロ、装填時間は15分。」

「はい、一方、我々は射程30万キロ。その差は20万キロあります。」

「単艦航行や少数部隊ならともかく、5万隻以上の艦艇が20万キロを進むには、少なくとも20分はかかる。この5分が、何とかしなければならない時間だな。」

「そうです。加えて言えば、万一初弾で破壊できなかった場合、回避する必要があります。できることなら、15分のうちに20万キロ前進し、砲撃を加えたあと20万キロ後退できればいいのですが。」

「うーん、ワープが使えるなら、可能だろうがな。」


 そう話しているうちに、ある考えが私に浮かんだ。


「そうだ。あるぞ、ワープする方法が!」

「何ですか、それは?そんな方法があるのですか?」

「今、この星にいるリョウコ研究員だが、彼女は以前に、短時間だが自在にワームホール帯を作る方法を編み出したらしい。」

「な、何だって!?それは本当か!?」


 驚きのあまり、ついつい地が出るベルトルト大尉。


「本当だ。それを使えば、15分どころか一瞬で20万キロを超えて砲撃を加えた後に、20万キロを引き返すことも可能だ。」

「そりゃそうだろう。ワープだからな。そうか、そんなものがあるのか……」


 しばらく考え込むベルトルト大尉。


「……閣下、2つ問題があります。」

「なんだ?」

「『魔王』から30万キロの地点に、そのワームホール帯を作るものを放出せねばなりませんが、それを一体、誰がやるのか?その前に15分間の時間を作らせるためにどうやって『魔王』に先制攻撃をさせるかです。15分の時間を作る方法、そして30万キロ地点にワームホール帯生成の装置を持ち込む方法。この2つを解決せねば、5万隻の艦隊は魔王に接近することもままなりません!」

「うーん……正直、私の口からは言いたくはないが、その2つは、我々第9小隊の仕事ではないか?」

「ええっ!?うちの小隊が!?でも一体、どうやるんです!?」

「まず我々が敵の射程圏に入る。 15分かけてやつが初弾を発射してくる。その発射を交わして次の15分間のうちにワームホール帯生成装置を放出する。これなら、いけそうだろう。」

「いや、ちょっと待て!あの魔王のビーム攻撃を避けろと言うのか!?」

「普段からやっているだろう、我々は。」

「いやいやいや!相手は直径100キロを超える太さのビームを吐き出すんだぞ!?そんなものを避けろと!?」

「じゃあ、他にどんな方法があるというのか!?」

「ううーん……」


 感情がこもると、ついついオフモードになるベルトルト大尉。

 だが、我々は元より敵の射程内に飛び込み、それを避けつつ敵を撹乱するのが任務の艦隊だ。砲撃を誘う役目が必要なら、我々にしかできない。

 一応、リョウコ研究員に、ワームホール帯生成装置のことを伺うことにした。


「はあ!?たった330隻で、5万隻分のワームホール作るつもり!?それはちょっと無理だわ。」


 だが、意外な回答が返ってきた。


「無理とは……どういうことですか!?」

「それだけの船をワープさせるには、最低でも2千本欲しいから……駆逐艦って、一隻で2本発射しかできないんでしょう?そうなると、1000隻は欲しいところね。」

「1000隻!?我が小隊の3倍じゃないか!」

「あるいは、330隻で3倍分撃ち込めばいいかもしれないけど、それってどうなの?限られた時間で、間に合うの?」


 ワームホール帯生成装置は、駆逐艦の左右に付けられたレールガンによって射出する仕組みだ。

 だが、レールガンは1隻あたり2発の同時発射が限界。次弾装填に45秒はかかるから、3回撃つには、3分近くかかる。15分の内3分。決して少ない時間とはいえない。

 だが、やるしかない。他に方法がない。今までだって、どうにか切り抜けてきた。本番までに、レールガン装填訓練を続ければ、もう少し縮められるかもしれない。

 私とベルトルト大尉は、ワームホール帯生成装置と我が小隊による突撃による「魔王討伐作戦」をまとめ上げて、司令部に上申した。


 その結果、思わぬ援軍の話が持ち上がった。


 なんと、別の星の高速艦隊がこの作戦に加わることになった。

 それは、高速機動艦隊構想発祥の星、地球(アース)760からの援軍だった。

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