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#40 王都襲撃

 魔王の正体が、判明した。

 中性子星の周囲を回る黒い物体。あれこそが、魔王の正体である。

 まず私は、リョウコ研究員にその話をする。


「……なのを言い出すのかと思ったら、突拍子も無いことをいうわね、あなた。」


 いきなり否定気味だ。そりゃそうだろう。その根拠と言えるものは、あのドラゴンから聞いた話しかない。

 あの時のドラゴンの念話は、私にしか聞こえなかったらしい。どのみち甲板にいる私とドラゴンの会話など、記録しようがない。それゆえに、あのガルグイユというドラゴンから聞いた話は、私しか聞いていない。

 私の幻聴だと言われてしまえば、それまでだ。

 加えて、ドラゴンの話にどれだけの信憑性があるかなど、わかるはずもない。だいたい宇宙に行ったことのない奴が、宇宙にいる魔王を特定できるなど、おかしなことだ。そう言えばガルグイユのやつ、どうやって魔王のことを知ったのか?

 話している私自身、何だか疑わしくなってきた。だが、リョウコ研究員はこんなことを言い出す。


「でもその話を聞いて、一つの謎が解けそうだわ。」

「謎?なんだそれは。」

「膨大なエネルギーを使えば、確かにワームホールは生成できるわ。でもね、いくらなんでも、簡単に異世界とこの星の表面とをつなげられるものじゃないのよ。」

「……どういうことですか?」

「山にトンネルを掘ると、向こう側にいけるわよね。」

「はあ、そりゃそうですよ。そのためのトンネルなんだから。」

「でも、トンネルの行き先を自由には変えられないじゃない。その山に掘られたトンネルは、あくまでもその向こう側にしか行けないわ。」

「当たり前でしょう。マンガやアニメじゃあるまいし、どこにでもつながるトンネルなんて、作れるわけがない。」

「ところがその魔王っていうのは、いわばそういうトンネルを作ってるのよ!あらゆる魔族が住む異世界と、この星の表面を結ぶトンネルを自在に作っているのよ!不思議だと思わない!?」

「……そういうことになるんですか?」

「魔王というのがどれくらいの力を持ってるか知らないけど、異世界につながるワームホールっていうのはかなり低い確率でしか開かないのよ。今まで、ワープした際にこの宇宙とは全く異なる世界に抜けた船がいるけど、そういうワームホールってかなり稀にしか発生しないのよ。それがその魔王ってやつは、わりと頻繁に異世界とこの星をつないでいる。中性子星とこの星をつなぐワームホールくらいなら作り出せるでしょうけど、異世界との間になんて無理だわ!」

「……ですが、魔王ってやつは実際にそれをやってますよ。」

「そうなのよ!だからおかしいんじゃない!それこそ魔王が超新星爆発を起こせる力でも持ってない限り、無理な話よ、そんなこと!」


 何を興奮しているのか、リョウコ研究員は憤慨しながら私に語る。


「でもね、中性子星の周辺にいるってことなら、話が変わるのよ。」

「えっ!?そうなんですか?」

「あそこは、いわばトンネルだらけの場所。異世界につながるワームホール帯なんて、きっと腐るほどあるはずよ。だから、その魔王っていうやつは中性子星域とこの星につながるワームホール帯を作り、その2つのワームホール帯をバイパスしてしまえば、異世界にいるモンスターどもを呼び出せるってわけ。」

「そう簡単にいくもんですかね。」

「いくわけないでしょう!でも、その魔王ってやつがそれこそ数万年も生きてるようなやつだとしたら、試行錯誤の末に見つけ出したって可能性はあるわ。」


 なるほど、なんだかよくわからないが、中性子星域に魔王がいるなら、この星で起きていることが説明できると、そう言っているようだ。


「リョウコ研究員殿、それを証明することは可能か?」

「ええっ!?証明!?」

「あの黒い物体が、この星で起こる奇怪な現象の根源だということを示さなければ、軍は動かない。だから、なんとしても証明して欲しい。」

「ううーん、困ったわね……いいわ、考えてみるわよ。その代わり……」

「その代わり?」

「証明できたら、あたしといいこと、し・な・い?」


 この研究員は立ち上がり、私に顔を近づけて迫ってくる。そして、私の頬のあたりに手を添えて、誘いかけてきた。


「ちょ…ちょっと!リョウコ研究員!?」

「うふふ、意外とウブなのね、あなた。あんなに綺麗な奥さんと、可愛らしい居候が3人もいるっていうのにね。」

「いや、ちょっと、ダメですって……」

「ママーッ」


 そこに突然、子供が入ってきた。リョウコ研究員の息子、エリック君だ。


「ダメだよ~男の人ユーワクしちゃ~。」

「あらあら、エリック。わざわざ私を監視しにきたの?」

「そうだよ。ママ、すぐに変なことするって、パパも心配してるから。」

「あらあら、私は大丈夫よ。」

「ママじゃないよ、相手の男が大丈夫かって言ってる。」


 随分とどストレートな子供だ。まだ4歳になったばかりだと聞くが、なかなかどうしてしっかりしている。


「大丈夫よ、ほらこの通り、このおじさんもなんとのないでしょう?さ、私と一緒にご飯でも食べようか。」

「うん!」

「あの……ちょっと、リョウコ研究員?」

「さっきの話、ちゃんとやっておくわよ。その代わり、報酬は別の形で頂くからね。」


 そう言い残し、リョウコ研究員は息子と共に部屋を出ていった。


 さて、リョウコ研究員になんとかあの黒い物体が「魔王」であることを証明してもらうことになった。

 が、その間、ただじっと待っているわけにはいかない。私も行動を起こす。

 まず、司令部内での会議で「魔王討伐」を進言する。

 この星のモンスター襲撃を根本的に解決する手段として、私は提言する。安全保障上、絶対に必要だと説いた。

 が、やはりというか、消極的な意見が大勢を占める。


「准将の言うように、仮にあの物体が魔王で、この星で起こるモンスター襲撃に関わっているとして、それはそれでなんの問題があるというのかね?モンスター出現の度に対処する方が、ずっと安全ではないか?」

「だいたい、あの物体は連盟軍の要塞を一撃で粉砕した化け物だぞ!しかも射程50万キロ!質量は1千超トン!そんなやつ相手に戦いを挑むなど、愚の骨頂だ!」


 証拠もなしでは仕方がないかもしれないが、ともかく私の進言は却下された。

 そこで今度は、政府に働きかけようと、交渉官に相談する。だが、やはり今のままでは、政府は動けないという。


「証拠もそうだが、確かに軍司令部での結論通り、対処療法をとる方がリスクは小さいのではないか?」


 そんなわけで、魔王討伐作戦は、却下されてしまった。

 あとは、リョウコ研究員が証拠を掴んでくれるのを待つしかない。だが、仮に証拠を掴んだところで、軍は動くだろうか?

 私は、屋敷の2階にあるテラスから、夜空を眺めながら、考えていた。

 冬も終わりに近づき、だんだんと暖かくなっている。夜でも少しなら、外に出ていられるくらいの気温にはなってきた。


「エルンスト様。どうなさったのですか?こんなところで。」

「あ、いや、考え事をしていたんだ。」


 外を眺めていたら、ジャンヌが現れた。


「まあ、何を考えていらしたのですか?」

「魔王のことだよ。なんとしても、あれを倒さないと……」


 そう言いかけて、私はふとジャンヌに尋ねる。


「そうだジャンヌ。この星からモンスターがいなくなった方がいいと思うか?」

「はい?そりゃあいない方がいいに決まってますわ。」

「だが、ジャンヌが騎士団長を務める跳馬(ギャルソンヌ)騎士団は、モンスター退治が専門だ。モンスターがいなくなったら、騎士団の存在意義がなくなってしまうのではないか?」

「そんなことないですよ。あの騎士団は好きでモンスター退治をしているわけではないですから。他にやる人がいなかったからしているだけで、本来ならいない方がいい騎士団なんですよ。」

「そうか?だが、16人の騎士たちはモンスター退治をすることに誇りを持っているのではないか?」

「いえいえ、人助けできることを誇りにしているだけです。モンスターがいなくなれば、別の人助けをするだけのこと。モンスターだけじゃないですよ、宇宙には連盟なんていう強大な敵がいるんですから、エルンスト様と共に宇宙で戦う道もありますよ。それに……」

「なんだ?」

「それに、他の道もありますよ。剣をとって戦うばかりが、戦いではありませんからね。」


 そういいながら、ジャンヌは私の腕につかまった。なぜか、頬を赤らめながら、私の方を見る。

 なんだか急に可愛らしくなったジャンヌ。その彼女を抱き寄せ、屋敷に入ろうとした、その時だった。


「……おい、ジャンヌ。」

「はい?」

「あれはなんだ?」


 月明かりに照らされた王都の街道に、動くものが見えた。

 それは小太りで、緑色の皮膚、頭はまるで豚のようだ。明らかに人ではない。

 王都にあんなものはいない。直感で、私はモンスターだと察知した。


「あれはもしかして……オーク!?」

「オーク!?何だそれは?」

「頭が豚のモンスターですよ。でもどうして王都に……門には、騎士たちが見張りをしているはずですよ!?どうしてあんなものが入り込んでるんですか!?」

「とにかく、騎士団に連絡せよ!私は司令部に……」


 その時、外から叫び声が聞こえる。


「キャーッ!」


 誰かが襲われた。しまった、やはりモンスターが侵入したようだ。

 オルバーニュ村とはわけが違う。ここは人口が密集する王都ルモージュ。こんなところでモンスターに暴れられたら、大変なことになる。


「騎士団を召集!おそらく、相当数のオークが潜入しているぞ!」

「はい!」


 ジャンヌはスマホを取り出して、騎士団に連絡し始める。私は司令部へ連絡する。


「エルンストだ!緊急事態発生!王都ルモージュにて、モンスターの襲撃を確認!哨戒機および陸戦隊は直ちに発進、王都救援に向かえ!」


 連絡している間に、あちこちから何かをガンガンと壊す音が聞こえる。外を見ると、棍棒のようなもので、複数のオークが建物の扉を叩いているのが見える。

 私の屋敷にも、数体のオークがやってきた。他の貴族の屋敷にも群がり始める。

 私は携帯バリアと銃を身につける。そしてそのまま、門に向かった。

 オークが私の屋敷の柵を叩いている。私は銃を向け、発砲する。

 1匹が倒れる。他のオークが気づいて駆け寄ってくる。そのオークを、私は1匹づつ狙撃する。

 すぐに私の屋敷前のオークは全滅した。私は屋敷を出る。路地にはたくさんのオークがおり、貴族の屋敷の柵を破ろうと棍棒で殴りつけていた。

 ドワーフの街をおさえたことが功を奏したのか、奴らが持っている武器は棍棒だけのようだ。ただの太い棒では、貴族の屋敷の柵や扉はなかなか破られない。そうこうしているうちに、貴族達は起き出して、剣や槍で応戦し始めた。

 貴族というのは、幼い頃から剣術を習う。皆、剣や槍の心得はあるため、柵越しにオークを突いて倒している。


「大丈夫ですか!?」


 私は、隣に住むオベール男爵の屋敷に声をかける。柵の前には、すでに数体のオークが倒れていた。


「大丈夫じゃよ!なあにこの程度のモンスター、13年前に参加したローニョン戦役よりも大したことないわ!」


 たくましいものだ。他の貴族の屋敷でも同様にオークが倒されている。

 だが、またオークの別働隊が現れた。先頭にはあの黒いローブをまとった男がいる。おそらく、あれはグールだろう。オークを先導しているようだ。私はそのグールを銃で撃つ。

 倒れるグール。片腕が飛んでいるが、こいつはアンデッドだ。その程度ではまだ動く。立ち上がって動こうとするグールに向かって、さらに数発撃ちこむ。ようやく核に当たったようで、その場でグールは骨と化した。

 先導役を失い、その場で立ち往生するオークども。そのオークを、あちこちから出てきた剣や槍を持った貴族が襲いかかる。オークも棍棒で応戦するが、ここは戦さ慣れした貴族がたくさん住む地域。あっという間にオークどもは全滅する。

 貴族街は、屋敷の守りも硬く、戦さを経験した人々が多いから、何とかなった。が、この下の平民街などはどうなっているのか?

 その時、上空に哨戒機隊が現れた。やっと到着したようだ。その中の一機が、私の屋敷の前に着陸する。

 ハッチから出てきたのはブルクハルト少尉。ということは、この機はマリアンヌ中尉機か。


「閣下!これは一体、どういうことですか!?」

「私にも分からん!急に現れた!王都の様子は、どうなっているか!?」

「上空から見ると、大変なことになってます!あちこちから火の手が上がっていて……」


 本当に大変なことになっているようだ。えらいことだ。


「どの辺りが酷そうだ!?」

「この貴族街から王宮にかけてのあたりが、オークがたくさん集まっています!」

「なんだと!?王宮!?」

「大きな建物ですから、目立つんでしょう!かなりの数が、押し寄せています!」


 やつらの狙いは、王宮のようだ。まずい、あそこをやられたら、この王国存亡に関わる事態だ。


「すぐに王宮に向かう!哨戒機を出せ!」

「はっ!」


 私は哨戒機の方に走る。すると、レイピアを抱えたジャンヌが門から現れた。

 私の方をじっと見る。そういえば、オルバーニュ村でリザードマンと戦った時に、ジャンヌに下がるよう言ったことがある。だから、ついていきたいのを抑えているように見えた。


「ジャンヌ!来い!」


 私は思わずジャンヌを呼んだ。ジャンヌは哨戒機のハッチに駆け寄る。


「王宮の敷地内は、お前の方が慣れている!案内せよ!」

「はい!」

「よし、中尉!発進だ!王宮に向かえ!」

「了解!発進します!」


 離陸する哨戒機、徐々に高度を上げる哨戒機の窓から、外を見る。

 ところどころ、火の手が上がっているのが見える。あちこちでオークが暴れており、騎士や住人が各々武器をとって戦っているのが見える。

 この王国は内情不安を抱えており、内戦が絶えない国だった。その名残で、住人の多くが武器を保有しているようだ。その武器で、オーク相手に奮戦している。

 むしろ不安なのは、王宮だ。

 守備兵はいるが、備えは十分とは言えない。どちらかというとこの王都は王宮の周りの街や建物で敵の侵入を食い止めるよう設計されている。王宮に直接、敵が来ることをほとんど想定していない。

 だから、思ったよりも脆弱だ。長い柵に、それに見合わない少数の守備兵。すでにあちこちで柵が破られており、オークが入り込んでいるのが見える。

 陸戦隊の多くが王宮内に降り立ち、王宮手前で応戦している。が、数が多い。オークの大部分がここに集中している。おのれ魔王め、どうやら最初から、王宮に狙いを定めていたな。


「マリアンヌ中尉とブルクハルト少尉!柵の外にいるオークどもを撃つ!発砲を許可する!直ちに迎撃せよ!」

「了解!攻撃態勢に入ります!」


 内部が持ちこたえているうちに、まず外の敵を減らす。別の哨戒機にも連絡し、王宮周辺の攻撃を行うことにする。


「照準よし!撃てっ!」


 数機の哨戒機から一斉にビームが発射される。まるでアリ塚のアリのようにたむろしていたオークが、次々と倒れる。

 周りの機体には攻撃続行を命じ、マリアンヌ機は王宮の中庭に着陸してもらった。

 そこには、オークが入り込んでいる。守備兵と陸戦隊が応戦している。低空でホバリングするマリアンヌ機のハッチを開けて、私は銃を発砲する。

 オークが減り、手薄になったところで、私は王宮へと降り立つ。


「ではジャンヌ、行くぞ!」

「はい!エルンスト様!」


 ハッチから飛び降り、王宮に向かって走る。守備兵と組み合っているオークを背後から撃つ。

 オークは倒れる。その守備兵に尋ねる。


「司令部のものだ!王宮は今どうなっている!?」

「陛下の宮殿は無事です!ただ、周囲の王族の方までは手が回らず、苦戦しております!」

「そうか。ジャンヌ!行くぞ!」

「はい!」


 そういえば、アンリ王子の宮殿はこの奥だった。そっちはどうなっているのか?気になって、私はジャンヌを連れて向かう。

 案の定、オークが群がっている。だが、出入り口付近で守備兵が奮戦しており、なんとか侵入を防いでいた。

 私は、銃でそのオークを背後から狙撃する。

 バタバタと倒れるオーク。こちらに気づき、数匹が向かってきた。

 すると、ジャンヌがレイピアを抜き、オークの頭部を切り飛ばす。豚の頭が、宙を舞った。私も、迫り来る2匹を撃つ。

 あっという間に、入り口付近にいたオークは全滅した。私は守備兵と合流すべく、その宮殿の入り口に向かう。

 が、よく見ると、守備兵にリザが混じっていた。


「おい、リザじゃないか!?」

「あ、旦那様!」


 そうだ。そういえば今日はコレット嬢が用事のため宮殿に戻るというので、リザは護衛の依頼が来て、宮殿に来ていたのだった。他の守備兵と連携し、槍を構えてオークを倒していたようで、返り血を浴びて血みどろになっていた。

 宮殿ということで、バリアも銃も持たせていなかったが、こんなことなら渡しておけばよかったな。だが、何とか無事だったようだ。


「陛下は、王宮は、どうなってますか!?」

「陛下のいる宮殿には、陸戦隊がいる。外も哨戒機隊が攻撃しているから、まもなくオークは全滅するはずだ。」

「よ、よかった~!」

「それよりも、アンリ様、コレット様は!?」

「はい、宮殿内にいます。」

「分かった。ちょっと面会してくる。リザ、これを使え。」

「あの、これ、旦那様の銃ではないですか?」

「ここの方が使うだろう。私が中にいる間だけだ。」

「はい!では、お預かりします!」


 リザ達に守備を任せ、私とジャンヌはアンリ王子の宮殿内に入る。

 ロビーを抜けて、その奥の応接室に王子らはいた。王子とその息子に娘、コレット嬢もそこにはいた。


「エルンストです。ただいま、救援に参りました。」

「おお!准将殿!よかった!表の様子は!?」

「現在、入り口付近のオークは排除いたしました。王宮周辺のオークの掃討作戦も実施、まもなく、王宮周辺のオークは殲滅するものと思われます。」

「そうか……それはよかった。しかし、王都内にモンスターの侵入を許すとは……城塞都市でありながら、なぜあれほどのオークが王宮に押し寄せたのか!?」

「わかりません。オークの大半はこの王宮周辺に押し寄せております。最初からここを狙っていたのは、間違いなさそうです。」

「ううーん……なんということだ。今後、王宮の守備について、考え直さねばならぬな。」


 アンリ王子は考え込んでいた。だが、私はこのとき、別のことを考えていた。

 おそらく、魔王のやつはこの城塞都市の内側にワームホールを開いたのだろう。そこからオークを送り込んできた。でなければ、この城塞都市にあれほど大量に入り込めるはずがない。

 城塞都市ゆえに、外からの侵入には強い。だが、内側は弱い。どうやってこの王宮の内情を知ったのか?多分、あのローブを着たグールあたりに探らせたのだろう。

 やはり、魔王はこの星にとって脅威だ。やつを放置すれば、同様のことがこれから何度も起こることになる。

 アンリ王子に状況報告をし終えたとき、コレット嬢が立ち上がり、入口の方に向かって歩いていく。


「コレット様!?どこに行くんですか!」

「入口、リザが心配なの!」


 コレット嬢は宮殿の入り口に早足で向かう。私とジャンヌは後を追いかける。


「リザ!」


 コレット嬢の呼びかけに、リザは振り向く。


「あ、コレット様!ダメですよ、ここにきては!」

「何言ってるの!あなた達だけが戦っているわけではないのよ!ああ、こんなに汚れてしまって……」

「こ、コレット様、ダメです!汚れます!」


 コレット嬢は、血みどろになったリザの手を握る。


「いいの。私だって今は王族ではないわ。宇宙艦隊の駆逐艦艦長の妻です。汚れたって構いません。」

「こ、コレット様……」

「リザ、それに他の方々、おかげさまでアンリ家は無事です。本当に、ありがとう。」


 汚れることを厭わず、他の守備兵の手も握り始めるコレット嬢。もの静かなイメージのこのお嬢さん、リザと関わったおかげか、それとも元々の性格か、奮戦してくれた人々への労いを忘れない。

 アンリ王子の宮殿の前に、哨戒機が着陸した。マリアンヌ機だ。私は降りてきた哨戒機に駆け寄る。

 ハッチが開き、ブルクハルト少尉が現れる。


「閣下!王宮周辺のオークは壊滅しました!現在、王都内に入り込んだオークの掃討作戦が始まっております!」

「そうか、ご苦労!」


 王宮周辺のオークはなんとか壊滅に追い込んだようだ。だが、王宮内にはあちこちにオークの遺体が転がっている。

 今夜中にオークは排除できるだろう。だが、かなり広範囲にオークが入り込んだようだから、おそらく相当な犠牲が出ていることは間違いない。

 油断していた……城壁の内側にワームホールが開かれることを想定するべきであった。我々を滅ぼそうと考えている相手ならば、当然とりうる戦術だ。自身の先読みの甘さに、私はただ悔やむしかない。


 翌朝までに、オークの排除は完了した。

 攻めてきたオークは800を超えるが、数のわりには被害は小さい。入りくんだ平民街ではなく、比較的整然した、守りの硬い貴族の屋敷や王宮に攻め入ったことが幸いしたようだ。

 とはいえ、死傷者は1000人を超える。多くが平民で、貴族も数名、守備兵も10人ほどが亡くなった。

 跳馬(ギャルソンヌ)騎士団は、平民街で活躍したようだ。彼らは我々と同じ銃を携行しているが、弾薬が尽きると剣を振るって戦った。彼らに救われた者は多いと聞く。

 襲撃の夜が明けて、街にはオークの遺体が溢れかえっていた。


「エルンスト様~!オーク汁ができましたよ~!食べませんか~!?」


 ……ジャンヌのやつめ、なんと昨日倒したオークを、鍋で煮ている。


「おい、だいじょうぶなのか?そんなもの食べても。」

「大丈夫ですよ。オークって美味しいんです。せっかく倒したんですから、腐っちゃう前に食べなきゃもったいないですよ。」


 他の貴族の家でも、平民街でも、オークの遺体を調理しているらしい。オークの襲撃の後には、よく見られる光景だそうだ。


「まさか王都で、オークの襲撃に会うとは思ってませんでしたからね。でもおかげで、屋敷でこうしてオーク汁が食べられますよ。」


 鼻歌を歌いながら、オークを煮るジャンヌ。横ではマリーやクララが、オークを解体するのを手伝っている。

 可愛らしい女子が、豚の化け物を解体する光景はおぞましい限りだ。が、この星では今まで、こうやって人々は生き延びてきたのだ。たくましい限りだな。

 そういえばリザは戻ってこなかった。おそらく今頃、あの王宮でオーク汁を作っているのではあるまいか。

 椀に入れられたオーク汁をいただく。昨日戦ったやつを食べるというのはあまり気分の良いものではないが、ジャンヌとマリーにクララが美味しそうに食べているのを見て、恐る恐る口にする。

 ……うん、確かに美味い。味は豚肉だが、柔らかくて食べ応えがある。とてもあの化け物の肉には見えない。

 が、よく見ると表面が緑色をしており、あの化け物の肉であることがわかる。複雑な気分だ。

 食事の後は、マリーとクララは中庭でオークを解体する。それをジャンヌがラップで包んで、冷凍庫に放り込んでいく。おい、その肉、しばらく食べるつもりか?

 よく見ると、隣のオベール男爵家でも、メイド達がせっせとオークを解体しているのが見える。横では別のメイドがラップしているから、うちと同じように冷凍保存するつもりだろう。


 そんなたくましい王国貴族の一面を垣間見た後、私は司令部へと向かった。

 司令部に着くと、リョウコ研究員が立っていた。


「待ってたわよ。」


 リョウコ研究員は、私を見るとすたすたと歩み寄ってきた。


「どうしたんです?」

「証拠よ。魔王が中性子星域にいるっていう証拠、昨日の夜に、やっとつかんだわよ。」

「なに!?本当か!」

「実はね、あれから観測気球を上げていたの。そしたら昨日、あの王都での騒ぎの際に、それがあるものをキャッチしたのよ。」

「あるもの?」

「これよ。」


 見せられたのは、グラフの書かれた紙だった。ギザギザとしたグラフのところどころ尖ったところに、化学式が書かれている。


地球(アース)813では絶対に存在しない、あの中性子星を覆うガスの中にしかない物質を捉えたのよ。」

「なんだと?どういうことだ。」

「ワームホールを開いたときに、中性子星域を覆うガスが少し流れ込んだようね。」

「……ということはつまり、どういうことなのだ?」

「だから、昨日オークを招き寄せたワームホールのトンネルは、中性子星を経由してるってこと!つまり、あの黒い物体が魔王の正体だっていうことになるのよ!」


 そうか。このグラフは、まさに黒い物体が魔王であることをしめす物的証拠なのか。


「ありがとう。これを持って私は再度、魔王討伐を進言する。なんとしてもあれを倒す。」

「そう。たくましいことね、頑張ってね。」


 そう言い残すと、リョウコ研究員は去っていった。


 そしてその日。

 司令部内で、「魔王討伐」が了承された。

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