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#39 ドラゴンとの再会

 オルバーニュ軍港で、要塞消滅の一件の調査報告を受ける。

 だが結局、謎が深まっただけだった。

 あの砲撃の主の可能性として考えられていた地球(アース)001所属の戦艦ゴンドワナだが、ここから700光年離れた宙域にいることが判明した。つまり、あれは地球(アース)001の仕業ではない。

 そもそも、わざわざリスクを犯して要塞の破壊などするはずがない。戦艦ゴンドワナクラスの軍艦が中性子星に接近すれば、連盟軍は察知していたはずだ。隠密に要塞に肉薄し、攻撃することなど不可能だ。地球(アース)001からは、そういう回答が届いたらしい。

 そして、依然としてその黒い物体は中性子星周辺を周回していることも分かった。

 哨戒艦の観測によれば、その黒い物体は、中性子星周辺を約100日周期で周回していることが判明する。

 どうやら我々が偵察に出向いた日に、あの連盟の要塞に最接近したらしい。射程に入ったこともあり、攻撃したようだ。

 あの黒い物体自体は、そのまま中性子星の周辺を回っている。特に動きはない。動力がないのか、離脱することはできないらしい。

 まさか、連合側が秘密裏に建造した要塞か?そういう意見もあったが、もちろん連合側にはそんな要塞を建造したという話はない。 だいたい、あれほどの要塞を維持するには、数万人規模の人員が必要となる。当然、多くの船舶が行き交うはずだ。同じ連合側の我々が、そのことを知らないはずがない。

 むろん、連盟側のものでもないだろう。味方を撃つ要塞が、どこにあるというのか?

 そんなわけで、あの黒い物体の観測が、今日も続けられている。


「奇妙な物体ですね。何でしょうか、それは。」

「さあな。古代の宇宙人が残した無人兵器ではないかという話もある。だが、正体は未だ不明。しかし、接近しなければ何もしない。だからおそらく、そのまま軌道上に放置することになるだろうな。」

「そうなのですか。」


 秘書のリュシールと司令官室であの物体の話をする。連日、あの物体の話し合いが行われていたため、秘書のリュシールも少し気になっていたようだ。

 だが、この星に攻めてくるわけではない。仮にあれが動力を持っており、移動可能であったとしても、この星とは200光年以上は離れており、到達することはできない。ワープするにしても、たくさんのワームホール帯の中からこの星につながるワームホール帯を見つけ出さない限り不可能だ。あの黒い物体に、そんなことができるとは思えない。


 結局、あの物体の正体はわからない。とりあえず我々の間では、古代文明の残した遺産だということになった。接近して調査しようにも50万キロ以内に接近する物体を砲撃してくるため、リスクが大きすぎる。だから、放置するしかない。


 古代文明とは突拍子も無い話だが、根も葉もない話というわけでは無い。

 この直径1万4千光年の宇宙には、800を超える人類生存惑星が発見されている。

 だが、不思議なことに、どの星の住む人類も同じ遺伝子を持っている。そして、統一語と呼ばれる共通言語もある。だから、星を超えて交流し、結婚までして子孫を残している事例はそれこそ数多ある。

 私とジャンヌは、200光年離れた星で生まれ育っているが、同じ遺伝子を持つ同じ人類だ。だから当然、子供を作ることも可能だ。

 これは、冷静に考えると不思議なことだ。最大1万4千光年も離れた星同士で、同じ遺伝子を持つ生物が存在する。

 どう考えても、ずっと昔に共通の祖先がいたと考えるのが普通だろう。

 宇宙に進出した古代文明があり、それがこの広大な宇宙の生存可能な星に降り立ち、そこで繁栄した。今、人類の住む星は、その時の名残であると考えられている。

 だが、その文明の痕跡は全く発見されていない。誰がいつ、どうやってこれらの星々に人類の種をばら撒いたのか、それすら分かっていない。

 ところで、人類の生存する星は、直径1万4千光年の球面状分布している。

 ということは、その中心にその祖先の痕跡があるのでは無いかと考えるのが当然だ。

 実際、ずっと昔にその中心部に向けて、調査団が送り込まれたことがある。

 だが、そこにあったのは赤色矮星だった。惑星はなく、当然、人類もいない。

 もしかしたらここにずっと昔、我々の祖先にあたる人類が存在して惑星があったのかもしれない。が、その痕跡はまったく発見できなかった。

 そういうわけで、古代文明の存在は、昔から議論されている。


 このため、あの黒い物体がその古代文明の名残である可能性は否定できない。

 しかし、結論としてはあまりに短絡的だ。だいたい、今までその古代文明の痕跡が認められたことはない。それが急にこんな形で現れるなど、とても考えられない。

 だから、依然としてあの物体の正体はわからない。謎のまま、中性子星を回り続けている。


「そういえば、閣下にお話ししておきたいことがありまして。」

「話?なんだ。」

「実はですね、私、ベルトルト大尉殿と結婚することになりました。」

「……は?け、結婚!?」


 リュシールから、突如こんな話を振られた。なんだと、あのベルトルトと結婚、だと?


「まだ付き合って間もないじゃないか、本当にいいのか?そんなに早く決めても。」

「はい、ベルトルト様が、ぜひ私を妻にしたいと申すので……」


 様付けで呼ばれているよ、ベルトルト大尉。この純粋培養娘は、すっかりベルトルト大尉に心奪われている。ベルトルトのやつ、うまくそそのかすことに成功したらしい。

 この宇宙に散らばる人類のことを考えていたら、早速私のすぐそばで、宇宙を超えたカップルが誕生する瞬間に巡り合ってしまった。

 嬉しそうに笑みを浮かべて私に結婚の報告をするリュシール。だが、私は不安だ。あの黒い物体のことより、こちらの方がずっと心配だ。

 ベルトルト大尉は、その人格ゆえに多くの女性から嫌われてきた。軽いというか、誠意がないというか、女性の目から見る彼は、そういうものだとマリアンヌ中尉からも言われている。

 が、リュシール曰く、ベルトルト大尉は非常に真面目で優しくて、思いやりがあるという。少し浮ついた感じは確かにあるが、リュシールのことを本当に大切に思ってくれているようだという。マリアンヌ中尉とは、まるで正反対な評価だ。

 私とベルトルトとの付き合いは長い。軍大学の頃に私はやつと出会った。同じ戦略コースの授業を選択して知り合った仲だが、その頃からの腐れ縁が未だに続いている。正直言って、あまり真面目だとか思いやりがあるようには見えない。

 当然、私以外にも不安を覚える者がいて、リュシールを説得しようという者が現れた。


「ええっ!?あの大尉と結婚!?やめときなさい、後悔するわよ!」


 そうリュシールに忠告するのは、マリアンヌ中尉だ。司令部の食堂で、彼女はリュシールを説得している。


「そうですか?ベルトルト様は良い方ですよ。」

「そんなの、表向きの姿に決まってるでしょう!結婚した途端、豹変するわよ、絶対に!」

「豹変って、どう変わるんですか?」

「それはその……あれよ、あれ!他の女性に手を出すとか!」

「私以外の女性には嫌われてるんですよね。それは大丈夫だと思いますよ。」

「ううん、じゃあ……ほら、急に自分が上だと思い込み、妻を下手に見るとか!」

「大尉は歳上の男性ですからね、当たり前ではありませんか?」

「えっ!?ううん、それ以外にはね……」


 なんとしてもベルトルト大尉をあきらめさせようとするマリアンヌ中尉。だが、ことごとくリュシールに論破される。

 思えば、ベルトルト大尉には明確な欠点はない。何となく軽そうな男ということで警戒されているに過ぎない。だから、結婚後にどういう問題が起こりうるのかなど、マリアンヌ中尉にはうまく説明できないようだ。

 だが、ベルトルト大尉という人物は、参謀役として見る限りは頼り甲斐のある人物だ。知識は豊富で、冷静沈着。戦闘中など、普段のだらしない態度など全く見せず、淡々と状況判断を下してくれる。我が小隊が今まで無事でいられたのは、大尉のおかげでもあるのだ。

 2人の決めたことだ、私としては応援することにしよう。マリアンヌ中尉とリュシールとのやりとりを見て、私はむしろそう決心した。


 そんなリュシールの結婚騒ぎから、2週間ほどが経過した。

 小惑星帯(アステロイドベルト)での訓練を終えて、オルバーニュ軍港に帰投しているところだ。私は駆逐艦2680号艦の艦橋に立っている。

 あの黒い物体の話題は、我々の間ではもうほとんど出なくなった。接近しなければ何もしないただの黒い物体。引き続き、哨戒艦による監視が行われているが、特に目立った動きもなく、我々の中ではだんだんと過去のものになりつつある。

 現在、大気圏を抜けて、高度4500メートルを飛行中。正面にはモン・フェイロン山が見える。

 この山の麓に、かつてポントロワール村があった。サイクロプスの襲撃で、村はすっかり破壊されてしまった。リュシールたちがそこで暮らしていたという痕跡は、わずか数ヶ月でもはやほとんど見られない。

 そんなリュシールも、今は大尉と同じ部屋にいる頃だろう。出発前には入籍し、名実ともに夫婦だ。夫婦になった途端に、戦闘訓練へと駆り出され、宇宙に出ることになったこの2人。だが、リュシールも何度か訓練に同行するうちに、砲撃や機関音にすっかり慣れてしまった。


「速力300、前進微速、ヨーソロー!」

「高度4500、進路上に障害物なし。視界良好、進路クリア!」

「着陸態勢に入る。高度を3000まで下げる。両舷減速、赤20!」

「両舷減速!赤20!」


 オルバーニュ軍港へ向かうためのいつものやりとりが行われている。あと10分ほどで、軍港に着くだろう。

 地上はちょうど正午を回ったところだ。今日は昼間に到着することになる。今日はジャンヌや居候の3人とともに、ショッピングモールで夕食を食べることになっている。

 だが、ジャンヌのことだ。またあの喫茶店に行こうと言い出すのではあるまいな。少し不安を抱きながら、私はモン・フェイロン山を眺めていた。

 高度を下げ始め、着陸態勢に入りつつある駆逐艦2680号艦。

 いつも通り順調に飛行し、軍港へと向かうはずが、ここで異変が起こる。


「レーダーに感!進路上に、未確認飛行物体あり!距離20キロ!速力100!こちらに向かって接近中!」

「なんだと!?両舷減速!面舵いっぱい!回避運動!」

「両舷減速!面舵いっぱーい!」


 艦橋内が慌ただしくなった。急に現れた未確認の飛行物体との衝突を避けるため、回避措置がとられる。


「ダメです!未確認飛行物体、さらに接近!」


 レーダー手が叫ぶ。こちらは回避運動を続けるが、相手は進路を変えて、接近し続ける。

 そういえば、ここで未確認飛行物体に出会うのは2度目だ。あの時とよく似ている。あの時も突然現れて、そして消えていった。

 だが、今度はちょっと状況が違う。前回は雲が出ていたが、今日は視界良好。数十キロ先までよく見える。そして、接近する物体も、我々からよく見える。


「未確認飛行物体を視認!モニターに映します!」


 艦橋に備えられた大型モニターに、その飛行物体が映し出される。

 やはり、そこに映っていたのは、以前ここで出会ったのと同じやつだ。

 黒光りする全身に短い羽根、大きな目と口を持ち、体長30メートルほどのその飛行物体。


 我々はそれを、ドラゴンと呼ぶ。


「ドラゴンです!本艦に向けて急速接近中!」


 滅多に現れないと言われるドラゴンに、我々は再び遭遇する。そのドラゴンが、この駆逐艦めがけて飛んでくる。


「艦長、私は甲板に行ってきます。高度を1000まで下げてもらえますか?」

「甲板に!?いや、危険です!あのドラゴンと鉢合わせとなれば……」

「いや多分、大丈夫ですよ。」


 なんとなく、私はドラゴンがここに来ると確信していた。ドラゴンと会わなければならない。何故そう思ったのか、自分でも分からない。

 だが、あのドラゴンが現れる時には、必ず何か意味がある時だと言われている。前回ドラゴンと出会った時は、ポントロワールの生き残りを発見し、あのサイクロプスの襲撃から彼らを守ることができた。今度も何かあるに違いない。

 艦内の狭い通路を抜けて、甲板に出るハッチにたどり着く。ロックを外し、ハッチを開いて外に出る。

 幅30メートルの甲板に、私は立つ。もう高度1000メートルほどのはずだが、寒い。もうすぐ春とはいえ、上空の空気はまだまだ冷たい。右手には雪を被ったモン・フェイロン山が見える。

 そして、正面から黒い影が近づいてくる。ドラゴンだ。羽根を広げ、ゆっくりとこの艦に接近し、私の前で止まる。

 そして、ズシンという音とともに、そのドラゴンは駆逐艦の甲板に降り立った。

 駆逐艦の幅と同じ高さの巨大生物、黒光りするその皮膚は近くで見るとまるで鉄の鎧のようだ。大きな口と目、ツノも生えており、見るからに恐ろしい怪物である。

 こんな重いものが、どうやってあんな小さい羽根で飛べるのか、不思議でならない。物理的にありえない気もするが、目の前にいるこの怪物は確かに空を飛び、ここに降りてきた。

 そんなことを考えていると、突然重苦しい声が聞こえてきた。


『……星の世界から来た人族よ……』


 音声というより、脳内に直接語りかけてくる声のようだ。私は応える。


「私は地球(アース)294、遠征艦隊所属のエルンストという者だ!あなたに尋ねたいことがある!あなたは一体、何者だ!そして何故、我々の前に姿を現した!?」


 どうやら私の言葉が通じたようで、ドラゴンは応える。


『我が名はガルグイユ。魔族であるが、今は魔王に反逆し、人族を救う者だ。』


 ガルグイユ。そういえば、ポントロワールの村ではドラゴンはそう呼ばれていた。あれは本当にこいつの名だったのか。

 それよりもだ、このガルグイユというドラゴンから魔王という言葉が出てきた。


『お主達に、魔王討伐を依頼するために来た。お主らの力なら、あの魔王を倒すこと、かなうであろう。』

「魔王……討伐……?」


 突然、ガルグイユが我々に魔王の討伐を依頼してきた。


「おい!どういうことだ!魔王討伐と言われても、魔王がどこにいるかも分からないのだぞ!お前自身が倒せばいいのではないか!」


 なぜかドラゴン相手にキレてしまった。魔王討伐なんて、やれるものならやっている。どこにいるのかわからないから困っている。だがこのドラゴン、我々がここに現れるはるか以前からずっと魔王に歯向かっているようだ。この口ぶりからすると、おそらく魔王こともその居場所も分かっているようだ。だったら、自分で倒せばいいんじゃないのか?


『いや、我の力では倒せぬ……ゆえに、お主らに頼むほかない。』

「ならば、せめて魔王のいる場所を教えていただきたい!どこにいるのだ、魔王は!?」

『すでにお主らは出会っておる。あとは任せた。』


 そう言い残すと、ドラゴンは突然羽根を広げ、羽ばたかせる。そのまま跳ね上がり、空に飛び立とうとする。


「おい!待て!魔王なんか知らんぞ!いつ、どこで出会ってるというのか!?」

『この地上にはおらぬ。ずっと遠くの暗闇の中、白く輝く星のそば。魔王は、そこにいる。』

「はあ!?星のそば!?なんだそれは!」


 私の呼びかけにも関わらず、そのドラゴンは飛び去っていった。


 私は甲板から艦内に戻る。狭い通路を通りながら、ドラゴンの言葉をもう一度噛み締めていた。

 ガルグイユというドラゴンによれば、どうやら魔王は宇宙空間にいる。白い星のそばだとも言っていた。

 そして、我々はすでに出会っているとも言っていた。

 思い当たるものは、一つしかない。

 だが、あれが魔王なのか?魔王というのは、映画に出てくる黒い服をまとい、いかにも悪の権化のような姿をした、人型のものではないのか?

 だが言われてみれば、あれも意思を持って動いているようにも見えた。自身に近づく邪魔なものを、その圧倒的な力で排除しているのを我々は目撃した。

 魔王はワームホール帯を作り、異世界との通路を開きこの星にモンスターを呼び寄せる存在だということは、これまでの調査から分かっている。

 そのワームホール帯は、莫大なエネルギーによって生み出されるタイプのものだと、あの専門家も言っていた。

 そのエネルギーは、この宇宙で最大の戦艦の主砲ほどの力が必要だということだ。


 どう考えても、あれしかない。


 あらゆるものが、私の中でつながった。

 モンスターの襲撃、グールの言葉、いやおそらく、この星の異常な生態系も。


 ならば、我々は魔王を倒さねばならない。

 この星の、未来のために。

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