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#36 ローブの男

 思惑通り、ドワーフの街ではほとんどの工房で核融合炉部品を作り始めた。

 それに伴い、剣や鎧の生産は激減する。

 もし今後、リザードマンのようなモンスターの襲撃に遭遇しても、武器の質が落ちるのは確実だ。少しは脅威を抑えられるだろう。

 だが、問題はあのローブの男達だ。一体彼らは何者なのか、どういう目的で動いている連中なのか、まるで見当もつかない。

 やつらは、モンスターを使って何をしようとしているのか?どう見ても、単なる破壊活動としか映らない。だが、破壊からは何も生まれない。そんなことをして、どうするつもりなのか?


 戦争というものは、相手を破壊し尽くすことではない。相手を屈服させるのが目的だ。だから、破壊行動も相手の降伏を促す手段に過ぎず、通常は徹底的に破壊しようとはしない。

 ところがリザードマンにせよサイクロプスにせよ、彼らの行動を見る限り破壊が目的のようだ。津波のように押し寄せて、ただひたすら目についた人族やその建物を破壊する。リザードマンの襲撃でも、もし我々がいなかったなら、オルバーニュ村は全滅していたかもしれない。

 だが、破壊の後に何をするつもりなのか、その先の目的がまったく見えない。それゆえに、この襲撃事件の首謀者の実像がまったく掴めていない。そのことが、私を苛立たせる。

 せめてあのローブの男の正体を掴めたなら、大きな進展があるかもしれない。しかしやつらも、こことは別の世界に住んでいる存在なのだろうか?いや、間違いなくそうだろう。


 私は1週間の訓練を終えて、オルバーニュ軍港から王都へと帰るところだった。時刻は19時、月もなく、辺りは真っ暗で、星がよく見える。

 いくら電化が進んだといっても、この星はまだ「中世」そのものだ。光害というものはまだなく、川のように帯状に分布する銀河の星々がよく見える。

 軍港の街灯だけを頼りに、私は司令部に向かう。荷物をまとめるのに手間取り、駆逐艦2680号艦を降りたのは私が最後になってしまった。

 司令部の建物の入り口へ向かう途中、誰かに後ろをつけられているのを感じる。背後から、足音が聞こえる。

 おかしいな、私が最後だったはずだが、まだ誰か居たのだろうか?そう思って、私は後ろを振り向いた。

 その時、私の目に飛び込んできたのは、黒っぽい布を纏った人物だった。

 明らかにこの司令部の者ではない。私は身構える。すると、その人物は口を開く。


「……お前が、エルンストか……」


 ややかすれ気味の不気味な男の声だ。私は応える。


「そうだが、お前は誰だ。」


 するとその人物は突如、剣を抜いた。

 よく見るとその男、ローブを着ている。こいつ、あのローブの男の1人ではないのか?私は腰にあるバリアのスイッチに手を添える。


「……わしは、魔王様に使える者。その魔王様の邪魔をするお前を、殺す!」


 などと言いながら、私に向かって剣を振り下ろしてくる。私はバリアのスイッチを押す。

 腰の装置から散布された対衝撃粒子が、剣を破壊する。ローブの男はその衝撃で後ろに倒れる。

 我々のテクノロジーの前に、あっさりと屈したローブの男、顔を覆っていたフードが外れて、奴の素顔が見える。

 干からびた皮膚に、ところどころむき出しの骨が見える。こいつ、グールだ。いわゆるアンデッドの一種だ。

 いや、そんなことよりも奴の口から気になるキーワードが出てきた。なんだ、「魔王」とは。


「おい!魔王とは誰だ!?あの黒いドラゴンのことか!?」

「……奴は魔王様を裏切りし者。もっと壮大で、もっとも力ある存在。」

「その魔王とやらは、モンスターを使って何をするつもりなんだ!?」

「決まっておる、この世界に住む人族を消滅させ、我ら魔族の世界を作ること。」

「消滅……だと!?」


 このグールが語る魔王の目的。これはまさに、一連の襲撃事件を説明できる。


「閣下ーっ!何事ですか!?」


 司令部から誰かが走ってくる。バリアの衝撃音に気づいたらしい。


「お前らは力ある者達のようだが、その程度では魔王様には敵うまい。いずれお前らは、魔王様によって滅ぼされるであろう!」


 グールはそう言い残し、短剣を取り出す。それを自身の胸に刺した。

 シューッという音とともに、グールはみるみるうちに骨に変わっていく。奴め、自分の「核」を突いたな。


「か、閣下……これは……?」

「グールだ。私に襲いかかってきた。バリアで武器を破壊するや、自害した。」

「じ、自害!?なんでまたそんな……」

「さあな。だが、重要なことがいくつか分かった。まずはこのグールの死骸を回収、モンスター研究所で分析してもらうよう手配せよ。私は司令部に行く。」

「はっ!」


 このまま謎が謎を呼ぶ展開が続くと思ったが、グールのおかげでいくつかの謎が解明した。私は幕僚たちを緊急招集する。


 幕僚たちの前で、私は現状をまとめる。

 モンスターに武器を供与していたのは、ローブを纏ったグール。彼らの目的は、我ら人族の滅亡であること。そのために、彼らはモンスターに武器を供与していたようだ。

 そして、それを率いる「魔王」という存在。

 モンスターの襲撃は、天災のような確率的現象ではない。明らかに意思を持った者が先導し引き起こす「人災」だということだ。

 だが、謎は残る。魔王とは何者だ?どこにいるのか?ワームホールを作り出せるほどの力を持つ存在だ。相当な力があることは間違いないだろう。

 そして、ドラゴンとの関係も分かった。グールの口ぶりからすると、どうやらあのドラゴンは魔王に敵対するもののようだ。

 ドラゴンの目的は分からないが、ポントロワールの話やエルフの伝承を聞く限りでは、ドラゴンの目的は我々の破滅ではなさそうだ。むしろ、逆のものを感じる。


「……ですが、軍としてどう関わるべきなんでしょうか?得体の知れない相手では対処のしようもなく、しかも我々の管轄外ではないかと……」


 幕僚の1人がこう発言する。私はそれに反論した。


「我々の役目は、この星にいる住人の安全保障だ。たとえ相手が連盟でなくても、この星の住人の生活を脅かす存在である限りは、それを排除せねばならない。」


 とは言ったものの、最大の問題は、相手が何者かが分からないことだ。

 だが、その存在は「魔王」と呼ばれていることが分かった。

「魔王」とは一体、何者か?

 魔王とは、魔物、モンスター、物の怪の王であり、あらゆる厄難を人々にもたらす存在。

 一般的な定義はこんなものだ。往々にして人族に敵対する存在であり、我々を滅ぼし手下の魔物達の世界を作り出すために存在するものとして描かれる。

 どうして人族を滅ぼさねばならないのか、共存しようとか、支配しようとか考えないのか?目的が極端過ぎるのが気がかりだが、グールが我々に言い放った魔王というのはとにかく一般定義通りの存在であることは間違いない。

 で、あるならば、やはり我々はその魔王を見つけ、倒さねばならない。

 だが、魔王とはどれほどの力を持っているのだろうか?

 これまでの情報を整理すると、この魔王はどうやらワームホールを形成できる力を持っているようだ。

 ワームホールを作る手段は、莫大なエネルギーを使うか、特殊な物質を用いるかの2種類あるが、最近のモンスター襲撃時は前者によるものとわかっている。

 ということはだ、ワームホール帯を自在に作るだけの力を持った存在。それが、魔王ということになる。

 これは、とんでもない力だ。

 我々が知る限りでは、エネルギーによりワームホール帯を人工的に作り出すことに成功したのは、地球(アース)001の保有する最大の戦艦、ゴンドワナの主砲によるものだけだ。

 全長700キロの桁違いの戦艦の持つ直径2キロの2門の砲身から放たれる莫大なエネルギー。それでようやくワームホール帯が生成できたようだ。

 ということは、少なくとも魔王も全長700キロの戦艦並みのエネルギーを放てることになる。

 とんでもないやつだ。まさにラスボス。こんな奴を相手するのに、駆逐艦1隻2隻ではとても敵わない。私の小隊330隻でも無理だろう。どう考えても、数個艦隊は必要だ。

 ローブの男との接触により、我々は「魔王」の存在を知る。それがどういう存在なのかはわからないが、我々の前途に大きく立ちはだかる存在であろうことは間違いない。

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