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#27 ゴーレム 対 騎士団

「目的地上空に到達!降下準備!」


 私は今、王都の北東70キロのところにあるエヴァンス山地の上空にいる。


「2680号艦、コースよし、コースよし、用意、用意、用意、降下!降下!降下ーっ!」


 降下の号令とともに、駆逐艦2680号艦の下部格納庫から2足歩行型重機が降下を開始する。全部で2体。2676~2679号艦からも同様に2体づつ、計10体のロボットが400メートル下の地上めがけて降下を開始した。

 同時に、2機の哨戒機も発進。私とジャンヌ、そして騎士団の人間が搭乗している。


 私と行動を共にするのは、ジャンヌが騎士団長を務める跳馬(ギャルソンヌ)騎士団。

 ところで、この騎士団はこの2ヶ月余りのうちに大きく様変わりしていた。

 かつては槍と剣を用いてモンスターの排除を行なっていたが、この2ヶ月の間に装備も戦術も近代化された。槍騎士はモンスター戦闘用にカスタマイズされた2足歩行型重機を、剣騎士は迷彩服を着用し、銃と携帯バリアを駆使する歩兵として、それぞれオルバーニュ司令部にて訓練を受けた。

 ここで近代化されていない姿をしているのはジャンヌくらいだ。指揮官である彼女だけは、腰にレイピアを携え、チェーンメイルで身を固めているいつもの格好だ。もっとも、ジャンヌも銃とバリアの訓練を受けて、これらを装備している。


 そんな近代化された跳馬(ギャルソンヌ)騎士団に、ついにその初戦の機会が訪れた。

 相手は、この山地に突如湧いた大型のモンスター。この近くにある街からの要請で、そのモンスターの排除を行うことになったのだ。

 私とジャンヌ、それに同乗する騎士は、地上に降下した哨戒機から地上に降りる。


「では閣下、本機は上空にて監視いたします。ご武運を。」


 そう言い残して、マリアンヌ中尉の哨戒機は上空に舞い上がる。

 後に残った私とジャンヌ、それに、騎士5人。


「だ、旦那様!この辺りですか!?その怪しいモンスターが出るというのは!?」


 そうだ、もう1人いた。見習い騎士のリザだ。今日は彼女にとって、騎士団の一員としては初陣となる機会だ。


「そうだ。いつ出てくるか分からない相手だ。注意せよ。」

「はい!」


 彼女は見習いながら我々の軍事訓練を受け、銃とバリアの使用資格を取得済みである。幼顔に似合わない迷彩服を着たこの元駆除人、見た目からは想像ができないが、訓練でもなかなかの評価を得ているようで、そろそろ見習いを卒業させてはどうかと副団長のヤコブ殿が具申するほどである。


 我々はまず地上の小高い丘を目指す。一旦そこに騎士団一同集結し、目標のモンスターを探す。

 2足歩行型重機はすでに10体とも丘の上に集結していた。そこに我々8人も到着し、周囲の探索を始める。


「目標発見!2時方向、距離300!体長3メートル級のモンスター1体を視認!こちらに向かって進撃中!」


 早速、2足歩行型重機の1体から無線でモンスター発見の報がもたらされる。私は手に持った双眼鏡でモンスターを確認する。

 見えた。やや白っぽい灰色の岩のブロックが繋がって人型を形成しているそのモンスター。見たところ、ほかにモンスターはいない。単独行動をしているようだ。

 私もこのモンスターを見たのは初めてだ。このモンスターは「ゴーレム」と呼ばれている。

 この星では、何かの拍子に岩場から突然ゴーレムが大量発生することがあるという。このエヴァンス山地という場所は石灰岩が多い所だが、こういうところのゴーレム発生頻度は特に多いらしい。

 なぜゴーレムが湧いてくるのか?原因は不明だが、とにかく発生した以上、駆除せねばなるまい。


「あれはおそらく斥候のゴーレムですね。この先まだ数体、いや数十体ものゴーレムが潜んでますよ、きっと。」

「おい、ゴーレムというのはそんなにたくさん発生するものなのか?」

「時と場合によりますけど、多い時は50体を超えたらしいですよ。そんなものが街に入ったら大変だというので、私も以前、死にものぐるいで退治したことがあります。」

「退治って、あの身長が3メートルもあるあの岩の塊のゴーレムをか!?あんなもの一体、どうやって退治したんだ!?」


 これまでのジャンヌ達騎士団の持つ武器では、到底敵うとは思えない相手だ。だがジャンヌによれば、ゴーレムを倒すことは可能だったという。

 実に単純な方法で、ゴーレムを挑発して、崖などに誘い込むんだそうだ。崖から落っこちてバラバラになれば、ゴーレムはただの石塊となる。平地でも、森の中ならば木に縄を使って罠を仕掛け、脚を引っ掛け転倒させれば同様に破壊できる。

 だが、目前のゴーレムは森の外の平坦な場所にいる。もはや力押しするしかない。


「騎士団全員に告ぐ。これよりゴーレム殲滅作戦を発動する。重機隊、前進せよ!」


 私の号令とともに、10体の2足歩行型重機は前進を開始する。

 ガシン、ガシンという足音とともに重機隊は進む。この全長4メートルで、ずんぐりとした人型のこの重機は軍用にカスタマイズされており、肩には哨戒機と同じ砲が取り付けられ、左腕にはバリアに使う耐衝撃粒子を使って岩を砕く特殊削岩機を取り付けてある。まさにこの手のゴーレムに相応しい武装だ。


 途中、コボルトの群れに出くわす。だが、重機隊は彼らに構わず前進する。2、3匹が重機の脚で踏み潰され、それを見た他のコボルトは一目散に逃げ出した。コボルトごときが敵う相手ではない。

 重機の1体が、斥候と思しきゴーレムと対峙する。重機を見て襲いかかるゴーレム、だが1体1では重機の方に分がある。

 襲いかかってくるゴーレムに向かって、左腕に取り付けた特殊削岩機を押し当てる。あっという間に砕かれるゴーレム。そのまま重機の前で、ゴーレムは石塊に変わり果てる。


 だが、戦いはまだ始まったばかりだ。相手は神出鬼没、さすがの重機もこの先は苦戦を強いられるだろう。

 ゴーレムというのは、出現するまで岩と見分けがつかない。近くを通りかかった途端に突然現れて、襲いかかってくるモンスターだという。

 ジャンヌ自身もこの岩と紛らわしいゴーレムのおかげで、3人の部下を失ったことがあるそうだ。ゴーレムに変わった岩は、その重い身体でのしかかってくるのだという。生身の人間ならもちろん、重機といえどものしかかられては無事では済むまい。

 山地の岩肌に沿ってゆっくりと前進する騎士団。いつ現れるともわからないゴーレムを警戒しながら、われわれは前進する。


 突然、崖からゴーレムが現れ、そばにいた2足歩行型重機に襲いかかってきた。襲われた重機はゴーレムを弾き飛ばす。地面に叩きつけられ、たちまち石塊に変わるゴーレム。

 だが、間髪いれずに別のゴーレムがすぐ横の崖から現れて、その重機に襲いかかった。

 それをその横にいた別の重機が攻撃する。削岩機で砕け散るゴーレム。本当に神出鬼没なモンスターだ。まるでブービートラップだな。


 本当なら上空から哨戒機の砲火で攻撃したいところなのだが、ゴーレムというやつは接近しないと姿を現さない。このため、2足歩行型重機でくまなく歩き、あぶり出す他ない。


 では放置しておけばいいかというとそうでもなくて、ある日突然、夜中に群れをなして近くの街に押し寄せることがあるという。いつ起こるか分からないため、発生を確認したらすぐに駆除しなければならないという、厄介なモンスターだ。だからこうして地道にあぶり出して攻撃する必要がある。

 現場について1時間ほど。かれこれ、もう20体近く破壊したところだ。木々がまだらで、ところどころ岩場や崖がむき出しのこの場所には、まだゴーレムが湧き出しそうな場所が多数点在している。

 これをくまなく回るのか……もっと効率的な方法はないものか。いつ果てるとも分からない、ゲリラ的に発生するモンスターを相手に疲労感が募る。


 だが、そのあたりからゴーレムの出現が落ちてきた。重機隊が近づいても、岩や崖からゴーレムが発生しない。疲労感から少し安堵に変わりつつあった、その時だった。


 私の背後にある岩が突然動き出す。みるみる人型に変わり、私の方に向かってきた。

 ゴーレムだ。そこはつい今しがた重機が通り過ぎたばかりだぞ?なぜ今ごろ出てくるのか?


 などと考えている暇はない。とっさに銃を取り、出力ゲージを最大にして発砲する。

 猛烈なビームがゴーレムに着弾し、激しい爆発音と共にゴーレムの胸に大穴を開ける。たちまち石塊に変わるゴーレム。

 この一撃で、私の銃はエネルギーパックを使い果たす。最大出力で銃を放つと、威力は大きいがエネルギーの消費も大きい。空のパックを交換している間に、また別の岩からゴーレムが現れた。

 やつらめ、重機に敵わないと見るや、無防備な人間めがけて攻撃するようになったか。しかし、やつらはばらばらに発生し行動するモンスターにしか見えないのに、どうして地上にいる人間が弱点だと悟ることができたのか?

 その出現したゴーレムに、今度はヤコブ殿が発砲する。一撃でばらばらになるゴーレム。


「エルンスト様!ご無事ですか!?」

「ああ、大丈夫だ。だが、厄介だな。重機ではなく、生身の人間に反応するようになったらしい。態勢を立て直し、重機を前後に展開して……」


 私が陣形の変更を指示しようとするが、間髪いれずに2体のゴーレムが現れた。内1体が、ジャンヌにのしかかるように襲いかかってきた。


「ジャンヌ!」


 私は思わず叫んだ。ジャンプするジャンヌ、私はそのジャンヌの腕を掴み手繰り寄せ、抱きしめる。そして襲いかかるゴーレムに向かって、銃を構えた。

 だが、ジャンヌにのしかかるように襲いかかってきたゴーレムは、その場で崩れて石塊に変わってしまう。

 なんだこいつは。最初からジャンヌを道連れにする気だったのか?なんて無茶苦茶なやつだ。ゴーレムのなりふり構わない攻撃をなんとか逃れたジャンヌだが、次もかわせるか……油断ならない相手だ。

 やつらは、捨て身で攻撃してくる。しかも、集団で1つの意思を持っているように行動する。あまり賢いモンスターというわけではないようだが、この短時間のうちに少し知恵をつけた。おかげで、重機隊に頼れなくなった。

 私は、出現した残りのもう一体に向かって銃を放つ。だが銃の出力が低く、ゴーレムの身体を形成する岩に吸収されてしまう。まるで効果がない。

 最大出力であれば倒せるのは分かっている。だが、毎回最大出力で撃っていてはエネルギーパックが持たない。今日は多めにパックを持っているが、それでも10個。最大出力では、10発しか撃てない。

 何発か撃つが、岩相手に通常の出力ではやはり歯が立たない。迫るゴーレム。やはり、最大出力で撃つしかないのか?

 だが、岩の塊のゴーレムとはいえ何か弱点はあるはずだ。複数の岩が結合して、人の形を形成しているゴーレム。突き落としたり倒したりして、地面に叩きつけてしまえばその結合部分から崩壊して石塊に変わるゴーレムだ。ということはだ、もしかして……


「騎士団一同!奴の脚の付け根を狙って撃て!」


 私の叫び声に呼応して、副団長のヤコブ殿がゴーレムの右脚の付け根めがけて発砲した。ゴーレムの脚と胴体にあたる岩と岩の間あたりに着弾すると、その岩同士が分断した。

 右脚を失ったゴーレムは倒れ、上半身が地面に叩きつけられ、そのままゴーレムは石塊へと変わった。

 思った通りだ。やつは結合部分が弱い。ならばそこを狙って倒し、地面に叩きつければ良い。


「ゴーレムの弱点は、足や腰の付け根だ!そこを撃てば、やつらは倒れて岩の塊に戻る!各員、これよりやつの結合部を狙え!」


 私の


「……あの、エルンスト様。」


 と、突然ジャンヌが私に呼びかける。顔を向けるとジャンヌが顔を真っ赤にしている。

 ゴーレムとの戦いの真っ只中だというのに、何をこんなところで可愛らしい顔をしているのか?


「どうした、ジャンヌ!」

「あの……ですね。私、このままエルンスト様に抱かれたままでは、お役に立てないのではないかと……」


 それを聞いて私は我に返る。しまった、ジャンヌをずっと抱きっぱなしだった。10体の2足歩行型重機と5人の騎士、それに騎士見習いのリザの前で、私はずーっとジャンヌを抱きしめていたことに気づく。


「あっ……いや、すまない。」

「いえいえ、いいんですよ。夫婦ですから。でもこういうことは、なるべく他の方がいないところでなさるように、お願い致します……」


 私はジャンヌから左手を離した。いつもなら行動派で大胆なジャンヌが、妙にしおらしい。顔は真っ赤で、その赤い頬を手で抑えている。

 その様子を、地上にいる5人の騎士はちらちらち見ている。重機に乗る騎士達も、こちらを気にしているようだ。我が家に居候しているリザでさえ、ぽかんとした顔でこちらを眺めている。


「……さあ、諸君!まだゴーレムとの戦いは終わってはいない!引き続き、警戒せよ!」


 照れ隠しもあるが、私は騎士団に向けてはっぱをかける。その私の言葉を聞いて、騎士団一同は再び警戒態勢に戻った。


 それからしばらく歩き、3、4体のゴーレムを倒す。そして、この山地でもっとも切り立った崖が見える場所にたどり着いた。

 いかにもゴーレムが現れそうな崖だが、何も起こらない。これでもうゴーレムも打ち止めか、そう思った矢先に、ガタガタと地面が揺れ始めた。

 やはりまだいたようだ。だがこの揺れは今までで一番大きい。少し様子が違う。


「来た……」


 ジャンヌがなにやら意味深につぶやいた。私は尋ねる。


「おい、ジャンヌ。何が来たんだ?」

「ゴーレムの群れは、最後にとびきり大きいのが現れるんですよ。おそらく、その最後のゴーレムです!」


 どうやら、ラスボスという奴の登場のようだ。私は銃を構えて、その切り立った崖の方を見た。

 崖から岩が分離し始め、徐々に人型に変わっていく。しかしこのゴーレム、とてつもなくでかい。

 切り立った崖とほぼ同じ高さのゴーレムが出現した。ゆうに体長が20メートルほどある。先ほどまで相手にしていたゴーレムよりもすらりとした体型をしている。

 これが、ラスボス級ゴーレムか。あまりに大きなモンスターの出現に、一同、声を失う。


「ヴォォォォォッ!!」


 我々に向かって雄叫びをあげる大型ゴーレム。これまでのゴーレムは声などあげない。これだけでも、こいつが特別なゴーレムであることがわかる。

 もしかすると、こいつが全てのゴーレムを操っていた張本人なのだろうか?これを倒すとこの辺りのゴーレムは打ち止めになるというから、その可能性が高い。

 それにしても、このゴーレムは大きい。高さが4メートルほどの2足歩行型重機と比べても5倍もの身長があるこのゴーレム。まさに最後の敵にふさわしく、猛々しく圧倒的な姿だ。


 だが、その大きさが命取りだった。


「重機隊、射撃用意!」


 大きいということは、それだけ狙いやすいということだ。確かにこの巨大なゴーレムは、我々の出現前にはこの星の人々を苦しめたことだろう。

 だが、大火力の兵器を装備する我々にとっては、ただ大きいだけの格好の的だ。


「撃てっ!」


 私は右腕を振り下ろす。10体の重機からこのラスボスゴーレムに向かって、一斉に砲火が浴びせられる。

 いくら20メートルもの巨体であっても、10体から集中砲火に敵うはずもない。あっという間にバラバラにされ、石塊と化するラストゴーレム。


 こうして我々は、ゴーレムを退治した。任務完了である。


 戦いが終わり、迎えの哨戒機が降りてくる。マリアンナ中尉機に乗り込む時、ジャンヌが私の右腕を引いて、つぶやくように言った。


「あの、エルンスト様。さっきの続き、後でお願いしますね……」


 どうしたのだろうか、今日のジャンヌは妙に可愛らしい。見習い騎士のリザとヤコブ殿も、この妙に可愛らしくなった騎士団長の様子を伺っている。


 ゴーレムは倒した。このエヴァンス山地周辺には、再び平穏な日々が戻った。そして、夫婦とはいえ、やはり人目は気にするべきだということも学んだ戦いであった。

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