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#26 海賊団と海賊殺し

 小惑星帯(アステロイドベルト)での訓練は、上々であった。

 加わったばかりとは思えないほどの練度を持つ新しい駆逐艦2731号艦に、我が小隊一同はこの艦を賞賛をもって迎えた。

 もっとも、あのエーベル艦長が艦内ではシミュレーター室の時のように、まるで海賊の頭領の如く叫んでいるのだろうことは、皆は知らない。だが、形式はどうあれ初日から我々について来れるだけ上出来だ。

 もっとも、課題がないわけではない。砲撃の命中精度が低い。こればかりは今後も訓練が必要だ。

 だが、次の作戦からは我が小隊は330隻体制で参戦できる。やはり戦力は一隻でも多い方が心強い。この艦隊を預かる身としては、この新2731号艦の存在は決して小さくはない。


 5日間の地獄の特訓を終えて、地球(アース)813のオルバーニュ軍港に帰投する第9小隊の330隻。

 現在、地球(アース)813まであと3000万キロの地点を航行している。我々の左方向300万キロの地点には民間航路があり、多数の船舶が往来する。


 つい数ヶ月前と比べると、往来船舶の数が格段に増えていることを実感する。すでに地球(アース)813上の10か国との交易が始まっており、宇宙港も50を超えている。このため現在、我々の艦隊の左方向に約2000隻もの民間船が一直線に地球(アース)813を目指して航行している。


 この星と地球(アース)294とが最初に接触を果たして、すでに8か月が経っている。私とジャンヌが共に生活するようになってすでに7か月。出会った頃のジャンヌは、私の使うスマホにも驚く文化レベル2の星に住む貴族のご令嬢であったというのに、今やジャンヌもスマホを使いこなして騎士団をまとめるなど、我々の技術(テクノロジー)を使いこなすほどになっていた。

 今や地球(アース)813の星の生活は、これら多くの船団がもたらす交易品によって成り立っている。地球(アース)294からは車や家電、スイーツをはじめとする様々な食料品などがもたらされ、地球(アース)813からは主に天然資源が送られる。

 そういえば、あのイカれた研究員がいるモンスター研究所から、ペット用のコボルトとスライムが輸出され始めたと聞いた。特に数が豊富なスライムは地球(アース)294では人気だそうで、珍しさも相まって、かなり高値で取引されているらしい。しかし、そんなもの輸出して大丈夫なのだろうか?


 などと考えながら、私は駆逐艦2680号艦の艦橋にて、レーダーサイトに映る交易船の群れを眺めている。すると突然、私宛に緊急通信が入る。


「閣下、駆逐艦2731号艦から閣下宛に、暗号音声通信が入ってます。出ますか?」

「私に?なんだろうか。とにかく応じよう。」


 あの新入り艦から電文ではなく、直接通信を送ってきた。気になったので、私はその暗号通信に出ることにした。


「突然の通信で申し訳ありません。艦長のエーベル少佐です。閣下に至急、連絡したい旨があります。」

「なんだ?」

「はっ!民間船団に、海賊船が入り込んでおります。」

「海賊船だと!?どこだ!」

「はい、識別番号4233215号の船をリーダー船とする20隻の船団です。」


 私は手元のモニターで、その識別番号を持つ船の位置を確認する。レーダー上で、400万キロ先にその船はあった。だが他の民間船団同様、あの一直線上にいるごく普通の船団にしか見えない。私はエーベル艦長に尋ねる。


「エーベル艦長、なぜこの船団が海賊船団だと?」

「はっ、明らかに動きが怪しすぎます。」

「……それほど怪しくは見えないが、どの辺りが怪しいのだ?」

「近くにいる12隻の船団に、ぴったりとついて航行しております。先ほどから徐々に距離を詰めておりまして。」

「うーん、それだけでは怪しいと言い切れないな。そういう船団なら他にもあるだろう。」

「いえ、私の経験上、怪しい動きです。普通は船団同士が接近し合うことはありません。念のため、私は王都宇宙港にあの識別番号の船団について、問い合わせてみたのです。」

「なんだ、もしかしてこの識別番号は偽装だというのか?」

「今どきの海賊は、すぐにバレるような識別番号をつけたりしませんよ。本物の識別番号を入手し、コピーして使います。識別番号だけでは、真偽はわからないものです。」

「そ、そうなのか。そういうものか。」

「実際、この識別番号の船団は実在します。ただ……」

「なんだ?」

「この船は3日前に、地球(アース)813を出発し、地球(アース)294へと向かったそうです。地球(アース)294まで片道で2週間はかかるというのに、わずか3日で今度は地球(アース)813に向かう。そんなことって普通、ありえますかね?」

「うーん、確かにおかしいな。だが、それだけでは海賊船だとは断言できない。接近しつつ怪しい動きをしないか、警戒するのが精一杯ではないか?」

「大丈夫です。私が暴いてみせますよ。ついては艦隊から3隻ほど、私にお貸し願えませんか?」

「うーん……よし、分かった。では貴官に2732から2734号艦を預ける。私の名で、一時貴官の指揮下に入るよう命じよう。ただし、慎重に行動することが条件だ。」

「ありがとうございます。ついでと言ってはなんですが、もう一つよろしいですか?」

「なんだ?」

「海賊船団は逃亡の際、航路を大きく外れて全速で逃げようとます。私の艦が追いたてるので、他の326隻でこれを包囲していただけないでしょうか?」

「当然だ。海賊だとわかれば我々は容赦しない。すぐに拿捕する。」

「ありがとうございます。では当艦はこれより、海賊船団拿捕に向けて出発いたします!」


 軍港への帰投中、偶然にも我々は海賊船団とやりあうことになってしまった。全く予定外のことだが、海賊となると話は別だ。

 最近、この宙域でも海賊が出没しているようだ。実際に被害も出始めている。だが、船舶の急増に監視が追いつかず、海賊船の横行を許しているのが現状だ。艦隊司令部でもパトロールを増やしたり対策はしているが、なかなか海賊行為を防げない。

 そういえばエーベル艦長率いる駆逐艦2731号艦は、防衛艦隊時代には「海賊殺し(パイレーツスレイヤー)」と称されていたらしい。それほどまで海賊船を見つけ出すことに長けた艦だということだ。海賊にかけては、彼らはプロだ。任せるしかない。

 というわけで、海賊船拿捕に向けて4隻の駆逐艦が出発する。

 だが、相手は20隻、こちらは4隻。撃ち合って負けるとは思わないが、まんまと逃げられてしまうのではないか。心配ではある。

 しかし、エーベル艦長はたった4隻を率いて海賊船団と疑わしき船団に向けて出発する。まあいい、海賊殺し(パイレーツスレイヤー)の実力、見せてもらおうか。


 我々軍船は、ステルス塗装を用いている。このため、民間船の持つレーダーではほとんど映らない。艦艇のみがステルス塗装でも識別できる特殊なレーダーを用いている。

 海賊といえども、装備は民間船と同じ。通常は軍用レーダーを持っていることはない。だが、海賊船は普通、船を軽量化し倍のエンジンをつけるなどして、通常の民間船以上の速度で航行できるよう改造されているのが普通らしい。

 しかし、軍には改良型重力子エンジンというものがある。これは軍のみが使うことのできる特別な機関だ。さすがの海賊も、このエンジンの前には無力だ。


 レーダーで4隻の艦艇の動きを監視する。後方から徐々に船団に接近するエーベル艦長指揮の4隻の艦隊。ついに、海賊と思しき船団に追いついた。

 ……と思ったら、追い越してしまった。あれ?海賊はどうした?エーベル艦長よ、一体何をするつもりだ?


「エーベル艦隊、そのまま前方の船団を追尾中!距離、300キロ!」


 4隻の艦艇は前方の船団めがけて接近している。意図が見えない我々は、その不可思議な行動をただ見守るしかない。


 いや、待てよ。エーベル艦長は、海賊船団は20隻だと言っていた。一方、狙われた船団は12隻。

 レーダーサイトを見ると、前方の船団が20隻、後方のは12隻だ。てっきり、海賊船というのは、後ろから迫るものだと思い込んでいた。だが、エーベル艦長は前方の船団を「海賊」だと推測している。


「エーベル艦隊、発砲!前方に展開する船団に対し、砲撃を開始!」


 なんだ?突如、船団に向けて発砲するエーベル艦隊。警告もなしに、何を考えている?

 だが、発砲を受けた前方の船団は全速で逃げ始める。みるみる速力が上がるその船団、民間船とは思えない速力で逃げ始めた。


 あの速力、間違いない。積荷を満載した船の動きではない。あれは海賊船団だ。私は確信した。


「全艦、全速前進!海賊船団と思しき船団を追尾、拿捕する!」


 我が小艦隊も全艦であとを追う。エーベル艦長率いる4隻は、後方から海賊船団を追尾している。我々はその船団の右側から接近する。

 逃げる船団を追尾するが、相手は急減速したり急に方向を変えたりと、まるで予測がつかない動きをする。

 が、普段からランダムな動きに呼応する訓練を積んでいる我々が相手では、逃れられるわけがない。すぐにこの20隻を我ら330隻が取り囲み、停船に追い込む。

 ぐるりと海賊船団らしき20隻を取り囲む我々第9小隊。すぐに突入隊を組織し、20隻の船へ部隊を送り込む。

 ところで、この一件で分かったことがある。なぜ駆逐艦2731号艦の練度がこれほどまでに高いのか?それは、こんな船団を相手にし続けた結果なのだろう。


 さて、海賊船団を拿捕することに成功した。が、彼らの取り調べが難航することは予想された。

 間違いなく彼らは主張するだろう。我々は海賊ではない、これは不当拘束だ、と。

 この船団の頭領とされる人物を含む数名が、駆逐艦2680号艦へと連れ込まれる。エーベル艦長も2680号艦へやってくる。

 で、私が立会いの元で、取り調べが始まった。


「なんて事してくれたんだ!我々は海賊などではない!ただの民間船を、警告なしに攻撃するとは何事か!?それでもあなた方は、民間人を守るべき軍人か!」


 案の定、彼らは海賊であることを全否認する。しかも、エーベル艦長らが警告なしに発砲したことに抗議する。

 どう考えても改造船を操る彼らだが、確かに警告なしに砲撃は不味かった。どう考えても我々は不利だ。だが、エーベル艦長はこう言い放つ。


「一目見て海賊船とわかる船だから発砲しただけだ。文句はあるまい。」


 この場にいた私や幕僚らは、エーベル艦長のこの言動に驚く。一体、なぜこうも自信満々なのか、私にはエーベル艦長の意図が皆目判らない。


「そうか、我々はそんなに海賊に見えたのか。つまり、我々が海賊旗でも掲げていたとでも言うのかね!?」


 頭領のこの返答に、付き添いの男らはゲラゲラと笑い出す。だが、エーベル艦長は即答する。


「この船が、この宙域にいるはずのない船だと分かれば、海賊と断定するしかあるまい。」

「な、なんだと!?何を言っている。」

「つまり、お前らが連盟側の人間だと言っている。


 思いもよらぬ言葉が、エーベル艦長から出てきた。エーベル艦長によれば、彼らは我々の敵方である連盟の者だと言うのだ。

 いくら民間船でも、連盟側と分かれば看過できない。だがエーベル艦長は、どうやってこいつらの船が連盟側だと分かったのか?


「面白いことを言う。なぜ我々が連盟側だと見え透いた嘘をつくのか!証拠はあるのか、証拠は!」


 当然、頭領らしき男は反論する。この場にいる全ての者が、エーベル艦長の返答を見守った。


「簡単な話だ。お前らの船の重力子エンジンは、我々連合側にはないタイプのものだからだ。」

「な……!?」

「噴射口の形状、重力子の波長、一目見て我々よりも古い設計の機関だと分かる。こんな古い設計の機関を積んだ船は、我々連合側にはもはや存在しない。今となっては連盟側にしかない設計のエンジンだ。連盟側の船でありながら連合側の識別コードを発信する船を見て、どうして海賊でないと言えようか!」


 宇宙が連合と連盟の2つの陣営に分かれて170年経つ。そして連合陣営内には地球(アース)001という、我々の持つ多くの技術の発祥となる星が存在する。

 このため我々連合側はこの170年のうちに、地球(アース)001から高効率の新しい技術の機関が展開されて、民間船といえど170年前とは異なるエンジンを使っている。

 だが連盟側はこの170年間、同じ設計の同じエンジンを使い続けている。地球(アース)001との交流がない彼らはこの170年もの間、古い設計のエンジンを作り続けるほかない。

 なるほど、エーベル艦長はよく見ている。私も海賊船の後部の写真を見せてもらうが、確かに我々とは違うエンジンを使っていることは一目瞭然だった。

 これにはさすがに彼らも反論できない。これが決定打になり、彼らは連盟側から侵入した海賊だと断定された。

 さすがは海賊殺し(パイレーツスレイヤー)の異名を持つだけのことはある。2000隻以上が集まるこの星域の中で、よく見切ったものだ。


 エーベル艦長の思わぬ一面を垣間見る事件だった。こいつにはリーダー艦の艦長をやらせた方がいいのではないか、そんなことを考えさせられる一件であった。

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