#24 サイクロプス襲来
230年前に滅んだポントロワール王国の残党らが潜む村が、発見された。
このことは、地球294政府を通じて、オラーフ王国にも知らされる。
だが、230年も前のこと。ましてや宇宙進出時代を迎えた今、残党狩りをしようなどとは王国の誰も思わない。
さて、仮にあの村を「ポントロワール村」と呼称することになったが、村民をどうするかという課題が生じる。
あの場所は決して住み良い場所ではない。あそこしか追撃の手を逃れることができなかったから、仕方なく住んでいるという場所である。住民も、定住を望んでいるわけではない。
それに、230年前には1000人を超える人々が住んでいたそうだが、いまや400人を割っている。人口の減少が、この村最大の課題だ。
聞けば、あまり肥沃ではない土壌にモンスターの襲来などで、人口を減らしているようだ。加えて、火山のすぐそばというのも不安定要素の一つ。今まではなんとかやってこれたが、今後もうまくいくかどうかなど分からない。
というわけで、ポントロワール村の移住作戦が立案された。これは、王国内にポントロワール村の移住先を作り、移り住んでもらおうというものだ。
で、その移住先として選ばれたのは、オルバーニュ村のはずれにある森である。ここを切り開き高層アパートを建て、移り住んでもらおうというのだ。
軍港がほぼ完成し、オルバーニュ村では人手不足が深刻化しているところだ。ちょうど人手不足だし、過去の経緯を考えると王都のすぐそばは不味かろうということで、オルバーニュ村が選ばれたというわけだ。
で、例によって私がこの移住計画の担当となった。ポントロワール村を見つけたのも私なら、オルバーニュ村の領主も私だ。だからというわけなのだが、それにしても最近、私の仕事は多すぎやしないか?
事実上の村長であるセドリック殿は、この移住計画を了承。こうしてポントロワールの村の人々は、オルバーニュ村のそばに移住することに決まった。村では早速、引っ越し準備が始まる。
「はぁ~……ガルグイユ様より与えられたこの地を離れちゃって、本当にいいんでしょうか……」
憂鬱そうに話すのは、セドリック殿の屋敷で働くリュシールだ。
「そのガルグイユ様というのが我々の前に現れて、こういう結果をもたらしたんだ。それは受け入れるべきではないのか?」
「いや、だから受け止めているじゃないですか。移住することに反対してるわけじゃないんです。ただ、私やこの村の人々にとっては、ここが世界の全てだったんです。そんな私達がここを離れるということに、どうしても実感がわかないだけなのですよ。」
外界から閉ざされたこの地でずっと暮らしていたのだから、離れることに抵抗を覚えるのも無理はない。だが、ここでずっとやっていくのは無理がある。ここに残ればいずれ人口は大幅に減り、やがて滅びるだろうことは間違いない。現にこの村の人口は、最盛期の半分以下になっている。
「さっきの話だが、やはりここにもモンスターは来るんだな。」
「はい。一応、柵などは設けているんですが、それを突破して入ってくるやつもいまして。特に、サイクロプスは厄介です。稀にしか現れないのですが、村の多くの建物を破壊するまで暴れまわるんです。」
「サイクロプス?何だそれは?」
「一つ目の巨人です。一体ならばどうにか倒せるんですが、あいつらは集団で現れるんです。今までに1度だけ、この村も襲われています。」
「あ~、サイクロプスね、怖いわよねぇ、あれ。私も一度だけであったことがあるわよ。」
外を出歩いていたジャンヌが帰ってくるや、我々の会話に入り込んできた。
「ジャンヌも出会ったことがあるのか、その巨人に。」
「もーっ!本当に怖いですよ!一つ目だし、身体も大きいし。なによりも、破壊することしか考えていないんですよ、あいつら。だから、人の言うことなんてまったく聞かないんです。現れたら、ただただ通り過ぎるのを待つしかないですね。」
聞けば、一度王都周辺に現れたのだと言う。跳馬騎士団も応戦したが歯が立たず、周囲にいた人々を城壁内に避難させてやり過ごすのが精一杯だったそうだ。
「巨人と言っても、オーガくらいの大きさじゃないのか?」
「そうですね、あれくらいの大きさの巨人です。でも、やつらは集団でやってくる上に、強力な武器を持ってるんですよ。」
「武器?」
「オーガが持ってるこん棒なんてものじゃないです!剣ですよ、剣!どういうわけか、ものすごく切れ味のいい剣を持ってるんです、サイクロプスってやつは!とてつもなく鋭い武器を持った巨体がたくさん襲ってくるんですよ!これは脅威です!」
どうやらこの巨人の化け物は、他のモンスターと違って武器を使うらしい。サイクロプスの住処は特定されていないが、どうやら彼らは優秀な鍛治職人がいると考えられているようだ。それゆえ、切れ味の良い剣を持っているらしい。それほどの技能があるならモンスターではなく亜人と呼ぶべきではないかと思うが、それ以外には人らしい知性が見られないそうだ。
とにかく凶暴なモンスター。それがサイクロプス。この王国では、そういうことで通っている。
だがどういうわけか、サイクロプスというものは滅多に現れることはないらしい。数十年に1度現れるかどうかというモンスターだそうだ。私としても、そんなやつとは出くわしたくないものだ。
しばらく彼女らと話していたが、少し外の空気が吸いたくなり、私は外に出た。季節はもう冬だ。モン・フェイロン山を吹き下ろす強い東風が凍りつくほど冷たい。
ふと村の様子を見る。どの家でも荷物をまとめるなど、引っ越しの準備をしている。表情は様々、不安げな顔を浮かべる夫婦もいれば、新天地に心躍らせる若者もいる。
そんな光景を眺めながら、私は森の方を見た。
そういえば、私が見たドラゴンは、この辺りで消えた。
ということは、この森のどこかに、息を潜めているに違いない。鬱蒼と茂るこの木々の奥深くに、あの神秘に包まれたモンスターが生きているのか。
などと考えている、その時だった。
木々の向こう側から、何やら地響きのような音が聞こえる。
ズシーン……ズシーン……
妙に既視感のあるシーンだ。まさか、オーガが現れたか?いやもしかして、あのドラゴンが近づいているのか?
そんな私の思いとは裏腹に、見えてきたのは肌色の巨人だった。体長はゆうに3メートルはある。
オーガではない。明らかに別物だ。私はその巨人の顔を見て、驚愕する。
一つ目だ。顔の真ん中に、目が一つ。
これで確信した。こいつは、さっきまで話していたサイクロプスだ。
私はその巨人に向かって、警告する。
「止まれ!ここを攻撃する意図があるなら、我々はお前達を倒さねばならない!だが我々の話を聞くならば、我々は攻撃しない!」
一応、亜人とおぼしきこのモンスターに対しては、まず意思の疎通を確認する。応じれば「亜人」、応じなければ「モンスター」とみなす。これが、我々地球294政府が提示するルールである。私はそれに則り、意思確認を行った。
だが、そのサイクロプスはこちらに向かって歩行速度を上げて迫ってきた。私は銃を取り、そいつの手前めがけて一発発砲する。
木の幹に着弾する。その木は吹き飛ぶように倒れる。
だが、吹き飛ぶ木を見ても、こいつは歩みを止めない。それどころか大声を上げて突進してくる。
「ヴォォォォーッ」
そして、行く手を阻む柵に向かって、剣を振り下ろす。
まるで発泡スチロールのように、たった一撃で粉砕する柵。それを見た私は、サイクロプスの頭部めがけて発砲する。
バーンという音とともに、そのサイクロプスは頭を吹き飛ばされて倒れる。頭を失い、その場に倒れるサイクロプス。そこへ銃声を聞きつけたブルクハルト少尉が駆けつけてきた。
「閣下!今の銃声は、何事ですか!?」
「少尉か!サイクロプスだ、一つ目の巨人が現われた!私の呼びかけにも応じない、威嚇にも無反応だ!これより先、サイクロプスを『モンスター』として対処する!」
「了解!」
「ジャンヌやリュシールらの話によれば、やつらは群れで現われるらしい!多分、まだくるぞ!警戒せよ!」
「はっ!」
ブルクハルト少尉は銃を取り出す。私は手元のスマホから、オルバーニュ軍港にある司令部に援軍要請をする。
「エルンストだ。ポントロワール村にて、大型モンスターの急襲を受けている。至急、援軍要請を乞う。相手は……」
私はそう言いかけて、森を見た。その時、私は言葉を失いかける。
木々の間から、おびただしい数のサイクロプスが押し寄せてくるのが見える。数は30、40……いや、それどころではない。我々の倍以上の一眼の巨人が、剣を握りしめて村の柵めがけて大勢で歩いてくるのが見えた。
「モンスターの数、極めて大!哨戒機全機発進!駆逐艦1隻もこちらに急行せよ!大至急だ!」
スマホをポケットに入れ、再び銃を構える。今、村の中には哨戒機が一機、軍属は私とブルクハルト少尉、そしてマリアンヌ中尉だけだ。
たったこれだけで、400人もの住人を守備せねばなるまい。だが、手元にあるのは護身用の銃のみ。これではあの数のサイクロプスに到底対抗できない。
「エルンストさまー!」
ジャンヌがやってきた。銃声を聞きつけたのだろうが、その意味をすぐに察知したようだ。
「ジャンヌ!村人を中央広場に集めるんだ!」
「えっ!?あ、はい!」
「もうすぐ船が来る!それが来たら皆で乗り移るんだ!」
「はい!仰せのままに!」
ジャンヌは村の方に向かって叫びながら走っていった。
「みなさーん!サイクロプスが現れましたーっ!広場に集まってくださーい!」
その間にもサイクロプスの何体かが柵を乗り越え村に入り込もうとするので、それを一体づつ狙撃する。
ブルクハルト少尉も援護するが、多勢に無勢、きりがない。私は少尉に向かって叫ぶ。
「少尉!哨戒機の砲、あのサイクロプスの集団を撃てっ!」
「はっ!しかし、閣下は……」
「それまでなんとか食い止める!いいから、行け!」
「はっ!」
少尉は哨戒機の方に走っていく。マリアンヌ中尉が待機しているはずだから、少尉が哨戒機の砲を使い狙撃すれば、今よりはましな反撃できる。
が、それまでは私1人だ。まるで洗剤の泡の如く、ぼこぼこと森の向こうから湧いて出るように現われるサイクロプスの集団を、たった一丁の銃で応戦しなければならない。
所持するエネルギーパックは3個。すでに2個目も尽きようとしている。あと持って2、3発か。そう思っているうちに村に入り込んで着た3体を撃つ。2個目のエネルギーパックが尽きたので、最後の1個を手にとって銃にはめる。
その隙に、私をめがけて数体のサイクロプスが襲いかかってきた。私はとっさに携帯バリアのスイッチを押す。3、4体のサイクロプスがバリヤによって弾き飛ばされる。
さすがの彼らの大きな図体も剣も、我々のテクノロジーの前には無力である。
だが、彼らの数の前に、そんなテクノロジーを持つ私の方が無力だ。この防護兵器でしのいだものの、焼け石に水。相当多数をやっつけたはずだが、ひるむことなく奴らは次々に押し寄せる。
そこに、突如太い青白い光の帯が通り過ぎる。私の目の前で着弾し、火の手が上がる。そこにいたサイクロプスは一瞬にして消滅する。
マリアンヌ中尉の哨戒機だ。低空でホバリングしながら、サイクロプスの群れに発砲する。それを見た私は、広場の方に向かう。
「閣下ーっ!援護に参りましたーっ!」
直後に、援軍の哨戒機隊が到着する。マリアンヌ中尉機を合わせて、全部で20機の哨戒機が揃った。横一線に並んで、サイクロプスの群れに向かって発砲する。
哨戒機の砲は口径10センチ。私のこの携行銃の数十倍の威力がある。一撃で数体のサイクロプスを消滅するほどの威力、次々に倒れるサイクロプスたち。だが、哨戒機の攻撃にも関わらず、森の中から次々と現れる。
私は村の広場に向かって走る。このときすでに私の銃の残弾は2発程度。危なかった。
広場に着くと、すでに村人が集まっていた。私は叫ぶ。
「もうすぐ、我が軍の船が来ます!それに乗って、この村から避難いたします!」
「ふ、船って、こんなところに船なんか……」
リュシールがそう言いかけたとき、タイミングよくその船が現れた。
艦首に書かれている数字は「294-2-2944」と書かれていた。地球294の2番目の艦隊、つまり遠征艦隊所属の2944号艦という意味だ。我が小艦隊の一隻である。
それを見た私は、スマホの無線機能で駆逐艦2944号艦に呼びかける。
「エルンストだ!駆逐艦2944号艦は村人収容のため、直ちに広場に着陸せよ!」
「こちら2944号艦、了解、直ちに着陸いたします!」
村人たちは、この突然現れた巨大な駆逐艦を呆然とした様子で見上げていた。だが今は、驚いている暇はない。
「皆さん!一旦広場を開けて!」
私の言葉に呼応し、横に広がる村人達。その広場に向かって降りる駆逐艦。
ズシーンという音とともに地上に降り立った駆逐艦2944号艦。ハッチが開き、中から乗員が出てくる。
「皆さん、あそこから乗り込んでください!老人、子供を優先!大人達は後から乗って下さい!」
入り口に殺到する村人達。だが、400人がいっぺんに乗り込むことはできない。設計上は200人乗りのこの船。そこに400人ものせようというのだから、かなり無理がある。それでも今は、こいつに乗り込んで逃げるしかない。
入り口付近はさほど広くないため、エレベーターでどんどん上の階に送らなければならない。大人達は、脇にある非常階段から登ってもらう。こうして400人を大急ぎでなんとか収容した。
この間にもサイクロプス達の群れは押し寄せる。森の中にいるサイクロプスを狙撃することはできない。木々が邪魔で見えないのと、あまり森に向かって発砲するのは、大規模な森林火災を誘発しかねない。20機の哨戒機は、村の敷地に入ってきたサイクロプスのみをただひたすら各個撃破する。それが精一杯だ。
「村人の収容、完了しました!閣下もお乗り下さい!」
「分かった!」
そういって私が乗り込もうとしたときだ。
後ろから、一体のサイクロプスが走ってきた。
「閣下ーっ!」
士官の1人が叫ぶ。サイクロプスに気づいた私は、1発発砲する。
その1発は、そいつの右腕の付け根に当たる。吹き飛ぶ右腕。だが、腕一本失っても、こいつはまだ止まらない。私は、最後の弾を撃つ。
しかし、これは外れた。そいつの左手が、私を掴みにかかる。
あわやというところで、士官が発砲した銃の弾がそのサイクロプスの頭部に当たる。屍と化したサイクロプスは倒れる。サイクロプスの手を逃れた私は、駆逐艦へと滑り込む。
ハッチも閉まりきらないまま、駆逐艦は緊急発進する。離陸を見届けた20機の哨戒機は攻撃を中止し上昇する。私は高度を上げる駆逐艦のハッチの隙間から、地上を見た。
おびただしい数のサイクロプスが、村を全て覆い尽くしていた。哨戒機20機で数百を超える数のサイクロプスを倒したというのに、まだあれだけいたのか。手に持った剣で村の建物を破壊し尽くすサイクロプスらの姿に、私は戦慄を覚えた。
過去にもサイクロプスの群れに襲われたというが、あの集団に襲われてよく全滅を免れたものだ。その時は村人らは森に逃げ込み、サイクロプスの通り過ぎるのを息を殺して待ち続けたというが、その度に建物はことごとく破壊されたというから、再建するのに苦労したようだ。
さて、急に400人もの住人をどこかに受け入れなければならなくなった。が、オルバーニュ村にはまだその余地はない。高層アパートができるのは1週間後。その間、どうしようか……
悩んだ末に、私は軍司令部にある提案をして、了承される。
◇
サイクロプスから逃れて、数時間が経った。
「みなさーん!着きました!オルバーニュ村に新たな住まいができる1週間の間、ここで暮らすことになりまーす!」
食堂の周辺に集まった村人に呼びかけるジャンヌ。400人もいるので、食堂では収まらず、通路にまではみ出ている。
村人は皆、そこで即席メンとスープをもらっているところだ。それを食べながら、ジャンヌの声に耳を傾けていた。
「着いたって、ここはどこなんですか?」
「ええ、街ですよ。といっても、ちょっと変わった街ですけどね。」
村人の1人に尋ねられたジャンヌがこう応える。まあ、確かに今から街には行くが、厳密には街ではない。
ここは、戦艦ニュービスマルク。ここならば400人ほどをすぐに受け入れることは可能だろうと思い、司令部に受け入れを打診したところ、状況が状況だけにすぐに許可が下りた。1週間の間、村人にはここで暮らしてもらう。
駆逐艦を降りて、夜空のような光景しか見えない窓を眺めながら、よくわからない長い通路を通り、長いエレベーターを経由して、ガラス張りの場所に出る。
そこで、いきなり400メートル四方、高さ150メートルの4階層構造の街を目にする住人達。
王都どころではない。いきなりこの星の文化レベルをはるかに飛び越えた未知の技術の街を目の当たりにして、住人一同、言葉を失ってしまった。
「……なんですか、ここは……こ、これが街……?」
リュシールは、目の前にある密集した街に怯えている。それはそうだろう。人口400人しかいない森の中の村から、2万人もの人々を抱える街を眺めているのだ。これまで暮らしてきた世界とのあまりの落差に、頭が追いついていない様子だ。
「ではリュシールちゃん、街へ行きましょうか。あ、リュシールちゃんにはまずプリンを食べていただきますね。」
「えっ!?えっ!?」
「んだよ~!パフェはその次だなぁ。いきなり贅沢覚えたら、やってけんでよ~!」
「でもおらは、クレープ食べるでげすよ!今日は抹茶とやらに挑戦するんじゃ!行くべ行くべ!」
「あたいはケーキだよ!ケーキ!」
「あ、あなた方は一体、何を言ってるんですか~っ!」
ジャンヌと取り巻きの3人の居候達に引っ張られて、この展望台から街へと降りるエレベーターに連れて行かれるリュシール。400人が住む森の中しか知らないこの娘は、早速スイーツの洗礼を受けることになるようだ。
まるで洪水のように押し寄せた一つ目の巨人達のおかげで、宇宙に出ることになってしまったポントロワールの400人の残党達。いきなり文化レベルを大きく飛び越えた世界へと放り込まれ、サイクロプス以上の衝撃を受けているようだ。しかしどのみち1週間後には同様のショックを受けることになる予定だったわけだし、地上に降りるまでの間にここで我々の暮らしと文化と技術に、多少なりとも慣らされてもらうことになるだろう。




