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#20 変わりゆく軍港の村

 オルバーニュ村横の軍港建設は、着々と進んでいる。

 建設が始まってすでに3週間が経ったが、そこでは15階の司令部の建物に、50隻分のドックが稼働している。

 軍港の開設に伴い、王都ルモージュとオルバーニュ村を結ぶ無人の路線バスも運行されている。王都と村との人の行き来が増えて、ここオルバーニュ村も急速に発展しつつある。

 村の外れには、核融合炉発電機が設置された。これを機に村の電化が一気に進む。

 どの家にも照明がつけられ、一部の家庭ではテレビも入り始める。王都にできた最初にテレビ局から発せられるニュースや天気予報、バラエティー番組を観る家庭も現れた。

 つい数ヶ月前に魔女狩りをやっていた村とは思えない変わりようである。交易の宿場町としての機能もまだ健在ではあるが、これまでは交易の途上にある村であったが、今はむしろここが物資の消費地となりつつある。

 人口が千人程度の村の横に、最終的には500隻分のドックを備える軍港ができる予定だ。そしてついでに戦艦用ドックも作られることになっている。広大なスライムだらけの丘は、艦艇だらけの港へと変わりつつある。

 すでに50隻分のドックがあるので、5千人の乗員がこの村を行き来することになる。村をスルーして王都の横の街に向かうも者もいるが、宇宙の任務を終え、こののどかな村の飲食店を利用する者、お土産を買う者、中には次の任務までこの村や、近くのサン・ヌヴェールの街の宿に泊まる乗員も出てきた。

 それにしても、人口千人の村が5千人の軍人を抱えるわけだ。経済的には潤うが、それに伴って人手不足が深刻になる。

 で、人集めをしなくてはならない。その求人の窓口となっているのは、駆除人集めをしていたあの交易ギルドである。元々駆除人を募集していた場所だけに、求人にはちょうどいい場所。かつてスライム退治の駆除人を募集する張り紙が貼られていた掲示板には、飲食店や宿の求人の紙が目白押しである。

 地球(アース)294がらみの人々が相手の商売だけに、給料も悪くない。ここの通貨だけでなく、ユニバーサルドル建てでも給料を受け取ることができる。そんな好待遇の求人の話を聞きつけて、周囲から多くの人々が集まってくる。だが、今度は集まった人が住む場所がない。そこで、村の中に20階建ての高層アパートを建ててもらうことになった。

 今日はその高層アパートが、宇宙から届けられる日である。


 村の外れの村有地に、すでにその高層アパートの土台は出来ており、あとは建物の到着を待つだけとなっている。

 建物は宇宙から運ばれてくる。大抵の高層の建物は、地上で建てることはない。無重力空間で一気に組み立てられて、それを地上に降ろす。この方が、早く安くできる。

 その建物は、大型の民間船によって運ばれることになっている。これまでも、ドックや司令部の建物が同様に運び込まれたが、今度の建物はもっとも大きい上に、村の中にやってくる。村人たちがその光景を見ようと、今か今かと待っている。

 こういうイベントには、我が家の女子4人もついてくる。4人ともクレープを食べながら空を眺めている。それにしても、よく食うな、こいつらは。


 上空には、その民間船が現れた。ゴゴゴという音を立てて現れたのは、全長900メートルの建物運搬専用の船。中央に大きな穴が空いており、そこに運搬する建物を挟んで運び込み、地上に降ろす。

 土台の真上に到着し、停止した大型船。ゆっくりと高度を下げ、徐々に運んできた高層アパートを降ろしにかかる。ある程度の高度になると、今度はそのアパートが切り離される。そこから先は、高層アパートにつけられた反重力キャリアによって所定の位置まで降ろされる。

 ズシーンという音とともに、高層アパートは着地した。たくさんの村人が見物に来ていたが、あの巨大な建物の着地の光景があまりに壮観であったため、着地の瞬間には皆、歓声をあげていた。

 着地と同時に反重力キャリアは切り離され、母船に戻る。そのまま大型船は上昇し去って行った。後には高さ90メートル、幅300メートルの大きな建物が残った。

 全部で1600戸の3LDKの部屋を持つこの建物。言っておくが、この村の人口は1千人、それを上回る部屋数である。

 確認のため、私は建物の中に入る。同じ部屋が各フロアに80戸並ぶこのアパート。その部屋の一つに私は入った。


「わぁーっ!とっても綺麗なお部屋ですね!」


 ……ジャンヌまで入ってきた。今住んでいる屋敷に比べたら、随分と狭い部屋だ。だが、まだ家具も置かれていないこの新品の部屋を見て、ジャンヌはすこぶる興奮している。


「台所がとても綺麗ですね!こじんまりしているけど、棚があちこちにあって使いやすそう!」


 そういえば、屋敷の台所は元々あるものを改造して使っている。なにせこの王国の文化レベルの台所だ、大きな釜や鍋が置かれているが、それらはほとんど使わず、その横に置いてあるIHヒーターを使っている。ここは最初から釜などない。備え付けられているのは、今どきのシステムキッチンだ。


「うふふふ……」


 急にうちの嫁がにやけ出した。ジャンヌのやつ、こういう時は大抵、ろくでもないことを考えている。


「エルンスト様!この新しいお部屋にいると、なんだかドラマに出てくる新婚さんみたいですね。」


 いや、うちもまだぎりぎり新婚だろう。何を言っているのだ?


「エ・ル・ン・ス・ト・様!お帰りなさい!」

「えっ!?た……ただいま……」


 なんだ急に?私は思わず返事してしまう。


「ご飯になさいますか?それともお風呂?それとも……あ・た・し?」


 ああ、最近開局した王都テレビのB級ドラマでも見たな。私は応えた。


「ジャンヌ。」

「なあに、あ・な・た?」

「……居候の3人が、見ているぞ。」


 エルフとゴブリン、そして人族の娘が、玄関の扉の陰から、はらはらした様子でこちらを見ている。3人とも各種族換算で16~20歳相当の娘ばかり。こういうシチュエーションは、いささか刺激が強すぎるお年頃だろう。


「いやですねぇ、皆さん。いつも屋敷でやっていることではありませんか。」

「そうか?そういうことは、3人がいないところでしかしてない……いや、なんでもない。」


 緑色の肌のクララでさえ、頬が赤く見えるほど興奮している。ここでいらぬことを言うと、我が家での生活がやりづらくなってしまう。

 実にしょうもない三文芝居をやった後は、高層アパートを出て村の中心部に向かう。今日は軍務ではなく、私用で来ているため、村の広場の横にできたばかりの駐車場に私の車を停めてあるのだ。

 これに乗って王都に戻ろうと、4人を引き連れて歩いていた。


 村を見渡す。ここはあの「魔女狩り」の時に初めて訪れた場所。屋根が少し赤く、白い石造りの建物が並んでいる。この通り沿いにあるこれらの建物の多くは宿だ。

 ここを西に向かうと、港町がある。ルノーブルと呼ばれるその街は、宇宙港ではなく、従来型の海の港だ。そこから海を経由して交易が行われており、その港町ルノーブルと王都ルモージュを結ぶ陸路上にこのオルバーニュ村はある。

 王都を出て馬車でこの道沿いにルノーブルを目指すと、だいたいこの辺りで日が暮れる。ここはスライムこそ多いが、その他のモンスターも現れない場所であったため、宿場が集まりやがて村ができたそうだ。

 港町ルノーブルには、王国の南の地方や国からさまざまな物資が集まる。香辛料、金銀や宝石類、綿花に魚介類の干物などが市場に並び、反対に王都ルモージュからは絹や綿織物、鉄製品が輸出される。しかし、香辛料や貴金属類は略奪が横行しているため、それらの輸送は空中の民間船に移行しつつある。陸路を行くのは、それ以外の比較的安価なものだけになってしまった。

 それゆえに、我々の出現がこの村の経済に影響を与え始めていたのだが、あの一件のおかげで、軍港を作ることになった。この先は宿場の村というよりは、軍港に併設する村へと変わっていくことだろう。

 その影響で、我々がもたらしたものが徐々にこの村に入り込み始めている。ジャンヌ達がよく食べるクレープの店もそうだが、他にも我々軍人目当てに、パスタやハンバーグのチェーン店が進出してきた。宿屋の1階にそれらの店が入り込んできており、中世の建物と宇宙からの文化が混在し始めている。


 こうして軍港の街へと変貌を遂げつつあるオルバーニュ村だが、静かな村だ。が、突然、その静かな村に地響きのような音がする。


 ズシーン……ズシーン……


 うーん、この地響き。どこかで聞き覚えがあるぞ。まさかとは思うが、あれがやってきたのか?

 私は正面を見ると、その予感は大当たりだった。体長3メートルほど、緑色の肌をした巨人、オーガだ。

 ただこのオーガ、我々と同じ素材の服を着ており、しかも左腕には赤い腕輪がついている。

 この腕輪は、あのエネルギー砲用の鉱物が取れるオーガの山に住んでいるオーガであることを知らせる目印だ。他の野蛮なオーガと区別をするためにつけてもらっている。

 ということはこのオーガ、あの山から来たのだ。そういえばあのオーガの山は、ここからわりと近い。だが一体、どうしてわざわざこんなところまで来たのだろうか?


「あれ?セレナちゃんじゃないの。どうしたの?」


 ジャンヌがオーガに話しかける。えっ?セレナって、あの最初に出会ったオーガの娘のことか?私にはまるで区別がつかない。


「これ、忘れ物、届けに来た。」


 そういってセレナが渡してくれたのは、カバンだった。あの採掘場に出入りしている人の持ち物のようだ。私はそのオーガの娘からカバンを受け取る。


「ああ、ありがとう。」


 なんだろうか、ほとんど表情の読めないごつい顔面だが、心なしかすこし笑ったように感じた。


「ねえ、セレナちゃん!せっかく来たんだし、何か食べていかない?」

「うん、なにか、食べる。」

「じゃあ、せっかくだし、クレープ食べようか!?」


 ええっ?オーガと一緒にクレープを食べるのか?おい、大丈夫か。だいたい、オーガにぴったりのクレープなんてあるのだろうか。

 いや、よく見たらあった。特大サイズのビッグクレープ。通常の3倍の大きさのクレープ皮に、大量のクリームやフルーツを注ぎ込んで作られる。どうやらこのクレープは、カップルや大食漢向けのクレープらしいが、たまたまオーガにぴったりなサイズのクレープだ。

 周りはこちらをジロジロとこちらを見る。そりゃあそうだろう。オーガと一緒に仲良く歩き、クレープを買っているのだ。注目されないはずがない。

 かつて食人鬼と恐れられたオーガだが、今私の横で食べているのは人の肉ではなく、ごく普通のチョコレート・キウイ・クレープだ。甘苦酸っぱいこのクレープを、がぶりと食べるセレナ。


「どう?美味しいでしょう!」

「……美味い……」


 このセレナ、ついにプリン以外のスイーツの味を覚えてしまった。人を襲わないのはいいことだが、これはこれでいいのだろうか?


「ねえ、セレナちゃん。あの山では相変わらずプリンをもらってるの?」

「いや、プリン以外、チョコ、シュークリーム、クッキー、もらった。だが、クレープは初めて。」

「そうなの?じゃあ、あの山でもクレープを出してもらうよう頼んでみましょうか!」


 いいのかな、そんな約束して。でもまあ、クレープの方が果物も豊富で、ただの甘いだけのお菓子よりは栄養のバランスはいい。普及させるのも悪くはないな。


 2人分の椅子に座り、初めて食べるクレープを堪能する食人鬼オーガの娘。スイーツを楽しむ他のお客は、この異様な怪物と2人の人族の娘、2人の亜人の娘らが和気藹々とクレープを食べる姿を、呆然と眺めている。


「セレナちゃーん!また遊びにおいでよ!」


 無責任にもジャンヌはセレナに向かってこんなことを言う。


「おい、ジャンヌ。今日はたまたま我々がいたからいいが、どうするんだ、いない時に彼女が現れたら。」

「大丈夫ですよ。私がいることをメールで知らせるから。」

「えっ!?メール?」


 ジャンヌはセレナに何か話しかける。するとセレナは胸ポケットから、何かを取り出した。

 我々からすればタブレットサイズのそれは、オーガ用のスマホだった。セレナは器用にもそのスマホを指で操作しながら、ジャンヌと話していた。おい、いつの間にオーガがスマホを使えるようになったのだ?

 恐ろしいほどの適用力だな、オーガ。クレープを食べ、スマホを使えるようになるとは、もはやほとんど人族の女子と変わらない。


 ズシーンと音を響かせて、オーガの山に帰って行くセレナ。まさかこんなところで彼女に再開することになるとは思わなかった。そんな彼女に手を振る人族の女子2人に、エルフとゴブリン。不思議な光景だが、もしかしたら数年後にはこんな光景が普通になるのだろうか?この星の未来への期待と不安の入り混じる、オルバーニュ村での出来事であった。

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