#19 オルバーニュ軍港と魔物の洞窟
「8号機より司令部、所定の場所に到着!送れ!」
「司令部より8号機、指示あるまで待機せよ!送れ!」
「8号機より司令部、了解!待機する!」
私はオルバーニュ村のそばの、あの丘の近くに来ている。上空には哨戒機が20機、等間隔に並んで待機している。
軍港の建設準備が整ったため、これからあのスライムの巣窟に一斉砲撃を加え、スライムと草地を一掃するところだ。
私のすぐ後ろにはジャンヌとマリー、クララ、リザがいる。オルバーニュ村で開店したばかりのクレープ屋で買ったクレープを頬張りながら、丘の上にいるスライムが壊滅するところを見物している。
「あの白い四角いやつが、一斉に青い光を放つんだよ。するとね、丘の上が炎に包まれて、スライムたちが丸焦げになるの!」
「うわぁ~!えげつねえだなぁ!んだどもスライムって、焦げるんかぇ?」
「あたいは一度だけ燃やしたことあるぜ、スライム。焦げるっていうより、蒸発するって感じだったな。」
「うわぁ……それは臭そうでげすねぇ。」
クレープ食べながらえげつない会話をしている我が家の女子ども。ビーム砲を食らったスライムがどうなるかの答えは、もうすぐ目の前に現れる。私は砲撃準備が完了するのを待つ。
「閣下!総員、配置につきました!攻撃命令をお願いいたします!」
「よし、では始めるか。全機、砲撃戦用意!」
「上空の哨戒機、砲撃戦用意!」
私は、右手を少し上げる。そして、振り下ろしながら叫んだ。
「撃てっ!」
合図と同時に、上空にいる20機の哨戒機から一斉に砲が火を噴く。駆逐艦の手法に比べたら小さな砲ながらも、かなりの破壊力ある砲だ。けたたましい砲撃音が一帯に鳴り響く。
丘の上は青白い光で覆われ、轟音を立てながら眩く光っている。直後に、爆風が我々の方まで押し寄せてくる。
ばたつくテント、舞い上がる砂埃。その砂塵は、立っている私と後ろでクレープを食べていた4人の女子どもに容赦なく押し寄せる。
「うわぁ!」
「きゃあ!」
後ろから女子どもの悲鳴が聞こえる。が、私は構わず無線のマイクを握る。
「砲撃終了。上空の哨戒機はしばらく待機。地上部隊は、丘の状況を確認せよ!送れ!」
「了解、地上部隊、これより前進します!」
スライムからの攻撃に備えて、白い防護服に身を固めた隊員が数十名と、ショベルカー3台、2足歩行型重機2台が前進する。
生き残ったスライムがいれば地上部隊が直接掃討し、あまりに生き残りが多い場合は、再び哨戒機が砲撃を加えることになっている。
が、最初の一撃が強烈すぎたようで、生き残りのスライムはとうとう見つからなかった。草地は消滅し、丸焦げの大地が続くだけの丘と化した。
「うわぁーん、わだすのクレープ、吹き飛んじゃったべさ!」
「おらのは土まみれだべ……もう食えねえだな、勿体無いでげすよ。」
「はあ、よかった。あたいはちょうど食べ終えたところだったぜ……」
目の前で無数のスライムが昇天したというのに、こちらは呑気なものだ。土まみれになった4人の女子は、私の後ろで失われたクレープを嘆いている。
「も~っ!エルンスト様!なんてことですか、これは!」
「だから最初に言っただろう、本当についてくるのかと。村でのんびりクレープでも食べながら、待っていればよかったのに。」
「いや、でもあれだけたくさんいるスライムが一斉に吹き飛ぶところ、私だってみたいじゃないですかぁ!でもまさかこんなに汚れてしまうとは……」
「もういい。ジャンヌ、村へ戻って駆逐艦に行き、そこの浴場を使わせてもらえ。そこでしばらく待ってるんだ。」
「ふぁ~い、エルンスト様……」
土まみれになり、まるでゾンビのようにふらふらと村へと歩き出す4人。まったく、危ないからやめておけと言ったのに、好奇心が抑えられなかったらしい。
思ったより早く片付いた丘の上、その日のうちに整地まで終えてしまうようで、明日はもうコンクリート漬けにするらしい。来週には、司令部の建物と数十隻分のドックが設置される予定だ。
私も砂まみれだ。借りた迷彩服も泥だらけ。ジャンヌ達同様、私も駆逐艦へと向かい、風呂場で綺麗にすることになった。
風呂から上がって軍服を着て、そのまままっすぐ艦橋へと上がって丘の方を見る。すでに哨戒機は帰投し、丘の上は重機が作業を始めていた。
もうこの先、麓にスライムが現れることはほとんどないだろう。あのスライムの巣窟だった丘は、近々軍港として生まれ変わる。我が小隊のベース基地が、そして1千隻を束ねる司令部が、この村の横の丘の上で活動することになる。
こうして、軍港の建設は順調にスタートした。あと3日ほどここに滞在し、経過を見届けたら王都に一旦帰投する。
日も暮れて、私とジャンヌと居候の3人で夕食を食べる。
「なんだこれ、思ったより美味えぞ!これがハンバーグっていうのか!?」
「んだよ~!わだすも大好きだよ~!特にデミグラっちゅうのがたまらんでなぁ~!」
「ペペロンチーノってえのは、ちょっと辛いずらなぁ。」
まったく、黙って食べられないのか、この3人は。一方のジャンヌはおとなしく食べてはいるが、相変わらず量が多い。
「相変わらず賑やかですね、閣下の周りは。」
そこにマリアンヌ中尉が現れた。ジャンヌがマリアンヌ中尉に話しかける。
「久しぶり~!元気してました!?」
「はい、おかげさまで。女武官としてさらに磨きをかけるべく、日々努力しております!」
マリアンヌ中尉は応える。磨きをかけるのはいいのだが、「武官」というキーワードがつくとなんだか女子らしくない、無骨なイメージに聞こえてしまう。なぜいちいち武闘派をアピールするのか、この中尉は。
「ところで閣下、ちょっと不穏な話を耳にしたのですが。」
「なんだ、不穏な話とは?」
「はっ!この軍港予定地近くに、小さな洞窟があるのですが。」
「ああ、それは私も聞いている。」
「今朝そこに調査隊を送り込んだそうですけど、その調査隊との連絡が途絶えたそうなのです。」
「なんだって!?どういうことだ!」
「はっ!昼過ぎごろに救援信号が送られてすぐに途絶え、それっきりだそうです。モンスターとの接触が考えられるということで、直ちに陸戦部隊の派遣を検討しているとのこと。」
「そうか……だが、そういうことは、その手のモンスターに詳しい人物の助言があった方がいいのではないか?」
「おっしゃる通りですが、ここにそのような人物は……」
マリアンヌ中尉は言いかけて、目を横に向ける。私もマリアンヌ中尉と同じ方を向いていた。
「ここにいるぞ、一応、専門家がな。」
「そうですね。いますね。」
「へ?なになに!?」
さっさと食事を済ませて、私とジャンヌは陸戦部隊の集結しているテントへと向かった。
「私はこの隊の隊長を務める、コニー大尉であります!」
「ご苦労!大尉、話は聞いた。この先にある洞窟で、調査隊が消息を絶ったそうだな。」
「はっ!我々からの呼びかけにも応じません。おそらく今ごろは……」
大尉の話を聞けば、調査隊は通常の装備のまま向かったそうだ。つまり、モンスターに対する武装は全くしていなかったらしい。丸腰では、コボルト程度が相手でもかなわないだろう。
だが、洞窟という場所は、一体どんなモンスターがいるのだろうか?日の当たらない場所だけに、さほど強力なモンスターはいないのではないか?だが一方、世間の常識として、洞窟には強いモンスターが潜んでいるとも言われる。この星では、どうなのだろうか?
「とんでもない!とてつもなく危ないですよ、洞窟は!」
有り難い専門家のご意見だ。モンスター退治専門の騎士団を率いる女団長の言葉からは、我々の認識があまりに甘すぎたことを知らされることになる。
「洞窟は強烈なモンスターだらけなんです!暗い場所だけに、特にアンデッドが多いんですよ!」
「アンデッド?なんだそれは?」
「死して魂が現世に残り、生ける者を惑わしてその魂を奪う者、それがアンデッドです。エルンスト様も出会われたゴーストも、アンデッドの一種ですよ。」
「ゴーストか……うーん、あれは本当にやばかった。しかし、あんなものがうようよしてるのか、洞窟というのは。」
「ゴーストだけではないですよ。グールと呼ばれる化け物や、やや凶暴化したスライム。そうそう、アンデッドではないですが、巨大な目ん玉も出るんです!」
「目ん玉?なんだそれ?」
「ええと、なんて言いましたかね……あ!ゲイザー!そう呼ばれてます、その目ん玉!」
「ゲイザー?どういうモンスターなんだ。」
「だから、目ん玉ですよ!触手のついたとびっきり大きな目ん玉が、ぷかぷかと飛んでくるらしいんですよ!」
「気持ち悪いやつだな……だが、単なる大きいだけの目玉なら気持ち悪いだけで、どうってことはないだろう。」
「そうなんですけどね。でも、そいつが結構やばいって聞いたことがあるんです。何をやらかすか分からないんですが、とにかく見たら逃げるしかないって。そう言われてますね。」
「そうか……分かった。」
さて、この専門家の意見を元に、突入部隊を編成する。
まずは黒水晶だ。ゴースト対策として身につける必要がある。私もあの時以来、こういう場所に行く際は忘れずに身につけている。他の隊員用に、村でありったけの黒水晶を調達する。
武装も、携帯バリアや銃に加えて、発光弾を持つ。暗闇に住むモンスターというのは、光に弱いものが多いらしい。いざという時には、この光も武器になるだろう。
狭い洞窟だ。先行部隊は5人、その後方にさらに5人を配置する。入り口付近にも配置して、通路を確保しておく。
私は先行隊に加わることにした。一度、ゴーストとやりあったことがあるし、その時の経験が役に立つかもしれない。
洞窟に到着する。入り口付近には、数人の隊員が待機する。中には10人の隊員と、私が突入する。
ライトが洞窟内を照らす。高さは2メートルほどのこの狭い洞窟、湿気が多く、いかにも何か出てきそうな気配がぷんぷんする。
だが、入り口からしばらく進んでも、何も出てこない。考えてみれば、調査隊も何かと遭遇していたらすぐに引き返しただろう。奥まで進んだところで、彼らは何かに遭遇した、入り口までたどり着けず、全員やられてしまったのではないか。そう考えるのが妥当だ。
少し広い場所に出た。高さは5メートルほどだろうか、ガランとした場所。モンスターらしきものは見当たらないが、何故だかここから先が危険地帯のように感じる。
ここに5人の隊員を待機させて、5人と私の6人で、さらに奥へと進んだ。
「た、隊長!あれを!」
先行していた隊員が、何かを見つける。コニー大尉が駆け寄る。私もその隊員のところへと向かう。
そこにいたのは、調査隊の1人だ。すでに亡くなっている。
「うーん、見たところ外傷はないな……刺されたわけでも、首を閉められたわけでもなさそうだし、一体、どうやって殺されたのだ?」
私はこの手の遺体に見覚えがある。あの敵の偵察艦と同じ遺体。苦痛に満ちた顔のまま、外傷もなく死んでいる。つまり、あの敵の偵察艦で遭遇したのと同じ相手が、すぐ近くにいることを示している。
「ここから先、銃もバリアも効かない相手が出てくるかもしれない。全員、黒水晶を確認せよ。」
「はっ!」
私もお守りとしてつけている黒水晶の矢じりを握りしめる。首には、ジャンヌに借りた黒水晶ネックレスをつけている。これならば、あの相手は私を倒すことはできない。
消息を絶った調査隊は5人。あと4人を確認しなくてはならない。おそらくさっきの1人はここまで逃げ延びて追いつかれたのであろう。つまりここから奥が、凶悪なモンスター達の巣窟だ。
「熱源探知!正面から、何かが来ます!」
赤外線スコープをつけた隊員が叫ぶ。早速、おいでなすったようだ。
が、現れたのはゴーストではなかった。アンデッドの一種、グールだった。
「くらえっ!」
先行する隊員が銃を撃つ。やつの左胸に当たり、左腕もろとも吹き飛ばした。そのグールは、その場で倒れる。
が、片腕と胸の半分を吹き飛ばされているにもかかわらず、そのグールは再び立ち上がり、我々の方に向かってくる。
5人の隊員は、驚愕する。およそ生物ではあり得ないことだ。心臓のある場所が吹き飛ばされているというのに、こいつはまだ動く。不死身か!?
「アンデッドというのは、どこかに核のようなものを持ってるらしい!そいつを撃ち抜けば倒せる!」
突入間際に、ジャンヌがそう言っていた。私は隊員に向かってそのことを叫ぶ。それを聞いたその隊員は、グールに向けてさらに発砲する。頭部が吹っ飛んでもまだ動いたそのグール、3発ほど当てたところでようやく倒れた。どうやらそのグールは、腹のあたりに核があったようだ。
1匹倒したが、隊員らはかなり怖気付いている。どうやら、あまりモンスター慣れしていないようだ。私もアンデッドを相手にするのはあのゴースト以来だが、ジャンヌの騎士団のモンスター退治に付き合っていたおかげか、これくらいの相手にいちいち驚くことはない。
「慎重に前進する。まだ雑魚が1匹出てきただけだ。もっと強力なやつがいるはずだ。心して進め!」
「りょ……了解!」
私を囲むようにして進む、コニー大尉率いる隊員達。その行く手で、さらにもう1人の遺体が発見される。
これも外傷なしだった。ということは、さっきのグールの仕業ではない。そろそろ、やつが出てくるはずだ。
その時、奥の方からヒューンという、ガラスの管が共鳴したような不気味な音が鳴り響く。そして、ゆらゆらと揺れる白いものが目に飛び込んできた。
ついに現れた。ゴーストだ。
白い霧のような、やや人の形にも似たその身体。その不気味で白いモンスターが、こっちに向かってゆっくりと近づいてくる。
「う、うわぁーっ!」
初めてゴーストを見た隊員たちはたまらず逃げる。こいつは銃もバリアも効かない相手。触れられたら最後、魂を食われてしまう。黒水晶というお守りがあれば大丈夫なのだが、そうは思っていても初めてその姿を見れば逃げたくもなる。だが、私だけはその場に踏み止まる。コニー大尉が叫ぶ。
「か、閣下ーっ!お逃げください!」
だが、私は大尉の言葉を無視して前進し、ゴーストに歩み寄る。手には、黒水晶の矢じりを握りしめて。
こいつに会ったら、ぜひ試したいことがあった。それは、ゴーストを倒せるかどうか?というものだ。せっかく再開できたのだ、それを今から試すことにする。
ゴーストは私に覆い被さろうと、その白い身体を広げて私の方に向かってくる。それを、黒水晶の矢じりを握った右手で殴りかかる。
ヒューンという不気味な音を立てながら、そいつは後ろに吹き飛ばされる。
ゴーストに殴りかかる私の姿を、後ろから唖然とした表情で見つめる隊員達。私は彼らに構わず、ゴーストに立ち向かう。
そして黒水晶の矢じりを使って、私はゴーストを滅多刺しにする。私の腕はすり抜けてしまう相手だが、黒水晶にだけは反応する。だから、その黒水晶でゴーストを叩きのめす。
ジャンヌは、アンデッドを倒すには、どこかにある核のようなものを破壊すればいいと言っていた。さっきのグールはそうだった。そして、こいつもアンデッドの一種だ。ならば、どこかに核にあたる部分があるはずだ。私はそう考えた。
ゴーストの身体のあちこちを刺し続けると、やや硬い感触が伝わってきた。その直後、ゴーストはみるみるしぼみ始め、そして消えた。
思った通りだ。やはりこいつにも核があった。それを黒水晶で叩けば、破壊できる。
「全員に告ぐ!ゴーストが現れたら、利き手で黒水晶を握り、そいつを叩きのめせ!どこかにある核を破壊すれば、こいつはあっけなく倒せる!」
「は、はい!閣下!」
私は隊員達に檄を飛ばす。対処法が分かれば、ゴーストなど敵ではない。連盟の偵察艦乗員をほぼ全滅させた化け物を、ついに倒す術を見つけ出したのだ。
その後、断続的に数体のゴーストが現れるが、隊員達が次々に倒す。その間に調査隊の遺体も見つかる。さらに進むと、ついに最後の調査隊員を発見した。
「……あれ?隊長、おかしいですよ、この遺体。」
「なんだ、どうした!?」
「他のと違って、この遺体だけ首を絞められた痕がありますね。」
「どういうことだ?グールにでも出会ったか?」
その調査員の遺体を確認していた隊員が、隊長に状況報告している。最後の一人は、他の者とは様子が違うようだ。コニー大尉もその遺体を確認している。
確かに変だ。物理的な外傷が認められた遺体は、これが初めてである。つまり、ゴーストの仕業ではない。グールだろうか?
だが、首の周りや腕、体などが締め付けられたような痕が認められるという。先ほどグールに出会ったが、あれはどちらかといえば殴りかかるタイプのモンスター。身体を何箇所も締め付けるようなことをするのだろうか?
ともかく、遺体を回収する必要がある。中間地点で待機している隊員に連絡して、途中で見つけた調査員の遺体を回収してもらうことにした。大尉が連絡しようとした、その時だ。
奥の方から、ブーンという音を立てて、何かが接近してくる。
なんだ、まだ何かいるのか?ゴーストか、グールか。隊員の一人が音の方へ向かう。
私も彼について行った。そして、その音の主を見た。
そこにいたのは、目玉だ。巨大な目玉。直径は70~80センチはあるだろうか。そして、その周辺にはたくさんの触手。見るからに奇妙なその化け物が、空中に浮かんで向かってくる。
その目玉の化け物は、先行した隊員を見つめている。徐々にその隊員に向かって近く化け物。
ああ、こいつがジャンヌの言っていたゲイザーというやつか。さっきの首を絞められた遺体は、こいつの仕業に違いない。
だが、動きはさほど早くない。人が歩く速度で接近してくる。逃げようと思えば逃げられるというのに、なぜさっきの調査員は殺されてしまったのか?
隊員に接近するゲイザー。だが、隊員は逃げない。硬直したように、立ち尽くしてしまった。私は叫ぶ。
「おい!どうした!?」
反応がない。小刻みに震えてはいるが、まるで石にされてしまったかのように、その場で固まって動かない。
もしかして、あの目玉を見ると、何か暗示のようなものがかかるのではないか?そういえば、目を見ると石にされてしまう化け物の逸話がどこの星にもある。こいつはその類なのではないか。ゲイザーの触手がその隊員の身体にまとわりつき始めたというのに、全く彼は動かない。
やばい。助けなければ。だが、奴の目を見ると私もやられてしまう。かと言って目を閉じて接近するのは危険すぎる。どうしたものか?
私は考えた。あの目玉を直視すると、この隊員のように固まってしまう。ということは、もしかして直接あの目玉を見なければ、大丈夫ではないか?
私は、ポケットからスマホを取り出した。そして、カメラアプリを立ち上げる。
そのスマホを、ゲイザーへ向ける。
カメラで映ったゲイザーの映像を見ながら、私は前進する。接近する私に気づいたゲイザーは、私を睨みつけてきた。
だが、私は動ける。やつの暗示にかからない。思った通り、カメラ越しならゲイザーはその眼力を発揮できないようだ。
私は思い切り足でその目玉を蹴飛ばす。ギャーッという悲鳴をあげながら、地面をのたうちまわるゲイザー。その隙に、私は隊員を抱え込む。
幸い、その隊員は息はしているようだ。身体が硬直しているだけらしい。隊員を抱えて、私は他の4人の元に走った。
それにしても、さっきから私は全然いまどきの武器を使用していない。殴る蹴る、それだけだ。
「彼がやられそうになった!奥に厄介な化け物がいる!私は、そいつを退治してくるから、ここで待機せよ!」
「えっ!?あ、閣下!」
私は再びゲイザーの元に向かう。スマホのカメラ画像を頼りに接近する。
のたうちまわっていたゲイザーだが、治ってきたのか、再び空中に浮き始める。こいつ、実体のある生物のくせに浮かんでいる。ということは、重力子を操ることができる生き物のようだ。
そういう生物は、この宇宙には存在する。重力子を操って空を飛ぶことができる魔女がいる星もあると聞いたことがある。この星では、モンスターにその能力が備わっているようだ。
私は銃を構える。いくらゲイザーでも、こいつを1発でも食らえばおしまいだ。私の右手の指が、まさに引き金を引こうとしていた。
が、そこで私は少し考えた。こいつ、こんなに大きな目玉を持っている。ということは、もしかして……
ちょっと実験したくなったので、私は銃を下ろす。そして、腰に手をやり、あるものを取り出した。
「全員、発光弾に備え!」
取り出したのは発光弾。そいつを復活してこちらに向かってくるゲイザーの前にめがけて投げつけた。
着弾と同時に、猛烈な光を放つ。私は岩陰に隠れる。あの目玉の化け物の悲鳴のようなものが聞こえていたが、やがて静まり返る。光も消えてしまった。
「閣下!大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫だ。それよりもさっきのゲイザーとかいう化け物を確認する。」
「はっ!」
私はゲイザーのいたところへ向かう。念のため、スマホのカメラ画像を見ながら前進を続ける。
だが、そこにいたのは地面に転げ落ちたゲイザーの姿だった。その巨大な目からは、もはや生気を感じない。あの巨大な目に、あれだけの閃光だ。網膜まで焼けてしまったに違いない。
既に死んでいるようだが、念のため私はそのゲイザーにとどめを刺す。銃を3発ほど、やつの身体に放った。
これが、この洞窟で出くわした最後のモンスターだった。
ゲイザーに睨まれた隊員は、3分ほどすると元に戻った。なにか催眠術のようなもので、身体が硬直させられただけのようで、その後特に変調をきたすことはなかった。
我々は5人の調査員の遺体を回収し、この洞窟を出た。
調査員の全滅は、痛ましい出来事だった。だがその代わりに、我々は闇のモンスターへの対処法を見いだすことができた。
今後、この星で活動する上で、この経験は大いに生かされるであろう。私は先ほどまで奮闘していたあの洞窟の方を見ながら、そう考えていた。




