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#17 駆除人

 あのオルバーニュ村のことだが、結論から言うと、第9小隊のベース基地が作られることになり、そして私の領地になった。


 このまま交易の宿場町に依存すれば、いずれこの村が立ち行かなくなるのは目に見えている。ならば別の役割を与えようということになり、ブリエンヌ男爵と話し合った末、ここを軍港とすることになった。

 王都ルモージュにある宇宙港は、民間船の往来が増えて、徐々に手狭になりつつある。そこに我々の艦艇が常駐するのは明らかに邪魔になりつつあった。

 このオルバーニュ村なら王都からも近いし、交易の宿場町というだけあって、周辺の街に接続する道も整備されている。それにすぐ横に農地には使いづらい小高い丘もあるとのことで、軍港を作るのに最適な場所だ。


「そうだ、せっかくだから、婿殿にあの村をくれてやろう!」

「は?」

「お主、男爵だというのに領地がないであろう?大事な娘の婿殿でもあるし、あの村を譲るとしようぞ!」


 娘によく似て、このブリエンヌ男爵というお方も、突拍子もないことをポンと決めてしまうところがある。その男爵の決断により、オルバーニュ村とその周辺は私の領地ということになった。


「これはこれはエーベルシュタイン男爵様。これよりこの領事であるクロードは、あなた様に末永くお仕えいたします。今後もどうか、よしなに……」


 で、今、私は自分の領地となったオルバーニュ村に来ている。この村の今後のことを知らせるために訪れたのだが、そこで私は、一度刃を向けられたことのあるこの男の挨拶を聞いているところだ。

 だがしかし、あの一件は無事おさまった。その後、魔女騒ぎは起こってはいない。しかも、村人が魔女をでっち上げるほどに恐れ嫌った灰色の空飛ぶ艦艇が、今度はこの村を支える収入源に変わろうとしている。軍港となれば、それに関わる多くの人々がここを訪れるし、王都宇宙港にある暫定司令部もここに移るとなれば、さらに人と物資が集まる。必然的に、経済は活性化する。


 ところで、私がここにきた目的はもう一つある。それは、軍港を作る予定地を視察することだ。私はジャンヌ、そして跳馬(ギャルソンヌ)騎士団15人を連れてその予定地に向かう。

 あそこはモンスターが出ると聞いたから、護衛のために連れてきたのだが、なにせこれだけの人数だ。しかも、軍港予定地の視察。そういうわけで、遠慮なく艦を使わせてもらった。この村に縁のある駆逐艦2693号艦に乗せてもらい、村の中心にある広場で待機してもらっている。


「ここは木がねえんだな。草しか生えないんか?」

「そういうとこ、よくあるべぇな。おらの住んでた村ん近く、そういうとこあるずらよ。」


 ……おい、なんでエルフとゴブリンまでついてきた?駆逐艦で留守番してりゃいいのに。ジャンヌの行くところ、この2人の亜人はついて回る。

 ここは草地だが、スライムが多いという。ここに生えている草がスライムの好物らしく、それでスライムがたくさんいるそうだ。

 なるほど、確かに多い。見渡すとどこもスライムだらけだ。草地なら耕せば農地になりそうなものなのに、なぜ使われていないのかと思ったら、そういうことなのか。


「スライムを草ごと焼き払ったら、肥料にもなるし、そのまま畑にできそうなものだがな……」

「ダメですよ、スライムなんか畑に入れちゃ!かえって作物が育たなくなるんですよ!」


 そうなのか?スライムって、肥料にはならないのか?

 でも考えてみれば、スライムは強アルカリの液体を吐くモンスター。あれをそのまま埋めてしまえば、毒性の高い土壌になる。なるほど、厄介だな。

 しかし、ここは畑を作るわけじゃない。軍港として使うなら、スライムごと丘の上を哨戒機のビーム砲で焼き払って、その上からコンクリートを被せてしまえば問題ないだろう。


 そんなことを考えながら、さらに奥に進む。この小高い丘陵地は、まさにスライムの巣窟だった。10人の槍を持った騎士が、辺りにいるスライムを突き倒して進まなくてはならない。

 スライムさえいなければ、ここは軍港にはちょうどいい場所だ。王都からも近いし、この広大な丘陵地なら300隻は常駐できる。あのもっとも高い場所には、司令部を建てようか。

 写真も何枚か撮影し、私は視察を終えた。帰路につき、村へと向かう途中の道で、2匹のスライムと遭遇する。

 この近辺にあれだけのスライムの巣窟があるんだ。道端に出てくるやつがいて当然だろう。その代わり、ここはコボルトがほとんどいない。やつらの餌となる小動物を、あの大量のスライムが駆逐してしまうからのようだ。

 スライムには恨みはないが、放置すれば、ここを通る馬車の妨げになる。駆除しておくに限るだろう。

 槍を持った騎士に頼んで、そのスライムを突いてもらおうと思った、その時だ。


「うりゃ!」


 どこからともなく、頭からマントを被り槍のようなものを持った人物が現れた。その槍で、スライムの1匹を突き倒す。あっという間に、スライムはしぼんでしまう。

 すかさず、もう1匹にも一撃を加える。鋭い刃物の前には、スライムは弱い。たちまち2匹にスライムは、青い液体に変わり果てる。


「やったー!まとめて2匹も取れたわ!さて、これを袋に詰めてと。」


 その人物は、持っていた麻袋にスライムの死骸を入れる。手で触ると皮膚がただれてしまうため、武器である槍先を使い、器用にそのスライムの残骸をすくい上げて袋に入れている。


「……何をしているんだ?」


 私はその人物に尋ねる。その人物は応えた。


「はぁ!?見りゃ分かるだろ!」


 分からないから聞いているのだが。スライムを倒すのは分かるが、その死骸なんか集めてどうするつもりだ?


「おい、スライムの死骸なんか袋に入れてどうするんだ!?」

「はあ?ギルドで買ってもらうんだよ!決まってるだろう!?」

「ギルド?なんだそれは。」

「ええっ!?あんたもしかして、ギルドを知らないのか?」


 ギルド。特定の商業者が集まって作る団体。その地域での物品の流通、売買を独占し、他者の参入を阻む存在。ギルドというものを、私はそう認識している。

 そのギルドが、なぜスライムなんかを買い取るのか?ますます分からない。だが、それを聞いていたジャンヌは、こう言い出す。


「ああ、このお方、いわゆる駆除人ですよ。」

「駆除人?なんだそれは。」

「馬車が往来する路上にいるモンスターを駆除する人のことです。交易商ギルドが、馬車の通行の妨げになるモンスターの駆除に報奨金をかけているんですよ。倒したモンスターの種類と数に応じて、報奨金が支払われるんです。で、そのお金を稼ぐ人のことを、この辺りでは駆除人と呼んでるんですよ。」

「なるほど、それでスライムの死骸を持っていって、それを元にギルドから報奨金をもらうんだな。」

「それだけじゃないよ。このスライムは土産作りの材料にもなるんだ。だからこうやって一生懸命集めてるんだよ。」


 ああ、そういえばこの間、スライムを使ったブローチなんてものを買ったな。あの材料は、駆除人が集めているんだ。


「だが、スライムというのは、最も安いモンスターじゃないのか?どこにでもいるし、大して強くない。コボルトやオークの方が、もしかして高額になるんじゃないか?」

「そうだよ。だけどあたいみたいな者には、コボルトは倒せねえ。だからあたいは、このスライムしか出ないこの辺で稼いでるんだ。しかもこの辺りは稼ぎが悪いって他の駆除人があまりいねえから、あたいにとっては穴場なんだよ。」


 さっきから気になっていたが、よく見るとこの人物、女だ。マントを被ってるからよく分からなかったが、声がそもそも男らしくはないし、スライムを集め終えてマントからちらっと顔を出したので女だと分かった。

 しかし、なんだってそんなマントなんか被ってるんだ?不思議に思ったが、聞けば、スライム相手にするなら必要な装備だと言う。スライムは強アルカリ性の毒液を出すから、あれを被っていれば身体に直接毒液がかかるのを防ぐことができる。


「なんだ?女が駆除人なんかやってるのか!?」

「なんだよ!仕方ないだろ!親に死なれちゃって、他に食い扶持がないんだよ!好きでやってるんじゃねえ!」


 副団長のヤコブ殿に食ってかかるその女駆除人。確かに、小柄で華奢な体つきのその人物、あまりモンスター退治をやるような風貌ではない。


「で、あんたらは一体何しに来たんだ?まさかこの辺りのスライムを壊滅しに来たのか?」

「いや、あの丘の視察の帰り道だ。今から、オルバーニュ村へ戻るところだ。」

「へえ、そうかい。あたいもそこに行くところだ。せっかくだから、ついていってやるよ。あ、この道端の獲物は、あたいのだからな!後ろの騎士らは、手ェ出すなよ!」


 随分と威勢のいい女駆除人だ。こういう性格なのか、それともそうならざるを得ない境遇だったのか……彼女を先頭に、我々はオルバーニュ村へと向かう。


「しかしあんたら、変な奴らだな。女騎士と騎士の集団に、亜人が2人、妙な格好の男が1人。なんなのだ、一体。」


 変な格好の男とは、私のことだろう。私が身につけているのは、軍の特殊部隊用の迷彩服。この星の住人からすれば、変な服だろうな。


「おい娘!口を慎め!さっきからこの2人に失礼だぞ!お前が女騎士といっているお方は、我ら跳馬(ギャルソンヌ)騎士団の団長、ジャンヌ様であるぞ!」

「ええっ!?ぎゃ……ギャルソンヌ騎士団!?あの王都にいるモンスター退治専門の騎士集団で、貴族のご令嬢が団長を務めてるという……」

「そうだ、こちらにいるお方こそ、その団長様だ。」

「うわっ!し、失礼いたしました!あの、あたいはリザって言います!この辺で駆除人やってますが、あたいもモンスター退治をする者の端くれ。ずっと、跳馬(ギャルソンヌ)騎士団に憧れていたんです!」

「そうか。だが、その横におわすお方はさらにすごいぞ!その騎士団長の旦那様で、宇宙艦隊の司令官、そして王国貴族でもあるエーベルシュタイン男爵様だ!」

「ええっ!?き、貴族様だったんですか!?そんな高貴なお方とは知らず、あたいったらなんて無礼なことを……」


 急におとなしくなったこの女駆除人。やはり身分制度が徹底されている国家だ。貴族や王国騎士団長と聞いて、その身分差に恐れおののいている。


「ああ、そんなに構えなくてもいい。私は地球(アース)294出身者だ。身分差など気にしない。」

「えっ?アース294?どこですか、それは?」


 ああ、この娘、そこから説明しなきゃいけないのか。ここは王都の近傍だが、我々宇宙から来た人のことは、まだ伝わっていないようだ。

 そんな会話をしながら歩くと、村に着陸している駆逐艦が見えてきた。

 高さが70メートルはあるこの駆逐艦。道の脇にある木々の間から、その巨体が姿を表す。


「な、何だあれ!?何であれが、村にいるんか!?」


 リザが驚いて叫んでいる。ああ、どうやらこの娘、あの駆逐艦2693号艦を見て騒いでいるようだ。

 だが、村人ならすでに一度目をしている駆逐艦。何をいまさらあれを見て驚いてるんだ!?


「なんだ、つい先日この村に来ていた駆逐艦だぞ。知らないのか?」

「ええっ!?そんな話、あたい知らないよ!何のことだ!?」


 なんだこの娘、あのときこの村にはいなかったのか?聞けば、駆逐艦が空を飛んでいるところはよく見るが、着陸しているところを見るのは初めてらしい。


「おい娘!あれはこのエーベルシュタイン男爵様の空飛ぶ船だ。我々もあれに乗って、王都からここまでやってきたのだぞ!」

「ええっ!?あれ、貴族様のものだったのか!?よく空に飛んでるから、なんだろうとは思ってたけど……し、知らなかった。」


 ヤコブ殿がこのリザという娘に説明する。もっともあの船は、私のものというわけではないが……ともかく、我々は駆逐艦の居座る村へと向かった。


「あ、領主様だ!」


 私に気づいた村人達が会釈をする。私は軽く手を振って応える。


「エルンスト閣下に、敬礼!」


 一方、地上にいる駆逐艦乗員は、私を見ると起立、敬礼をする。私は右手で返礼をする。私の2つの立場が入り乱れるこの場所。まったく、忙しいことだ。

 このまま帰ってもよかったのだが、ギルドという場所がちょっと気になる。リザについて、そのギルドという場所に行ってみることにした。

 駆逐艦が降り立つ村の広場を少し行ったところに、そのギルドはあった。交易商ギルドというだけあって、そばには馬車が何台も止まっていた。

 中には、いくつかのテーブルと椅子が置かれていた。食事をする場所のようだが、商談スペースも兼ねているようで、書類を片手に商談をしている人が何組もいる。

 その奥にカウンターがあって、リザはそのカウンターに向かって歩いていく。


「おっちゃん!今日の取り分だ!」

「なんだ、リザか。久しぶりだな。どこ行ってた?」

「ちょっと南の方に出かけてたんだ。それよりもほら、今日はスライム3匹分だ!」


 麻袋を渡すリザ。それを受け取り、中をあらためるカウンターの男。


「……おい、これはどう見ても1匹分だろう!」

「ええっ!?そんなことねえよ!3匹分あるぞ!」

「いいや、1匹分だ!銀貨2枚!嫌なら引き取らねえ!」

「ぐぬぬ……」


 おかしいな、私は少なくとも2匹入れているところを目にしている。この男、相手を見て値切ったな。そう思った私は、その男に言った。


「おい、少なくとも2匹分はあるはずだ!いくらなんでも、1匹は言い過ぎではないか!?」

「なんだ、あんたは?ここにはここの決まりってもんがあるんだ。部外者は引っ込んでな!」


 腕っ節の良さそうなカウンターの男は私に向かって怒鳴る。つい私もムキになり、睨み返す。一触即発のこの状況。周囲の人々は、突然始まったこの騒動を見ようとこちらを振り向く。そこに慌ててカウンターの男に駆け寄る者がいた。


「おい、お前!やばいって、あの方は……」

「……ええっ!?エーベルシュタイン様!?あの新しい領主様の!?」


 誰かがこの男に、私のことを耳打ちした。それを聞いたカウンターの男は急に低姿勢になり、リザの成果を認め、銀貨6枚を渡していた。


「やった!初めてだよ、値切られずに報酬をもらえたのは。いやあ、さすがは貴族様だ。」


 手のひらの上に並べられた6枚の銀貨をなんども数えながら、笑顔になるリザ。


「では、そろそろ帰るか。ジャンヌ、マリー、クララ。駆逐艦に行くぞ。」


 私はリザと別れて、駆逐艦に向かって歩き始める。とその時、突然リザが我々を呼び止める。


「あの!貴族様、ジャンヌ様!」


 私とジャンヌはリザの呼びかけに振り返る。リザは、ジャンヌに向かってこう切り出した。


「あの、ジャンヌ様!あたいを跳馬(ギャルソンヌ)騎士団に入れてもらえませんか!?」


 なんだと?あの騎士団に入れて欲しいだって?リザは続ける。


「一番下っ端の靴磨きでもいいです!ぜひあたいを憧れの騎士団の一員にして欲しいんです!団長様に直接会えるなんて、滅多にない機会、これも何かのお導きだ!どうか、お願いします!」


 そういえばこの駆除人、あの騎士団に憧れてると言ってたな。だが、憧れているというだけで入れるわけには……


「いいよ。入れてあげる。」


 ところがジャンヌは、即答でOKした。


「おい、いいのか!?」

「いいですよ。だって彼女、モンスター駆除をしてるんですよ。我が騎士団と同じではありませんか。」

「まあ、そうだが……」

「それにエルンスト様。軍港建設のため、いずれあの丘にいるスライムを一掃なさるんですよね。そうなれば、この辺りでスライムが現れなくなって、この駆除人は稼ぎを失うことになりますよ。ならばせめて、あの娘にその代わりの職を与えねばなりませんよね。」


 うっ……珍しく筋を通してくるな、ジャンヌのやつ。確かに、いずれこの娘の食い扶持は無くなってしまう。そもそも丘のスライムがいたところで、いずれ馬車による交易は衰退して、空中船やトラックに変わるだろう。そうなれば、スライム退治にお金を支払う必要がなくなる。そうなれば、この辺りでは駆除人という職業はすぐに役割を失ってしまう。

 普段は何も考えてなさそうに見えるジャンヌだが、この娘の行く末を瞬時に考えるとは。時々恐ろしいほど頭が冴えるものだ。


「だがジャンヌよ。住処はどうするんだ?王都には彼女の住めるようなところがあるかどうか……」

「大丈夫ですよ。まだうちのお屋敷は、いくつも部屋が余ってるではありませんか。」


 ああ、やはり居候させるつもりだったのか。ついに我が家の3人目の居候が確定した。


「てことで、あなたも王都に行きますよ。さ、荷物をまとめてここにいらっしゃい。」

「うわぁい、やった!ありがとうございます、ジャンヌ様!」


 マントをまとい、槍を持ったこの娘は、荷物を取りに大急ぎで自宅に戻った。

 そのやり取りを見ていた乗員達。ああ、これでまた我が家に娘をかくまっているという変な噂が、司令部や小隊の間に広まることだろう。

 すぐにリザは戻ってきた。荷物といってもそれほど持っていないようで、袋一つだけのようだ。聞けば、住んでいるところは馬小屋のようなところらしい。2年前に親を亡くして、ちゃんとした住まいがない生活を続けているようだ。


「へえ、あんたらも男爵様のところに住んでるのか?」

「んだよ~、美味いもん食べられて、わだす幸せだよぉ~!」

「とってもいいずらよ、人族の生活は。こがにええ暮らししてるとは思わなんだよ。」


 先の居候の亜人らが言っているのは、人族の生活というよりは地球(アース)294の生活だ。この星の人族も、王都を除けばエルフやゴブリンと比べて、さほど進んだ暮らしをしているわけではない。

 駆逐艦2693号艦に乗り込む私とジャンヌと3人の居候達。入り口付近で、全長300メートル、高さ70メートルの艦を見上げるリザ。リザ自身が勢いで言い出した騎士団入団であったが、いざそれが受け入れられて、まさかこれに乗ることになろうとは思わなかったようで、呆然と見上げている。


「おい、下っ端!行くぞ!」

「あ、はい!」


 騎士団の1人が声をかける。それを聞いて荷物を抱えて乗り込むリザ。自身が頼んだことがきっかけとはいえ、突然この新しい世界に、戸惑う間も無く飛び込まされた。


「艦内は武器の持ち込みは禁止されている。その槍は、入り口横にあるこの倉庫に入れておけ。」

「は、はい!」


 私はリザに槍を艦底部の倉庫に入れるように言う。そこには、騎士団らの武器も収められている。ここがロックされない限り、この艦は発進できない。

 ところでリザの持っていた槍だが、よく見ると安い短剣を長い棒に縛り付けただけの武器だった。ずいぶんと困窮した生活をしていたから、ちゃんとした槍が買えなかったようだ。

 そういえばこの娘、随分と汗臭い。長いこと身体を洗っていないのではないか?衛生的に心配だ。私は艦内にいる女性士官にお願いして、風呂に連れていってもらうことにした。

 ついでに着替えの衣服を適当に村で調達してもらうことにした。それをそばにいた別の乗員にお願いをする。ジャンヌが連れこんだ娘一人のために、艦内はドタバタすることになる。


 で、ようやくそれも収まり、発進準備が整う。艦内放送が入る。


「達する。艦長のワインバーグだ。これより当艦はオルバーニュ村を発進し、ルモージュ宇宙港に帰投する。」


 ところでこの艦の艦長のワインバーグ中佐は、私よりも歳上の艦長だ。もっとも、私より歳下の艦長など第9小隊所属の329隻中、1隻もいない。艦長よりも司令官の方が若い艦隊というのは、我が地球(アース)294艦隊では極めて珍しい。

 食堂のモニターを見ていると、船体が浮き出した様子が見える。徐々に小さくなるオルバーニュ村。ここから王都宇宙港まではすぐだ、2分もあれば着いてしまう。

 あっという間に駆逐艦2693号艦は宇宙港に到着し、着陸態勢に入った。だが、まだあの娘は風呂に入ったまま。リザと女性士官が風呂から出て食堂に現れたのは、着陸してしばらく経ってからのことだった。


「閣下、仰せの通り、この娘を綺麗にして参りました。」

「……ああ、ご苦労だった。足止めしてすまない。」


 敬礼する女性士官からリザを引き取る。身体を風呂で清め、村で調達したワンピースを着用し現れた。


「あら、綺麗になったわね、リザちゃん。」


 そこにいたのは、あまりに見違えてしまったリザだった。さらさらとした赤い髪の毛に、張りのいい白い肌。小柄ながらも、メリハリのある身体つきに、可愛らしいと言う表現がぴったりの顔。ジャンヌに綺麗だと言われたからか、少し頬を紅潮させている。どこからどう見ても、さっきまでの汗臭い駆除人には見えない。

 私も一瞬、言葉を失いかけたほどのリザの姿。騎士団員にも、このギャップに驚愕している様子だ。さっきまであれほどぶっきらぼうに話しかけていた騎士たちが皆、この綺麗になって現れたリザを唖然として迎える。


「あの、あたい、ジャンヌ様のお許しを得て、明日から騎士団見習いになります!みなさんのお役に立てるよう、頑張ります!だから、よろしくお願いします!」

「は、はい!よろしく、リザさん……」


 見違えたリザに挨拶されてうろたえる副団長のヤコブ殿がまた面白い。明日から、ちゃんとこの娘に指導できるんだろうか?楽しみだ。


 艦を降りて王都宇宙港の建物に入り、私は手続きを済ませる。ガラス張りの建物から見える外には、民間船や駆逐艦が次々に現れている。それを放心した状態で眺めるリザ。


「ああ……あたいってもしかして、とんでもないところに来ちゃったのかなぁ……」


 王国の宇宙進出も知らない村から、突如このハイテクの塊のような建物にやってきて、その文化ギャップにショックを受けているようだ。まあ、この宇宙港ではよく見かける風景だ。


「さてと、行きますか、エルンスト様。」

「行くって、どこに……あ、いや、聞くまでもないか。」

「そうですよ。さ、皆さん、行きましょう!」

「行くべ行くべ!」


 マリーとクララはもうわかっているが、初めてここにやってくるリザはどこに何があるのかすらわからない。ジャンヌに手を引かれて、ロビーを歩く。

 お目当の土産物屋に到着する。そこにあるたくさんの土産物に、リザは圧倒される。


「ななななんだ、この綺麗な色とりどりの箱は!?」

「ああ、それはクッキーやチョコレートの箱だ。その辺はお菓子コーナーだ。」

「ええっ!?こ、これがお菓子!?てことは、食べられるものばかりってことか!?」

「ほらほら、それくらいで驚いてちゃダメよ。本命はこっちなんだから。」


 こうして、リザもついにあのビッグプリンとの対面の時を迎える。


「な、なんだこの黄色いスライムは!?」


 思わず、持っていた槍のカバーを外しそうになるリザ。だが、ジャンヌはこう言った。


「スライムじゃありませんよ。それに、これが食べられなければ、私の騎士団には入れません。」

「ええっ!?これを食べるんか!?」


 この結末がどうなるか、もう大体わかっている。エルフに公爵に、オーガまで凋落した、この星に君臨する「伝説のデザート」だ。リザが堕ちないわけがない。


 こうして、軍港予定地の視察は終わった。女駆除人が居候になるという想定外のイベントが発生したものの、明日からいよいよオルバーニュ村の近くの丘で、軍港の建設が始められる。交易の村は、新たなる時代の転換期を迎えることになるだろう。

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