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#16 エルンストとエルグスト

「こ、この男を捕まえろ!」


 このリーダー格の男は私を指差し、村人たちに向かって叫んだ。何人かの男が、私を捕まえようと近づいてくる。


「むやみに近づかない方がいい。私を捕まえようとするとどうなるか、思い知るがいい!」


 まるで悪役っぽい台詞を吐き、私は銃を手に取った。そして目盛りを目一杯ひねり、広場の端にある大きな木に向けて発砲する。

 バンッ!という乾いた音とともに、まばゆい青白い光が放たれた。その光は木の中央付近に着弾し、バーンという爆発音とともにその太い木の上半分を吹き飛ばす。

 吹き飛ばされた木は、燃えながら脇道の上の落ちる。メラメラと音を立てて燃える木を見て、村人達から悲鳴をあげるものも出る。

 この村の人々は、銃の存在を知らないようだ。彼らから見れば、あたかも私の手から、あの破壊的な魔術が放たれたかのように見えたのではないか。


「くそっ!悪魔め!」


 勇敢そうな村人の一人が、手に持っていた棍棒で殴りかかってきた。それを見た私は、腰につけた携帯バリアのスイッチを押す。

 猛烈な火花とともに、その棍棒もろとも男を吹き飛ばす。その男は、そのまま舞台の下に叩きつけられる。


「く、くそ!おのれ、怪しい技を……ならば、これならどうだ!?」


 リーダー格の男はそう言って、剣を抜き自ら私に向かって斬りつけてきた。が、棍棒だろうが剣だろうが結果は変わらない。小型のビーム兵器ですら弾き返せるこの防御兵器が、剣ごときに負けるわけがない。その男も、火花とともに弾き飛ばされる。


「どうした!?誰も私に指一本触れられないのか!?」

「くっ!」


 私の周りをぐるりと槍を持った村人たちが囲む。だが、先ほどから奇妙な技を繰り出す私に、彼らは怖くて手出しができない。ある村人は、私を見て呟いた。


「ほ……本物の魔法使いだ!いや、悪魔だ……」


 うーん、ここではすっかり悪役だな、私は。別にこの村に恨みがあるわけではないが、1人の命がかかっている。いや、この一件をうやむやにすれば、この先も魔女狩りが続くであろう。だから、魔女などいないことを示さなくてはならない。この娘1人で済む話ではない。そのため、私は「魔法使い」となり、敢えて村人たちの敵方に回る。


 携帯する武装を駆使して、私と村人の間はこう着状態に陥ったが、その均衡を打ち破るように私の真上にあるものがやってきた。

 それは、ブーンという重低音を響かせ、低空から侵入する。この広場一帯は、その上空の物体の影に入り、暗くなる。

 私が呼び寄せた駆逐艦だ。実は私が「魔法使い宣言」をする直前に、王都司令部に向けてメッセージを出した。この近辺を航行中の駆逐艦を私のいる場所に派遣せよ、というメッセージだ。それが今、到着した。

 やってきたのは駆逐艦2693号艦。我が小隊の一隻だ。幸い、私の配下の艦であった。私はその艦と通信するため、スマホを取り出し、無線アプリを起動して小声で話す。


「駆逐艦2693号艦へ。エルンストだ。たった今、防衛規範に則り、人命救出中である。それに伴い、貴艦にぜひやってもらいたいことがある。これより、私の手の指図通り、艦を動かせ!送れ!」


 駆逐艦側から、返答があった。


「2693号艦から閣下へ。了解、本艦はこれより待機します。」


 多分、上空の2693号艦では、この命令がなんの意味があるのか分かっていないだろう。だがいちいち理由など尋ねず、即座にそれに従う駆逐艦。艦からの返答を聞いた私は、村人たちに向け叫ぶ。


「今から、私のとっておきの魔術を見せてやろう!あの上にある灰色の物体を、見てるがいい!」


 悪役じみた台詞を吐いた後、私は右手を上げ、そのまま右に向け伸ばす。すると、駆逐艦が右へゆっくりと動き出す。

 村人たちとリーダー格の男は、私の意のままに動くこの大きな灰色の物体を見上げて、呆然としている。全長300メートル以上の村を覆い尽くすほどの巨大な物体を操っている悪魔が目の前にいる。これはこの村人にとって恐怖そのものだろう。そんな私を見て、泣き出す子供までいる。

 だが私は村人に構わず、今度はその手を左に返す。すると今度は左に動き出す2693号艦。腕を下ろすと、艦もそれに合わせて止まる。


 そして私は、右手をL字に曲げ、手先のみ上に向ける。

 これは私が戦闘指揮所で使う「砲撃用意」の手信号だ。果たして上空の艦は、この意味を分かるだろうか?

 どうやら、理解してくれたようだ。キーンという主砲の装填音が、この村一帯に響く。急に甲高い音が響き渡り、ますます不安を募らせる村人たち。


 そして私は、その腕先をさっと下ろした。


 これは、「砲撃開始!」の合図だ。


 駆逐艦は主砲を発射する。何発もの雷が同時に落ちたような大きな音と、青白い光、そして猛烈な風がこの村に吹き荒れる。

 地上にいる者たちはパニックに陥る。村人たちの多くは広場から去り、建物の中へと逃げ込む。


 もっとも、これは「未臨界砲撃」だ。威嚇用の砲撃であり、実際にビームは放たれていない。単なる音と光を放っただけだ。だが、王国の兵士たちですら尻込みし、進撃をやめてしまったほどの音と光だ。村人らの感じた恐怖は、相当なものであろう。


 これは後日、この地に説明員を派遣したほうがよさそうだな。さすがにこれはちょっとやりすぎた。だが、今さら引き返すことはできない。せっかく村人たちが感じてしまった恐怖心、これを最大限に利用させていただく。

 その場に残っているのは、数人の村人とあのリーダー格の男だけだ。私はその残った者たちに宣言する。


「どうだ、これが魔法使いの力だ。この程度できなくては、魔女とは言えない。よって、彼女は魔女ではない。よろしいか?」


 私はリーダー格の男に尋ねる。無言でこくこくと首を縦に振るその男。


「では、彼女を引き取らせていただく。よろしいか?」

「は、はい!よろしいです!」


 さっきまでの勢いは何処へやら、すっかり怖気付いてしまったこの男。ともかく、これであの娘を救出できる。私はスマホで上空の艦に連絡する。


「駆逐艦2693号艦へ。作戦成功。この近辺に降りて、乗員数名と、医療班を派遣せよ。送れ!」

「駆逐艦2693号艦より閣下へ。了解、直ちに着陸し、乗員、医療班を派遣します。」


 すると駆逐艦2693号艦は、この広場の端あたりに向かって降りてきた。と同時に、私の元にジャンヌが駆け寄ってきた。


「エルンスト様!大丈夫ですか!?」

「私は大丈夫だ。それよりジャンヌ、少し手を貸してくれ。あの娘を降ろす。」

「は、はい!」


 ところで、マリーはクララと肩を組んで歩いてくる。どうやらクララは、あの砲撃音に腰を抜かしたようだ。そういえばクララは、駆逐艦の砲撃音を聞くのは初めてだった。しかしマリーとジャンヌは平気なようだ。あの5日間の戦闘訓練が、こんなところで功を奏す。

 私とジャンヌは、石舞台の真ん中で縛り付けられている娘のところに行く。縄で縛られているが、ジャンヌが腰に持っていたダガーでそれを切る。


 あれだけの騒ぎがあったというのに、まるで上の空のその娘。目の焦点も合っていない。

 この様子を見て、てっきり拷問でもされたのかと思ったが、そのわりには外傷がない。一体、何をされたのだろうか?ともかく私は、その娘を抱き上げる。


 そこに、駆逐艦から数人の乗員と、担架を持った医療班が駆け寄ってくる。そのうち一人の士官が、私に敬礼する。


「閣下!駆逐艦2693号艦より応援に参りました!」

「ご苦労。この女性を保護する。艦内の医務室へ連れて行け。貴官の名は?」

「はっ!エルグスト少尉であります!」

「え、エルグスト……?」

「すいません、閣下と名前が似ておりまして……」

「いや、そんなことはどうでもいい。ともかく、エルグスト少尉!貴官に命ずる!この女性の一切を任せる、必要があれば艦内の誰かを手伝わせても良い!彼女の意識回復に、全力を注げ!」

「はっ!エルグスト少尉、これより女性の回復任務に就きます!」


 変な任務だが、ともかくこの少尉に一切を任せることにした。それにしても、私とずいぶん似た名前の士官がいたものだ。私は担架に彼女を乗せる。そのまま医療班は、担架ごと艦へと向かう。


 リーダー格の男の前を、数名の士官たちが横切る。私の前に立ち、敬礼する。娘を降ろし、ようやく手ぶらになった私は返礼で応える。


「これより、私も2693号艦に乗艦する。誰か、あの木のそばにある私の車を、艦内に回収してほしい。」

「はっ!」


 あのリーダー格の男の前で、私はテキパキと指示をし士官らを動かす。しばらく私のすることを黙って見ていたこの男は、ようやく口を開く。


「あ、あの……あなた様は一体、何者ですか!?」


 さっきまで恐怖を煽り大暴れしていた魔法使いが、急に統制された態度に変わったものだから、ただ者ではないと思われたようだ。私は応える。


「私はエルンスト。地球(アース)294遠征艦隊所属の司令官で、国王陛下より男爵号もいただいている身だ。」

「はっ!?だ、男爵様!?も、もしやエルンスト男爵様といえは、ブリエンヌ男爵様のご令嬢を妻に迎えられたという、あの男爵様のことでございますか!?」

「そうだ。そこにいるジャンヌは、ブリエンヌ男爵殿の娘である。」

「な、なんということで……私はブリエンヌ男爵様より当地を任された領事、クロードでございます!男爵様とは知らず、なんというご無礼を……も、申し訳ございません!」


 なんとこの男、実はジャンヌの実家の男爵の配下の者だった。しかしこの男、あの先進的なブリエンヌ男爵の配下にいながら、なぜあのような愚行を犯したのか?

 聞けば、この1年ほど男爵とは会っていないらしい。おかげで、上空を飛ぶあの灰色の物体が宇宙船だということすら知らなかったようだ。随分と怠惰な手下だ。

 そして、この村は交易によって成り立っている宿場町。だが、駆逐艦が上空を飛び交うようになってからというもの、この村を通る馬車の数が徐々に減り始めたという。

 考えてみれば、王都に宇宙港ができてから駆逐艦が上空を行き来するようになった。その頃からその周辺の物資輸送に、空を飛ぶ民間船舶が使われ始めた。当然、地上を行く馬車の数は少なくなる。村の経済に少なからず影響を与え始めたため、この村の人々はこの灰色の物体が何か災いをもたらしたのだと考えたようだ。

 馬鹿馬鹿しい話だが、考えてみればこの村にとっては死活問題だ。このまま馬車による輸送が減れば、いずれこの村は立ち行かなくなるだろう。何かをきっかけに村の人々が魔女狩りなどという集団ヒステリーに走ってしまったのも、わからないでもない。


 私はブリエンヌ男爵へ、この村の現状を話しておくことをクロードという領事に約束する。その代わり、魔女狩りのようなことはしないよう、重ねてお願いをする。そして私は駆逐艦へと向かった。


「ジャンヌ、マリー、そしてクララ!駆逐艦へゆくぞ!」

「はいはい、エルンスト様。」

「また食堂へ行けるんだか!?楽しみだぇ!」

「ええっ!?もすかすて、おらもあれに乗るだか!?」


 そういえばクララは一度、ゴブリンの村に緊急着陸した駆逐艦を見ただけで、まだ乗ったことはない。ジャンヌとマリーに連れられて、恐る恐る駆逐艦へと向かう。


 周りを見ると、村人たちがちらほらと外に出始めている。おっかない灰色の物体が地上に降りてきたものの、特に何かをするわけでなく、ただ地上に突っ立っているだけ。その灰色の物体の中から慌ただしくも整然と人が出入りし行動しているのを見て、やや恐怖心が和らいできたようだ。恐る恐る外に出た村人たち、この全長300メートル、高さ70メートルの駆逐艦を見上げている。

 そんな村人をよそに、私はジャンヌたちと共に、下艦底部にある出入り口へと向かう。


 あまり駆逐艦に乗るつもりはなかったが、あの娘を助けた以上、その後を見届けねばならない。休暇を返上し、私は殺伐とした駆逐艦へと入った。

 艦内に入った私は、まず最上階にある医務室へと向かう。ジャンヌ達は食堂で待機だ。

 医務室に行くと、エルグスト少尉が医師と話をしていた。私の姿を見ると中断して、こちらに向かって敬礼する。


「ああ、いい。私に構わず、続けてくれ。」

「はっ!」


 少尉はちょうどあの娘の状況を、医師から聞くところだったようだ。私も一緒に聞くことにする。

 まずあの娘だが、もう意識を取り戻したようだ。あの状態からもう回復?早すぎる気もしたが、理由を聞いて納得する。

 彼女が朦朧としていたのは、どうやら酒をたくさん飲ませられていたかららしい。息から高いアルコールが検出されたため、アルコール中和剤を投与したところ、すぐに意識が戻ったようだ。

 なんだ、あれは酔っ払っていたのか。おそらく処刑の際に暴れたり騒がれたりしても困るから、ワインか何かを多量に飲ませたのだろう。拷問などが原因でないのは幸いだった。

 目が覚めたら、見たことのない部屋にいる彼女。最初、てっきり彼女は処刑されて、天国に来たのかと思ったらしい。すぐにエルグスト少尉は、彼女があの石舞台から救い出されたこと、そしてここが駆逐艦と呼ばれる船の中だということを説明したそうだ。

 今は看護婦によって、念のため検査されてるところだそうだ。その合間に、少尉は医師に話を聞いていたところだったようだ。


 ところで、あの娘の名はエリザという。歳は20。すでに両親を亡くし、この村で働いていたようだ。

 なぜ魔女にされたのかはまだ聞き出せてはいない。当然だが、何か特殊な能力があるわけではない。ただ、少しだけ話した少尉によると、随分と元気なお嬢さんらしい。

 意識が戻るや、最初は天国に来たと喜んでいたらしいし、生きていると分かるとそれはそれで歓喜している。ぐったりとした彼女しか見てない私には到底信じられないことだが、わりと楽観的な人物なようだ。


「お待たせしました、エルグスト様!」


 検査が終わったようで、その娘が元気よく現れる。その彼女は私を見て、エルグスト少尉に尋ねる。


「あれ?エルグスト様?こちらは……」

「ああ、こちらはエルンスト閣下だ。」

「ええと、なんだかよくわかりませんが、もしかしてとても偉い方なのですか?あの、私、エリザと申します。こちらのエルグスト様に助けていただき、ここで何から何までお世話になっております者です。」

「えっ!?助けた!?僕が!?」

「ええっ!?だって、エルグスト様、何度か名乗っておられたではありませんか!私、ボーっとしてましたが、うっすらと覚えておりますよ。」


 あれ?このエリザという娘、どうやらこのエルグスト少尉に助けられたと思っているようだ。名前も似てるし、背丈も私と同じくらいのこの少尉。あの時は意識が混沌としていたから、私と少尉の区別がつかなかったのだろう。


「そうだ、彼があなたを助けたのだ。」


 私はそう、エリザに応えた。


「ええっ!?閣下!だけどあれは閣下が……」


 訂正しようとする少尉の肩を叩いて制止し、私は小声で呟く。


「少尉、そういうことにしておけ。」

「しかし……」

「命令だ。」


 それを聞いて、少尉はうなずいた。半ば強引に、手柄を彼に譲ってしまった。


「では、私は席を外すとしよう。少尉、後は頼んだぞ。」

「はっ!承知しました!」


 助けた娘は思ったより大丈夫だった。それを見届けた私は、その場を離れる。

 ちょうどいい具合に、少尉が勘違いされた。もし私が助けたと知れば、面倒なことになるかもしれない。それに、少尉も私の後を引き継ぎ彼女の意識回復に尽力していたのも事実。助けたことには変わりない。


 食堂で待たせていたジャンヌ達のところへ向かう。食堂で3人は、何かを食べている。

 ……ここに来る前にも散々食べただろうに、まだ食べるのか?クララにとっては初めての駆逐艦内での食事、食べていたのはピザだが、まんざらでもない様子だ。


「へぇ~、閣下のところにエルフとゴブリンの娘がいると聞いてたけど、こんなに可愛い2人なんだね。」

「どうなの?人間社会には慣れたかい?」

「んだねぇ、わだすはすっかり慣れちまっただよ。食べるもんは美味えし、ショッピングモールとかいうところは楽しいし。」

「ゴブリンの村から見りゃあ天国だべさ。毎日刺激的で、おらとっても気に入っただよ!」


 ここの乗員にとっては、ジャンヌよりも、亜人の2人の方が気になるらしい。確かに、エルフやゴブリンには滅多に会えないからな、普通は。


「あ、閣下だ!」


 マリーとクララと話し込んでいた乗員たちは、私に気づいて起立、敬礼をする。


「ああ、今日は非番だ。かまわなくていい。続けてくれ。」


 私は彼らに声をかける。私を見たジャンヌは立ち上がり、エリザのことを尋ねてきた。


「あ、エルンスト様。どうでした、あの娘の様子は?」

「ああ、思ったより大丈夫だ。今は元気になったよ。」


 私は彼女のことをジャンヌに話す。エリザという名であることや、エルグスト少尉に委ねたことなどを伝える。


「……それで、そのエルンスト様と紛らわしい名前の士官の方が、今その娘を介抱しているというわけですね。」

「まあ、そういうことだ。」

「でも良かったですね。ほんの少し私達が来るのが遅れていたら、あの娘今ごろあの石舞台の上で丸焦げにされてましたよ。本当によかったですね。」

「ああ、そうだな。」


 食堂でエリザのことを話していると、そのエリザがエルグスト少尉とともに現れた。


「あれ?少尉、どうしたんだ、こんなところに彼女を連れて。」

「はあ、閣下。実は医師からエリザさんに何か食べさせるよう言われまして……」

「そうなんですよ!朝からほとんど何も食べていないので、もうお腹空いちゃってどうしようもなかったんです!」


 このエリザという娘、空腹と言うわりには元気がある。エルグスト少尉の左腕にしがみついている。突如、若い娘にべったり張り付かれた少尉は、周りからは注目されて恥ずかしそうな表情だ。


「ええと、エリザさん、まずはですね、ここで食べるものを選ぶんですよ。ほら、こうやってですね……」

「何ですか、これ!?絵がぴょこぴょこ動いてますよ!?おもしろ~い!」


 少尉の言った通り、明るい性格だな、このエリザという娘は。だがこの雰囲気、どこか既視感があるのは何故だろうか?


「ええっ!?エリザさん、そんなに食べるの!?大丈夫!?」

「大丈夫!お腹空いてますから、平気です!」


 パスタとハンバーグとピザを載せたトレイを抱えて現れたエリザ。確かに多すぎだ。大丈夫か?


「ではでは、いただきます!……ん~!おいひ~!」


 ああ、既視感の理由がわかった。この能天気で前向き過ぎる性格、私の妻にそっくりだ。


「良かったねー、元気になって。」

「ふえ?もろもろぐぇんきれすよ?」


 ジャンヌの言葉に応えるエリザ。並べてみるとよく分かる、この2人、やはりどことなく雰囲気が似ている。


「でもなんだってエリザちゃんを魔女だと思ったのかしら、あの男?」

「さあ、なんででしょうね?空飛ぶあの灰色の砦みたいなのに、私が手を振ってたからですかね?」

「ええっ!?なんで手なんか振ってたの!?」

「いやあ、空飛んでるんですよ?面白そうな砦だなあって思って……


 そんなことしてたのか。そりゃ「灰色の悪魔」を呼び寄せたと村人から言われるわけだ。


「でもね、エリザちゃん。あなた今、その灰色の砦ってやつに乗ってるのよ。」

「えっ!?ここって、あの灰色の空飛ぶあれの中何ですか!?」


 そういえば彼女には駆逐艦の中としか教えていない。まさか自分が今、時々目にしていたあの灰色の空飛ぶ砦の中にいるとは思わなかったようだ。


「ところで閣下、あのエリザさん、どうしましょうね?」

「そうだな、さすがにこの村においてはいけまい。ああいうことがあった後だしな。」

「そうですよね……でも、王都宇宙港に連れて行っても、住むところがないですし……」

「エルグスト少尉、貴官は独身か?」

「はい、独り身です。」

「ならば解決だ。貴官の家に住ませてやれ。」

「ええっ!?あ、あの、しかし夫婦でもない男女が同じ屋根の下というのは……」

「別にいいんじゃないのか?エリザは貴官のことを気に入ってるようだし、なんとかなるだろう。」

「でも、私がエリザさんと出会って、まだ1時間ほどですよ?いいんですか?」

「私の場合、出会って1分未満の女性と夫婦になって、こうしてどうにかやれている。それだけ長い付き合いなら十分だ。宇宙港横の居住許可証などの手続きは、私の方でなんとかしておく。」

「はあ……分かりました。」


 こうして私は、半ば強引に魔女にされた娘をこの若い少尉に押し付けた。私の直感だが、あの性格なら、おそらくこの少尉と上手くやれるだろう。私とジャンヌが、そうであったように。


「達する。艦長のワインバーグだ。これより当艦はここオルバーニュ村を離れ、ルモージュ宇宙港に帰投する。総員、10分以内に配置につけ!」


 食堂内は慌ただしくなった。持ち場のある乗員は大急ぎで食事を済ませ、食堂を出て行く。


 こうして、私の休暇の1日は慌ただしく殺伐と暮れた。温泉でのんびり過ごすはずが、村に立ち寄り、悪役じみた「魔法使い」になり、駆逐艦を呼び寄せ、そして娘を若い部下に押し付けた。まったく、なんて1日だ。

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