#10 幽霊艦
大気圏外に出た不審船追尾のためゴブリンの村から緊急発進した後、すぐに大気圏離脱を行った。
わずか10分ほどで地球813の月軌道も超えて、距離60万キロに至る。全速運転のまま、我々は不審船を追い続ける。
この不審船がいた場所は、王国から北西に200キロほど行ったところにある「黒い森」と呼ばれる場所だという。
地上から見ればごく普通の森なのだが、どういうわけか上からはまるで上から墨でもかけたようにように黒いのだ。上部に光を反射しにくい葉でも集中しているのか、とにかくその一帯10キロ四方だけが真っ黒である。それゆえに、哨戒機パイロット達はその場所を黒い森と呼んでいる。
ある哨戒機が、そんな不気味な場所から正体不明の船が発進したのを目撃したというのだ。
大気圏離脱から30分ほどで、我々はその不審船に追いついた。光学観測にて、その不審船の正体に迫る。
「不審船を視認!現在、相対距離30万キロ!艦影、艦色識別、赤褐色の駆逐艦!連盟軍艦艇です!」
やはりな。思った通り、敵の偵察艦だった。我々の前方30万キロを慣性航行中だ。
エンジンを切り、重力子や熱源センサーに感知されないよう逃げているつもりらしいが、目視にて発見された以上、もはや奴らに逃げ場はない。
20分ほどで、敵艦まで距離1万キロまで迫る。電波管制をしいているのか、彼らはレーダーすら使っていないようだ。そのまま我々は敵艦へと迫る。
「どうします、攻撃しますか?」
「いや、まずは投降を呼びかけよ。できれば、奴らがどういう経路でこの星に侵入したかが知りたい。そうすれば、今後の対策にもなる。そういうわけで、生かして捕らえられるなら、それに越したことはないからな。」
「了解しました。では共通バンドにて、投降を呼びかけます。」
まず敵艦に投降を呼びかける。目視で発見されてしまえば、いくら電波管制をしいたところで意味はない。そこから逃げても、改良型重力子エンジンを搭載する我々からはまず逃れることはできない。それくらいのことは敵にもわかっているはず。ならば、どうすれば最善か、普通の武官ならばすぐに分かるはずだ。
艦橋の通信士が投降を呼びかける。しかし何度呼びかけても、応じる気配はない。
かと言って、エンジンを吹かして逃げるわけでもない。何の反応もなく、黙殺された格好だ。まさかと思うが、我々にまだ発見されていないと思っているのだろうか?それとも、通信が届いていないのか?
「どういうことですかね?」
「よほど能天気な奴らなのか、あるいは我々が発見したという通告を擬態と思っているのか。それならば接近して、奴らが袋のネズミであることを思い知らせるしかない。周辺の20隻にも伝達!あの艦を包囲する!」
我々は、敵艦を拿捕すべく動く。エンジン全開で、敵艦まで距離3キロまで迫った。
すぐ目の前に敵艦が見える。真っ黒なこの宇宙にぽっかりと浮かぶ赤褐色の艦艇。紛れもなくあれは連盟軍の艦艇色。依然として、エンジンを切ったまま電波も出さず、航行を続けている。
「よし、ではまず、威嚇砲撃をかけ、然るのちに投降を呼びかける。艦橋に伝達!砲撃戦用意!1バルブ砲撃、目標、敵艦上方2キロ!」
「戦闘指揮所(CIC)、艦橋!砲撃戦用意!1バルブ、威嚇砲撃!目標、敵艦上方2キロ!」
カンカンカンと、砲撃前の警告音が艦内に鳴り響く。艦内に緊張が走る。艦内放送にて、砲撃長が砲撃の合図をする。
「照準よし!装填完了!撃てっ!」
ガガーンという落雷のような砲撃音が艦内に鳴り響いた。艦外カメラは、青白い光が敵艦の真上をまっすぐに伸びていくのを捉える。青白い光に照らされて、赤褐色の敵艦が一瞬青白い色に光る。
「砲撃終了!砲撃戦闘、用具納め!艦操縦系、艦橋に移行!」
砲撃管制室から、砲撃完了の放送が流れる。それを聞いて私は幕僚に命令する。
「よし、続いて敵艦に再度、投降勧告を発信せよ!」
「了解!投降勧告いたします!」
それから、艦橋の通信機から何度も敵艦へ投降するよう呼びかける。しかし、依然として返答もなければ、逃亡もしない。
幾ら何でも、威嚇砲撃まで行って気づかないとは考えられない。何かがおかしい。そう感じた私は、駆逐艦2680号艦を敵艦に寄せるよう命じる。
「ですが閣下、ちょっと危険ではありませんか?」
「危険は承知だ。だが、何かがおかしい。敵艦の様子がうかがえる場所まで接近し、しばらく様子を見る。」
「了解!」
念のため、後方から味方艦が照準を合わせた状態で待機する。また哨戒機を発進させ、敵艦の監視に当たらせる。そして、駆逐艦2680号艦は、敵艦に向けて徐々に接近する。
これほど近くで連盟軍の艦艇を見るのは初めてだ。だが、敵方とはいえ、元々が地球001が開発した汎用艦艇であるため、我々の駆逐艦と外観の色以外はほとんど変わりがない。上部に艦橋が付いており、窓も見える。
その敵艦の艦橋内を偵察した哨戒機から、奇妙な通信が入った。
「哨戒機1号機から2680号艦!艦橋内に人の気配なし!」
「2680号艦より1号機!そんなはずはないだろう!よく観察せよ!」
「現在、距離20まで接近し確認した!繰り返す!艦橋内に、人影なし!」
どういうことだ?まさか、艦橋の中から退避したわけではあるまい。艦の操作系はこの艦橋に集中している。連盟軍の偵察艦とはいえ、その点は変わりないはずだ。
まさか我々を誘き出すために、あえて無人艦を装っているのではないかとも考えた。が、そんなことをしたところで意味はない。その場合は砲撃されて、破壊処分されてしまうだけのことだ。しかしこの艦は我が地球813を出発したところを確認している。今さら無人艦を装ったところで、我々が騙されるはずがない。何れにしても、彼らにそんなことをするメリットがない。
何か、胸騒ぎのようなものを感じた。私は決断し、ある命令を下す。
「これより、敵艦に取り付く。敵艦内に潜入し、内部を調査する。」
「は?か、閣下、それはどういう……」
「直ちに突入隊を編成!指揮は直接私が取る!」
「あ、あの……」
「復唱は!!」
「りょ、了解致しました!これより本艦は敵艦に取り付き内部へ潜入、突入隊を編成し敵艦内へ突入いたします!」
大急ぎで突入隊を編成する。人数は全部で10人。狭い通路の艦内だ。これ以上いても仕方がない。私も銃と、携帯バリアを装備した。
「敵艦側面に取り付きます!衝撃に備え!」
ガーンという大きな音とともに、駆逐艦2680号艦は敵偵察艦の側面に取り付いた。艦底部の側面にあるエアロック接続用の開口部に簡易通路を取り付けて、敵艦と我が艦をつなぐ。
そして、その通路から我々は敵艦内に入り込む。溶断カッターで敵のエアロック扉をこじ開けて、ついに中へと潜入する。
扉が開くと、我々は銃を構え、腰の携帯バリアに手をかける。だが、そこには誰もいない。明かりはついており、エレベーターも動く。だが、だれも見当たらない。
そのまま突入隊10人はエレベーターへと乗り込む。まずは最上階へと向かった。
そこは艦橋のある場所。エレベーターの扉が開くと、我々の目にとんでもない光景が飛び込んできた。
人が倒れている、1人や2人ではない。ざっと20人はいる。連盟軍の軍服を着た乗員が、このエレベーターの前で折り重なるように倒れているのだ。我々に緊張が走る。銃を構えて、じりじりとその倒れた乗員達に接近する。
脈を取ると、既に死んでいるようだ。だが、不思議なことに外傷がない。そこにいる全員が、まるで心臓発作でも起こして突然死したかのように倒れているのだ。
顔の表情は皆、苦痛に満ちている。まさかとは思うが、艦内で反乱でも起こり、毒ガスを使ったのであろうか?しかし、この場にいる我々は平気だ。特に異臭もない。ガスが使われた痕跡がない。
艦橋内、会議場にも向かうが、どこも人がいないか、あるいは同様に人が倒れている。我々はそのままエレベーターに乗り込んで、今度は食堂のある階に降りる。
そこでも、やはりエレベーター前で人が倒れていた。何かに追われて、エレベーターに殺到したかのようだ。しかし、何があったのかはわからない。生存者のいないこの艦内で、機関音だけが不気味に鳴り響く。一通り探索した後、我々はさらに下の階へと向かう。
乗員の部屋が並ぶ場所へと出た。相変わらず、エレベーター前に死体の山がある。まるで何かから逃れようとして殺到したような、そんな感じである。我々は銃を構え、ゆっくりと前進する。
「ぎゃーっ!」
突然、人の叫び声が響く。奥の部屋から、誰かが走ってきた。
連盟軍の軍服を着ている。この艦の乗員だ。我々は彼を制止する。
「止まれ!」
私は銃を向けて叫ぶ。だが、こいつは我々を見て、こう叫んだ。
「た、助けてくれ!もう仲間はみんな殺られた!頼む!」
どういうことだ?やはり、反乱でも起こっているのか?
「なんだ、反乱か!?」
「いや、違う!あの星から、妙なものが乗り込んできたんだ!そいつに襲われて、どいつもこいつも殺られてしまった!」
「どういうことだ!まさか、モンスターか!?」
「わからねえ!真っ白な影みたいなやつで、ふわふわと浮かんで襲いかかってくるんだ。銃もバリアも効かねえ。そいつは、今そこに……」
そう彼が言いかけた時だ。彼の言う、その真っ白な影みたいなやつが現れた。
まるで、空中に浮かぶクラゲのようなそれは、我々を見つけるとこちらに向かってくる。
「全員、構え!撃てっ!」
我々は銃を発砲する。だが、青白いビームはやつの体をすり抜けて、通路の壁に着弾するばかりだ。
なんだこいつは、まるで武器が効かない。私はその化け物に、恐怖した。
「とにかく逃げろ!エレベーターへ向かって走れ!」
連盟軍の乗員とともに、我々は大急ぎでエレベーターへと向かう。だが、やつはこっちへゆっくりと向かってくる。
「あ、あいつは人間に取り付き、まるで心臓でも止めるかのように取り付いたやつを苦しめて、一瞬で殺してしまうんだ!みんな次々に乗り移られて、俺は目の前で大勢がやつに殺られるのを見たんだ!だから、もう逃げるしかない!」
エレベーターが着き、扉が開く。だが、その白い化け物は突然、私に向かって襲いかかってきた。どうやら、この中のリーダーが私だと認識したようだ。
「か、閣下ーっ!」
一瞬のスキを突いて、その白い化け物は私の体に覆いかぶさってきた。




